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ひとこと
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六花とのツーリングから帰り、夕食を食べていると電話が鳴った。
家の固定電話だ。
皇紀が出た。
食事中の電話は、皇紀が出る。
別に決まってはいないが、姉や妹たちから蹴り出されるのだ。
「タカさん、調査会社の人ですよ」
俺が幾つかの仕事を頼んでいる会社だ。
宇留間の調査の時から懇意にしている。
「石神だ。何か分かったのか?」
「ああ、やっと捕まった。携帯に何度も連絡してたんですが」
「あれね。バッテリーが切れてたんだ」
みんなよく、そんなことを言っているのを知ってる。
俺はあまりスマホを持ち歩かない。
スマホが無いと死んじゃう、という人もいるらしいが、俺は違う。
「そうなんですか」
通じた。
「それで、頼まれていた早瀬静馬さんのお墓なんですが」
「見つかったのか!」
「はい、ようやく」
俺は静馬くんの墓を知らないことを後悔し、調査会社に探してもらっていた。
静馬くんの母親が引っ越した際に、静馬くんと父親の骨も移転したらしいのだ。
生きている人間であれば、住民票を追うなど、幾らでも手がある。
負債の請求と言えば、第三者も閲覧できる。
しかし、死者の骨は別だ。
調べていくと、最初の埋葬証明書はあっても、改葬の手続きをしていなかったようだ。
恐らく、元の寺との口頭での許可を得てやっていたようだった。
記録は何も無い。
静馬くんの母親が住んでいた住所までは分かった。
そこから近隣の寺院を調べて行ったが、何しろ二十年も前のことであり、調査は困難だった。
静馬くんの母親も十年前に亡くなっており、聞くことも出来なかった。
母親の墓には、静馬くんは入っていなかった。
「やっと母親の友人の方から伺えました。場所は山梨県の〇〇市にある、××寺です」
「ありがとう! よく探してくれた」
「いいえ。石神さん、良かったですね」
「ああ! これでやっと墓参りができる」
「お寺には事情を話しています。ご連絡すれば通じるはずですよ」
「分かった。明日にでも早速聞いてみよう」
俺は詳しい話を聞き、電話を切った。
翌日の日曜日。
俺はその寺に電話した。
住職の方が出られ、話が出来た。
来週の土曜に伺うことを言い、供養の手配を頼んだ。
「ああ、石神。元気か?」
「もちろんだ。まあ、たまに死に掛けるけどな」
「アハハハハ!」
御堂に電話した。
御堂の家からそう離れていない寺だったからだ。
「来週の土曜に近くへ行くんだ。会いに行ってもいいか?」
「もちろんだ! 絶対に来てくれ。一泊出来るか?」
「悪いが頼めるかな」
「何を言ってるんだ。来てくれよ」
「じゃあ、頼む」
「何なら金曜日から来るか?」
「おい、贅沢なことを言うな! 行きたくなるだろう」
「いや、そうしてくれよ。みんな喜ぶ」
「でも、随分遅くなるぞ」
「構わないよ。来週は特に用事もないからね」
「そうかぁ。じゃあ頼むかな」
「決まりだな」
柳の声が聞こえる。
「変わってー」と叫んでいる。
「電波の調子が悪いな。じゃあ、そういうことで。また連絡するよ」
「頼むよ、一言だけでも話してくれ」
御堂が笑いながら言った。
御堂が言うなら仕方がない。
「石神さん!」
「ひとこと」
ポチ、ツーツー。
俺は子どもたちに話した。
「前に話したことのある、静馬くんの墓が分かったんだ。来週は金曜の夜から出掛けるからな」
「「「「はーい!」」」」
「タカさん、良かったですね」
皇紀が言った。
確か、最初に静馬くんの話をしたのは、皇紀にだった。
「御堂の家と近いようだからな。ついでに御堂の家に泊って来る」
「いーなー!」
亜紀ちゃんだ。
「お前らは今回は留守番だ。急なことで向こうにご迷惑は掛けられないからな」
「迷惑って?」
「お前らの大食いのことだぁ!」
「「「「ワハハハハハハハ!」」」」
金曜日。
俺は5時頃に仕事を上がり、そのまま出発した。
アヴェンタドールで行く。
替えの服と土産の千疋屋のフルーツ。
それで精一杯だ。
アヴェンタドールは収納が少ない。
ほとんど助手席だ。
夜の高速をぶっ飛ばす。
静馬くんの墓参りと、御堂にも会える。
俺は上機嫌で歌を歌いながら走った。
御堂の家の近くになり、電話した。
こういう時は、携帯は便利だ。
「石神!」
「ああ、近くまで来た。遅い時間に悪いな」
「いや、大丈夫だよ。まだみんな起きて待ってる」
「そんな、悪いよ。今日は早く休んでくれよ」
「何を言ってる。石神が来るんだ。誰も寝ないよ」
「本当に悪いなぁ」
時間は8時半。
しかし、田舎は寝るのが早い人も多い。
夕飯も作って待ってると言われていたので、本当に申し訳ない。
御堂の家の前で、みんなが出迎えてくれた。
俺の車を見て、正巳さんたちが驚く。
「遅くなって申し訳ありません」
みんなが笑って、中へと言ってくれた。
俺のために豪華な膳が用意してあった。
正巳さんや御堂は酒を飲む。
俺も食べながら付き合った。
「子どもの頃に大変お世話になった方の墓参りなんです」
俺は静馬くんの話をした。
「やっと探し出したら、ここと近かったんですよ」
「そうなのか」
正巳さんが言った。
「石神さんは偉いな。こうやってわざわざ探し出して」
「いいえ。俺も最近まで墓参りをとは思ってもいなかったので。でも、子どもたちに話をしているうちに、一度お礼を言いたくなりまして」
「そうだったか」
正利は部屋へ引っ込んだが、柳はお茶を飲んでいる。
「柳、元気だったか!」
「ひとこと!」
「……」
根に持っていたらしい。
「なんだよ、ちょっとした冗談じゃないか」
御堂が正巳さんたちに事情を話した。
正巳さんたちが大笑いする。
「柳、お前ちょっと綺麗になったんじゃないか?」
柳は前を見てむくれている。
「ねえ、澪さん! 綺麗になりましたよね」
「そうですかね、ウフフフ」
「ああ、柳がうちに来るのが楽しみだなぁ!」
「ほんとにそう思ってます?」
柳がちょっと俺を見た。
「当たり前だよ! 御堂との話でも、しょっちゅうそれだよなぁ、御堂?」
「そうだったね」
「ほんとに!」
「お前と話すのは照れ臭いんだよ。大好きだからな」
「石神さん!」
御堂は声を抑えて笑っている。
「受験は大丈夫だよな?」
「もちろんです!」
「じゃあ、安心したよ。ああ、本当に楽しみだ」
「嬉しい!」
正巳さんも菊子さんも笑った。
「じゃあ、今日はお先に失礼するよ。また明日飲みましょう」
「是非。遅くまですみませんでした」
俺は部屋の出口まで正巳さんたちを見送った。
「石神、今日は風呂に入って寝てくれよ」
「ああ、そうさせてもらおう。明日は午前中に出掛けるから。戻りは三時くらいかなぁ」
「分かった」
俺は用意してくれた部屋へ行った。
着替えを持って風呂へ行く。
柳が待っていた。
「おい」
「はい!」
「オロチ呼ぶぞ?」
「い、いいですよ」
「俺のオロチが白いの吐くぞ!」
「いいですよ」
「お前なぁ」
「大丈夫ですよ、お父さんの許可ありますから」
「俺の許可は!」
「ひとこと」
「……」
一緒に入った。
柳は本当に綺麗になった。
家の固定電話だ。
皇紀が出た。
食事中の電話は、皇紀が出る。
別に決まってはいないが、姉や妹たちから蹴り出されるのだ。
「タカさん、調査会社の人ですよ」
俺が幾つかの仕事を頼んでいる会社だ。
宇留間の調査の時から懇意にしている。
「石神だ。何か分かったのか?」
「ああ、やっと捕まった。携帯に何度も連絡してたんですが」
「あれね。バッテリーが切れてたんだ」
みんなよく、そんなことを言っているのを知ってる。
俺はあまりスマホを持ち歩かない。
スマホが無いと死んじゃう、という人もいるらしいが、俺は違う。
「そうなんですか」
通じた。
「それで、頼まれていた早瀬静馬さんのお墓なんですが」
「見つかったのか!」
「はい、ようやく」
俺は静馬くんの墓を知らないことを後悔し、調査会社に探してもらっていた。
静馬くんの母親が引っ越した際に、静馬くんと父親の骨も移転したらしいのだ。
生きている人間であれば、住民票を追うなど、幾らでも手がある。
負債の請求と言えば、第三者も閲覧できる。
しかし、死者の骨は別だ。
調べていくと、最初の埋葬証明書はあっても、改葬の手続きをしていなかったようだ。
恐らく、元の寺との口頭での許可を得てやっていたようだった。
記録は何も無い。
静馬くんの母親が住んでいた住所までは分かった。
そこから近隣の寺院を調べて行ったが、何しろ二十年も前のことであり、調査は困難だった。
静馬くんの母親も十年前に亡くなっており、聞くことも出来なかった。
母親の墓には、静馬くんは入っていなかった。
「やっと母親の友人の方から伺えました。場所は山梨県の〇〇市にある、××寺です」
「ありがとう! よく探してくれた」
「いいえ。石神さん、良かったですね」
「ああ! これでやっと墓参りができる」
「お寺には事情を話しています。ご連絡すれば通じるはずですよ」
「分かった。明日にでも早速聞いてみよう」
俺は詳しい話を聞き、電話を切った。
翌日の日曜日。
俺はその寺に電話した。
住職の方が出られ、話が出来た。
来週の土曜に伺うことを言い、供養の手配を頼んだ。
「ああ、石神。元気か?」
「もちろんだ。まあ、たまに死に掛けるけどな」
「アハハハハ!」
御堂に電話した。
御堂の家からそう離れていない寺だったからだ。
「来週の土曜に近くへ行くんだ。会いに行ってもいいか?」
「もちろんだ! 絶対に来てくれ。一泊出来るか?」
「悪いが頼めるかな」
「何を言ってるんだ。来てくれよ」
「じゃあ、頼む」
「何なら金曜日から来るか?」
「おい、贅沢なことを言うな! 行きたくなるだろう」
「いや、そうしてくれよ。みんな喜ぶ」
「でも、随分遅くなるぞ」
「構わないよ。来週は特に用事もないからね」
「そうかぁ。じゃあ頼むかな」
「決まりだな」
柳の声が聞こえる。
「変わってー」と叫んでいる。
「電波の調子が悪いな。じゃあ、そういうことで。また連絡するよ」
「頼むよ、一言だけでも話してくれ」
御堂が笑いながら言った。
御堂が言うなら仕方がない。
「石神さん!」
「ひとこと」
ポチ、ツーツー。
俺は子どもたちに話した。
「前に話したことのある、静馬くんの墓が分かったんだ。来週は金曜の夜から出掛けるからな」
「「「「はーい!」」」」
「タカさん、良かったですね」
皇紀が言った。
確か、最初に静馬くんの話をしたのは、皇紀にだった。
「御堂の家と近いようだからな。ついでに御堂の家に泊って来る」
「いーなー!」
亜紀ちゃんだ。
「お前らは今回は留守番だ。急なことで向こうにご迷惑は掛けられないからな」
「迷惑って?」
「お前らの大食いのことだぁ!」
「「「「ワハハハハハハハ!」」」」
金曜日。
俺は5時頃に仕事を上がり、そのまま出発した。
アヴェンタドールで行く。
替えの服と土産の千疋屋のフルーツ。
それで精一杯だ。
アヴェンタドールは収納が少ない。
ほとんど助手席だ。
夜の高速をぶっ飛ばす。
静馬くんの墓参りと、御堂にも会える。
俺は上機嫌で歌を歌いながら走った。
御堂の家の近くになり、電話した。
こういう時は、携帯は便利だ。
「石神!」
「ああ、近くまで来た。遅い時間に悪いな」
「いや、大丈夫だよ。まだみんな起きて待ってる」
「そんな、悪いよ。今日は早く休んでくれよ」
「何を言ってる。石神が来るんだ。誰も寝ないよ」
「本当に悪いなぁ」
時間は8時半。
しかし、田舎は寝るのが早い人も多い。
夕飯も作って待ってると言われていたので、本当に申し訳ない。
御堂の家の前で、みんなが出迎えてくれた。
俺の車を見て、正巳さんたちが驚く。
「遅くなって申し訳ありません」
みんなが笑って、中へと言ってくれた。
俺のために豪華な膳が用意してあった。
正巳さんや御堂は酒を飲む。
俺も食べながら付き合った。
「子どもの頃に大変お世話になった方の墓参りなんです」
俺は静馬くんの話をした。
「やっと探し出したら、ここと近かったんですよ」
「そうなのか」
正巳さんが言った。
「石神さんは偉いな。こうやってわざわざ探し出して」
「いいえ。俺も最近まで墓参りをとは思ってもいなかったので。でも、子どもたちに話をしているうちに、一度お礼を言いたくなりまして」
「そうだったか」
正利は部屋へ引っ込んだが、柳はお茶を飲んでいる。
「柳、元気だったか!」
「ひとこと!」
「……」
根に持っていたらしい。
「なんだよ、ちょっとした冗談じゃないか」
御堂が正巳さんたちに事情を話した。
正巳さんたちが大笑いする。
「柳、お前ちょっと綺麗になったんじゃないか?」
柳は前を見てむくれている。
「ねえ、澪さん! 綺麗になりましたよね」
「そうですかね、ウフフフ」
「ああ、柳がうちに来るのが楽しみだなぁ!」
「ほんとにそう思ってます?」
柳がちょっと俺を見た。
「当たり前だよ! 御堂との話でも、しょっちゅうそれだよなぁ、御堂?」
「そうだったね」
「ほんとに!」
「お前と話すのは照れ臭いんだよ。大好きだからな」
「石神さん!」
御堂は声を抑えて笑っている。
「受験は大丈夫だよな?」
「もちろんです!」
「じゃあ、安心したよ。ああ、本当に楽しみだ」
「嬉しい!」
正巳さんも菊子さんも笑った。
「じゃあ、今日はお先に失礼するよ。また明日飲みましょう」
「是非。遅くまですみませんでした」
俺は部屋の出口まで正巳さんたちを見送った。
「石神、今日は風呂に入って寝てくれよ」
「ああ、そうさせてもらおう。明日は午前中に出掛けるから。戻りは三時くらいかなぁ」
「分かった」
俺は用意してくれた部屋へ行った。
着替えを持って風呂へ行く。
柳が待っていた。
「おい」
「はい!」
「オロチ呼ぶぞ?」
「い、いいですよ」
「俺のオロチが白いの吐くぞ!」
「いいですよ」
「お前なぁ」
「大丈夫ですよ、お父さんの許可ありますから」
「俺の許可は!」
「ひとこと」
「……」
一緒に入った。
柳は本当に綺麗になった。
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