上 下
621 / 2,806

家を作ろう。

しおりを挟む
 家に帰ると、両隣の家の方以外に、裏の三軒の方々もリヴィングにいた。
 そのせいで、子どもたちはまだ夕飯を食べていない。

 「どうも、お待たせして申し訳ありません。石神高虎です」
 「いいえ、こちらこそ夕飯時に押しかけてすみません」

 それぞれの家の方々は、ある大手不動産会社からオファーを受け、立ち退きをすることになったそうだ。
 しかも、破格の条件だった。
 今の家の倍以上の広さを保障し、その上で希望によって立地の良いタワーマンションだのが用意された。
 その上で、別途1億円の引っ越し費用が渡されたとのことである。

 「そうなんですか。何か不思議なお話ですが、良かったですね」
 「はい! 石神さんが私らの土地を必要とのことで、そのお陰です」
 「はい?」
 「本当にありがとうございました。うちなんか住宅ローンまで完済していただいた上でのお話ですからね! 本当になんとお礼を申し上げて良いか」
 「今までいろいろ頂いてばかりだったのに。こんなに良くしていただいて!」

 口々に礼を言われた。
 遅くなるとご迷惑でしょうからと、皆さんは笑顔で帰られた。
 俺はすぐに高木に連絡し、うちの周辺の不動産を買い漁っている人間を調べるように伝えた。

 「え! 石神さんの周りのお宅が全部ですか!」
 「そうなんだ。気味が悪い以前に、何かの陰謀があるだろうよ」
 「分かりました! 早速調べます。でもこの時間なので何もできません。あす一番で動きますから」
 「宜しく頼むな!」

 子どもたちに言った。

 「みんな! 警戒しておけ!」
 「「「「はい!」」」」
 「タカさん、明日は学校休みましょうか?」
 「いや、そこまではいい。何か起きるとすれば、立ち退いた後だろう」
 「分かりました」

 それにしてもおかしい。
 何か仕掛けるつもりなら、俺に挨拶にこさせるようなことはしないだろう。
 一体何の目的か。




 夕飯の後、俺は皇紀と風呂に入った。
 亜紀ちゃんがむくれた。
 怒りのオッパイぷるぷるをしたが、ほとんど揺れなかった。
 
 「皇紀、ハワイの米軍基地への送金は終わったか?」
 「はい。ルーとハーの銀行口座からちゃんと。あの、振込手数料やら為替の手数料とかも、結構な金額になりました」
 「しょーがねーなー」

 「ほんとに、一括で渡せればまだしも。部署によって口座が違うんですからね」
 「しょーがねーなー」

 「あ、そういえば今回の損失を巻き返すためって、ルーとハーがファッションブランドを立ち上げるようですよ」
 「あんだって?」

 「自分たちのデザインの服を作りたいって。頑張っちゃってます」
 「まあ、ガキの夢だよな。才能もねぇのにいつかブランドを作りたいって。普通はできねぇけど、あいつらは簡単に立ち上げちゃうからなぁ」
 「資金は幾らでもありますからねぇ」
 「でも人間はどうすんだよ」
 「M&Aで、どこかのアパレルブランドを乗っ取るって言ってました」
 「あちゃー」
 「もう、大体終わってるようです」

 「あいつらの場合、俺が知った時には全部終わってんだよな」
 「ちょっと言っときます?」
 「いやいいよ。今回は危険なこともねぇだろうしな。あいつらのストレス発散になるだろうよ」
 「そうですね」

 「俺も世の中じゃ結構稼ぐ方なんだけどなぁ。でも今回の補填は無理だわ」
 「アハハハハ」
 「最初にロックハートが全部出すって言われたんだけどな。あそこにそんなに借りを作るわけにはいかん。幸い双子がバカみたいに金持ってたしな」
 「そうですね」

 「アビーがその代わりに何かくれるそうだけどよ」
 「そうなんですか」

 「ああ。ん? アァッーーー!!」
 俺は浴槽で立ち上がった。
 皇紀が驚いていたが、そのまま上がってすぐにアビゲイルに電話する。

 


 「おい! お前うちの周りの土地を!」
 「アハハハ! もうバレたか」
 「なんてことすんだよ!」
 「君が支払った額には遠く及ばないだろ?」
 「そんな問題じゃねぇ! こんなものもらえないぞ!」
 「ダメだよ。もう君のものだ。ああ、毎年の固定資産税はうちで面倒みるからね」
 「アビー!」
 
 「取り敢えず、君の両隣と裏の土地は全部君の名義になる。他の土地はダミーになるけどね」
 「他の土地!」
 「そうだよ。君の住んでいる区画のほとんどは君の自由にできる土地になる。ああ、花岡家は別だがね」
 「お前ぇ!」
 「アハハハ! 君が驚くのが楽しみだったんだ」
 「このやろう!」

 「君の希望の建物を作ろうじゃないか。何なら今の家を建て替えてもいいよ」
 「するわけねぇ! ここは思い出の家なんだぁ!」
 「そうだろう。響子も何度もお邪魔しているしね」
 「そういう問題じゃねぇ!」
 「じゃあ、そのうち案を出してくれ。待ってるよ」
 
 「でかいものは困るって言っただろう!」
 「え、全然小さいよ。君の子どもたちはニューヨークの我々の邸宅を見ただろう?」
 「困るんだよ、本当に」
 「私たちは君を困らせたいんだ。困ってくれて何よりだね」
 
 「お前らが困ることをやってやるからな!」
 「イシガミ、もう我々は十分過ぎるほど君から貰っているよ」
 「何言ってやがる!」
 「響子を幸せにしてやってくれ」
 「言われるまでもねぇ! 汚いぞ、アビー!」

 「アハハハハハ!」

 アビゲイルは笑いながら電話を切った。
 子どもたちが全員俺を見ていた。




 「あのな、さっき言った警戒な。あれは必要ねぇ」
 「どういうことですか?」
 亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「ロックハート家の仕業だ! あいつら、俺にこの区画をプレゼントするんだってよ!」
 
 「「「「エェッーーーーー!!!!」」」」

 「参った。どうすんだ、これ」
 「タカさん」
 「好きに使っていいの?」
 ルーが言う。

 「まあな」
 「じゃあ、皇紀ちゃんと三人で話し合ってもいいですか?」
 「ああ。全部希望通りとかは行かないが、考えてみてくれよ。亜紀ちゃんもな」
 「はい」

 「みんなで話し合おう」
 「「「「はい!」」」」




 その夜、亜紀ちゃんと飲んだ。

 「びっくりしましたね」
 「ああ、驚いた」
 「でも、なんか楽しいですね!」
 「そうかよ」
 「だって! 何倍も広くなるんですよ?」
 「俺はこの家で十分だよ」

 亜紀ちゃんはニコニコしている。
 ササミの梅肉ハサミをムシャムシャと食べる。

 「一人ずつの家を建ててもいいかもな」
 「いやですよ! みんなタカさんと一緒がいいです!」
 「広い部屋になるぞ?」
 「全然いりません! タカさんの傍がいいですって」
 「なんだよ、俺と一緒じゃんか」
 「ああ、そういえば」
 二人で笑った。

 「象でも飼います?」
 「やめろ、世話が大変だ」
 「でも、背中に乗って散歩とか良くないですか?」
 「正気か!」
 「アハハハハ」

 「アヴェンタドール以上に目立ちますね」
 「俺は目立ちたくて乗ってるんじゃねぇ」


 「皇紀たちのための施設ですかねぇ」
 「それが現実的だな。防衛システムもちゃんと組めるだろうしな」
 「あ! 柳さんのお部屋!」
 「あいつだけ別棟にすんのかよ。可哀そうだろう」
 「あー、優しいですね」
 「なんだよ」


 「でも、お客様用の建物っていいですよね?」
 「そうだな。2階がメインになるから、二階に連絡通路を伸ばそうか」
 「素敵です! あ!」
 「どうした?」
 「アレ作りましょうよ! ガラスの屋上!」
 「オオ! 亜紀ちゃんいいこと言った!」
 「ワハハハハ!」

 「大きい風呂も欲しいな」
 「えー! 今のがいいですよ」
 「今の風呂は普段のものでな。でもうちは来客が結構あるじゃない。大勢で入れるのもいいぞ」
 「そうですね!」
 
 俺たちは楽しく話して盛り上がった。





 途中で奈津江を思い出した。
 あいつとも、こうやって楽しんで夢を話したっけ。
 決してセックスはしない関係。





 「タカさん、何ニヤニヤしてんですか」

 「なんでもねぇよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恐怖体験や殺人事件都市伝説ほかの駄文

高見 梁川
エッセイ・ノンフィクション
管理人自身の恐怖体験や、ネット上や読書で知った大量殺人犯、謎の未解決事件や歴史ミステリーなどをまとめた忘備録。 個人的な記録用のブログが削除されてしまったので、データを転載します。

2025年何かが起こる!?~予言/伝承/自動書記/社会問題等を取り上げ紹介~

ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
2025年に纏わるさまざまな都市伝説、予言、社会問題などを考察を加えて紹介します。 【予言系】 ・私が見た未来 ・ホピ族の予言 ・日月神示の預言 ・インド占星術の予言 など 【経済・社会的課題】 ・2025年問題 ・2025年の崖 ・海外展開行動計画2025 など 【災害予測】 ・大規模太陽フレア ・南海トラフ巨大地震 など ※運営様にカテゴリーや内容について確認して頂きました所、内容に関して特に問題はないが、カテゴリーが違うとの事のでホラー・ミステリーから「エッセイ・ノンフィクション」へカテゴリー変更しました。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見かけてしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

百姓貴族はお呼びじゃないと言われ婚約破棄をされて追放されたので隣国で農業しながら幸せになります!

ユウ
恋愛
多くの女神が存在する世界で豊穣の加護というマイナーな加護を持つ伯爵令嬢のアンリは理不尽な理由で婚約を破棄されてしまう。 相手は侯爵家の子息で、本人の言い分では… 「百姓貴族はお呼びじゃない!」 …とのことだった。 優れた加護を持たないアンリが唯一使役出るのはゴーレムぐらいだった。 周りからも馬鹿にされ社交界からも事実上追放の身になっただけでなく大事な領地を慰謝料変わりだと奪われてしまう。 王都から離れて辺境地にて新たな一歩をゴーレムと一から出直すことにしたのだが…その荒れ地は精霊の聖地だった。 森の精霊が住まう地で農業を始めたアンリは腹ペコの少年アレクと出会うのだった。 一方、理不尽な理由でアンリを社交界から追放したことで、豊穣の女神を怒らせたことで裁きを受けることになった元婚約者達は――。 アンリから奪った領地は不作になり、実家の領地では災害が続き災難が続いた。 しかもアンリの財産を奪ったことがばれてしまい、第三機関から訴えられることとなり窮地に立たされ、止む終えず、アンリを呼び戻そうとしたが、既にアンリは国にはいなかった。

嫌われオメガが婚約破棄を申し出ました

田中 乃那加
BL
 舞台は現代。これはオメガバースの世界線での物語である。  ――御笠 皇大郎 (みかさ こうたろう)は元アルファのオメガ。  御笠家は数多くの政治家や学者、医学博士などを排出した由緒正しい家系である。  とある事件からアルファからオメガへビッチングして高学歴のエリートで容姿端麗の青年の人生が一転した。  アルファ家系であった中でのオメガ。  肩身が狭いどころではない。    針のむしろ状態で大学を中退させられたあと、小さな家を与えられ無愛想な家政婦と唯一優しかった祖母暮らしていた。  そこで次々と持ち込まれる縁談の話。    すべてを突っぱねていたが、優しかった祖母が倒れてから状況は変わった。    跡取り候補の弟からの脅しで、皇大郎は渋々縁談を受け入れた。  相手は貴島グループ(金融から不動産、他にも様々な業界にて拡大成長した巨大企業グループ)のいわるる御曹司。  貴島 高貴 (きじま こうき)である。  顔こそイケメンだが性格の悪い男で、もちろんアルファ。  見合いの席でとんでもない失礼な発言と乱暴をしようとしたクズ男。  すったもんだで婚約したものの、相手の会社で働くように要求された。  案の定、会社では腫れ物扱い。ヒソヒソされ嫌がらせも続く。    それでも祖母のため家のため必死で耐えた。  しかし婚約者は連絡もなく放置。  たまには食事でもと勇気を出して誘ってみるも素っ気なく断られる。  どこにいても孤独――そんな日々を三ヶ月。  ついに決定的な出来事が起こる。  社内の女性社員たちに呼び出され、婚約者には愛する人がいるから婚約破棄しろと罵倒される。    傷ついた皇大郎に追い打ちをかけるような出来事が。  そしてようやく決意した。  婚約破棄して家出してやろう、と。  クズなアルファ(?)に愛想をつかした生きる力強めなオメガのシリアスありのラブコメディ。  R18もあるよ!!!  

処理中です...