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千万組、その未来

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 子どもたちを送り出し、響子のクリスマスパーティをした夜。
 俺は栞とアヴェンタドールで家に帰った。
 ガレージにアヴェンタドールを入れた。

 「送ってくれてありがとう」
 「家で飯をくってけよ」
 「うん!」

 玄関を開けると、ロボが待っていた。
 いつもなら子どもたちがいる時間に、誰もいないためだ。
 俺に飛び込んでくる。
 俺は抱き上げて、階段を上った。
 栞もついてくる。

 「あんまり凝ったものはできないけど」
 「いいよ、石神くんも疲れてるでしょ?」
 今朝は早朝から子どもたちを送っている。
 ご飯は炊いているので、俺は刺身を切り、なめこの味噌汁を作った。
 合間に手早く鶏モモの香草焼きをオーブンで作る。
 肉はスライスしたので、短い時間で済む。
 冷やしておいた、クリュッグのロゼを出した。

 二人で乾杯し、ゆっくりと食べた。




 「もう亜紀ちゃんたちはニューヨークね」
 「でかい鳥とかに襲われてなきゃな」
 「アハハハハ」
 メールで既に確認している。

 「いつもと違うね」
 「そうだな」
 静かだ。
 あいつらがいないと、こんなに静かだったのか。

 「今日は泊って行けよ」
 「え、うん」
 一緒に風呂に入った。
 亜紀ちゃんにするように、俺は栞の背中を流し、長い髪を洗った。
 湯船に入る。

 「石神くん、寂しいんでしょう?」
 「うん」
 「アハハハ」

 「俺は20年も独りだったのにな」
 「そうね」
 「それが今じゃ、あいつらが俺の一部になってやがった」
 「ウフフフ」

 「毎日亜紀ちゃんと一緒に風呂に入るのも、当たり前になっちまった」
 「そうね」
 「亜紀ちゃんは、こんなに浮いてないけどな」
 俺は栞の胸を指でつついた。

 「アハハハハ!」

 キスをした。




 「よーし、じゃあ玄関から始めるぞー!」
 「ちょっと、石神くん!」

 俺と栞は全裸で玄関で愛し合った。
 栞を抱えて、入れたままで家を回る。
 階段を駆け上がる。
 ロボもついてくる。

 「ちょっと、深いって!」
 「ガハハハハ!」

 栞は俺にしがみついた。
 痙攣している。

 「みんなのリヴィングだぁー!」
 俺は栞をテーブルに乗せ、ガンガン攻めた。

 「もう! ほんとにダメだからぁー!」

 散々遊んだ。
 ぐったりした栞をベッドに横たえた。

 「死ぬかと思った」
 「悪かったな」
 「いいの」

 俺たちは手を繋いで寝た。
 ロボは俺の枕の上でスヤスヤと寝ていた。




 翌日は鷹を呼んだ。
 二人で食事を作り、栞と同じように繋がったままで家中を歩いた。
 久しぶりに緑子を呼ぼうとしたが、忙しいと断られた。
 その晩はロボと過ごした。

 ロボは昼間独りでいる。
 食事はタイマーで出るものを買っているが、カリカリだけだ。
 夕飯はなるべく豪勢なものをやっていた。

 「ロボ、寂しいか?」
 ロボは焼いた伊勢海老を食べながら、俺の顔を見た。

 「そりゃ、寂しいよな」
 俺が頭を撫でると、ゴロゴロ喉を鳴らしながら伊勢海老を食べた。
 風呂に入り、酒を飲んだ。
 ロボには水で付き合わせた。
 俺はロボに子どもたちのどこがカワイイのかを話して聞かせた。
 ロボはじっと、俺の顔を見つめていた。

 「あいつら元気にやってるかな」

 マフィアの屋敷を襲っていた。



 12月28日。
 俺はロボを乗せ、六花を迎えに行った。
 荷物が多いので、ハマーだ。
 マンションの前で六花は待っていた。

 「石神先生!」
 「おう!」

 六花の荷物を後ろの荷台に上げ、俺たちは出発した。
 六花は時々俺を見てニコニコしている。

 「楽しいな!」
 「そうですね!」

 俺たちは互いをニコニコして見た。
 後ろのシートにいたロボが、六花の膝に乗る。
 でかいネコなので、膝の上で丸まっている。
 後ろの方が伸び伸びと出来るのだが、そこがいいらしい。

 「ロボー」
 六花が嬉しそうにロボの身体を撫でていた。
 今日は千両の家に寄って、蓮花の研究所に行く。
 研究所には二泊する予定だ。

 「千両さんって、千万連合のトップですよね」
 「まあ、今は俺だけどなぁ」
 「何か注意した方がいいことってありますか?」
 「別に。お前の場合、ニコニコしてれば最高だ」
 「ウフフフ」

 「俺の女って分かってるから、滅多なことも無いだろうしな」
 「そうですか」
 「食事は期待していいぞ」
 「はい!」




 千両の屋敷では、また大勢の幹部に出迎えられた。
 俺のリムジン仕様のハマーを見て、みんな驚く。
 そして助手席から降りた六花を見て、更に驚いていた。
 ロボは無視された。

 千両と桜が出迎え、俺はロボを抱き上げて、座敷へ案内された。
 六花がロボのカバンを持っている。
 ロボの食事用の皿と、トイレだ。
 座敷には誰もいない。
 安心した。

 俺と六花、そして脇に千両と桜の膳がある。
 見ると、俺の脇に皿が置いてある。

 「これはネコ用か?」
 「はい。石神さんのお傍が良いかと」
 桜が答えた。

 「ありがとうな。でも、うちから持って来たんだ。器が変わると食べないんでな」
 「そうですか」
 桜が皿をどけた。
 俺は伊万里焼の大皿を置く。

 「!」

 300万円する。
 桜の前に、ロボのトイレを置いた。

 「……」




 膳には白米、汁物、天ぷらと漬物しかない。
 すると、でかいまな板が出て来て、俺の前に鯛を持った料理人が座った。
 目の前で素晴らしい動作で鯛を捌いていく。
 六花が目を瞠ってそれを見ていた。
 俺と六花、そしてロボに、刺身が置かれた。
 ロボは夢中で食べる。

 俺たちも刺身を口にした。
 美味い。

 「石神さん、どうぞ」
 桜が酒を注ぎに来た。

 「車の運転があるから、今日はいいよ」
 「いえ、私が運転いたしますので」
 有難かったが、研究所はまだ桜にも見せたくない。

 「悪いがな、今日は俺が運転しなければならないんだ」
 「分かりました」
 「六花には飲ませてくれ。あとお前たちも飲め」
 「石神先生、私も結構です」
 「遠慮するなよ」
 「いいえ。食べる方が」
 俺は笑って、六花も飲まないと言った。
 食事をしていると、目の前にコンロが置かれ、松茸を焼き始めた。
 国産のいいものだ。
 部屋に香りが満ちる。

 六花は、口に頬張りながら見ている。
 ロボも見ていた。

 「猫様は召し上がりますかね?」
 「匂いだけ嗅がせてやってくれ。それで満足する」
 「はい」

 桜が箸でつまみ、ロボの顔の前に松茸を寄せた。
 ロボはひとしきり確認し、顔をそむけた。
 桜は笑いながら、下げた。





 「お前たちのところで、鉄筋の施工が出来る人間はいるか?」
 「はい、腕のいい連中がいます」
 「仕事の予定次第だが、うちの敷地を拡げることになってな」
 「そうですか! おめでとうございます」
 「俺も宛が無いわけじゃないんだが、お前たちが可能なら任せたいんだ」
 「分かりました」

 「おい」
 「はい」
 「予定を変えるなよ!」
 「はい」
 「お前、変えるつもりだろう?」
 「はい」

 「ばかやろう」
 「アハハハハ」

 「寝泊りする場所は俺が用意する。一応解体からだ」
 「はい、分かりました」

 土建屋との繋がりはあるはずだ。
 千万組であれば、信頼できる人間を寄越すだろう。
 六花も満足したようだ。




 「千両!」
 「はい」
 「いい食事だった。礼を言う」
 「ありがとうございます」

 俺と六花が立ち、桜がロボのトイレを持った。
 使ってはいないが。
 ロボの皿は洗って返してもらっている。
 また大勢の組員に見送られた。

 「おい、桜」
 「はい!」
 「次は女体盛が喰いたい」
 「はっ!」

 「冗談だぞ!」
 「は、はい!」
 六花が笑った。

 「また酒を飲もう」
 「はい! よろこんで!」

 「良い人たちでしたね」
 「そうか」
  
 「あの人たちも戦うんですか?」
 「そうなるだろうな」
 「死なないで欲しいです」
 「そうだな」


 俺も、そうは思う。
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