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浅草、そして羽田空港

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 日曜日。
 レイは夕べの歓迎会の礼をみんなに言った。
 朝食を食べ、栞の家に行く。
 栞と鷹にも礼を言いたいのだろう。
 いい女だ。
 俺も一緒に行った。
 レイの状況を見たかった。

 「レイちゃんは凄いよ! どんどん覚えていく」
 栞が絶賛した。
 俺はレイと組み手をした。
 マリーンの猛者とやりあっても、いい勝負になると思った。

 「凄いなレイ! 短期間でここまで仕上がるとはな」
 「はい」

 レイは肩で息をしている。
 整うまで待った。

 「鷹、レイの相手をしてくれ」
 「はい!」

 レイが打ち込むと、鷹が後ろへ跳んで、そのまま空中を一瞬で移動してレイの背後に回った。
 レイは見えていない。
 鷹の飛翔の衝撃で、レイの髪が巻き上がる。
 レイは後頭部に手刀を軽く当てられ、驚いていた。
 鷹は高速移動をものにしていた。

 「これは!」

 振り向いたが、鷹は空中を移動しながらレイを翻弄する。
 レイは目で追うことも出来ずに完敗した。

 「どうだよ、レイ?」
 「はぁはぁ、とてもじゃないですが、はぁ、無理です」
 「俺たちはどんどん先へ進む。お前もついて来いよ?」
 「は、はい!」




 俺とレイは家に戻り、昼食を食べた。
 味噌仕立ての鍋焼きうどんを食べた。
 レイは美味しいと言っていた。
 響子も一生懸命に食べている。
 食べ終わり、俺はハマーで響子と六花を送った。
 レイもついてくる。

 病院で二人を降ろした。
 響子はこの後で眠るはずだ。
 俺はしばらくレイに東京を案内した。

 「浅草でも行くか?」
 「石神さんとなら、どこへでも」
 俺は笑って浅草へ行き、ハマーを駐車場に入れて歩いて浅草寺を案内した。
 他にも外国人が多くいる。
 折角なので、電話で人力車を頼む。
 来たのは、小柄な女性だったので困った。

 「悪かった。大柄な人間だと説明しなかった。済まない」
 俺が言うと、女性は笑って大丈夫だと言った。
 安藤だと自己紹介した。

 「大丈夫ですよ、お任せください!」

 俺たちは女性が押さえる俥に乗った。
 俺も初めてだ。

 「じゃあ、出発しまーす!」
 元気よく女性が言った。
 女性は走りながらいろいろ案内してくれる。
 レイはとても喜んでいた。

 途中で俺があんみつを食べられる店がないかと聞くと、すぐに向かってくれる。
 俺は女性を誘って三人で入った。

 「私までいいんですか?」
 「もちろんだ。重い思いをさせて済まないな」
 「お客さん、優しいんですね」
 「俺の半分は砂糖でできている」
 「アハハハハ!」
 女性はミツと呼んで欲しいと言った。
 俺たちはあんみつとみたらし団子にコーヒーを頼んだ。
 レイは初めてだったが、美味しいと言った。

 「お綺麗な方ですね」
 ミツが言った。

 「そうだよな、レイ!」
 「いいえ、そんなことは」
 「え! 日本語できるんですか!」
 ミツが驚いた。

 
 「ミツはどうして俥夫をしているんだ?」
 「ええ、私ってちっちゃいじゃないですか。だからちっちゃい自分でもちゃんと出来るんだって証明したくて」
 「誰にだよ?」
 「自分ですよ。でもやって良かった。本当に毎日楽しくて」
 「そうか」
 俺はミツにもっと団子を喰えと言った。

 「いいえ、もう一杯です。こんなに親切にしていただいて」
 「うちの子どもたちは、小学生で10キロのステーキを喰うぞ?」
 「えぇー!」
 「本当ですよ。私も最初は驚きましたが」
 「そうなんですか!」
 「ちょっと喰い過ぎだからな。こないだの大雪で牛の雪像を作って線香を上げた」
 「アハハハハハ!」

 ミツとすっかり仲良くなり、今度子どもたちを連れてくると言った。
 是非案内させて下さいとミツが言ってくれた。
 俺が楽しかったチップだと一万円を渡そうとすると、多過ぎだとミツが遠慮した。
 無理矢理握らせた。

 「団子をたくさん喰え」
 「アハハハハ!」

 


 「石神さんは、どこでも仲良くなりますよね」
 「そんなことはねぇ。でかいクジラをけしかける奴もいるしな」
 「アハハハハ!」

 俺たちは羽田空港に寄った。
 コーヒーを三つ買って、展望デッキに上がる。

 「ここも久しぶりです」

 夕暮れて来た空港が美しい。

 「ナツエさん、いますかね?」
 「さあな、見えねぇんだからしょうがねぇ」
 「そうですね」
 レイが俺にキスをしてきた。

 「会いたかったです」
 「俺もだ」
 「毎日会いたくて、苦しかったです」
 「俺はそれほどじゃなかったな」
 レイが俺の胸を軽く叩く。

 「会えて良かった」
 「ああ、よく生き延びてくれたな」
 「石神さん」
 「なんだ」

 「軍医が言っていました。私の傷は助からないものだったって」
 「奇跡が起きたんだな」
 「石神さんがやってくれたんですよね?」
 「何のことだ?」

 「私に何か特別なことを」
 「何を言ってる」
 「助かったこともあります。でも、それ以上に傷の治癒が異常に早かった」
 「大した奇跡だったな」

 レイが微笑んで言った。

 「ルーちゃんが言ってました。「タカさんが許してくれて良かった」と」
 あのバカ。

 「何をされたのかは聞きません。でもお礼だけは言わせて下さい」
 「レイは俺の子どもたちを守ってくれたんだからな」
 「……」

 「ロボのウンコだ」
 「え?」
 「良かったな」
 「そ、そんな……」

 「アハハハハ!」

 レイは複雑な顔をしていた。

 「冗談ですよね?」
 「さあな」

 レイが俺の腕を掴んだ。

 「本当のことを教えて下さい!」
 「お前、聞かないって言ったじゃねぇか!」
 「ナツエさんのコーヒーを飲んじゃいますよ!」
 「やめろ! まあ、気分が悪いときには、お湯に溶いてまた飲めよ」
 「石神さん!」

 「今日からレイには、ロボのトイレ掃除を任せる」
 「本当は違いますよね?」
 「俺はウソは嫌いだ」
 「嘘ですよ! 資料には時々とんでもないウソを言う人だって書いてありました!」
 「だから誰だよ、その資料を作った奴って!」





 奈津江のコーヒーは、レイと二人で分け合って飲んだ。

 俺たちは笑い合い、腕を組んで帰った。 
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