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その頃の石神

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 佐藤家で公安を始末した俺は、六花のマンションにいた。
 
 「おーい、六花! 久しぶりにお前の部屋の確認に来たぞー!」
 「石神先生!」

 玄関から服を脱ぎ出した。
 今日はろくでもねぇことがあったので、憂さ晴らしだ。
 真っ先に思い浮かんだのは、六花だった。

 「いらっしゃいパク!」
 「ウォーッホホホ!」

 六花の大歓迎に、ヘンな声が出る。
 そのまま六花の両足を肩に抱え、咥えさせたままで風呂に向かった。

 急いで服を脱ぎマットを敷いて、湯が溜まるまでお互いを舐める。
 六花が上になっているので、溺れるかと思った。
 聖水をぶっかけられた。
 燃えに燃えた!



 数時間後、六花は意識を喪っていた。
 俺は冷蔵庫からウィルキンソンを出してきて飲んだ。
 強烈な炭酸が喉を刺激する。

 周囲を見る。
 日本で一番、俺の写真が飾られている部屋。
 次は栞の部屋か。
 あそこには、俺の「人形」もあるらしい。
 二番目が赤星綺羅々の部屋だということはまだ知らなかった。

 「おい、何か喰おうぜ」
 「……」

 食い物に目が無い六花が返事をしない。
 相当追いやってしまったようだ。
 俺はキッチンに行き、適当に作った。
 あまり食材がない。
 一時は料理をするようになったが、最近またサボっている。
 卵とバターでプレーン・オムレツを。
 ほうれん草と長ネギがあったので、オーブンで軽く焦がしてから、オリーブオイルで炒めた。
 塩コショウで味を調える。
 炊き上がった飯に、細かく刻んだ大葉を混ぜる。
 味噌が無かったので、固形のコンソメで、油揚げのスープを作った。

 六花を抱き上げ、風呂場でシャンとさせる。
 まだ半分向こうの世界にいる。
 バスタオルで拭いてやり、髪を乾かしている間に、多少は戻って来た。

 「飯を喰うぞ」
 「はい」

 テーブルに着くと、六花はガツガツと食べ始めた。

 「美味しいです!」

 俺は笑って、六花の笑顔を眺めた。
 やっと、暗鬱な気分が晴れた。

 「お前、知らない人についてっちゃダメだぞ?」
 「そんな、子どもじゃないですって」

 俺は六花の口の脇についた飯粒を取ってやった。

 「お前は純心だからなぁ」
 「アハハハハ!」
 「笑いごとじゃねぇ!」
 「エヘヘヘ」



 
 「ところで、お前普段は何喰ってんだよ?」
 「病院の食堂と」
 「うん」
 「響子の残したものと」
 「あ?」
 「あとは石神先生のお宅でたっぷりと」
 「お前なぁ」

 俺は笑った。

 「お前、前は料理をしてたじゃねぇか」
 「はぁ」
 「何でやめちゃったんだよ?」

 六花は俯いた。

 「石神先生のお宅のご飯が美味しくて」
 「だから?」
 「自分で作っていると、どうも味が物足りなくて」
 「何を言ってやがる」
 俺は笑って六花の頭を撫でた。

 「お前は俺の大事な人間なんだ」
 「はい」
 「だからお前自身をちゃんと養ってくれよ」
 「!」
 「な!」
 「その発想はありませんでした!」

 「ばかやろ」

 食事の後、俺たちは神谷町のスーパーに歩いて買い物に行った。
 二人で大きな買い物袋を抱えて帰った。

 「じゃあ、俺は帰るからな」
 「え! 作って下さるんじゃ?」
 「バカ言うな! 自分でちゃんとやれ!」
 「えぇー!」

 俺は笑って地下へ行き、アヴェンタドールで帰った。





 子どもたちが夕飯の支度をしている。

 「タカさん、お帰りなさい!」
 亜紀ちゃんがキッチンで言った。

 「「「お帰りなさい!」」」

 「さっきちょっと食べたんだ。俺は軽くでいいからな」
 「はい。メザシでいいですか?」
 「そんなものはうちにねぇだろう!」
 「エヘヘヘ」

 餃子と肉団子を作っている。
 中華のようだ。
 俺はザーサイを刻み、白髪ねぎを切った。
 子どもたちが見ている。

 「あんだよ?」
 「いや、美味しそうだと」
 亜紀ちゃんが言った。
 仕方なく、子どもたちの分も作る。
 最後にラー油とごま油を少し和える。
 ご飯にかけると、子どもたちは唸りながら食べていた。




 食事を終え、俺はコーヒーを飲みながら子どもたちに言った。

 「しばらく、佐藤さんの家には誰も近づくな」
 「どうかしたんですか?」

 亜紀ちゃんが聞いて来た。
 双子が震えている。

 「あそこは一時俺の名義になりそうだったが、すぐに辞めた。もちろんうちの土地なんだけどな。理由は双子も知っているが、あそこは事故物件なんだ」
 「え?」
 「なんだ、知らんのか。事故物件というのは、過去に悲惨な事件があった家や部屋のことだ。調べただけでも、あの家は50年間に何百人も死んでいる」
 「エェー!」

 「こないだ双子と見に行ったけどな。まあ、凄かったよな!」
 「「……」」
 声も出ない。
 青くなって震えている。

 「今日案内した人も、大変な目にあったようだ。だから絶対に近づくな」

 アビゲイルは俺の名義の手続きをしていたが、俺が止めた。
 今はある会社の名義になっている。
 ロックハートの傘下の会社だが、直截な繋がりは辿れないだろう。
 法務局で調べても、もちろん俺の名前もロックハートもまったく出ない。

 「あの人は大丈夫だったんですか?」
 「知らん。俺はすぐに帰って来たからな」

 亜紀ちゃんに話すわけにはいかない。
 そのうち、必要になるかもしれんが。

 「皇紀もいいな?」
 「分かりました」

 「ルーとハーはもちろん大丈夫だよな?」
 思い切り縦に首を振っている。

 「でも、あこそは……」
 ハーが言った。

 「復活した」
 「「!」」
 ブルブルとまた震え出した。

 「タカさん、一緒にお風呂に入って!」
 「タカさん、一緒に寝て!」

 俺は笑って一緒にまた風呂に入り、一緒に寝た。
 子どものくせにいい匂いがした。
 まったく、いつの間にか、オシャレを覚えていっている。

 「ガラス戸によ」

 俺は両脇から思い切り腹を殴られた。

 「わ、悪かった!」

 二人が半泣きで俺の胸に顔を押し付ける。
 やはり子どもだ。

 

 俺は二人の背中を手で撫でてやった。
 カワイイ、俺の宝だ。
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