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響子のクリスマス

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 クリスマスの話を聞いて、響子と六花がニコニコしていた。

 「いいお話だった!」
 「そうかよ」
 「いいクリスマスですね!」
 「豪華さの欠片もないクリスマスだったけどな。俺にとっては忘れられない思い出だ」
 「そうですね」
 「俺は南が一緒にいてくれて、寂しい思いをしないで済んだ。今も感謝してるんだ」
 響子が俺に抱き着いて来る。
 膝に乗せて、背中を撫でてやった。
 まだ少し体温が高い。

 「その後は、その南さんとは?」
 「ああ、何度も一緒に遊んでな。お互い共働きが分かってたから、家に行ったりもしてな」
 「ヤリましたか!」
 「やってねぇよ!」
 やった。



 「真面目で勉強が出来るやつでなぁ。いつもトップクラスだった」
 「へぇ」
 「でも、中学二年になる前に引っ越していったな」
 「そうなんですか」
 「まあ、数少ない女友達だったなぁ。本当にいい奴だった」

 「その後は?」
 「たまに手紙で遣り取りしてたな。まあ、俺もいろいろあって、そのうちにそういうことも無くなったけど」
 「そうなんですか」
 「ああ、でも今は知ってるぞ」
 「?」

 「南は作家になったようだ。直木賞もとった」
 「「えぇー!」」

 「「南虎」って名前だよ」
 「そうなの!」
 「そうなんですか!」
 「『虎は孤高に』って随分と話題になったぞ、知らないか?」
 「知りません」

 俺は六花の頭を撫でた。

 「主人公が貧しい家で、それでも頑張って医者になって行く話だな」
 「それって、タカトラ!」
 「ああ、俺の話したこととか、俺の喧嘩とかの話。なぜか高校時代の話なんかも知ってるみたいだ。レイの話なんかもあったよ」
 「じゃあ!」
 「アハハハ、やられたな。俺が書けば良かった」
 
 「その話って、最後はどうなるの?」
 「小学生の時に、一緒に一晩焚火で語り合う女の子がヒロインでな。紆余曲折の上で二人が結ばれるんだ」
 「タカトラのヨメは私!」
 「そして二号は私です」

 俺は笑った。

 「俺は自分の名前にもあるせいだけど、虎が大好きだからな。本屋で見掛けて、タイトルで買った。読んで驚いたけどな。すぐに、あの南だって分かった」
 「ご連絡はしないんですか?」
 「しないよ。今更、南だって困るだろうよ」
 「そうですかね」

 

 「おい、響子」
 「なーに?」

 「クリスマスにここで焚火なんかするなよ?」
 「え、う、うん」
 するつもりだったようだ。

 「ちっちゃいのもダメだぞ」
 「わ、分ってるよ」
 俺は響子のオモチャコーナーに行った。

 「このバケツに丸めた紙とか入れて燃やすなよ!」
 「なんで分かるのよー!」
 「お前を愛しているからだ」
 「エヘヘヘヘ」

 単純な奴で良かった。
 俺は仕事に戻った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 12月25日。
 俺は子どもたちを見送ってから、病院へ戻った。
 響子は午睡から目覚めて、年内最後の精密検査だと言われて連れ出された。
 俺は部下たちを何人か連れ、六花と一緒に響子の病室の飾りつけをする。
 でかいツリーを俺が部屋に運ぶ。
 飾りは全部付けてあるので、微調整した。
 部下たちは壁にモールなどを貼って行く。

 六花はケーキと料理を取りに行った。
 俺は台車で何往復かし、多くのプレゼントを部屋に運ぶ。
 途中でナースたちに冷やかされた。
 お前たちも顔を出してくれと頼んだ。
 六花が院長や栞や鷹を呼びに行く。
 俺は廊下で響子を待った。
 響子が車いすでやってきた。

 「タカトラ、検査だっていうのに、全部機械が壊れちゃってたの」
 「そうか、大変だったな」
 「身長と体重だけ」
 「そうだったか」

 「あ、みんな出かけたの?」
 「いや、ここにいるよ」

 響子の車いすを部屋に入れた。
 みんなでクラッカーを鳴らす。
 六花、栞、鷹、院長、俺の部下たちの他、ナースたちが次々と顔を出した。

 「メリークリスマス!」
 「え!」

 響子が驚いて立ち上がる。

 「響子、メリークリスマス!」

 響子が泣き出した。
 六花が駆け寄って抱き締めた。

 「みんなで待ってました。響子、一緒にお祝いしましょう」
 「うん」
 涙を流したまま、響子は頷いた。

 「タカトラ……」
 「さあ、今日は大食いのバカはいないからな。ゆっくり食べようや」
 「うん、ありがとう」

 響子を特別に入れたソファに座らせ、祝った。
 料理やケーキをみんなで食べた。
 院長の特別な許可で、シャンパンが振る舞われた。
 響子が六花に言われて、多くのプレゼントを開けていく。
 アビゲイルが、響子が跨げるほどのでかい虎のブロンズを送って来た。
 俺は、虎の顔の意匠の指輪だ。
 スワロフスキーで作ってもららった。
 今はまだ響子の親指だ。

 響子が六花のトランプを開いた。
 喜んだ。

 虎の顔が裏面にある。
 絵札は全て虎顔のジャック、クイーン、キングとジョーカーだった。
 もう一枚、俺の立ち姿の写真がある。
 ライダースーツで、背中の「六根清浄」が見える。

 「響子、このカードは最強です」
 「どういうこと?」
 「このカードを使えば、響子の宣言通りのことに出来るのです」
 「なにそれ!」
 「たとえば、ポーカーでは全部ロイヤルストレートフラッシュになります」
 「え!」
 「ブラックジャックなら、全部21です」
 「すごいね!」

 「そして、このカードは響子しか持てません」
 「やったぁー!」

 響子が最高に喜んだ。




 「石神、楽しいな」
 院長が笑って言った。

 「許可いただいて、ありがとうございました」
 「入院患者にこんなことはできん。でも響子ちゃんだしな。ここは他の患者もいないし」
 「何より、響子はカワイイですからね!」
 俺が大声で言うと、みんな笑った。

 院長も普段は見せない笑顔で楽しんでいた。




 院長が酒を飲めないことを知らない誰かが、シャンパンを飲ませた。
 院長は楽しみにしていたケーキを食べずに引っ繰り返った。
 しばらく、響子のベッドに寝かせて、一緒に楽しんだ。
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