富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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タンデムを許さない女

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 「じゃあ、杉本さんと付き合ってたら、タカさんはもしかしたら、奈津江さんとも会わずに」
 「そうだったろうな」

 亜紀ちゃんは俺の話を聞いて、考え込んでいた。

 「それにしても、猪俣って奴は許せませんね」
 「そう言うなよ。あの先生も随分と俺に親切にしてくれたんだ」
 「そんなこと! タカさんに暴力で盗んだって言わせようとしたのは、絶対に許せません!」
 「亜紀ちゃん、前にも言っただろう。一度恩義を受けたら、それは一生返せるものじゃないんだって」
 「でもぉー!」

 亜紀ちゃんは納得しない。
 それは俺への愛があるためだ。

 「人間は弱いって言ってるだろ? 本当にそうなんだからな」
 「それだって、そんなに酷い人になっても、タカさんは平気なんですか!」

 なぜ俺が怒られているのか。
 俺は笑った。

 「恩義を受けた人間が変わったからって、恩義そのものは変わらないよ」
 「タカさん……」
 「だから俺は杉本だって、本気で愛そうと思ったんだ。あいつ自身がどんなに変わったって言ったってな」
 「……」

 亜紀ちゃんは頭では分かっても、感情で認められないようだった。

 「杉本さんとはその後も?」
 「ああ。会えていない。いつかどこかで再会したいとは思うけどな」
 「そうですね」

 「ああ、猪又は大神田先生と結婚したんだ」
 「ゲェッー!」

 「猛烈なアタックだったらしいよ。あの人らしい。一本気なんだよ」
 「納得できませんが」

 亜紀ちゃんは頬を膨らませている。

 「でもな。その後で生徒への暴力を生徒の親に訴えられた。それで離島の教師になったと聞いている」

 「ざまぁー!」

 「アハハハ。大神田先生とも離婚してな。可哀そうに」
 「いい気味ですよ! あー、スッキリした」
 「そう言ってやるなよ」

 亜紀ちゃんは嬉しそうな顔でハムを二切れ頬張った。
 ジン・トニックで流し込んで空になった。
 俺がまた作ってやった。
 
 「タカさん、一つ分かったことがあります!」
 「なんだよ?」
 「タカさんがタンデムで乗せた女は、タカさんの愛を独占できます!」
 「そんな法則はねぇだろう!」
 「いいえ、これは定理です」
 「そうなのかよ」

 笑った。
 亜紀ちゃんは腕を組み、誇らしげだ。

 「私、前に乗りましたよね!」
 「ああ、そうだな。皇紀もルーもハーもな」
 「アァッ!」
 「まあ、お前らが俺の宝だっていうのは真実だからなぁ」
 「うーん……」

 その夜、亜紀ちゃんと一緒に寝た。
 亜紀ちゃんが俺に顔を近づけると、枕にいるロボにネコキックを喰らっていた。





 翌朝。
 朝食を食べて、俺はドゥカティで出掛けた。
 六花は、自分のマンションの前でいつものように待っていた。
 俺のドゥカティを見つけ、遠くから手を振り始める。

 「相変わらず、お前は綺麗だな」
 「え、催しちゃいました?」
 「芸術を見ていちいち催さねぇよ!」
 「アハハハハ」

 俺たちは横浜の本牧を目指した。
 本当は三渓園などを散策してもいいのだが、六花は生憎興味が無い。
 走ることそのものが目的のようなものだ。
 適当に流し、中華街へ向かった。
 美味いものを食べる、というのがメインの目的だ。

 俺たちは中華街の近くの駐車場に停め、予約していた陳さんの店に向かった。
 途中で豚まんの露店が多くあり、六花が立ち止まる。

 「帰りに買ってやるよ」
 六花はニコニコし、俺の腕に自分の腕を絡めて来た。

 「予約した石神ですが」
 「ああ、お待ちしてました」
 「言った通り、ライダースーツなんだけどいいかな?」
 「問題ありません、どうぞ」

 店員が奥の個室へ案内する。
 6人掛けのテーブルに座る。
 4人前を頼んだためだ。
 俺が食べたいものを言い、特別なコースになる。
 30万円だ。

 料理が運ばれてくる。

 「中華は久しぶりです」
 「もしかして、タケの店以来か?」
 「はい!」

 六花は美味しいものが大好きだが、自分で食べに行くことは無い。
 俺と一緒の時だけだ。

 「お前は結構な金があるんだから、幾らでも食べに行けるだろう」
 「はい。でも緊張してしまって」

 まあ、そうなんだろう。
 病院の食堂でさえ、俺や知り合いの顔を見つけると嬉しそうに寄って来る。
 独りで食べていると落ち着かないのだ。

 北京ダックやふかひれスープ、鮑スープなどの高級食材や、六花が馴染んでいるエビチリや麻婆豆腐なども、最高の食材と調理で出て来る。
 リブロースステーキなどもある。
 六花が大好きな唐揚げも頼んである。
 中華の唐揚げは大量だ。
 きっと喜ぶだろう。




 六花は輝く笑顔で、次々に食べて行った。

 「おい、ここは上司であり恋人である俺に、お前がよそるところだぞ?」

 六花は口をモゴモゴさせながら、自分の蓮華でエビチリを一つ俺の器に入れた。

 「……」

 ニッコリと笑うので、それでよしとした。

 二人でどんどん食べるが、中華の良さはその量にある。
 食べきれないほど出て来る。
 まあ、六花がすべて食べるが。
 北京ダックなどは、俺が一羽、六花が三羽食べた。

 「これ! 最高です」
 「そうかよ」
 「なんでタケの店では出なかったのでしょうか」
 「もしかして、お前嫌われてるんじゃねぇか?」
 「はう!」

 小鉄では無理だろう。

 「冗談だよ。ここは最高峰の料理人が集まってるんだからな。それにあそこで北京ダックを用意したって、誰も喰わないだろうよ」
 「なるほど! 虎チャーハンがありますもんね!」
 「リッカチャンハンもな!」

 俺たちは笑って、喰いに専念した。




 全て喰い終え、最後にタピオカのココナッツミルクが出て来る。
 俺の大好物だ。
 
 「美味しい!」
 「そうだろう。俺が大好きなものなんだよ」
 「そうなんですか!」
 「帰りに材料を買っていくかなぁ」
 「ありがとうございます!」
 「俺が食べるんだよ!」

 まあ、簡単だから病院でも作ってやるか。
 響子も喜びそうだ。
 レジで支払いをしていると、豚まんの土産があった。
 六花に買ってやり、俺も子どもたちの分を買った。

 俺たちは適当に回って、安いリュックを買った。
 バイクに荷物入れが無いためだ。
 六花が、ヘンな面を買った。
 カワイイらしい。
 帰りに関内に寄り、中華総菜の専門店でタピオカとココナッツミルクを買った。
 前は、中華が食べたくなるとよく来た。
 俺たちは近くの喫茶店へ入った。


 
 「そういえば、石神先生はあまり中華は作らないですよね」
 「まあな。町の中華屋が作るようなものはやるけどな」
 「中華はお嫌いなんですか?」
 「そんなことはない。だから今日も来たんだしなぁ」
 「北京ダックとか」

 六花がまた喰いたいらしい。

 「中華は火力が欲しいんだよ。うちでもやって出来ないこともないけど、都市ガスじゃなぁ」
 「そうなんですか」
 「だから喰いたくなれば、こうやって店に来るんだ。それでも昔は頑張って作ったりもしたけどな」
 「なるほど」

 「響子はあまり中華は好きじゃないようだな」
 「そうですね」
 「やっぱり舌に合わないんだな。こればかりは育った環境だからしょうがねぇ。和食は結構行けるけどな」
 「焼き鳥、大好きですよね」
 俺たちは笑った。


 「ああ、亜紀ちゃんが俺とタンデムで乗りたいって言ってなぁ」

 六花が悲しそうな顔をする。
 慌てて言った。

 「だから、ダメだと言っといたぞ!」
 
 笑ってくれる。
 やはりダメなのだ。
 他の女と付き合うのは鷹揚なのに、不思議な女だ。

 「亜紀ちゃんが3Pしたいって言ったらどうする?」
 「いいですね!」

 不思議だ。
 まあ、するつもりは俺に無いが。







 六花のマンションに戻った。

 「じゃあ、寄ってって下さい」

 そのつもりは最初からあった。
 愛し合った後で、俺がキッチンを借りてタピオカを作った。
 響子に持っていくと、とても喜んだ。

 三人で笑いながら飲んだ。
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