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悪鬼たち

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 公安が俺に狙いを定めている。
 しかも「ゼロ」だ。
 先ほどの「山田芳樹」は一目見て分かった。
 カタギの人間ではない。
 それがカタギの振りをしている。
 目的を探る必要があった。

 そうは思ったが、とんでもない連中だった。
 公安が来るとは。

 しかも、あいつらは国家権力を使って、己の欲望を発散する外道。
 半分以上は赤星綺羅々という女だが、他の連中も同様の拉致監禁をやっており、百人以上の男女が犠牲になっている。
 恐らく上の連中の一部もある程度は知っているのだろうが、放置している。
 綺羅々の部隊が有能なため。
 そして恐怖している。

 最初は記憶を操作して帰そうと思っていた。
 しかし、タマが告げた数々の外道の行ないに、消去を決めた。
 俺に関しては、何かを掴んだようだが、それを追求しないつもりのようだ。
 俺を警察としてではなく、自分たちが掴むために。
 証拠を握られるつもりは無いが、厄介な連中だ。
 武装して攻撃して来ない連中なだけに、対処も難しい。

 まずは対抗勢力と接触しなければならない。
 警察や公安の中にも、まともな連中はいるだろう。
 綺麗事では済まない部署なのは分かる。
 だが、連中は明らかに「人間」を逸脱している。
 この世で、「正義」を振りかざす奴に、ろくな者はいない。

 俺は電話を掛けた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「芳樹たちはどうなったんだ!」
 敏夫は第二観測員に怒鳴った。

 「分かりません! 芳樹さんが家に入ってから、5分で石神は出てきました。その時点で芳樹さんの装備した機械は壊されていました。銃声その他の怪しい物音はありませんが、芳樹さんのものらしい悲鳴は私が拾っています」

 「第一観測員は!」

 「はい! 石神が家に戻ったのを確認し、すぐに「佐藤家」に入りました。しかし、その直後に連絡が途絶えました。無線をオープンにしてたのですが、突然途切れました」

 「お前はどうした?」
 「中に敵が潜んでいると考え、今も監視を続けています」
 「よし、引き続き見張れ」
 「はい、ですがサーモセンサーにも何も引っ掛かりません。第二観測員たちはちゃんとは捉えていましたが、それも突然に消えました」
 「襲撃されたのだろう?」
 「でも、一瞬で体温が無くなるとは考えられません! 襲った相手も捉えていません!」
 「何か仕掛けがあるのだろう。落とし穴とかな」
 「考えられませんよ! だって我々は二日前にあの家は徹底的に調べているんですから!」
 「落ち着け。とにかくお前は家には入るな。石神の監視はどうしている?」
 「1キロ離れて私が一人で。自分が近くへ行きましょうか?」
 「駄目だ。石神は鋭い。必ず見破る」
 「自分はこの家を見ているのは嫌です」
 「後で交代の人間を送る。しばらくの辛抱だ」

 「あの、放火してはどうでしょうか?」
 「何?」
 「火を放てば、中の遺体も探せるのでは」
 「なるほど、考えたな。よし、やれ」


 数時間後、第二観測員も消えた。
 佐藤家は何事も起きていない。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 赤星綺羅々は敏夫からの報告を聞いていた。

 「芳樹が石神に接触しましたが、失敗したようです。恐らく石神に始末されたかと」
 「遺体は?」
 「見つかっていません。すぐに現場に二人入りましたが、そいつらも。先ほど第二観測員との連絡も途絶えました。

 「高虎様が?」
 「いいえ。芳樹以外は石神は直接関わってはいません。恐らく、石神の仲間の仕業かと」
 
 綺羅々は詳細な経緯を聞いた。
 淫猥な笑みを浮かべた。

 「流石は高虎様。この私にも分からない方法で仕留めるなどと。もういい。しばらくはこの件は放置だ。別な仕事も溜まっている。そちらへ掛かれ」
 「は!」

 「私はこれから別宅へ行く。しばらく携帯は電源を切るから、何かあれば別宅の固定電話へ連絡しろ」
 「かしこまりました」

 今、別宅・通称「人喰いマンション」には、10代の少年がいる。
 ある暴力団の金庫部屋の住人の一人だった。
 2週間前に「銀狼部隊」が襲撃し、10億近い金や宝飾と一緒に攫って来た。
 一緒にいた3人は、その場で殺した。
 少年は、綺羅々の好みだったので拉致した。

 石神が捕らえられるまでの繋ぎだが、何か月生きることか。
 敏夫が先週見た時には、まだ指は全部揃っていた。

 「誰か護衛に付けますか?」
 「いやいい。お前たちが来ると興が削がれる」
 「は!」

 敏夫は安堵した。

 「敏夫、お前もそろそろペットが欲しいんじゃないのか?」
 「いえ、自分はまだ」

 ここで肯定すれば綺羅々の機嫌を損ねることを分かっていた。
 綺羅々は自分だけが自由を謳歌することを好む。
 それに欲しければ勝手にやる。
 これまでも、そうやって来た。
 勝手にやることは、咎められなかった。
 目の前で自分と同じ振る舞いをすることだけを不快に思うだけだ。

 地下の駐車場まで綺羅々を送った。
 ハンヴィーのM1114だ。
 石神のH2を意識して買い替えていた。
 防弾性能が高く、ライフルの徹甲弾も貫通しない。
 もちろん、武装は無い。

 綺羅々は巨体を滑らかな動きで運転席に移した。
 黙ってはいたが、敏夫は綺羅々のスラックスの股間が既に濡れているのを見ていた。
 
 「今日あたり、あの少年は指を何本か喪うだろうな」
 呟いて、自分も野卑な笑顔を浮かべた。

 「俺も「ペット」を虐めにいくか」
 一か月前に攫った、万引きグループのトップだった少女。
 派手な化粧と脱色した髪が、好みだった。
 
 綺羅々も自分たちも、一つの決め事がある。
 それは、犯罪者しか攫わない、というものだった。
 逆に、彼らは犯罪者にしか性的に興奮しなかった。
 罪を犯した者を、自分たちが償わせる。
 社会のクズだから、何をやってもいい。
 そこに矛盾も倫理も無かった。

 石神は、まだ犯罪者と決まっていない。
 そのことが、彼らを押し留めていた。
 かなり濃いグレーではあったが。




 その頃、石神は。  
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