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大変に困った。

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 女たちは全員、放心して寝ている。
 俺は一人ずつ布団に入れて寝かせた。
 俺は浴衣を羽織り、障子を開けて夜明けの光を浴びた。
 鷹の無事を感謝した。

 誰かに後頭部を殴られた気がした。



 廊下に出て、出会った男に風呂を案内させる。
 広い浴室で全身を洗い、湯船に浸かった。
 気持ちがいい。
 脱衣所に行くと、新しい浴衣と、下着まで用意してあった。
 座敷へ戻ると、千両と桜が待っていた。

 「千両、帰るな」
 「はい」

 桜が俺のライダースーツを持って来た。

 「石神さん。私どものために、楽しんでくれた振りをしていただいて」
 「あ、うん」
 「え、ただ楽しんでいただけじゃ」
 俺は桜の頭を殴った。

 「楽しかったよ、千両。ありがとうな」
 「そう言っていただけると」
 「桜、大丈夫か?」
 桜は少しやつれていた。

 「はい、何のこともありません」
 「そうか」

 俺は玄関に出て、ドゥカティに跨った。
 綺麗に洗車されていた。
 火を入れる。

 「女たちにもありがとうと言っておいてくれ。ああ、集まった男たちにもな」
 「はい、必ず」

 俺は手を振って出て行った。



 途中のサービスエリアでコーヒーを2杯飲んだ。
 流石に眠い。
 フードコートで30分ほど寝た。

 起きてスマートフォンの電源を入れ、確認した。
 亜紀ちゃんからメールが5件と留守電が8件入っていた。
 最後の方はちょっと半狂乱になっていた。
 まずい。
 そういえば、連絡してなかった。

 「おーい、亜紀ちゃんかー?」
 「タカさん!!」
 怒鳴られた。

 「悪かった! 千両とこで食事をご馳走になって、つい楽しくて泊ってしまった」
 「だったら連絡くらい下さい! 何かあったのかって心配したじゃないですか!」
 「悪かった!」
 「皇紀に蓮花さんの所へ連絡してもらったら、夕方には出たって言うし!」
 「ごめん!」
 「双子にGPSで辿ってもらったら、千両さんの家だったんで取り敢えず安心しましたけど」
 「悪かったよ!」

 「いつ帰るんですか!」
 「今向かってる。あと1時間くらいだ」
 「私、今日は学校休みますからね!」
 「ああ、分かった」
 「まったく! 鷹さんが大変だったっていうのに」

 気が重い。



 家に帰ると、ロボが物凄いスピードで駆け下りて来た。
 その後で亜紀ちゃんが降りて来て、物凄い顔で俺を睨む。

 「ただいまー」
 「もう!」
 俺はロボを抱き上げて上に上がった。
 ロボが俺の顔を一生懸命に舐める。

 「何か食べますか?」
 「いや、夕べ散々飲み食いしたからいいや。全然寝てねぇしな」
 「え、じゃあ飲酒運転!」
 「そうじゃないよ。12時くらいには切り上げたからな」
 「ん? じゃあどうして寝てないんですか?」
 「!」

 寝不足と暴飲暴食で思考が鈍っていた。
 亜紀ちゃんはバカじゃない。

 「あ、ああ。千両や桜と明け方まで話してたからな」
 「ちょっと匂いを嗅がせて下さい」
 「よせよ、汗臭いから」
 「大丈夫です。タカさんならどんな匂いだって」
 亜紀ちゃんが俺を嗅いだ。

 「あ、ああぁーー!」
 流石は肉食獣。

 「もう! 信じられない! 鷹さんが大変なのに!」
 「何を誤解してるんだ! 桜が女を呼んで酌とかさせたんだよ!」
 「違います! 女のあの匂いがします!」
 「俺に興奮したんだろうよ! ほら、俺って男前だから!」
 
 「ほんとですか?」
 「ほんとです」
 嘘です。



 「早くお風呂に入って寝て下さい。後で鷹さんのこと、聞かせて下さいね」
 一緒に入ろうとは言わなかった。
 なんだ、この浮気が妻にバレた的な状況は。
 俺は逃げるように風呂に入った。
 湯が溜まっておらず、しばらく待った。

 湯船で寛いでいると、亜紀ちゃんが入って来た。

 「もうお湯は溜まりましたかー?」
 「おまえー」
 亜紀ちゃんが笑って入って来た。

 「鷹さんのこと、教えて下さい」
 「鷹は「飛行」を覚えなければと悩んでいたんだ」
 「はい、分かります」
 「だけど、自分で身に着けるのは難しいと思ったんだな。栞もいろいろ相談に乗ってくれてた。焦る必要は無いって言ってたんだけど、鷹の決意は固かった」
 「今後の私たちの戦略がまるで変わりますからね」
 「そうだ。蓮花の研究所の生体チップ。あれを使えば戦闘プログラムの助けが入る。それと奇跡を起こす「α」の粉末だな。「オロチ」までは考えていなかったようだが」
 「そんな」

 「鷹は、俺が絶対に覆せない状況を考えた。蓮花の研究所の場所は知らなかったが、その近くで腹を切った」
 「はい」
 「蓮花が慌てて駆け付けたのを見て、今度は頸動脈を切った。生体チップと「α」の粉末を使わなければ助からない状況を作ったんだ」
 「鷹さん」
 「それでも足りなかったかもしれない、酷い容態だった。だから俺の指示で子宮を取り除き、そこにも生体チップを埋め、「オロチ」の皮も喰わせた。お陰でみるみる鷹は回復し、もう完全に治っている」
 「……」

 「子宮を喪い、頭部の毛はすべて抜けた。髪はいずれ生体チップを外せば戻る可能性もあるけどな。子宮は戻らない」
 「物凄い決意だったんですね」
 「ああ。俺は鷹が悩んでいるのを知りながら、何もしてやれなかった」
 「みんな同じです」

 「あいつの純粋さを分かってなかった」
 「はい」




 「鷹さんは飛べるようになりますか?」
 「絶対にな。絶対になる」
 「そうですね」
 亜紀ちゃんが抱き着いて来た。

 「タカさん、また傷だらけですね」
 「そんなことはないよ」




 「ん? タカさん、おっきくなってますよ!」
 散々やったので、神経的に戦闘態勢が喪われていなかった。

 「ほ、ほら。最近全然使ってなかったからな! なんていうの、溜まっちゃってる?」
 「そうなんですか」
 「ちょっとした刺激でな。別にイヤラシイことを考えてるわけじゃないぞ。皇紀に聞いてみろ」
 「はい、分かってますけど」

 「亜紀ちゃん、ちょっと離れてくれ」
 「いいですよ。もしあれなら私でもいいですよ?」
 「バカなことを言うなー!」




 大変に困った。  
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