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一江のフィギュア

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 子どもたちが帰って来た翌日。
 一江と大森が挨拶に来た。
 1月3日だ。

 「「明けましておめでとうございます!」」
 「おお、新年から一江はブサイクだな」
 「……」
 「今年も大変だな!」
 「……」

 一江の目的は、皇紀が設置したロックハート家の防衛システムのことを聞くことだ。
 俺は別に話もないので、早々に皇紀の部屋へ案内した。
 新年の挨拶もそこそこに、一江たちは防衛システムの話を始めた。
 双子も加わって話す。

 俺はリヴィングで亜紀ちゃんに飲み物を持っていくように言った。
 紅茶を運んで亜紀ちゃんが戻り、俺たちはのんびりとコーヒーを飲んだ。

 「タカさんは、どこかへ出掛けられますか?」
 「そうだなぁ。のんびりしたいけど、ちょっとドゥカティで流すかなぁ」
 「私も連れてって下さいよ」
 「うーん。そんなに長くは出掛けたくないんだよな」
 「えぇー、どっか行きましょうよ」

 俺たちがそんなことを話している間。
 ロボはうろうろと遊びの対象を探しているようだった。
 俺が段ボールでも出してやろうかと思っていると、ロボが一江が置いて行ったフェリージのバッグを見つける。
 
 「おい、それには触るな」

 俺が声を掛けても、夢中になっていて、匂いを嗅いでいる。
 俺が近づくとバッグを椅子から落とした。
 何か細長い箱が転げて出た。
 ロボがそれを咥えて走って行く。

 「おい、待て!」

 俺が追いかけ、部屋の隅に追い詰めて取り上げた。
 ちょっと力が入った。

 ポキッ。

 「ん?」

 俺が手を開くと、男性のフィギュアの腰がへし折れていた。

 「やべ!」

 



 俺は皇紀の部屋へ行った。

 「一江さん、一江さん」
 「何ですか、新年早々ブサイクな一江ですが?」
 「やだなぁー、冗談だって! あのね、それでね」
 俺はフィギュアを見せた。

 「ア、アァァァァァァァァーーーー!!!!!」

 俺が青くなるほどの悲鳴を一江が挙げた。

 「こ、こ、こ、これ」
 「悪かった。俺が壊してしまった」

 一江が失神ししそうになり、ルーが支えた。

 「一江さん、大事なものなの?」
 ハーが聞く。

 「私の命です」
 「それは俺だろ?」
 一江に殴られた。
 甘んじて受けた。

 「それは「東洋神秘」のJ様の幻のフィギュアですよ!」
 「何それ?」
 「部長はK-POPなんか聴かないでしょうけどね! 有名な二人組のデュオです!」
 「へぇ」
 まったく知らないし興味ない。

 「徹夜で「ごと武器屋」の新春お楽しみ袋を買いあさってやっと手に入れたのにぃ!
 「そうなんだ」

 俺はまた一江に殴られた。

 「それ手に入れるのに、300袋も買ったんですよ!」
 「もちろん弁償する」
 「出来ないですよ! 今回限定のお宝なんですから!」

 詐欺的な商法に乗せられたわけだ。
 口には出さない。

 「本当に申し訳ない。何とかするから、少し待っててくれ!」
 「絶対に許しません!」
 皇紀と双子も戸惑っている。

 「部長はJ様の素晴らしさが全然分かってないから、そんな平然としてるんですよ! こっちは全てを捧げてもいいくらいに愛しているのにぃ!」
 いや、お前の金以外はいらんだろう。
 口には出さない。

 「悪かった! 何でもするから許してくれ」
 「じゃあ、来月のコンサートの最前列のチケットを取って下さい。部長の分もですよ!」
 「え、俺?」
 「そうです! 一緒に行って、J様の素晴らしさを教えてあげるんです!」
 興味が無いとはとても言えなかった。

 「分かった」
 「必ず最前列ですよ!」
 「なんとかするよ」




 後で調べてみると、一江が言う通り相当な人気の韓国人男性のグループらしい。
 ついでに俺が壊したフィギュアを調べてみると、本当に今回の限定品らしく、5体のみだったようだ。
 店のツイッターで、300袋も買い占めた人間がいるほどの人気になったらしい。

 「……」

 まず、チケットを取るのが大変だった。
 発売開始10分で完売した。
 当然、そこで入手するのは最初から諦めていた。

 
 俺は主催の音楽事務所に連絡し、1枚一億円で入手した。
 やればできる子と言われたい。


 もう一つのことも手配し、俺は当日、一江とコンサートへ行った。
 アヴェンタドールを出してやる。


 俺たちの周りは、若い女性ばかりだった。
 俺もファンクラブがいつも周りにいたことはあるが、もちろん今は全員俺のファンではない。
 俺がどんなにダンディでも、今はただのでかい邪魔なオッサンだ。
 隣の一江はひたすらに喜んでいる。
 もう既に、ステージの開演を待ち侘びている熱狂的なファンだ。
 僅かに残った理性で、俺に「道具」を手渡した。

 「よくぞここを取れた! 褒めてやる!」

 今日だけは言いたい放題にさせよう。
 俺は渡された鉢巻をし、両手にペンライトを持った。

 

 コンサートが始まった。
 でかい爆発音と共に炎が吹き上がり、二人組の男性が登場する。
 周囲の歓声で耳が痛くなる。

 ノリノリの音楽が始まり、二人が歌い出した。
 結構いい。
 歌も上手いし、ダンスもいい。
 俺も次第にのめり込み、一江と一緒にペンライトを振って応援した。
 一江も俺がノッているのに気付き、時々笑顔を向けて来る。
 気持ち悪かった。

 終盤、俺は軽快な音楽に乗って、俺は空中へ跳んだ。
 40メートル上空から、伸身ひねりで着地する。
 ステージの二人が驚いている。
 他の観客はステージに夢中で気付かない。
 俺は笑って手を振ってやった。




 コンサートが終わり、帰ろうとすると事務所の人間らしい二人に呼び止められた。
 俺たちは促されるまま、付いて行った。

 「Jたちが、あなたに会いたいと言っています」
 「へぇ」

 楽屋に案内され、中へ入った。
 やはり、俺のジャンプを驚いたようだ。
 
 「どうやって、あんなに高く跳ぶんですか?」
 「あなた方への愛ゆえにです」

 二人は大笑いした。
 握手をしてくれ、一江は二人にハグしてもらい、名前入りのサインをもらった。
 感激して泣いた。
 やはりブサイクだった。



 「ぶちょー!」
 「あんだよ」
 「ありがとうございましたぁー」
 「いいよ。俺が悪かったんだしな。もう許してくれるか?」
 「もぢろんでずー!」

 俺は笑って、一江に小さな包みを渡した。

 「なんですか?」
 「詫びだよ」
 「?」

 一江が包みを開いて驚く。

 「こ、これって!」
 「亜紀ちゃんに探してもらった。オークションに出てたよ。それが目的で買った人間もいたんだな」

 俺が壊したフィギュアだ。
 有名オークションサイトで落札した。
 結構競って、4000万円だった。

 「これで本当に許してくれ。お前の大事なものを壊してしまい、申し訳なかった」
 「いいんでずぅー!」

 一江が大泣きした。
 まあ、多少は見られる面だった。
 こんな一江は見たことが無い。





 一江は俺がやったフィギュアを大事に飾った。
 俺がへし折ったフィギュアは有名な製作者に頼んで接着剤で修繕し塗装も丁寧にかけ、大森がもらった。





 置き場所に困っていた。 
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