上 下
659 / 2,840

「紅六花」ビル Ⅳ

しおりを挟む
 夕べは夕方の5時から夜の12時まで、7時間も飲んだ。
 しかし、終始楽しかったので朝は爽快に目覚めた。
 7時だ。
 顔を洗い、ロボを抱いて下に降りた。
 ロボのご飯を作ろうと思った。

 「おはようございます、石神さん!」
 小鉄が挨拶してきた。

 「おう、おはよう! 早いな」
 「石神さんこそ。朝食ですか?」
 「いや、ロボの食事を作らせてもらおうと思ってな」
 「すぐにご用意しますよ。座っててください!」
 「悪いな。持って来たササミを焼いてくれ」
 「分かりました!」
 俺の分のコーヒーも頼んだ。
 ロボの食事は、厨房で預かってもらっている。
 俺がロボとじゃれていると、小鉄がササミをロボの皿に入れて持って来た。
 俺は床に置いてくれと言った。

 「石神さん、昨日の風呂のことはどうか!」
 「アハハハ! 分かってるよ、誰にも言わないよ」
 「助かります!」

 「ところでお前らよ」
 「結婚しませんって!」
 「アハハハ!」




 二階から、大勢の人間が降りて来る。
 どうやら潰れた連中は二階に運ばれたらしい。

 「おら! じゃあ片付けっぞ!」
 よしこの声が聞こえた。

 「よう!」
 「石神さん! おはようございます!」
 全員が俺に挨拶する。
 俺も片づけを手伝う。

 「石神さん! どうか座ってて下さい!」
 「いや、お前が俺にやれって言ったじゃん」
 「か、勘弁してください!」
 俺は笑ってテーブルやイスを片付けた。
 終わって、よしこたちと一緒に座った。
 小鉄が、モーニングのようなセットを全員に配る。

 「俺にも貰えるかな?」
 「はい!」
 ロボは毛づくろいを終え、俺が隣にくっつけて置いたイスに乗り、俺の足に半身を乗せてきた。
 俺はバターを塗ったローストにジャムを乗せて食べた。
 サラダとハムエッグもついている。
 食べ終わると、みんな口々に夕べは楽しかったと言って帰って行った。
 小鉄が掃除を始める。
 俺も手伝おうかと思ったが、これ以上は小鉄が遠慮するだろう。



 俺は八階に戻り、寝ている六花の隣に横になった。
 ロボが甘えて俺の上に乗って来る。
 遊んで欲しいのだ。
 俺は布団の中で、手をモコモコする。
 盛り上がって動くのをロボが見て、ハンティング・モードに入った。
 しばらく遊んでいると、六花が目を覚ました。
 興奮したロボが、六花の顔にネコキックをする。

 「てめぇ!」

 ロボがベッドの端まで逃げる。
 追いかけて来いと誘っている。

 「そこにいろよ!」
 六花がベッドの上を走って行く。
 ロボが逃げ回り、六花は捕まえて抱き締めた。

 「顔を洗って来いよ」
 「一緒にお風呂に入りませんか?」
 「贅沢だなぁ」
 「いいじゃありませんか」

 俺たちは風呂に入った。

 「今日は何をしようか」
 「タケたちも仕事ですしね」
 「大みそかまでやるって頑張ってるな」
 「そーですね」




 風呂から上がり、下に降りると小鉄がタケに叱られていた。

 「石神さんの朝食にはヨーグルトを出すって言ってたじゃない!」
 「ごめんなさい」
 「おい、タケ!」
 「石神さん!」

 「悪かったな。小鉄には後でもう一度食べるからって言ったんだ。あのヨーグルトか! 楽しみだ」
 「もう、石神さん」
 俺は六花とテーブルに着いた。
 あのモーニングのセットにヨーグルトがついて出てきた。
 
 「石神さん、大丈夫ですか?」
 持って来た小鉄が小声で言う。

 「ああ、全然問題ないよ。どうせもう一度喰いたいって思ってたんだ」
 「ありがとうございます」
 六花はパンを3枚お替りした。





 食事の後、俺と六花は散歩に出た。
 俺は着物に着替えた。
 月に虎が吼えている柄だ。
 六花が見た途端に抱き着いて来た。

 「ずっとこの着物でいましょうよ!」
 「アハハハ」
 めんどくさいので、後で着替える。

 歩いていると、みんなに注目される。
 六花の美しさもあるのだが、俺の着物も目立っているようだ。
 ヒロミの店は11時からとのことなので、俺たちは適当に歩いた。

 「そうだ、紫苑とよく行ったって場所はまだあるのか?」
 「行ってみましょうか!」
 六花が嬉しそうに笑った。
 少し歩くとのことだったが、構わないと俺は言った。
 林を通る道に入り、俺たちは話しながら歩いた。
 少しずつ、六花の口数が減って行った。

 突然、六花が走り出した。

 止まった場所に、柵が囲ってあった。
 六花は呆然としている。

 「石神先生、誰かの土地になっちゃったようです」
 泣きそうな顔で言った。
 前から誰かのものだったのだろうが、何かの目的が出来たようだ。
 この六花の思い出の土地は、じきに喪われる。
 俺は六花を抱き寄せた。



 立札があった。
 六花は俺の肩に顔を押し付けているので、俺が読んだ。


 《「紅六花」最重要地。立ち入り禁止》


 「六花、読んでみろよ」
 六花は俺から顔を離し、俺が指さす立札を読んだ。




 「アァァァァァーーーーー!」

 六花が叫んだ。
 大声で六花が泣いた。
 俺たちは柵を乗り越え、六花と紫苑が座った倒木に近づいた。
 壊すかもしれないので、俺たちは立って眺めた。

 「お前は、ここに紫苑を連れて来てやったんだな」

 六花は、泣きながら頷いた。

 「お前の仲間が、ここを残してくれたんだな」

 六花は俺の胸に顔を埋めて泣いた。




 俺はその背中を抱き締めた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。  彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。  そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!  彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。  離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。  香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...