661 / 2,894
挿話: ロボの毛
しおりを挟む
ロボを引き取ってしばらくしての頃。
俺が帰って玄関を開けるとロボが駆け降りて来る。
俺がアヴェンタドールで帰ると、音を覚えたか玄関で待っている。
毎日、熱烈歓迎してくれる。
もう、可愛くてしょうがないのだが、一つだけ困った問題がある。
ロボの毛だ。
ネコや犬を飼っている方なら分かるだろうが、奴らは全力で愛情を示して来る。
それがカワイイのだが、服に毛がべっとりと付く。
ロボが歩き回り走り回るので、家中に毛が落ちている。
放っておくと、高い絨毯やカーペットの模様が薄くなる。
俺のベッドも毛が一杯だ。
ダンディ石神としては、カッチョいいスーツにロボの毛がべっとり、というわけには行かない。
毎回スーツを脱ぐたびに、丁寧にブラシやハンディ・クリーナーで毛を取る。
夏場はパンツ一枚の格好でやる。
カッチョ悪い。
ブラシを探した。
固くなく、ロボが気持ち良くなるようなもので、しかも毛をしっかり取る。
幾つか買って試し、いいものが見つかった。
ただ、ロボは俺にしかブラッシングをさせないので、俺の毎夜の日課になった。
面白いように毛が取れる。
毎日ブラシの毛を取り、清潔を保つ。
可愛いロボと、俺のダンディズムのためだ。
ブラッシングの間、ロボは大人しく、よく喉をゴロゴロ鳴らす。
物凄く愛おしい。
取れた毛まで愛おしい。
丁度アクリルの五面体があった。
双子悪魔にジャコメッティをへし折られてから、塑像用に幾つか買った。
50センチ角で深さが70センチのものが余っていた。
何となく、その中にロボの毛を入れ、時々丸めるようになった。
ロボの毛玉が、徐々に大きくなっていく。
カワイイ。
ブラッシングを始めてから、ロボは毛玉のウンチをしなくなった。
健康面でも良さそうだった。
「あ! これ何ですか?」
ある日、俺の部屋の掃除をしていた亜紀ちゃんが見つけた。
「ああ、ロボの毛を集めて丸めたんだよ」
「ええ! 面白いじゃないですか!」
亜紀ちゃんのスイッチが入った。
それから、俺のスーツの毛取りをやりたがり、掃除機のゴミを毎回亜紀ちゃんが出し、ロボの毛を選り分けるようになった。
本来は面倒な作業だが、亜紀ちゃんは嬉々としてやっていた。
食事の時。
「タカさん、うちの掃除機のゴミって、ほとんどロボの毛なんですよ。知ってました?」
「ああ、その他はハーのウンコだろ?」
「してないよ!」
「量が量ですからねぇ」
「困ったもんだ」
「だから、してないって!」
「おい、ちゃんとトイレでやってくれな」
「もう、してないってば!」
亜紀ちゃんの趣味が出来た。
集めては俺の部屋のアクリルケースに入れていく。
俺もますます面白くなって、ブラッシンクの毛を集め、中に入れていく。
時々丸めていく。
一か月も経つと、ケースが一杯になった。
亜紀ちゃんと二人で眺めた。
「溜まりましたねー」
「そうだよなぁ」
「なんかカワイイですよねー」
「まったくだ」
ハンディ・クリーナーはロボの毛専用になり、亜紀ちゃんが毎日俺のベッドを中心に集めるようになった。
時々、俺のヘンな毛も吸い込んだ。
「ニャハハハハ」
「……」
亜紀ちゃんが別なケースに集めようとしたので、やめてくれと言った。
俺は「ロボの毛」問題から解放され、助かった。
ロボの毛のために、90センチ角のアクリルケースを新たに買った。
また二人で一生懸命に溜めて行った。
亜紀ちゃんが、早く毛が伸びるように、ロボにワカメを喰わそうとしたので、やめろと言った。
密かに増毛剤を掛けようとしたので、引っぱたいた。
「タカさん、羊って年に一度丸刈りするんですって」
「……」
「ねぇ、タカさん!」
「絶対やめてやれ」
亜紀ちゃんはロボの毛に夢中だった。
新しいアクリルケースにも、ロボの毛が一杯になった。
「タカさん、溜まりましたねー」
「そうですねー」
二人でよく眺めた。
「これ、何かに使えませんかね?」
「そうだよなぁ」
「このままでもいいですけどね」
「でもなんかしたいよな」
二人で考えた。
亜紀ちゃんがフワフワのロボの毛を押して楽しんでいる。
「エヘヘヘヘ」
嬉しそうに笑っている。
ちょっとコワイ。
俺と亜紀ちゃんはしょっちゅう毛玉を眺め、何をしようか話し合った。
「これ、ロボがもう一匹できますよ」
「面白いけど、毛をノリとかでくっつけないとなぁ」
「ああ、このフワフワ感がなくなっちゃいますね」
「単純だけど、クッションかなぁ」
「そうですねぇ」
結局、枕を作ってみることになった。
「失敗だったらやり直せますもんね!」
「そうだな!」
洋品店の武市に相談した。
「あ! トラさん!」
相談すると、二つ返事で引き受けてくれた。
「お前、毛を一本でも無駄にしたらカチ込むからな!」
「え?」
「ダンプでお前の店に突っ込むぞ」
「が、頑張ります!」
白いビロードで、品のいい枕が出来た。
亜紀ちゃんと大興奮で喜んだ。
「素敵ですね!」
「そうですね!」
二人で枕を抱き締め合い、そっと投げ合った。
「タカさん! そっとですよ、そっと!」
「わ、分かってるって!」
俺は1メートル先の亜紀ちゃんにそーっと投げた。
亜紀ちゃんが両手でぽふっと受け止める。
「緊張しました!」
「ほんとにな!」
「「ニャハハハハハハ!」」
皇紀と双子がジトっとした目で見ていた。
「じゃあ、俺が最初な!」
「しょうがないですね!」
俺はロボの毛の枕を抱いて部屋に行こうとした。
「タカさん!」
「な、なんだよ! 渡さないぞ!」
「まさかと思いますが、オチンチンはダメですよ!」
「……」
「なんで黙ってるんですか! あ! やる気でしたね!」
「分かったよ! やらないよ!」
「もう!」
俺はロボの毛枕を使ってみた。
ものすごくいい。
ロボが匂いを嗅いでいたが、気に入ったようだ。
枕に顔をスリスリしていた。
「俺んだからな」
「にゃー」
翌日、亜紀ちゃんが使い、幸せそうな顔で翌朝起きて来た。
「いいだろ、アレ!」
「最高でしたよ!」
「「ワハハハハハハ!」」
「枕をもう一つと、次はお布団ですかね!」
「お! いいな、それ!」
「「ワハハハハハハ!」」
俺と亜紀ちゃんの夢は尽きない。
「にゃー」
俺が帰って玄関を開けるとロボが駆け降りて来る。
俺がアヴェンタドールで帰ると、音を覚えたか玄関で待っている。
毎日、熱烈歓迎してくれる。
もう、可愛くてしょうがないのだが、一つだけ困った問題がある。
ロボの毛だ。
ネコや犬を飼っている方なら分かるだろうが、奴らは全力で愛情を示して来る。
それがカワイイのだが、服に毛がべっとりと付く。
ロボが歩き回り走り回るので、家中に毛が落ちている。
放っておくと、高い絨毯やカーペットの模様が薄くなる。
俺のベッドも毛が一杯だ。
ダンディ石神としては、カッチョいいスーツにロボの毛がべっとり、というわけには行かない。
毎回スーツを脱ぐたびに、丁寧にブラシやハンディ・クリーナーで毛を取る。
夏場はパンツ一枚の格好でやる。
カッチョ悪い。
ブラシを探した。
固くなく、ロボが気持ち良くなるようなもので、しかも毛をしっかり取る。
幾つか買って試し、いいものが見つかった。
ただ、ロボは俺にしかブラッシングをさせないので、俺の毎夜の日課になった。
面白いように毛が取れる。
毎日ブラシの毛を取り、清潔を保つ。
可愛いロボと、俺のダンディズムのためだ。
ブラッシングの間、ロボは大人しく、よく喉をゴロゴロ鳴らす。
物凄く愛おしい。
取れた毛まで愛おしい。
丁度アクリルの五面体があった。
双子悪魔にジャコメッティをへし折られてから、塑像用に幾つか買った。
50センチ角で深さが70センチのものが余っていた。
何となく、その中にロボの毛を入れ、時々丸めるようになった。
ロボの毛玉が、徐々に大きくなっていく。
カワイイ。
ブラッシングを始めてから、ロボは毛玉のウンチをしなくなった。
健康面でも良さそうだった。
「あ! これ何ですか?」
ある日、俺の部屋の掃除をしていた亜紀ちゃんが見つけた。
「ああ、ロボの毛を集めて丸めたんだよ」
「ええ! 面白いじゃないですか!」
亜紀ちゃんのスイッチが入った。
それから、俺のスーツの毛取りをやりたがり、掃除機のゴミを毎回亜紀ちゃんが出し、ロボの毛を選り分けるようになった。
本来は面倒な作業だが、亜紀ちゃんは嬉々としてやっていた。
食事の時。
「タカさん、うちの掃除機のゴミって、ほとんどロボの毛なんですよ。知ってました?」
「ああ、その他はハーのウンコだろ?」
「してないよ!」
「量が量ですからねぇ」
「困ったもんだ」
「だから、してないって!」
「おい、ちゃんとトイレでやってくれな」
「もう、してないってば!」
亜紀ちゃんの趣味が出来た。
集めては俺の部屋のアクリルケースに入れていく。
俺もますます面白くなって、ブラッシンクの毛を集め、中に入れていく。
時々丸めていく。
一か月も経つと、ケースが一杯になった。
亜紀ちゃんと二人で眺めた。
「溜まりましたねー」
「そうだよなぁ」
「なんかカワイイですよねー」
「まったくだ」
ハンディ・クリーナーはロボの毛専用になり、亜紀ちゃんが毎日俺のベッドを中心に集めるようになった。
時々、俺のヘンな毛も吸い込んだ。
「ニャハハハハ」
「……」
亜紀ちゃんが別なケースに集めようとしたので、やめてくれと言った。
俺は「ロボの毛」問題から解放され、助かった。
ロボの毛のために、90センチ角のアクリルケースを新たに買った。
また二人で一生懸命に溜めて行った。
亜紀ちゃんが、早く毛が伸びるように、ロボにワカメを喰わそうとしたので、やめろと言った。
密かに増毛剤を掛けようとしたので、引っぱたいた。
「タカさん、羊って年に一度丸刈りするんですって」
「……」
「ねぇ、タカさん!」
「絶対やめてやれ」
亜紀ちゃんはロボの毛に夢中だった。
新しいアクリルケースにも、ロボの毛が一杯になった。
「タカさん、溜まりましたねー」
「そうですねー」
二人でよく眺めた。
「これ、何かに使えませんかね?」
「そうだよなぁ」
「このままでもいいですけどね」
「でもなんかしたいよな」
二人で考えた。
亜紀ちゃんがフワフワのロボの毛を押して楽しんでいる。
「エヘヘヘヘ」
嬉しそうに笑っている。
ちょっとコワイ。
俺と亜紀ちゃんはしょっちゅう毛玉を眺め、何をしようか話し合った。
「これ、ロボがもう一匹できますよ」
「面白いけど、毛をノリとかでくっつけないとなぁ」
「ああ、このフワフワ感がなくなっちゃいますね」
「単純だけど、クッションかなぁ」
「そうですねぇ」
結局、枕を作ってみることになった。
「失敗だったらやり直せますもんね!」
「そうだな!」
洋品店の武市に相談した。
「あ! トラさん!」
相談すると、二つ返事で引き受けてくれた。
「お前、毛を一本でも無駄にしたらカチ込むからな!」
「え?」
「ダンプでお前の店に突っ込むぞ」
「が、頑張ります!」
白いビロードで、品のいい枕が出来た。
亜紀ちゃんと大興奮で喜んだ。
「素敵ですね!」
「そうですね!」
二人で枕を抱き締め合い、そっと投げ合った。
「タカさん! そっとですよ、そっと!」
「わ、分かってるって!」
俺は1メートル先の亜紀ちゃんにそーっと投げた。
亜紀ちゃんが両手でぽふっと受け止める。
「緊張しました!」
「ほんとにな!」
「「ニャハハハハハハ!」」
皇紀と双子がジトっとした目で見ていた。
「じゃあ、俺が最初な!」
「しょうがないですね!」
俺はロボの毛の枕を抱いて部屋に行こうとした。
「タカさん!」
「な、なんだよ! 渡さないぞ!」
「まさかと思いますが、オチンチンはダメですよ!」
「……」
「なんで黙ってるんですか! あ! やる気でしたね!」
「分かったよ! やらないよ!」
「もう!」
俺はロボの毛枕を使ってみた。
ものすごくいい。
ロボが匂いを嗅いでいたが、気に入ったようだ。
枕に顔をスリスリしていた。
「俺んだからな」
「にゃー」
翌日、亜紀ちゃんが使い、幸せそうな顔で翌朝起きて来た。
「いいだろ、アレ!」
「最高でしたよ!」
「「ワハハハハハハ!」」
「枕をもう一つと、次はお布団ですかね!」
「お! いいな、それ!」
「「ワハハハハハハ!」」
俺と亜紀ちゃんの夢は尽きない。
「にゃー」
1
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

後宮の才筆女官
たちばな立花
キャラ文芸
後宮の女官である紅花(フォンファ)は、仕事の傍ら小説を書いている。
最近世間を賑わせている『帝子雲嵐伝』の作者だ。
それが皇帝と第六皇子雲嵐(うんらん)にバレてしまう。
執筆活動を許す代わりに命ぜられたのは、後宮妃に扮し第六皇子の手伝いをすることだった!!
第六皇子は後宮内の事件を調査しているところで――!?


だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる