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雪見酒

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 一月の中旬の金曜日に大雪が降った。
 東京は雪に滅法弱い。
 数センチ積もっただけで大騒ぎだ。

 今回は10センチ以上も積もり、電車は軒並み運転休止となり、タクシーは大半が引っ込んでしまう。
 事故で車両が壊れるのを恐れてだ。
 ベテランの運転手だけが出動し、稼ぎまくる。
 でも、彼らにしても横暴な客が路地裏の自宅まで行けと言い、酷い目に遭うことも多い。
 また、自分は綺麗に運転しても、スタッドレスも履かないアホに追突されることもある。

 雪道を歩き慣れていない人間が多く、よくあちこちで転ぶ。
 救急車もいつもより到着が遅れる。
 なんとかなるだろうと甘く考えている人間が、いい気になって酒を飲み、どうにもならなくなる。
 ホテルも満杯になる。
 仕方なく歩いて帰ろうとする奴が、革靴で歩いて滑って転び、風邪をひくし骨折もする。


 
 俺はオペがあったので帰れなかった。
 
 「石神先生、是非うちへお泊り下さい」
 天使のように美しい女が、悪魔のように囁いた。
 別に六花のマンションに泊ってもいいのだが、俺の矜持が何かを訴えた。

 「いや、子どもたちも心配だから、帰るよ」
 「そんなぁー!」

 病院内でも帰れない人間が多くいた。
 普通の会社であれば、早めに仕事を切り上げて、まだ電車が動いている間に帰宅した人間も多い。
 しかし病院はシフトで勤務時間が決まっており、遅番(12時から20時)の人間のほとんどが帰れない。
 いつも病院裏に列をなして止まっているタクシーも、今日はまったく来ない。
 タクシー会社に連絡しても、手配はできないと断られる。

 俺は院長に許可を取り、何部屋かを帰れない人間のために確保した。
 毛布を配る。
 宿直室は、宿直者のためのものだ。
 空いているベッドも勝手に使ってなならない。

 数十枚の毛布を渡し、それで何とかしてもらうしかない。
 病院内のソファなどは使う許可を出したが、人数分は無い。
 多くの人間は床にブルーシートを敷き、その上で雑魚寝だ。
 まあ、その方が温かいはずだが。



 俺は便利屋を呼んだ。
 俺のハマーで来させる。
 スタッドレスであれば、大丈夫だ。
 俺は残っている部下たちを乗せて、送りながら帰った。
 鷹も乗せた。

 9時に病院を出たが、帰ったのは12時を回っていた。
 便利屋に礼を言った。

 「助かったよ、ありがとうな」
 「いえ! 石神先生のお役に立てて光栄しごくとチンチンいっちゃうです」
 よく分らんが、便利屋は近所なので歩いて帰った。

 遠くで「アァー!」という声が聞こえたが、面倒なので見に行かない。

 ロボと亜紀ちゃんが玄関に迎えに出てくれた。
 俺の家の庭も、大分積もっている。

 「明日は雪かきだな」
 「はい! 任せて下さい!」
 ロボがいつもと違う景色に興味を示していた。
 寒いので抱き上げて階段を上がった。

 「何人も転んで怪我をしているようですよ」
 「そうか」
 亜紀ちゃんはずっとテレビを観ていたらしい。

 「車の事故も多いようです」
 「そうだろうな」
 「目黒で交通事故で電柱が折れて、停電らしいです」
 「大変だな」
 テレビの情報を俺に次々と伝えてくれる。

 「タカさん、お食事は?」
 「ああ、まだなんだ。病院でもいろいろ手配があってな」
 「じゃあ、すぐに作りますね!」
 俺の夕飯は残してくれなかったらしい。

 「親子丼でいいですか?」
 「ああ。ところでお前らは?」
 「ステーキでした」
 「あ、そう」
 何か間違っている気がするが、俺は待った。
 ロボが匂いで騒ぎ出したので、亜紀ちゃんに鶏肉を少し焼かせ、喰わせた。
 親子丼を食べ、俺は着替えを持って風呂に向かった。
 当然のように亜紀ちゃんが待っている。

 「さあさあ!」
 いつものように洗い合い、二人で湯船に浸かった。

 「タカさん、今日は冷えたでしょう」
 「そうでもないよ。病院の中にずっといたからな」

 廊下でロボが「クチッ」っとクシャミをした。
 ドアを開け、中に入れてやる。

 「タカさん、アレが出来ますね」
 「なんだよ?」
 「ゆ・き・み・ざ・け!」
 俺は笑った。

 「じゃあ、俺の部屋のテラスで飲むか」
 「あ! いいですね!」

 二人で段取りを考えた。





 「やっぱ寒いですね」
 「零下5度らしいぞ?」

 俺たちはベンチシートを出し、毛布を3枚敷いた。
 テーブルにコンロを置き、作った鶏鍋を温める。
 熱燗を用意した。

 俺と亜紀ちゃんは厚着をし、ベンチシートに座って毛布で足をくるみ、足元にカイロを5個入れた。
 上も4枚の毛布を頭からかけ、二人でくっついた。

 「城ケ崎に行ったのを思い出しますね!」
 「あの時より暖かいな!」

 雪はまだ降っている。
 明け方まで降るようだ。
 俺たちは熱燗を猪口で飲みながら、鍋を食べた。
 非常に温かくなる。

 何かバカなことをしている気もするが、それがまたいい。

 「あったかいですね!」
 「いいな、これ!」

 俺たちはニコニコとしながら、飲んで食べた。

 「真冬にキャンプもいいですかね?」
 「まあな。でも双子はすぐに裸になりたがるだろう」
 「アハハハハ!」

 「タカさんはキャンプとかよくしました?」
 「ああ、矢田とよくやったなぁ。あいつ家に帰りたくない奴だったからな」
 「あの矢田さんですね」
 「小学生の時から、テント担いで近くの山に登ったよ」
 「楽しそうですね」
 「楽しかった。あいつといつも遅くまで話してたな」

 「どんな話ですか?」
 「一時はラジオに二人で嵌って、そのうちハムの免許を取ろうってことになったな。そんな話が中心だったか」
 「はむ?」

 「今はネットがこれだけ普及してるから、もうほとんど誰もやらないだろうけどな。昔は無線で遠く離れた人と会話するというのがあったんだ。それがハム無線な。でかいアンテナを立てて、送受信機で会話するんだ」
 「へぇー!」

 「免許が必要で。でも年齢制限は無いから、小学生でも受かれば使える。俺も矢田も受かったけど、まあうちは貧乏で何も買えない。矢田の家でよくやったっけ」
 「そうなんですか」

 「そのうち、俺も欲しくなってなぁ」
 「でも買えないですよね」
 「そうだ。だから自作することにした」
 「えぇー!

 


 俺は亜紀ちゃんに話した。 
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