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ロボ、覚醒

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 日曜日。
 俺は朝食の後、ロボを連れて庭に出た。
 これから変わるうちの敷地を、ロボと一緒に見て回りたかった。
 今でも十分に広いが、いろいろ見ていると子どもたちが来てから何かと手狭になってきたことに気付く。

 「ガレージも既に満杯だもんな」

 ガレージの方へ歩いていると、一匹のカナヘビがいた。
 薄茶の身体で恐竜のような顔をしている。
 小さくてちょっとカワイイ。
 ロボがじっと見ている。
 そのうち、身体を伏せてお尻を振って狙い出した。
 ハンティング・モードだ。
 すごくカワイイ。

 ロボが、尻尾を持ち上げる。

 「?」

 尻尾が二つに割れ、ロボの口から光が出た。

 「おい!」

 カナヘビが、黒焦げになった。

 「……」

 肉の焼ける臭いがする。

 「お前も「オロチ」と同じく、「吐く系」なの?」
 ロボがカナヘビを咥えて俺の前に置く。

 「褒めるところか?」
 一応頭を撫でた。

 「お前、家の中で絶対に吐くなよな!」
 ロボは「にゃー」と返事した。


 俺もオチンチンに力を込め、口を開いた。

 別に何も出なかった。
 良かった。

 「α」と「オロチ」を食べたロボだ。
 尾も割れた。
 普通のネコではないと考えてはいた。
 やはりそうだった。
 でも、やり過ぎだろう!



 ロボは首輪が相当気に入ったようだ。
 子どもたちに、よく自慢している。
 リヴィングで子どもたちが勉強していると、テーブルに乗って首輪を見せる。
 前足で、首輪を叩いて、「どうだ」と自慢げに見せる。

 「ロボ、素敵な首輪ねー」
 亜紀ちゃんたちがそう言うと、「ニャー」と鳴いて満足して降りる。
 最初の飼い主が、ロボに首輪を嵌めていたのかもしれない。
 何か、懐かしい思いでもあるのだろうか。







 その夜、夕食を食べた後で、俺はロボを連れてドライブに出た。
 ハマーだ。
 後ろの広いシートがいいだろうと乗せたが、助手席に来た。
 俺は笑って出発した。
 ロボは外の流れる景色を珍しそうに見ていた。

 竹芝桟橋だ。
 ドアを開けてロボを降ろした。

 しばらく一緒に夜の海を見ながら歩いた。
 ロボはずっと俺の後ろをついて来る。
 潮風がいい匂いを運んでくる。
 真っ暗な海面に、海岸の灯が反射して揺れている。
 ロボが時々立ち止まって海を見る。
 俺も飽きるまで待ってやる。

 ベンチに腰掛けると、ロボは俺の隣に座った。
 俺はロボに小さな皿に水をやり、別な皿に鶏のササミを焼いたものをやった。
 ロボはササミを美味そうに食べ、水を飲んだ。
 俺は水筒に入れたコーヒーを飲む。
 海を眺めた。

 井上陽水の『はーばーらいと』を歌った。
 ロボは目を閉じて、うっとりと聴いていた。

 「お前はちゃんと幸せか?」
 ロボは俺を見ている。

 「お前には本当に幸せだけを考えてもらいたいんだよ」

 「ロボは長いこと生きて、辛いことも多かっただろう。だからこれからはな、目いっぱい幸せになってくれ」
 ロボは俺の膝に上半身を乗せた。
 そのまま前足を伸ばし、ゴロゴロと喉を鳴らした。

 「俺も子どもたちも、お前が大好きだぞ?」

 ロボがベンチを降りた。
 海に向かって歩く。
 俺は何げなく見ていた。
 遠くへ行くことはないだろう。




 ロボの尾が割れた。
 二つの尾の間に、放電現象の弧電が起きた。

 「フラッシオーバ!」

 次第に放電は巨大化し、尾が光で見えなくなる。
 ロボの口が開いた。
 海の上空に向かって、巨大な光球が撃ち出された。
 光球が彼方で爆散し、光の帯が散らばって消えた。

 「……」

 ロボがベンチに駆け寄って来る。
 俺の胸に頭を押し付けて甘える。

 「お前、お前も戦うってか?」
 「にゃぁ」
 「お前はカワイ子ちゃんでいてくれよ」
 ロボがまた海に向かっていった。

 「わ、分かった! もうやめろ!」
 ロボが振り向いた。
 俺は抱きかかえてベンチに戻った。

 「お前、やり過ぎだよ」
 俺は笑ってロボの頭を撫でた。




 帰りの車で、小林旭の『ダイナマイトが百五十屯』を歌った。


 ♪ ダイナマイトがヨ ダイナマイトが百五十屯 畜生 恋なンて ぶっとばせ ♪

 
 ロボが一緒に鳴いた。

 「ロボ。お前への恋心はどうなっちゃうんだよ?」
 ロボは俺の膝に乗り、俺の顔を舐めた。

 「前が見えねぇ!」



 家に帰り、亜紀ちゃんと風呂に入っていると、外が騒がしい。
 俺はタオルを腰に巻いて廊下を見た。

 「ロボー! そんなの食べちゃダメぇ!」
 ルーがロボを追いかけている。

 「どうした!」
 「ロボがゴキブリを咥えてます!」
 「捕まえて吐かせろ!」
 「はい!

 「あ、おい! 吐かせるなよ!」
 「え、どっちですかー!」

 ロボが俺の方へ駆けてくる。
 避けようとするロボを、俺が頭を押さえた。
 ゴキブリを毟り取る。

 「にゃお!」

 びしょびしょになった頭に抗議しているようだ。

 「おい、これ」
 ルーにゴキブリを渡そうとした。
 
 「え、やだ」
 「お前! 散々育てただろう!」
 ルーが脱衣所のティッシュを持って来て受け取った。

 俺は風呂に戻った。

 「どうしたんですか?」
 「ロボがゴキブリを捕まえて咥えて逃げてたんだ」
 「え!」

 「大丈夫だ。俺が毟り取った」



 亜紀ちゃんが俺から離れた。

 「……」

 俺は洗い場でちゃんと手を洗った。
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