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I ♡ NY Ⅴ

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 聖は、翌日は休日にすると言った。
 でも、マンションには時間通りに来い、と。
 どういうことか、考える力は無かった。

 聖はロックハートの屋敷の前に車を停め、門番に三人の身体を投げ出して去った。
 三人とも、酷い外見の上、気を喪っていた。
 「静江」から、どのような姿で帰っても気にしないように命じられていた。
 門番はレイチェル・コシノに連絡し、担架の準備を要請した。
 レイは三人を「フロ」に運んでもらい、自ら服を脱がせて洗い場に運んだ。
 三人が目を覚ました。

 「ルー、ハー、生きてるかー」
 「ハーは死んだよー」
 「死んでないもん」
 しかし、何とか自分で身体を洗い、湯船に入ると復活していた。
 レイは「フロ」の偉大さを実感した。



 「ヒジリさんって、どういう方なんですか?」
 「んー、鬼?」
 「ウンコカス」
 「オナラ、臭いよねー!」
 度々、ロールスロイスの中でやられた。

 「でも、あんなに強いあなたたちが、ここまで」
 「あー、タカさんの親友だからね」
 「一緒に戦場回ったんだって」
 「タカさんも、聖が天才だって言ってた」

 「そうなんですか」
 「前から強い人だとは思ってたんですけど、まさかあそこまでとは」
 「あったまくんだけど、あの強さは本物だわ」
 「バカだけどね」

 「「「そうそう!」」」

 レイはおかしくなって笑った。

 「じゃあ、私も訓練してもらおうかな」
 「「「やめとけ!」」」
 「……」




 風呂に入っているうちに、三人の腫れ上がった身体も、黒くなっていた痣も消えていた。
 レイは、そういうものだと受け入れざるを得なかった。

 「でも、明日は休みなのに来いってなんだろうね?」
 「嫌がらせだよー」
 「意地悪だよー」
 「そうかなー」
 亜紀は、聖が時折見せる優しさを知っていた。
 石神の、それに似ている気がした。

 食事はフレンチとステーキだった。
 四人にステーキが欠かせないと、ロックハートの人間は学んでいた。
 レイだけは、一緒に昼食を摂る時に、皇紀が普通より少し多めにしか食べないことを知っている。
 別にステーキが無くても良い。
 しかし、三姉妹と一緒になった途端、皇紀も旺盛にステーキを食べる。
 面白かった。
 この四人は、強い絆で結ばれている、最高の兄弟だ。
 レイは、そう感じていた。
 今日はアルジャーノンも静江も一緒に食べている。
 二人は笑いながら、石神の子どもたちを見ていた。

 食事を終え、子どもたちが片づけを手伝うと言った。

 「いや、君たちはお客さんなんだからね」
 アルジャーノンが驚いて言った。

 「やらせて下さい。昨日はヘトヘトで出来ませんでしたから、今日こそは」
 「いや、亜紀ちゃん、大丈夫だよ」
 「いいえ。タカさんから、美味しいものをご馳走になったら、必ず報いろと言われています。みなさん! こんなに美味しいものをありがとうございました!」
 「「「ありがとうございました!」」」
 メイドたちから拍手が起こった。

 「そうだな。君たちはあのイシガミの子どもたちだものね」
 アルジャーノンは亜紀たちの望みを聞き入れた。
 食器を運び、皿や調理器具を磨き上げたように丁寧に洗う子どもたち。
 しかも早い。
 ほとんど四人で片付けてしまった。
 厨房の床まで磨いていく。
 ロックハートの使用人たちは、この四人の日本人を大歓迎し、大好きになった。

 翌朝から、ベッドメイクも部屋の掃除すらやり始めた。
 掃除用具を借りに来た双子に、掃除係が驚いた。

 「すみません。時間がなくて自分たちの部屋しか掃除できなくて」
 亜紀がそう言ったと、使用人たちに広まった。
 静江が亜紀たちの評判が凄いとの報告を受け、微笑んだ。

 「あの子たちは、何よりも食べるのが好きです。美味しいものを作ってあげて下さい」
 厨房の人間に伝えられ、他の使用人にも伝わった。
 全員が、石神家の四人をもっともてなさねばと思った。




 亜紀たちが聖のマンションに着くと、また共用応接スペースで待つように言われた。
 いい服を着て来いと言われ、三人はそれなりの服装で来た。

 「じゃあ、行くぞ!」
 聖は歩いてマンションを出た。
 聖は黒のズボンに、黒の革のジャケットを着ていた。
 黒のタートルネックだ。
 三人は後ろを着いていく。

 「聖さん、今日はどちらへ?」
 「ああ、お前らニューヨークは初めてだろ? 俺が案内してやるよ」
 「「「!」」」
 「なんだよ、ヘンな顔しやがって」
 「聖さんって、「心」があったんですね」

 「あんだと!」

 「今日はどんな罠があるのかって思ってました」
 「ふざけんな!」

 双子が言うのを、亜紀は笑って聞いていた。

 

 「おい、ここで気に入ったのがあったら買ってやるぞ」
 ティファニーだった。
 入り口の警備員が、聖に丁寧に挨拶する。
 何度も来ているのだろう。
 しかも、たくさん買っているのだろう。
 店内で、四人は見て回る。
 気後れはしていない。
 高級店には、日本で石神に何度も連れられている。

 「ミスター・セイント」
 店長と思しき人間が、聖に挨拶していた。
 三人は、別に興味も無いので、聖に出ようと言った。

 「なんだよ、お前らほんとに喰うことしかねぇのな」
 「「「アハハハハ!」」」




 聖は建物や公園を案内し、レストランへ向かった。
 イタリア料理だ。

 「とにかく「肉」だ。どんどん焼いて来い。俺がいいと言うまでな!」
 そんなオーダーだった。
 次々に、様々な肉料理がテーブルに運ばれた。
 三人が悪魔のように食べていく。
 最初は笑っていた店の人間も、次第に引き攣って行く。

 「もういいよー」
 店の人間が青ざめた頃、ハーがそう言った。
 デザートも喰い散らかし、店を出た。

 「聖さん、ご馳走さまでした!」
 「「ご馳走さまでした!」」
 「ああ、いいよ。腹いっぱいになったか?」
 「「「はい!」」」
 「じゃあ、ちょっと運動していくか」
 「「「え?」」」




 聖は広大な屋敷に三人を案内した。

 「お前ら、この屋敷の人間を全員のして来い。ああ、殺すなよ? 気絶させるか、戦闘意欲を喪失させればいいからな。全員を中庭に集めたら終了だ」
 「聖さん! ここって誰の住まいなんですか!」
 「あ? ああ、マフィアのボス。ジャンニーニ一家とかいったな」
 「ダメですよ! いくらマフィアだって犯罪になります」
 「大丈夫だよ。あいつらとは、時々こういうことをするって話になってっから」
 「ほんとですか?」

 大きなバンが来た。
 助手席の人間が、包を聖に渡す。

 「ああ、これに着替えろ。そのいい服、トラに買ってもらったんだろ?」
 四人はバンの中で着替えた。
 タイガーストライプのコンバットスーツだった。
 覆面もあった。

 「聖さん」
 「あんだよ」
 「なんで顔を隠すんですか?」
 「だって、見られたらまずいだろう」
 「……」

 亜紀は諦めた。
 まあ、最近やられっぱなしだったので、暴れてみたい。
 双子には、まったく躊躇はなかった。
 三人は塀を飛び越えて中に入った。
 外で待っている聖は、銃声が始まったことに笑顔になった。




 「襲撃だぁ!」
 「どこのどいつだぁ!?」
 「タイガーストライプのコンバットスーツ! セイントです!」
 「またあの会社の連中かぁ!」
 「ふざけやがって、何度襲ってくるのか!」
 「今日こそぶっ殺せ!」

 「一階はすでにやられました!」
 「二階も半数が!」
 「ジャンニーニさん! 逃げて下さい!」

 15分ほどで片付いた。
 全員を中庭に座らせた。
 両手を上げさせる。
 聖が屋敷に入って来た。

 「ジャンニーニ、今日も悪かったな」
 「セイントぉ!」

 「ん? お前らなんだ、それ」
 双子が剥製のシカや何かのヘッドを持っている。

 「これもらってもいいでしょ?」
 「ああ、構わんぞ。いいよな、ジャンニーニ?」
 「……」
 四人で肩を組み、大声で笑いながら、門に向かった。
 門が閉まっていたので、亜紀が蹴り倒した。

 「ジャンニーニさん、あれ、普通に開きますよね」
 「……」




 出掛けた時とは違う、コンバットスーツで帰って来た三人に驚いたが、門番は笑って中へ入れた。
 今日は怪我もなく、笑って帰って来たのが嬉しかった。
 レイも無事に戻った三人に安心した。

 「ルーちゃん、ハーちゃん、その動物って?」
 「ジャンニーニさんとこでもらったの!」
 「ジャンニーニさん?」
 「遊んでもらっちゃった!」
 「ふーん、良かったね」
 「「うん!」」




 三人は『人生劇場』を歌いながら、風呂場へ向かった。
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