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家を作ろう。

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 家に帰ると、両隣の家の方以外に、裏の三軒の方々もリヴィングにいた。
 そのせいで、子どもたちはまだ夕飯を食べていない。

 「どうも、お待たせして申し訳ありません。石神高虎です」
 「いいえ、こちらこそ夕飯時に押しかけてすみません」

 それぞれの家の方々は、ある大手不動産会社からオファーを受け、立ち退きをすることになったそうだ。
 しかも、破格の条件だった。
 今の家の倍以上の広さを保障し、その上で希望によって立地の良いタワーマンションだのが用意された。
 その上で、別途1億円の引っ越し費用が渡されたとのことである。

 「そうなんですか。何か不思議なお話ですが、良かったですね」
 「はい! 石神さんが私らの土地を必要とのことで、そのお陰です」
 「はい?」
 「本当にありがとうございました。うちなんか住宅ローンまで完済していただいた上でのお話ですからね! 本当になんとお礼を申し上げて良いか」
 「今までいろいろ頂いてばかりだったのに。こんなに良くしていただいて!」

 口々に礼を言われた。
 遅くなるとご迷惑でしょうからと、皆さんは笑顔で帰られた。
 俺はすぐに高木に連絡し、うちの周辺の不動産を買い漁っている人間を調べるように伝えた。

 「え! 石神さんの周りのお宅が全部ですか!」
 「そうなんだ。気味が悪い以前に、何かの陰謀があるだろうよ」
 「分かりました! 早速調べます。でもこの時間なので何もできません。あす一番で動きますから」
 「宜しく頼むな!」

 子どもたちに言った。

 「みんな! 警戒しておけ!」
 「「「「はい!」」」」
 「タカさん、明日は学校休みましょうか?」
 「いや、そこまではいい。何か起きるとすれば、立ち退いた後だろう」
 「分かりました」

 それにしてもおかしい。
 何か仕掛けるつもりなら、俺に挨拶にこさせるようなことはしないだろう。
 一体何の目的か。




 夕飯の後、俺は皇紀と風呂に入った。
 亜紀ちゃんがむくれた。
 怒りのオッパイぷるぷるをしたが、ほとんど揺れなかった。
 
 「皇紀、ハワイの米軍基地への送金は終わったか?」
 「はい。ルーとハーの銀行口座からちゃんと。あの、振込手数料やら為替の手数料とかも、結構な金額になりました」
 「しょーがねーなー」

 「ほんとに、一括で渡せればまだしも。部署によって口座が違うんですからね」
 「しょーがねーなー」

 「あ、そういえば今回の損失を巻き返すためって、ルーとハーがファッションブランドを立ち上げるようですよ」
 「あんだって?」

 「自分たちのデザインの服を作りたいって。頑張っちゃってます」
 「まあ、ガキの夢だよな。才能もねぇのにいつかブランドを作りたいって。普通はできねぇけど、あいつらは簡単に立ち上げちゃうからなぁ」
 「資金は幾らでもありますからねぇ」
 「でも人間はどうすんだよ」
 「M&Aで、どこかのアパレルブランドを乗っ取るって言ってました」
 「あちゃー」
 「もう、大体終わってるようです」

 「あいつらの場合、俺が知った時には全部終わってんだよな」
 「ちょっと言っときます?」
 「いやいいよ。今回は危険なこともねぇだろうしな。あいつらのストレス発散になるだろうよ」
 「そうですね」

 「俺も世の中じゃ結構稼ぐ方なんだけどなぁ。でも今回の補填は無理だわ」
 「アハハハハ」
 「最初にロックハートが全部出すって言われたんだけどな。あそこにそんなに借りを作るわけにはいかん。幸い双子がバカみたいに金持ってたしな」
 「そうですね」

 「アビーがその代わりに何かくれるそうだけどよ」
 「そうなんですか」

 「ああ。ん? アァッーーー!!」
 俺は浴槽で立ち上がった。
 皇紀が驚いていたが、そのまま上がってすぐにアビゲイルに電話する。

 


 「おい! お前うちの周りの土地を!」
 「アハハハ! もうバレたか」
 「なんてことすんだよ!」
 「君が支払った額には遠く及ばないだろ?」
 「そんな問題じゃねぇ! こんなものもらえないぞ!」
 「ダメだよ。もう君のものだ。ああ、毎年の固定資産税はうちで面倒みるからね」
 「アビー!」
 
 「取り敢えず、君の両隣と裏の土地は全部君の名義になる。他の土地はダミーになるけどね」
 「他の土地!」
 「そうだよ。君の住んでいる区画のほとんどは君の自由にできる土地になる。ああ、花岡家は別だがね」
 「お前ぇ!」
 「アハハハ! 君が驚くのが楽しみだったんだ」
 「このやろう!」

 「君の希望の建物を作ろうじゃないか。何なら今の家を建て替えてもいいよ」
 「するわけねぇ! ここは思い出の家なんだぁ!」
 「そうだろう。響子も何度もお邪魔しているしね」
 「そういう問題じゃねぇ!」
 「じゃあ、そのうち案を出してくれ。待ってるよ」
 
 「でかいものは困るって言っただろう!」
 「え、全然小さいよ。君の子どもたちはニューヨークの我々の邸宅を見ただろう?」
 「困るんだよ、本当に」
 「私たちは君を困らせたいんだ。困ってくれて何よりだね」
 
 「お前らが困ることをやってやるからな!」
 「イシガミ、もう我々は十分過ぎるほど君から貰っているよ」
 「何言ってやがる!」
 「響子を幸せにしてやってくれ」
 「言われるまでもねぇ! 汚いぞ、アビー!」

 「アハハハハハ!」

 アビゲイルは笑いながら電話を切った。
 子どもたちが全員俺を見ていた。




 「あのな、さっき言った警戒な。あれは必要ねぇ」
 「どういうことですか?」
 亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「ロックハート家の仕業だ! あいつら、俺にこの区画をプレゼントするんだってよ!」
 
 「「「「エェッーーーーー!!!!」」」」

 「参った。どうすんだ、これ」
 「タカさん」
 「好きに使っていいの?」
 ルーが言う。

 「まあな」
 「じゃあ、皇紀ちゃんと三人で話し合ってもいいですか?」
 「ああ。全部希望通りとかは行かないが、考えてみてくれよ。亜紀ちゃんもな」
 「はい」

 「みんなで話し合おう」
 「「「「はい!」」」」




 その夜、亜紀ちゃんと飲んだ。

 「びっくりしましたね」
 「ああ、驚いた」
 「でも、なんか楽しいですね!」
 「そうかよ」
 「だって! 何倍も広くなるんですよ?」
 「俺はこの家で十分だよ」

 亜紀ちゃんはニコニコしている。
 ササミの梅肉ハサミをムシャムシャと食べる。

 「一人ずつの家を建ててもいいかもな」
 「いやですよ! みんなタカさんと一緒がいいです!」
 「広い部屋になるぞ?」
 「全然いりません! タカさんの傍がいいですって」
 「なんだよ、俺と一緒じゃんか」
 「ああ、そういえば」
 二人で笑った。

 「象でも飼います?」
 「やめろ、世話が大変だ」
 「でも、背中に乗って散歩とか良くないですか?」
 「正気か!」
 「アハハハハ」

 「アヴェンタドール以上に目立ちますね」
 「俺は目立ちたくて乗ってるんじゃねぇ」


 「皇紀たちのための施設ですかねぇ」
 「それが現実的だな。防衛システムもちゃんと組めるだろうしな」
 「あ! 柳さんのお部屋!」
 「あいつだけ別棟にすんのかよ。可哀そうだろう」
 「あー、優しいですね」
 「なんだよ」


 「でも、お客様用の建物っていいですよね?」
 「そうだな。2階がメインになるから、二階に連絡通路を伸ばそうか」
 「素敵です! あ!」
 「どうした?」
 「アレ作りましょうよ! ガラスの屋上!」
 「オオ! 亜紀ちゃんいいこと言った!」
 「ワハハハハ!」

 「大きい風呂も欲しいな」
 「えー! 今のがいいですよ」
 「今の風呂は普段のものでな。でもうちは来客が結構あるじゃない。大勢で入れるのもいいぞ」
 「そうですね!」
 
 俺たちは楽しく話して盛り上がった。





 途中で奈津江を思い出した。
 あいつとも、こうやって楽しんで夢を話したっけ。
 決してセックスはしない関係。





 「タカさん、何ニヤニヤしてんですか」

 「なんでもねぇよ!」
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