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猫王ロボ

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 ロボが、「ばーん」をやりたくてウズウズするようになった。
 俺と二人でいる時に、尾をパチパチ言わせ「やっていい?」という目で俺を見る。

 「やめろ」

 俺が言うと、ちょっと不機嫌になり、前足で俺の身体をぺしぺしやる。

 「最近、ロボの毛が静電気でパチパチいうようになりましたね」
 亜紀ちゃんがある日俺に言った。

 「お、おう。そうなのか?」
 「はい、撫でていると。特に尻尾が酷いですねぇ」
 「やめろと言っておけよな」
 「はい?」
 「そうすると静電気が軽減するんだ」
 「そうなんですか?」

 亜紀ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
 静電気は変わらないが、パチパチは減るだろう。
 まあ、そうでないと困る。
 



 俺は夜にロボとハマーでドライブに行くようになった。
 丹沢は遠いので、竹芝桟橋などへ行く。
 ロボを連れて桟橋に行き、人気が無いことを確認する。
 ロボが嬉しくて、俺の足に身を摺り寄せている。

 「おい、いいぞ」
 ロボが海の方を向く。

 「なるべく上に飛ばせよな」
 ロボの顔がちょっと上を向く。
 尾が二つに割れ、美しい弧電を見せる。
 根本から分れたV字の先端まで、放電のアーチが幾つも移動していく。
 アーチは次第に太くなり、尾の周辺にも火花を散らしていく。

 「お、おい! 今日はでかくねぇか!」

 俺は慌てて言うが、ロボは聞いちゃいない。
 ロボが大きく開けた口の前に、光球が形成されていく。

 「やっぱでかいって!」

 光球が上空に発射される。
 数キロ先で、それが爆発し、光の帯が散って海に落ちて行った。

 「……」
 
 ロボが俺に駆け寄って来る。

 「ニャオウ!」

 「見た? ねえ見た?」、そう言っているのが分かる。
 俺は苦笑し、しゃがんでロボの頭を撫でた。
 ロボは俺の膝に前足を乗せ、俺の顔を舐めて来る。

 「お前、もうちょっと小さいので頼むよ」
 「にゃ」
 「お願いにゃー」
 「にゃ」

 分かっているのか。
 折角来たので、ベンチに座ってロボと海を眺める。
 ロボは景色など興味は無いだろうが、俺の足に顎を乗せて満足げだ。





 あれだけの大出力を、ロボはどのように獲得しているのか。
 子どもたちと一緒に喰っているステーキだけじゃないだろう。
 皇紀と双子は「ヴォイド機関」という攻防一体の兵器を作った。
 その根幹はフリーエネルギーだ。
 無尽蔵にエネルギーを供給する。
 そのエネルギーを使って、大規模兵器のレールガンや荷電粒子砲やレーザーも稼働できる。
 
 「花岡」の巨大な力も、地球の自転などの莫大な力の一部を用いている。
 それは双子によって数学的に解析された。
 双子が「エジソン嫌いのセルビア人」と相談して、実装を実現したのだ。

 「あまり、あっちの人間がこちらに影響してはいけないんじゃないのか?」
 俺は以前に双子からそういう話を聞いている。

 「うん、大丈夫。綺麗な天使さんにちゃんと許可は得てるから」
 ルーとハーがニコニコして俺を見て言った。
 そういう存在もいるのか。

 「そうなのか。まあ気を付けてな」
 「うん。天使さんは、タカさんなら特別だって」
 「へぇ」

 双子は俺を見て、お互いを向いてクスクスと笑っていた。
 よく分からないが、大丈夫らしい。





 帰りの車の中で、ロボはいつもゴキゲンだ。
 運転している俺の顔を、長い尻尾で撫でる。

 「おい! 前が見えねぇ!」
 俺が言うと、今度は足に乗って来て上半身で顔を覆う。
 こいつなりに、礼を言っているつもりなのか。
 俺は笑って、助手席に戻す。
 落ち着かせるために、俺は米津玄師『打上花火』を歌った。

 ♪ ニャっと光ってにゃいたー 花火を見ていた~ ♪

 ロボはフロントガラスをじっと見て、俺の歌を聞いていた。
 月に1,2度、俺たちは出掛けた。




 ある日。
 俺はいつものように、夜の竹芝桟橋へロボとドライブした。

 「今日も抑えて出してくれよな」
 「にゃ」
 ロボは尻尾を割り、放電を始める。

 「おい! またでかいって!」
 やる気満々なのか、いつも以上に放電が大きい。
 自転車の音がした。

 「ロボ! ストップ! 誰か来たぞ!」
 ロボは止まらない。
 まあ、俺も発射寸前で止めることは出来ないが。
 ロボは巨大な光球を吐き、上空へ飛ばした。

 ドドォーン!

 盛大な光の爆発と、その周囲から大量の光の帯が海面に落ちて行った。

 「なんですかぁ、今のはぁ!」

 自転車に乗った若い男性がこちらへ走って来る。
 しっかり見ていたらしい。

 「なんだったんですか!」
 俺たちの近くまで来て叫んだ。

 「凄かったですね」
 「いやいや、そのネコがやったんでしょう!」
 見られていた。

 「ああ、こいつ? 実はネコ型ロボでして」
 ネコだ。

 「えぇ! じゃあドラ……」
 「ロボです」
 「あ、ああ」

 男性は何をどう聞いていいのか分からなくなっていた。

 「あの、お名前は?」
 「のび太です」
 「……」

 男性はロボを見る。

 「ええと、僕は」
 「海の藻屑さん」
 「え?」
 
 俺は手を振って「虚震花」を海に放った。
 大きな水柱が立つ。
 男性は驚いて地面にへたり込んだ。

 「海の藻屑さん。今日見たことは、どうか内密に」
 「は、はい!」




 その次のドライブの日。
 桟橋で誰かが立っていた。

 「あ! のび太さん!」
 「ああ、海の藻屑さん」
 「毎日ここで待ってたんです」
 「どうしてですか?」
 聞くまでも無かった。

 「あなたたちにお会いしたくて」
 「そうですか」
 「あの、細川邦明です!」
 男性は名刺を渡してきた。
 俺に信用してもらいたいのだろう。

 「のび太です」
 「……」

 都内の大手ゲーム会社の社員らしい。

 「のび太さん、こないだのことはもちろん誰にも話してません」
 「ありがとうございます」
 「どうしてもまたお会いしたくて」
 「そうですか」

 誰に話しても信用されないだろうと、こないだは放置した。
 しかし細川は、また来た。

 「綺麗ですもんね」
 「そ、そうなんです! あれが忘れられなくて。次はもっとちゃんと見たかったんです」
 不思議な男だった。
 殺されるとはまったく考えていないようだ。

 「じゃあ、今日も見ますか」
 「はい! お願いします」
 ロボが尾の放電を始める。

 「うわぁ!」
 観客が増えたせいか、また一層でかいのを撃つようだ。
 ロボが光球を飛ばした。


 ドゴォォォォーン。


 上空だから明確な大きさはわからないが、かなりでかい。
 恐らく、町の区画ほどはあるだろう。

 「にゃ?」
 「ああ、今日のはまたでかかったなぁ」
 「すっごいですよー! のび太さん!」

 細川は子どものように喜んでいる。

 「あれって何なんですか?」
 「ああ、タケコプター的な?」
 「全然違いますよ!」

 細川はロボの前にしゃがんだ。

 「これってネコですよね?」
 「まあ、そうかな」
 俺にも自信はない。

 「不思議だなー」
 「そうだな」

 「のび太さんのネコなんですか?」
 「まあね。トランシルヴァニアで前の飼い主が見つけたらしいけど」
 「へぇー、ドラキュラかぁ」
 「血は吸わないけどな」
 「そうですか」

 ロボが尾をパチパチさせた。

 「やめろやめろ」
 細川に警戒している。

 「まあ、月に一度は来ているから」
 「また一緒に観てもいいですか?」
 「ああ。でもくれぐれも秘密にしてな」
 「はい!」

 変わった知り合いが出来た。
 次第にロボも細川を警戒しないようになった。
 俺は細川に教わった電話に連絡するようになった。




 その後細川は、漫画家・猪鹿コウモリの大ヒットの原作『異世界丹沢ゴーゴー』のゲーム企画の主任担当になった。
 原作には登場しない隠しキャラ「猫王ロボ」を提案し、猪鹿を喜ばせた。
 『異世界丹沢ゴーゴー』にも猫王ロボが登場し、新たな展開に読者は狂喜した。

 猫王ロボの必殺技「猫玉バスター」は、すべての防御や結界を無視して、敵を瞬殺する。
 発動条件は厳しいが、そのことが主人公のピンチ場面と重なって、大いなるカタルシスをもたらす。

 俺も一つもらった。

 「これ、絶対に面白いですよ!」
 「そうなの?」




 うちにはゲーム機がねぇ。
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