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Ⅰ♡ NY Ⅲ

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 亜紀たち三人は、聖の運転するロールスロイスの「シルヴァー・セラフ(銀の熾天使)」で、郊外に立つ大きなビルに連れて行かれた。
 聖のマンションから20分ほどだ。
 10メートルの高さの塀に覆われている。
 門番は、聖の車を見て、すぐに門を開けた。
 頑丈な太い鋼鉄の円柱で作られた門だった。

 聖は正面玄関に車を停め、キーを受付に渡す。

 「おい、第三トレーニング場を空けとけ」
 「はい、社長」
 建物の中でどこかへ電話した後、聖は玄関を出て、歩き出す。

 「聖、ここどこ?」
 「俺の会社」
 「「「え!」」」
 「何の会社?」
 門にもどこにも、会社名は無かった。

 「Saint PMC Co.Ltd」
 「「「ん?」」」
 「セイント民間軍事会社(株)だ」

 「民間軍事会社って?」
 「傭兵派遣会社だ。お前ら、こないだフランス外人部隊とやりあったろ? あれの株式会社版だ」
 「「「えぇー!」」」
 「うちは主に石油会社からのオファーが多いけどな。まあ、金さえもらえりゃ何でもやる」

 歩きながら聖が話した。

 「トラが日本に帰って、最初は俺のワンマンアーミーだったけどよ。トラにいろいろ教わって、こうやって会社にしたんだ。儲かるし、俺も自由に戦場に立てるしなぁ。トラには本当に感謝してんだ」
 「「「!」」」
 「初めの頃はさ、トラも手伝ってくれたんだよ。あいつってホントにいい奴じゃん。一緒に中東の荒事やったりなぁ。楽しかったなぁ」
 「「「ソウナンデスカ」」」

 「ああ! あいつの夏休みとか冬休みとかでさ。だから俺ら、「バカンス・ソルジャー」なんて呼ばれたこともあったっけ」

 「あいつがどんな敵にも突っ込んでいくじゃない。俺が支援サポートでさ。いっつも撃破すんだよな」
 「「「ソウナンデスカ」」」

 「まあ、ここだけの話。あいつの鬼っぷりって、ちょっと流石の俺も敵わないよな。だって、至近距離で幾つものマシンガンで撃たれたって、全部かわしちゃうんだぜ? 数秒後には全員ガンかナイフでおっ死んでる」
 「「「ソウナンデスカ」」」

 「でもさ、あいつも俺の支援サポートを信頼してくれてさ! あいつはホント、いい奴なんだ。知ってる?」
 「まあ、多分」
 「最高だぜ、トラ! あんないい奴はいないよ。俺ってシアワセ!」
 「「「あはははは」」」




 聖は、高い壁に囲われた広い敷地に三人を案内した。

 「ここは普段砲撃訓練をしてるんだ。今は誰もいねぇから、お前らも思い切りぶっ放していいぜ?」
 三人は呆然としている。

 「じゃあ、やろうか! かかって来い!」
 聖が言った。




 最初は亜紀が向かった。
 猛スピードで聖に襲い掛かる。
 しかし、聖は正面から受けず、常に側面に回り込み、亜紀を殴打する。
 「花岡」のスピードを使っても、何故か聖は横へ回り込んだ。
 徐々に亜紀の左右が痛み、腫れ上がって行く。
 足を払われて、地面に叩きつけられた。
 その瞬間、顔の脇に重いブローが突き刺さる。
 頭骨を粉砕する威力があった。

 「はい! お前死んだな」

 「おい、チビブサイクAB!」
 ルーは迷わず「虚震花」を放った。
 その間にハーが横から聖に回り込む。
 聖が避けることは前回の経験で分かっていた。
 ハーはそこを襲うつもりだ。
 聖の右腕が動いた。

 「!」
 巨大な「虚震花」を感じ、逃げたのはルーの方だった。
 単身で突っ込んできたハーが聖に簡単に撃破された。
 地面が爆発し、土煙が上がる。
 飛んでくる土や石を手で防いだ瞬間、ルーは側頭部にハイキックを喰らって吹っ飛んだ。

 「聖さん! 「花岡」が使えるんですね!」
 「ハナオカ? ああ、お前らが使ってた奇妙な技か! まあな」
 「タカさんに教わったんですか?」
 「え、別に。だって、俺お前らの見てんじゃん」

 「「「!」」」

 「ああ、ビッグブサイク」
 「亜紀です! それとビッグはちょっと」
 「お前、こんなこともできんだろ?」
 聖は両手を頭の上で重ね、左右に開いた。

 「なんでぇー!」
 「「トールハンマー!」」

 小規模だが、200メートル先で拡がった雷光が地面に突き刺さる。
 広範囲に地面が大きく抉れ、一部は赤く焼け溶けていた。

 「他にもあるんだろうけどよ。俺、あんまし興味ないからな。トラはもっとスゴイことやりそうだけどなぁ」
 「なんで出来るんですか!」
 「そりゃ、俺とトラが天才だからだよ」
 「そんな!」

 「ビッグブサイクもそこそこやるけどな。まあ、トラが信頼するわけだ。ミニブサイク共はまだまだな。姑息なことを考えすぎんだよ。上手くやってやろうってなぁ。だから本当の鍛錬が足りてねぇ」
 「「「はい!」」」

 「こないだ死に掛けたってぇ? まあ、いい経験したな」
 「「「はい!」」」
 「じゃあ、今日は後10セットやるか! 生き延びろよ、お前ら」
 「「「はい!」」」



 三人はボコボコにやられた。
 生きてて良かったと思った。



 「亜紀ちゃん! ルーちゃんもハーちゃんも!」
 ロックハートの屋敷に帰った三人を見て、レイが驚いた。

 「襲撃なの!」
 「アハハ、違うんです、レイ。ちょっと訓練をしてきて」
 「やり過ぎよ!」
 「大丈夫ですよ。一晩寝たら治りますって」
 亜紀ちゃんがそう答えるが、双子は半分意識がない。
 しかし、シャワーを浴び、夕飯の頃には、いつもの旺盛な食欲を見せた。

 「レイ、私たちしばらく昼食はいらない。毎日訓練するからね」
 「わかりました」

 三人はすぐに寝た。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「トラ」
 「おう! 聖か」
 「やっといたぜ」
 「ありがとうな」

 「お前に言われた通り、一応ボコっといたけどよ。俺、あんまし弱い者いじめは嫌だなぁ」
 「アハハハ! 亜紀ちゃんたちが弱いってか」
 「ガキにしてはなかなかやるよ。時に姉ちゃんの方はな。化け物みたいに強い」
 「でもお前には敵わないんだろ?」
 「そりゃそうだよ。俺はプロだからな」
 「そうか」

 「おい、このままやってもいいのか?」
 「頼む。あいつらの希望通りに鍛え上げてくれ」
 「それとさ、お金もらい過ぎだよ。どこに返せばいい?」
 「いらないよ。あいつらが出した値段だ。お前にもらって欲しい」
 「困ったなぁ」
 「奥さんになんか買ってやれよ」

 「あ、そうか! トラってやっぱ頭いいな!」
 「いや、お前には散々世話になったしな」
 「何言ってんだよ! それは俺だって!」
 「アハハハ! じゃあ、何日か頼むぞ」

 「おう! 任せろ!」
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