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美しい女だと。
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俺はずっと起きて鷹の容態を診ていた。
青かった鷹の顔は、次第に赤みが挿していった。
驚くべき「α」と「オロチ」の力だ。
それに加え、生体チップの人体制御だ。
今、チップは鷹の脳に作用し、最速で身体の治癒と同時に改造を行っている。
また戦闘プログラムが脳に展開し、鷹に最適な戦闘力を植え付けようとしている。
恐らく、鷹が渇望した「飛行」も、戦闘プログラムが実現するだろう。
そんなことのために鷹は自分を捨てた。
たった、そんなことのために。
鷹が朝の4時ごろに目を覚ました。
「どうだ?」
「身体が熱いです」
俺は鷹に水を飲ませた。
鷹は渇いていたようで、すぐに飲み干した。
もう一杯飲ませる。
俺は鷹を抱えて車いすに乗せた。
風呂場に連れて行く。
服を脱がせ、鷹を湯船に連れて行った。
足だけ湯に浸からせる。
俺はホースを繋いだ。
頭を支え、慎重に喉の傷を避けて冷水を首にかけた。
時々、傷側の脇の下と顔にもかけてやる。
鷹は頸動脈の片方だけを突いた。
心得のある人間ならば、ある程度の時間は延命できる。
流石はオペ看だ。
既に血管の縫合は済んでおり、急速の治癒で癒着も終わっているだろう。
「ああ、気持ちがいい」
「脳の急な活動で発熱したんだ。そのままでも問題は無いが、こうすれば少しは楽だろう」
「はい、ありがとうございます」
首にも腹にも包帯などは巻いていない。
真皮縫合と粘着剤を使ったので、フィルムを貼っている。
30分も続けると、鷹は楽になったと言う。
鷹の身体を拭き、浴衣を着せた。
また車いすに乗せ、ベッドに寝かせた。
「お手数をお掛けします」
「全然足りん」
「え?」
「もっと手数を掛けさせろ」
「ウフフフ」
脱衣所で鷹は鏡を見たはずだった。
何も言わなかった。
8時過ぎに鷹は起きた。
「気分はどうだ?」
「はい。結構いいですよ」
「何か食べられるか?」
「はい」
俺は蓮花に連絡し、厨房を使わせてもらうと言った。
「石神様、わたくしがやりますから」
「いいんだ。俺にやらせてくれ」
俺は粥を作り、味噌汁と一緒に部屋へ運んだ。
「前と逆ですね」
「ああ、そうだな。血なんか吐くなよ」
「ウフフ」
鷹は全部食べた。
「なんだ、元気だな」
「もう大丈夫ですから、どうかお帰り下さい」
「絶対やだ」
俺は思い出した。
「ああ!」
「どうしました?」
「思い出した!」
「何を?」
「俺、昨日から何も食べてねぇ!」
「まあ!」
鷹は声を上げて笑い、その後で泣いた。
俺は鷹を抱き締めた。
腹がグゥウと鳴いた。
鷹が本当に笑った。
「先生、早く召し上がって下さい」
「お前をベッドに運んでからな」
蓮花が食事を運んで来た。
「鷹様はわたくしがお連れいたしますので」
「お前、タイミングがいいな」
「石神様がまったく召し上がっていないのは存じております」
「そうか」
鷹は俺が食べているところを見たいと言った。
俺は蓮花の食事を急いで食べた。
「鷹、蓮花も料理が上手いんだ」
「そうですか」
「和食は鷹だけどな。蓮花は他の料理もできる」
「アハハハ」
「こいつ、てっきり「和」だけかと思ったら、いきなりフレンチなんて出して来やがって」
蓮花は微笑んで聞いていた。
俺は食べ終わり、鷹を運んだ。
途中でトイレに寄った。
「手伝うか?」
「結構です」
俺は外で待った。
出てきた鷹を運び、ベッドに横たえた。
「凄いですね。もう痛みもありません」
「ああ」
「石神先生も経験なさっているんですよね」
「俺は知っての通り、喋ることまで出来なかったよな。でも「Ω」の粉末を口にした瞬間、はっきり喋ることが出来た。思考も明確になった」
「はい」
「チンコぶらぶらで偉そうに言ってたよな」
「はい」
鷹が笑った。
「お前、あれを見たからか」
「はい。それと栞さんから生体チップのお話を」
「あのバカ!」
「責めないで下さい。私を元気付けるために、素人でも戦闘の様式を知れば、という説明をして下さっただけですから」
「そうか」
「それと」
「なんだ?」
「一番の私の衝撃は皇紀さんでした」
「……」
分かっていた。
「あの時、皇紀さんは、命をかけて石神先生を止めようとしました。本当に死ぬつもりで。石神先生を御止め出来ないのなら死ぬのだと」
鷹が俺を力強い目で見ていた。
「私は決意しました。私は石神先生のために必要なものを命懸けで得なければいけないのだと」
「ばかやろう」
「それと」
「なんだ」
「石神先生は命懸けでお子さんたちを「飛行」で救いに行こうとなさいました」
「ああ」
「ですから、私も命懸けになりました。「飛行」は今後の私たちに必要なのだと分かりましたから」
「……」
「石神先生は何度も私を止めましたよね」
「当たり前だ」
「でも、石神先生はおっしゃいました。止められて捨てるものなら、大したものではなかったのだと」
「ああ、言ったな」
「石神先生、私のことを御嫌いになりました?」
「そんなわけないだろう。お前は最愛の女だ」
「はい!」
鷹は嬉しそうに笑った。
美しい女だと、心底思った。
俺は蓮花を呼んだ。
俺の部屋で二人で話した。
「鷹の子宮を取ったのは鷹に「飛行」させるためだな」
「はい」
「鷹の希望か」
「はい。鷹様は石神様のために絶対に「飛行」を身に付けなければならないと。そのためにどんなことをしても良いと仰いました」
「そうか」
「「飛行」は人間には出来ません。ですので特殊な身体操作が必要になります。そのために二つのチップの相互連携が必要でした」
「ああ」
「手術前に、鷹さんは絶対に「飛行」を身に付けなければならないと、瀕死のお身体で言いました。私はチップの相互連携のことを話しました。あの方は、最後に頷いて意識を喪いました」
「そうだったのか」
「石神様、申し訳ありません。わたくしは鷹様の命を救うことを命じられただけですのに」
俺は蓮花を抱き締めた。
「お前はいい女だ。俺が腹が減っていればすぐに食事を用意してくれる」
「はい」
「俺が「飛行」が欲しいと思えば、用意してくれる」
「はい」
「全部俺の望んだことだ。お前はそれを愛で実現してくれる、最高の女だ」
「はい」
「折角来たんだ。数日はいる。前鬼と後鬼にも会って行こう」
「お願いいたします」
鷹の部屋に戻ると、鷹は寝ていた。
俺は鷹の頬にキスをした。
美しい女だと、心底思った。
青かった鷹の顔は、次第に赤みが挿していった。
驚くべき「α」と「オロチ」の力だ。
それに加え、生体チップの人体制御だ。
今、チップは鷹の脳に作用し、最速で身体の治癒と同時に改造を行っている。
また戦闘プログラムが脳に展開し、鷹に最適な戦闘力を植え付けようとしている。
恐らく、鷹が渇望した「飛行」も、戦闘プログラムが実現するだろう。
そんなことのために鷹は自分を捨てた。
たった、そんなことのために。
鷹が朝の4時ごろに目を覚ました。
「どうだ?」
「身体が熱いです」
俺は鷹に水を飲ませた。
鷹は渇いていたようで、すぐに飲み干した。
もう一杯飲ませる。
俺は鷹を抱えて車いすに乗せた。
風呂場に連れて行く。
服を脱がせ、鷹を湯船に連れて行った。
足だけ湯に浸からせる。
俺はホースを繋いだ。
頭を支え、慎重に喉の傷を避けて冷水を首にかけた。
時々、傷側の脇の下と顔にもかけてやる。
鷹は頸動脈の片方だけを突いた。
心得のある人間ならば、ある程度の時間は延命できる。
流石はオペ看だ。
既に血管の縫合は済んでおり、急速の治癒で癒着も終わっているだろう。
「ああ、気持ちがいい」
「脳の急な活動で発熱したんだ。そのままでも問題は無いが、こうすれば少しは楽だろう」
「はい、ありがとうございます」
首にも腹にも包帯などは巻いていない。
真皮縫合と粘着剤を使ったので、フィルムを貼っている。
30分も続けると、鷹は楽になったと言う。
鷹の身体を拭き、浴衣を着せた。
また車いすに乗せ、ベッドに寝かせた。
「お手数をお掛けします」
「全然足りん」
「え?」
「もっと手数を掛けさせろ」
「ウフフフ」
脱衣所で鷹は鏡を見たはずだった。
何も言わなかった。
8時過ぎに鷹は起きた。
「気分はどうだ?」
「はい。結構いいですよ」
「何か食べられるか?」
「はい」
俺は蓮花に連絡し、厨房を使わせてもらうと言った。
「石神様、わたくしがやりますから」
「いいんだ。俺にやらせてくれ」
俺は粥を作り、味噌汁と一緒に部屋へ運んだ。
「前と逆ですね」
「ああ、そうだな。血なんか吐くなよ」
「ウフフ」
鷹は全部食べた。
「なんだ、元気だな」
「もう大丈夫ですから、どうかお帰り下さい」
「絶対やだ」
俺は思い出した。
「ああ!」
「どうしました?」
「思い出した!」
「何を?」
「俺、昨日から何も食べてねぇ!」
「まあ!」
鷹は声を上げて笑い、その後で泣いた。
俺は鷹を抱き締めた。
腹がグゥウと鳴いた。
鷹が本当に笑った。
「先生、早く召し上がって下さい」
「お前をベッドに運んでからな」
蓮花が食事を運んで来た。
「鷹様はわたくしがお連れいたしますので」
「お前、タイミングがいいな」
「石神様がまったく召し上がっていないのは存じております」
「そうか」
鷹は俺が食べているところを見たいと言った。
俺は蓮花の食事を急いで食べた。
「鷹、蓮花も料理が上手いんだ」
「そうですか」
「和食は鷹だけどな。蓮花は他の料理もできる」
「アハハハ」
「こいつ、てっきり「和」だけかと思ったら、いきなりフレンチなんて出して来やがって」
蓮花は微笑んで聞いていた。
俺は食べ終わり、鷹を運んだ。
途中でトイレに寄った。
「手伝うか?」
「結構です」
俺は外で待った。
出てきた鷹を運び、ベッドに横たえた。
「凄いですね。もう痛みもありません」
「ああ」
「石神先生も経験なさっているんですよね」
「俺は知っての通り、喋ることまで出来なかったよな。でも「Ω」の粉末を口にした瞬間、はっきり喋ることが出来た。思考も明確になった」
「はい」
「チンコぶらぶらで偉そうに言ってたよな」
「はい」
鷹が笑った。
「お前、あれを見たからか」
「はい。それと栞さんから生体チップのお話を」
「あのバカ!」
「責めないで下さい。私を元気付けるために、素人でも戦闘の様式を知れば、という説明をして下さっただけですから」
「そうか」
「それと」
「なんだ?」
「一番の私の衝撃は皇紀さんでした」
「……」
分かっていた。
「あの時、皇紀さんは、命をかけて石神先生を止めようとしました。本当に死ぬつもりで。石神先生を御止め出来ないのなら死ぬのだと」
鷹が俺を力強い目で見ていた。
「私は決意しました。私は石神先生のために必要なものを命懸けで得なければいけないのだと」
「ばかやろう」
「それと」
「なんだ」
「石神先生は命懸けでお子さんたちを「飛行」で救いに行こうとなさいました」
「ああ」
「ですから、私も命懸けになりました。「飛行」は今後の私たちに必要なのだと分かりましたから」
「……」
「石神先生は何度も私を止めましたよね」
「当たり前だ」
「でも、石神先生はおっしゃいました。止められて捨てるものなら、大したものではなかったのだと」
「ああ、言ったな」
「石神先生、私のことを御嫌いになりました?」
「そんなわけないだろう。お前は最愛の女だ」
「はい!」
鷹は嬉しそうに笑った。
美しい女だと、心底思った。
俺は蓮花を呼んだ。
俺の部屋で二人で話した。
「鷹の子宮を取ったのは鷹に「飛行」させるためだな」
「はい」
「鷹の希望か」
「はい。鷹様は石神様のために絶対に「飛行」を身に付けなければならないと。そのためにどんなことをしても良いと仰いました」
「そうか」
「「飛行」は人間には出来ません。ですので特殊な身体操作が必要になります。そのために二つのチップの相互連携が必要でした」
「ああ」
「手術前に、鷹さんは絶対に「飛行」を身に付けなければならないと、瀕死のお身体で言いました。私はチップの相互連携のことを話しました。あの方は、最後に頷いて意識を喪いました」
「そうだったのか」
「石神様、申し訳ありません。わたくしは鷹様の命を救うことを命じられただけですのに」
俺は蓮花を抱き締めた。
「お前はいい女だ。俺が腹が減っていればすぐに食事を用意してくれる」
「はい」
「俺が「飛行」が欲しいと思えば、用意してくれる」
「はい」
「全部俺の望んだことだ。お前はそれを愛で実現してくれる、最高の女だ」
「はい」
「折角来たんだ。数日はいる。前鬼と後鬼にも会って行こう」
「お願いいたします」
鷹の部屋に戻ると、鷹は寝ていた。
俺は鷹の頬にキスをした。
美しい女だと、心底思った。
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