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レイの歓迎会

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 土曜日。
 今日はレイの歓迎会だ。

 レイは忙しくしていた。
 皇紀や双子から防衛システムの勉強、主に高等数学、特に素数や複素数、そして線形と非線形数学の習得をさせられた。
 機械工学を修めたレイだったが、苦戦している。
 栞や亜紀ちゃんからは、栞の道場を借りて「花岡」の習得と格闘技の修練。
 合間に響子に会いに行く。
 今日も午前中は勉強をし、昼食後は栞の家に行って修練をしている。

 俺たちは歓迎会の準備だ。
 事前に連絡し、鍋屋横丁の有名な豆腐店から大量の豆腐を仕入れた。
 もちろん、梅田精肉店からも肉を入れてもらっている。
 今回は崩れやすい豆腐なので、結構神経を使った。
 特に、豆腐と桜エビのかき揚げは、俺の役割だ。
 賽の目に切った豆腐を、崩さないように桜エビとまぜて衣を付けていく。
 他の料理も、子どもたちが神経を使って作って行った。

 一度休憩した。




 みんなでコーヒーを飲んでいると、レイが帰って来た。

 「すみません、私も手伝いますね」
 「ダメだよ、レイの歓迎会なんだからな。ああ、ちょっと響子の所へ行ってやってくれ。六花も後で行くだろうしな」
 「分かりました。申し訳ありません」
 レイはシャワーを浴びて着替えてから出て行った。

 「じゃあ、再開するか! 皇紀はケーキを取りに行ってくれ」
 「分かりました」
 夕方になり、レイと六花が響子を連れて来た。
 大好きな二人に挟まれて、響子も嬉しそうだ。
 栞と鷹も来る。
 一江と大森は、今回は遠慮してもらった。
 また機会は幾らでもある。

 俺はクリュッグのロゼを出し、みんなで乾杯した。
 皇紀や双子も、一口だけ飲ませる。
 料理は大好評だった。
 亜紀ちゃんがレイに一口ずつ全部食べさせ、好きな物を聞いて取ってやる。
 
 「亜紀ちゃんも人間だったんだな!」
 「ひどいですよ!」
 皿の進むものを見て、俺は追加で作った。
 レイはいろんな人間に話しかけられた。
 栞はレイの格闘センスを褒め、鷹はレイが和食を覚えたいと言ったので、いろいろと話している。
 子どもたちが、海上輸送の話をみんなにし、詳しくは知らなかった人間が驚いていた。

 響子はアメリカでのレイの話をし、六花はひたすらに唐揚げを中心に食べていた。
 
 「お前も何か話せよ」
 六花に言うと、少し泣きそうな顔になる。

 「悪かった。お前はその美しい笑顔を振りまけ!」
 六花は嬉しそうに、また唐揚げを口に放り込んだ。
 俺が膨れた頬を指でつつくと、六花は俺の指をくわえた。
 みんなが笑った。

 

 一つ、驚くことがあった。

 「レイの日本語って上手いよね」
 ルーがそう言った。

 「はい、いい先生に教わりました」
 「へぇー、どんな先生?」
 「しばらく日本の高校で先生をしていたらしいです。その後でアメリカへ戻って、日本語学校で働くようになったんです」
 「そうなんだ」

 「綺麗な人で、とても明るくて優しくて。いい先生でした、バーンズ先生は」

 その言葉を聞いて驚いた。
 
 「おい、レイ! まさかオリヴィア・バーンズって名前じゃないだろうな!」
 俺が叫んだ。

 「はい、オリヴィアですが、御存知なんですか?」
 「多分、俺の高校の先生だ!」
 「「「「「「「「「え!」」」」」」」」」

 俺はオリヴィア先生の特徴を言い、レイとすり合わせた。

 「オッパイが大きいか!」
 「はい!」
 「間違いねぇ!」
 「「「「「「「「……」」」」」」」」

 「そう言えば、一度聞いたことがあります。日本の高校生とステディだったんだって。Tigerと言っていたので、どういう人かと思ってましたが」
 レイはその場で電話した。
 ずっと親しくしていたようだ。
 俺は久しぶりにオリヴィア先生と話をし、その場で泣いてしまった。

 「いただいた本は、全部カバーをかけて今でも大事にしています」

 オリヴィア先生も向こうで泣いていた。
 俺はいつかお会いしましょうと約束した。

 「レイ! お前には世話になりっぱなしだな! よし、もっと豆腐を喰え!」
 「いえ、もうお豆腐はこれで結構ですよ」
 「亜紀ちゃん! シャトーブリアンを出せ! 俺が焼く」
 「でも、今二人分くらいしかないですよ?」
 「レイの分があればいいんだ!」
 「……」

 なんで自分も喰うつもりなのか。
 俺はレイのために焼き、残りは響子とロボにやった。
 響子は豆腐でお腹が一杯で、一口だけ食べた。 
 残りを、壮絶なじゃんけん合戦で決め、栞がせしめた。
 六花がロボの肉を傍で座って見ていたが、双子から「タカさんに殺されるよ」と言われ、諦めた。





 飲み物と残った料理を地下に運び、俺がギターを演奏し、みんなで歌って楽しんだ。
 十二弦のギターを出した。
 ギブソンの「EDS-1275」、ダブルネックのギターだ。

 「ちょっと静かにしてくれ」

 俺は一時的にみんなを黙らせて調弦する。
 十二弦は調弦が難しい。
 レッド・ツェッペリンの『天国への階段』と、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』を歌った。
 響子と一緒に甲斐バンドの『LADY』を歌い、栞が℃-uteの『悲しきヘブン』を歌い、鷹が『天城越え』を熱唱した。

 「ジャイアン、今日はお前も歌えよ」

 俺は六花に『ともしび』を歌わせた。
 レイがヘンな顔をしていた。
 六花は嬉しそうだった。


 「レイ、何か歌いたいものはあるか?」
 「クイーンはできますか?」
 「幾つかはな。『We Will Rock You』はどうだ?
 「あ、いいですね!」
 双子にリズムを教えた。
 足で二回床を踏み、手で一回。
 双子が始めると、みんなが合わせる。

 ♪ Buddy, you're a boy, make a big noise Playing in the street, gonna be a big man someday …… ♪

 上手い。
 みんなもノってくる。
 俺は最後のギターソロをアレンジし、途中で合わせて入れる。

 ♪ We will, we will rock you ♪ 
 
 全員で歌う。
 みんなで拍手し、抱き合った。

 テーブルと椅子を脇に寄せ、『ガラスを割れ』を歌いダンスした。
 レイが驚いて喜ぶ。
 亜紀ちゃんと双子は天井に足をついて綺麗に降りた。

 「これ、ブロードウェイでやってましたよね!」
 「お前ら……」
 「「「エヘヘヘヘ」」」
 「動画サイトにも出てましたよ」
 「お前ら……」
 「「「エヘヘヘヘ」」」

 「静江様にお話ししたら、「あの子たちはブロードウェイでもトップになれます」って。凄いですね」
 「「「エヘヘヘヘ」」」
 ちょっと面白そうだと思った。




 俺たちはリヴィングに戻り、風呂に入った。
 栞と鷹は帰り、鷹は栞の家に泊る。
 相変わらず仲が良くて良かった。
 俺は響子と六花と一緒に風呂に入ったが、レイも一緒に入りたいと言った。

 「抜群のスタイル二人と、抜群の子ども体形一人だな!」
 みんなで笑った。
 レイも「風呂」が好きになったようだ。

 「ロックハート家でも、よく使わせていただいていました」
 
 「日本家屋は寒いんだよ。板の組み合わせで、薄いし隙間が多い。夏は湿気が高いから、夏用の作りなんだな。だから、冬はちゃんと温まる必要があるんだ」
 「そうなんですか」
 「人間の免疫機構は、体温が上がると活発になる。だから毎日温めることで、免疫力を高めていく必要があったんだ」
 「なるほど」

 「欧米の家は、しっかり作られていて、暖炉とかもあって温かくできる。日本の暖房って、昔は火鉢だからな」
 俺は火鉢の説明をした。
 
 「本当に手先だけなんだ。部屋を暖めるという発想がなかった。着物も寒いしなぁ」
 
 俺たちは風呂を上がり、酒の準備を始めた。
 まだ料理の残りがあったので、それをつまみにする。
 響子はロボに頼んで先に寝た。

 「ロボ、響子と一緒に寝ててくれよ」
 「にゃ」

 不思議なネコ(?)だ。
 響子は喜んでロボと一緒に俺の寝室へ行った。
 亜紀ちゃんが素早く風呂から上がって来た。
 俺は笑った。

 俺はワイルド・ターキー、六花はハイネケン、レイは亜紀ちゃんに誘われて日本酒の熱燗を飲む。
 亜紀ちゃんはすっかり酒好きになった。

 


 「ロドリゲスが、またみんなに来て欲しいと言ってました」
 レイが言った。
 以前はそれほどでもなかったが、子どもたちが伺ってから、総料理長のロドリゲスと急激に仲良くなったと言っていた。
 今では互いにファーストネームと愛称で呼び合っているらしい。

 「料理人はプライドが高いんです。別に仲が悪かったわけではないんですが、お互いに仕事の付き合いというか」
 それが、子どもたちによって変わったのだと言う。

 「毎回厨房に「美味しかった」と言いに来て、食器洗いや厨房の掃除までして。私に断っているからと言うもので、私まで感謝されてしまいました」
 「そうなのか」
 「屋敷の掃除までしてくれたので、他の使用人も喜んで。今はロックハート家はお子さんたちのお陰で非常にいい雰囲気ですよ」
 「何よりだ。ありがとう、教えてくれて」
 「いいえ。でも本当にみなさんで行って上げて下さい」
 「まあ、そういう機会もあるだろう」

 俺たちは楽しく話した。




 「そういえば、タカさん。またバレンタインデーが近いですね」
 「ああ、今年は大丈夫だろう」
 「?」

 俺はレイに日本のバレンタインデーの話をした。
 知らなかったようで、驚いていた。

 「それでなぁ。うちの病院ではチョコレートを贈るのを禁止したんだけどな」
 俺が俺の懇願で辞めたものを、去年院長が強引に復活させた話をした。

 「院長の部屋がチョコレートのダンボールで満杯になってよ! おまけに響子が隠れて大量の棒アメとか買いやがって。大変な騒ぎになったよなぁ!」

 レイが爆笑した。

 六花が、何度か響子が買い食いをした話をした。

 「どんどん太って行くので、なんだろうって石神先生と」
 近くの倉庫に隠していたのだと話したら、またレイが爆笑した。

 「あいつもワルになったよなぁ」
 「そうですね。石神先生のヨメですから」
 俺は六花の頭にチョップを入れる。

 レイは、是非自分も日本のバレンタインデーをやりたいと言った。

 「安いチョコレートでいいからな」
 「え? 別に石神さんに差し上げるとは言ってませんが」
 「このやろう」

 


 「石神さん」
 「なんだ?」
 「バーンズ先生は結婚しませんでした」
 「そうなのか」

 「何人か恋人はいたようですが」
 「そうか」
 「石神さんが忘れられなかったんじゃないですか?」
 「そんなわけあるかよ。俺は高校生のガキだったんだ」

 「今度聞いてみますね」
 「やめろよ」
 「ウフフフ」
 レイが嬉しそうに笑った。

 「もしそうだったら、バーンズ先生も虎曜日でいいですか?」
 「やめろって」
 「今でもお綺麗ですよ?」
 「そうなの?」
 「はい」

 「「ワハハハハハ!」」

 俺たちは笑った。
 亜紀ちゃんも六花も笑った。



 「レイさん」
 「はい」
 「曜日係は私のお仕事です」
 「あ、すいません」

 


 俺たちは笑った。
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