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日常と祝い

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 レイは静江に呼ばれ、静江の部屋へ行った。
 5階建ての広大な建物の最上階に静江の部屋はある。
 高さ7メートル、幅15メートルの大きな嵌め殺しのガラス窓があり、非常に明るい部屋だ。

 静江のお気に入りのソファセットに座るよう言われた。
 静江が昨年用意したソファセットだ。
 センターテーブルに、和風の織物がかけてある。
 その織物に合わせて作られたテーブルだった。
 すぐにメイドがコーヒーを持って来て、静江とレイの前に置いた。

 「今日は紅茶ではないんですね?」
 「ええ。石神さんの話をするんですから、コーヒーが良いでしょう」
 レイは微笑んだ。
 石神はコーヒーが好きだ。

 「レイ、あなたのお陰で皇紀さんの「防衛システム」はもうすぐ完成します」
 「はい。設置が終われば皇紀さんが来てくれます。最終調整で完了です」

 「石神さんのお宅では、随分と楽しんだようですね」
 「はい! あんなに楽しくて充実した時間はありません。皇紀さんや双子ちゃんとの遣り取りはもちろんですが、何よりも石神さんが楽しい方で」
 「ウフフフ。その通りね」

 「あの、静江様。宜しければ防衛システムが完成した後で、一度石神さんにお礼に伺わせてはもらえませんでしょうか?」
 「いいですよ」
 「ありがとうございます!」

 「レイ。あなたはお礼に伺って、こちらへ戻る必要はありません」
 「え?」

 「あなたは石神さんのお傍で、いろいろお助けしなさい。もちろんロックハートの身分でです。石神さんを手伝いながら、私たちとの連絡の窓口になって下さい。それとあちらで響子のことを」
 「でも、静江様!」
 「ダメですよ、レイ。あなたの魂は既に石神さんに向いています。私はあなたのことが大好きです。あなたの望みを叶えてあげたい」
 「静江様……」

 「レイのような「お堅い」女を、あんなに短期間で掴んでしまうんですからね。石神さんは本当に」
 静江は声を上げて笑った。

 「レイ、あなたは幸せになって」
 「はい、ありがとうございます」」
 レイは涙をにじませ、静江に礼を述べた。

 「でもね、レイ。石神さんはとてもおモテになるの。だからあなたの他にも親しい女性が」
 「知っています! でもご安心下さい。曜日係の方から、既に「虎曜日」をいただいていますから!」
 「虎曜日?」
 レイは説明をした。
 静江が爆笑した。
 そんなに笑う静江を初めて見た。

 「アハハハ! まったく、石神さんは最高の方ね」
 「はい! それはもう!」
 レイは石神の魅力や話したことを静江に伝え、静江は更に爆笑を続けた。
 二人は昼食までの時間を楽しく話し続けた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 俺は日常に戻っていた。
 オペを繰り返し、一江たちを叱責した。
 子どもたちとロボを見て微笑み、恋人たちと温かい時間を過ごした。
 帰宅すればロボに熱烈に出迎えられ、美味い夕飯を食べ、亜紀ちゃんと風呂に入り、酒を時々飲んだ。

 亜紀ちゃんの性格が、ちょっと荒くなった。
 マリーンとの船上での生活や、ハワイ基地での激高が、亜紀ちゃんの中に潜んでいた魔王を大きくしたようだ。
 皇紀や双子たちが、たまに亜紀ちゃんの怒りを買って怒られていた。

 「皇紀! てめぇ、オナニーのティッシュは自分で捨てろと言っただろう!」
 「ごめんなさい!」
 「思わず手に付いたじゃねぇか!」
 正座していた皇紀が蹴られて壁まで飛んだ。

 「タカさんにもまだ付けられてねぇんだぞー!」
 「……」
 止めようと近付いた俺は、思わず立ち止まった。
 今後も付けるつもりはねぇんだが。

 「アチャコでごじゃいましゅるー」
 「「「「ギャハハハハハハ!」」」」
 全員が笑って終わった。



 蓮花とは頻繁に話すようになった。
 「巨獣」、俺はそれに「ジェヴォーダン」と名付けた。
 その「ジェヴォーダン」の件と、以前に送った「ヴァーミリオン」のことだ。
 どちらも、蓮花が解析を急いでいる。

 「「ジェヴォーダン」も石神様がお考えになったように、遺伝子操作をされているものと分かりました」
 「そうか」
 「人間の遺伝子に、未知の遺伝子配列が組み込まれています」
 「やはりな」
 「大脳新皮質が極大化するようになっていますが、知性がどこまであるのかは不明です」
 「機会があれば捕獲したいな」
 「そうですが」
 「ジェヴォーダンは高速移動が脅威だ。あのヒレを破壊すれば、捕獲も不可能ではないかもしれん」
 「ハワイに亜紀様が曳航した個体は?」
 「やはり死んでいた。亜紀ちゃんが極大の「螺旋花」を撃ち込んだからな。無事な生物はいないだろうよ」
 「なるほど」

 「「ヴァーミリオン」の方はどうだ?」
 「そちらは、もっと高度な遺伝子操作がされていました。人間の能力を極限まで引き出しているようです」
 「そうか」
 「それに耐えうる人体改造も。骨格はチタン合金で、消化器官は取り去られて様々な制御装置が組み込まれています」
 「だから首を刎ねても暴れていたのか」
 「はい、その通りかと」

 「「Antigen-antibody interaction(抗原抗体反応)」はどう制御している?」
 「シクロスポリンに似た化学物質が検出されました。恐らく定期的に投与されていたのだと思います」
 「寿命を無視か」
 「はい。実戦投入までは無菌室のような環境にいるのではないかと」
 抗原抗体反応は、人間が「固有」ということの証だ。
 だから異物が入れば、排除しようとする働きがある。
 臓器移植の最大のネックがそれで、レシピエント(被移植者)はずっと抗原抗体反応の抑制剤を接種する必要がある。
 そのことによって免疫機構のT細胞が不活性化し、反面感染症に脆くなる。

 「じゃあ、奴らに風邪をひかせるか!」
 「はい。そのような対抗手段も検討しております。ただ、即効性があるものは普通の人間にも危害が」
 「そうだな。慎重にやってくれ」
 「はい」
 「そのうちにまたそちらへ行く」
 「はい、お待ち申し上げております」

 「ミユキは元気か?」
 「はい。毎日石神様のためと訓練に明け暮れております」
 「前鬼と後鬼は?」
 「順調に仕上がっています。お越しいただいた折にご紹介いたします」

 俺たちは更に二体のブランを生み出していた。

 「では蓮花、よろしく頼むぞ」
 「はい」
 「でも無理はするな」
 「ありがたきお言葉でございます」

 電話を切った。



 

 俺は子どもたちに任務達成の褒美は何がいいか聞いた。
 
 「「薔薇乙女」はどうですか?」
 亜紀ちゃんが言った。

 「あそこかよ!」
 「だって、楽しいじゃないですか!」
 「でも皇紀たちは飲めないだろうよ」
 「大丈夫ですよ!」
 俺が皇紀と双子に聞くと、是非行きたいと言う。
 亜紀ちゃんに話を聞いているのだ。
 酒を飲むバーというものにも興味があるのだろう。
 俺はユキに電話した。

 「ちょっと祝い事があってな。酒が飲める子と飲めない子がいるんだが」
 「ああ、亜紀ちゃんですね! 大歓迎ですよ」
 「もっと小さい子どももいるんだけどな。ああ、知っての通り、全部肉食獣だ」
 「アハハハ、全然構いません! ママに話しておきますよ」
 「そうか、じゃあ宜しく頼むよ」
 「はい!」

 俺は他の人間にも声を掛けた。
 六花は二つ返事で笑顔で行きたいと言った。
 栞と鷹はまたの機会にと言われた。
 二人で丹沢に行きたいと言うので、許可した。



 
 11月中旬の金曜日。
 子どもたちが病院に来た。
 院長や響子、俺の部下たちに挨拶をした。

 ルーとハーがでかいリュックを背負っている。
 何かと聞いたら「衣装」だと言った。
 怪しい気配がしたが、子どもたちの祝いだと黙っていた。




 俺たちはタクシーに分乗し、「薔薇乙女」に向かった。 
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