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公安「銀狼部隊」

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 遡って、国道246号で栞と双子が大暴走した後。
 警視庁公安警察の一部の人間しか知らない部署で、一人の女が部下の報告を聞いている。

 彼女の名は「赤星綺羅々(あかほしきらら)」。
 54歳、女性。
 公安警察の謎とされる非公式部署「ゼロ」の中核の一員。
 キャリア組ではあるが、彼女は表での出世よりも、警察の暗部に潜ることを望んだ。

 綺羅々が率いる「銀狼部隊」(綺羅々が勝手に命名)は、これまでに数々のテロ組織や凶悪なテロリストを密かに壊滅してきた。
 公安警察の切り札と言ってもいい。




 「綺羅々様。国道246号の全ての画像を洗いました」

 部下には、自分を「綺羅々様」と呼ぶように命じている。
 組織を隠蔽・偽装するために、階級や苗字は使わない。
 そう綺羅々は説明していた。
 部下も全員下の名前で呼び合うようになっている。
 他の部署は違うのだが。

 「分かった」

 一週間前に起きた、謎のテロリストによる国道246号の破壊工作。
 現場から爆発物に準ずる何物も発見できなかった。
 未知の兵器の可能性が高い。
 そのことが、「銀狼部隊」の出動を上層部に決定させた。

 綺羅々は部下が持って来た写真を見ていく。
 膨大な数から、優秀な部下が厳選している。
 そのポイントは、普通ではない動きをしている車両。
 テロリストを運べそうなパネルバンのトラックやワゴン車。
 そして「勘」。

 綺羅々たちは、テロリストに対する恐ろしいほどの嗅覚を有していた。

 「この車は?」
 「さすがは綺羅々様。ハマーH2の改造車ですね」
 「目立ちはするが、フィルムも張っていないし、中も普通のシートのようだな。バンの方がいろいろと隠しやすいと思うが」
 「はい! しかし何か気になりますよね」
 「そうなんだ。あたしの「ゴースト」が囁いている」
 綺羅々は先日見たアニメにゾッコンだった。

 「動きもおかしいんです。駒沢公園に回っているんですよ」
 「あの目撃者が襲われた場所か!」
 「ええ。怪しいですよね」
 「他に画像は無いのか!」
 「当日の画像はありません。ただ、ナンバーから持ち主を洗い出しました」
 「見せろ!」

 優秀な部下は、既に綺羅々の求めるであろうものを用意していた。 
 綺羅々に、別なファイルから資料を差し出した。
 望遠レンズで撮った、車の持ち主の顔と全身の数々。
 そして現在分かっている経歴。

 「!」
 「どうされました!」
 「……」
 「綺羅々様!」


 「尊き……」


 「はい?」
 「敏夫、お前も知っているだろう。私には秘密がある」
 「ああ」
 「私の右腕には銀の暗黒龍が封印されているんだ」
 「何色?」
 「そして私の左目には、魔神アークトリスメギラが同じく封印されている」
 「誰?」

 「この石神という男は、その封印に関わっている。日本の危機に関わる人物だ! この人物の情報を集めろ!」
 「はい、一応やりますよ」

 「特に写真だ! 裸体を絶対に撮れ!」
 「ああ、いつものですね」



 部下・敏夫は綺羅々の部屋を出て、作戦会議室に向かった。

 「敏夫、どうだった?」
 「ああ、芳樹。「人喰い綺羅々」が出た」
 「えぇ! またかよ!」
 他に部屋にいた三人の男たちも頭を抱える。

 「仕方ないだろう。またうちの新人じゃないだけ良かったと思えよ」
 「で、相手は誰よ?」
 「石神高虎という港区の病院の医者だ。可哀そうにな」
 「こないだの奴はどうなったっけか?」
 「「人喰い」専用マンションで飛び降りて死んだな」
 「ああ、俺と芳樹で始末したっけ」
 「あの変態の性癖がなければなぁ。頭が最高にキレる上司なんだが」

 「それで、246の調査は?」
 「空いている人間でやるしかない。俺たちは「人喰い」の方で動くぞ」
 「石神がテロリストの可能性は?」
 「さあな。俺たちはそれも含めての動きになる」
 「分かった」

 「まずは写真と、経歴を徹底的に洗うぞ」
 「「「「よし!」」」」





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 「一江、あれだけの騒ぎだけど、警察はどうしてるのかな」
 「カメラ類はほぼ壊しましたからね。謎のテロリストは取り逃がしたって感じじゃないんですか?」
 「そんな甘いもんかなぁ」
 「まあ、動きがあったら、その時に考えましょう」
 「そうだなぁ」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 そして新宿中央公園での蓮華との激突の後。

 「綺羅々様! またあのハマーH2が付近を走っていました! Nシステムが捉えてますよ!」
 「高虎様が!」
 綺羅々の部屋には引き伸ばした石神の写真が一面に貼ってある。
 どこで盗撮したか、全裸の写真と股間のアップもあった。

 「早く写真を!」
 「は、はい!」

 「あぁ、尊き……」

 「……」

 「やはり、あの傭兵上がりのあいつが」
 「黙れ、敏夫! このような美しく逞しい方がテロリストのはずはない」
 「は!」
 「この方は天から私に遣わされた神獣様だ。私の暗黒龍と魔神アークトリスメギラを滅するためにいらっしゃるのだ」
 「そうですか?」
 「ああ、早くお会いしたい。私の奥底にあのぶっといものを!」
 「はい?」
 「私とあの方が契ることで、日本は救われるのだ!」
 「そうなんですか?」

 「まだその時ではない。あぁ、焦らされることで私のビショビショになったあの!」
 「ええと、また攫ってきましょうか?」
 「やめよ! まだ我慢だ! 私が暗黒龍を抑え切れなくなるまで待て!」
 「はい、じゃあ、そういうことで」

 「あぁ! 左目が疼く! 待て! まだその時じゃないぞ!」
 「……」





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 「一江、あれだけの騒ぎだけど、警察はどうしてるのかな」
 「カメラ類はほぼ壊しましたからね。謎のテロリストは取り逃がしたって感じじゃないんですか?」
 「そんな甘いもんかなぁ」
 「まあ、動きがあったら、その時に考えましょう」
 「そうだなぁ」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 フランス外人部隊の襲撃の三日後。

 「綺羅々様! 中野での銃撃戦で、石神の双子の子どもらしき画像が手に入りました!」
 「あ? そんなものはどうでもいい」

 「それに、また新宿中央公園付近でハマーH2です!」
 「何! 画像は!」
 「これです」
 「これは?」
 「何か大きな棒状のものを積み込んでますよね?」
 「ああ」
 「この男は石神の傭兵時代の仲間と判明しました」
 「そうなの?」
 「資料はこちらに」

 「敏夫、全部廃棄だ」
 「はい?」
 「高虎様に、万一嫌疑がかかったらどうする!」
 「しかし、あれだけの大々的なテロ活動に、少なくとも何らかの関りが……」

 「高虎様は潔白だ。あの方には暗黒龍とアークトリスメギラとの戦いが待っているのだ」
 「それはただヤリたいだけじゃ……」
 「黙れ。崇高な使命にお前ごときが口を出すな」
 「はいはい」

 「お前に命ずる。高虎様に不利になるようなものはすべて廃棄しろ。ハマーなど見ていないし、高虎様や関係者もそこにはいなかった。いいな!」
 「はいはい」


 敏夫は作戦会議室へ向かった。

 「ダメだったよ。もう完全に厨二病の世界に入ってる」
 「まあ、そのうち拉致するんだろうけどなぁ」
 「でも、どう考えても、これらのテロに関わってるだろ?」
 「そうだけどなぁ。でもテロリスト自体では無さそうだけどな。むしろ奴らの標的?」
 「じゃあ、どうやって撃退してるんだよ」
 「それな!」
 「もしかしてCIAとかのエージェントか?」
 「あいつらだって、ガンシップは無理だろう」
 「そもそも、暗黒龍ってなによ?」
 「「「「アハハハハハハハ!」」」」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 「一江、幾ら何でも、今回は攻撃ヘリまで出たんだ。警察だって必死だろうよ」
 「そうですけどね。でも部長に繋がるものって、難しいんじゃないですか?」
 「そんな甘いもんかなぁ」
 「まあ、動きがあったら、その時に考えましょう」
 「そうだなぁ。でも不思議だよなぁ」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 綺羅々はうず高く積まれた石神の資料を見る。
 高学歴、高収入、社会的名声の数々、莫大な資産、人望。
 恋人多数、北関東のヤクザやアメリカ大使館とのコネクション、高度な格闘技、火器の知識、米海兵隊との関わり。
 甘くそして精悍で鋭い容貌、187センチ80キロの逞しい身体、太く雄々しい男根。


 「あぁ、尊き……。早くお会いしたい。私だけを愛する運命の方。今はまだ自分の使命に目覚めていない可哀そうな方。私が迎えに行きます。その時まで……」


 赤星綺羅々、身長2メートル10センチ。
 体重158キロ。
 ミオスタチン関連筋肉肥大病により、異常に発達した筋肉は、雄牛の首を簡単にへし折る。
 空手五段、柔道6段、剣道4段。
 ボクシング、合気道、少林寺拳法、そして幾つもの軍隊格闘技に通じている。
 イギリスのSAS、アメリカのグリーンベレーと共に、海外での非正規戦闘の経験多数。




 日本国内にて、これまでに50人以上の男性を密かに拉致監禁、そして殺害。
 日本で最も濃い闇を抱く女。




 石神一家との激突は、しばらく先になる。
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