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麻布の密談
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「ミハイル、結局誰も殺せなかったな?」
ザハ・ハディッドの巨大な椅子に腰かけた、怨霊を纏ったような雰囲気の男が言った。
「申し訳ありません。分断して、あれほど早く到着するとは」
前髪が頭頂まで禿げ上がった痩せぎすの白衣の男が答えた。
分厚い眼鏡のせいで巨大化した眼は、オドオドとし、前を向かない。
「まあいい。これでまたあいつらの戦力が知れた。お前の「バイオビースト」はなかなかに優秀だな」
「ありがとうございます」
「バイオノイドは量産が容易いが、バイオビーストは時間は掛かるが強力だ。100頭もいれば、海上の戦力は一掃できるかな」
「核兵器を使われれば別ですが、まあ大抵の状況で逃げ切りますな」
「陸戦タイプはどうなっている?」
「はい。数年のうちにはカルマ様のご満足のいくものが出来上がるでしょう」
「空戦タイプはどうだ」
「そちらはまだ研究中です。ですが必ず」
「お前は役立つ。楽しみだ」
闇そのものが笑ったような邪悪な笑みに、白衣の男はたじろいだ。
しかし、不興を買えば即座に殺されることをよく知っている。
やっとのことで言った。
「カルマ様のお力あってのことです」
「石神にはまだ届かないがな」
「今回は、あの謎の力は観測できませんでしたね」
「まあいい。あいつも自在には扱えないのかもしれん」
「山梨での「蛇」はどうします?」
「まだだ。あれはいつか対処できる。むしろ今回見られた「レールガン」の対応を考えねばな」
「フフフ、イシガミも徐々に底が見えましたね」
「ミハイル、侮るな。あいつも強くなる」
「さようで」
「あいつは俺に似ている。戦いになれば、どこまでも手を拡げてくる」
「はい。カルマ様がいずれロシアを掌握するように」
「そうだ。あいつは既にアメリカの一部を手に入れようとしている」
「しかしアメリカには」
「ああ。アレがあるからな」
「楽しそうでございますね」
「アレと石神が潰し合ってくれれば面白いな」
「そうでございますね」
椅子の男が声を上げて笑った。
その背後に、黒い霧が立ち込めた。
白衣の男は一礼し、口を押えながら急いで退出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
月曜日の夜。
俺はジェイと会っていた。
麻布にあるCIAのセイフハウスだ。
「また、とんでもないものが出て来たな」
「ああ。俺の子どもたちでも危うかった」
俺たちは四つ切に引き伸ばした幾つもの写真を大きなテーブルに拡げていた。
「これも「カルマ」の仕業か?」
「間違いない。俺たちのことをよく知っている」
「これまでの戦闘データか」
「そうだ」
敢えて一頭を犠牲にしてまで、最強戦力の亜紀ちゃんを本隊と引き離す戦略。
双子を分断する攻撃法。
確実に双子を殺すための作戦だった。
それが構築できるほど、「業」は俺たちの戦力を知っている。
俺たちは改めて「巨獣」の写真を見た。
百メートルを超える身体。
全身が装甲板のような硬質の皮膚で重なり合って覆われている。
「こいつらは「花岡」を使う。だから通常兵器が無効化されてしまう」
「厄介だな」
「現時点では対処できないだろう」
「核兵器は?」
「有効だろうが、弾着まで大人しく待ってない。あのスピードで逃げるだろうな」
「戦闘機からのミサイル攻撃は?」
「亜紀ちゃんが乗ったF15の電子機器が途中でダウンしたそうだ。恐らく「轟雷」に似た電磁波攻撃ができる」
「戦艦の大型砲は?」
「有効かもしれんが、もうお前たちも持ってないだろう?」
俺たちは笑った。
第二次世界大戦以降、海戦は航空戦力に主力が移り、さらにミサイル攻撃が主流になった。
それを防ぐ戦力の登場に、世界の軍事関係者は頭を悩ますだろう。
「タイガーのレールガンか」
「そうだな。お前たちもレールガンの開発はしているだろうけど、実用は遠いだろう。むしろ「CMS(Conventional Strike Missile)」が現在実現性が高いかな?」
「よく勉強している」
ジェイが唸った。
「タイガーのレールガンはレール長がそれほど無いと聞いた」
「そうか」
「教えてはくれないんだな?」
「お前らが米軍のうちはな」
「そうだな」
ジェイは考え込んだ。
「話を変える。タイガーはあの生物はどのように開発されたと思う?」
「遺伝子操作だろうな。それ以外は考えられん」
「まさか、遺伝子を自在に組み替えてあんなものを生み出す技術が!」
ジェイが驚愕した。
「そうだとしか言いようがないな。もちろん、まだまだ自由自在とは行かないだろう。今回もあの15頭が全てだ」
「しかしあのサイズは」
「俺は恐竜の遺伝子も発見されたんだと思うぞ?」
「!」
「この外観から見るに、俺は装甲恐竜がベースになっているんじゃないかと思う」
「なんだと?」
「ジェイ、今更常識は捨てろ。現に存在するんだ。だったらあらゆる可能性で考えろよ」
「わ、分かった」
ジェイが額の汗を拭いた。
「ただでかいだけの生物なら、いくらでも対応できる。問題は」
「「ハナオカ」だな!」
「その通りだ。奴らの最大の強さはそれだ。人間以外にも、「花岡」を操れるようにしてやがる」
「そんなことができるのは何故だ?」
「そりゃ、「人間」を使っているんだろうよ」
「!」
「ガラはともかくな。脳は人間だと俺は考えている」
「タイガー!」
「それ以外には考えつかない。まったく悍ましいことをやる奴だな」
「……」
ジェイはしばし押し黙った。
「話はここまでかな。何にせよ、あの時レイと一緒にレールガンを用意してくれたマリーンに感謝する。双子はまだまだ子どもだ。諦めない戦いを示してくれた。ありがとう」
「いや、俺たちこそ、本当に助けられた。礼を言う」
「じゃあ、バーガーでも喰いに行くか!」
「待ってくれ。一つだけ。今の話はターナー少将に報告してもいいか?」
「なんだ、黙っててくれるつもりもあったのか」
「もちろんだ! 俺は米軍に忠誠を誓っているが、俺自身はタイガーの友だと思っている」
俺はジェイの肩を叩いた。
「ありがとう、親友!」
「い、いや」
「ターナー少将なら問題はない。全部話してくれ」
「ありがとう」
「ジェイ、麻布に美味いバーガーを出す店があるんだ。お前に「六根清浄」の限定バーガーを喰わせてやろう」
「ロッコン?」
俺は笑ってジェイを連れ出した。
「ああ、でもお前のおごりだからな!」
「分かっている」
俺たちは肩を組んで、笑いながら歩いた。
ザハ・ハディッドの巨大な椅子に腰かけた、怨霊を纏ったような雰囲気の男が言った。
「申し訳ありません。分断して、あれほど早く到着するとは」
前髪が頭頂まで禿げ上がった痩せぎすの白衣の男が答えた。
分厚い眼鏡のせいで巨大化した眼は、オドオドとし、前を向かない。
「まあいい。これでまたあいつらの戦力が知れた。お前の「バイオビースト」はなかなかに優秀だな」
「ありがとうございます」
「バイオノイドは量産が容易いが、バイオビーストは時間は掛かるが強力だ。100頭もいれば、海上の戦力は一掃できるかな」
「核兵器を使われれば別ですが、まあ大抵の状況で逃げ切りますな」
「陸戦タイプはどうなっている?」
「はい。数年のうちにはカルマ様のご満足のいくものが出来上がるでしょう」
「空戦タイプはどうだ」
「そちらはまだ研究中です。ですが必ず」
「お前は役立つ。楽しみだ」
闇そのものが笑ったような邪悪な笑みに、白衣の男はたじろいだ。
しかし、不興を買えば即座に殺されることをよく知っている。
やっとのことで言った。
「カルマ様のお力あってのことです」
「石神にはまだ届かないがな」
「今回は、あの謎の力は観測できませんでしたね」
「まあいい。あいつも自在には扱えないのかもしれん」
「山梨での「蛇」はどうします?」
「まだだ。あれはいつか対処できる。むしろ今回見られた「レールガン」の対応を考えねばな」
「フフフ、イシガミも徐々に底が見えましたね」
「ミハイル、侮るな。あいつも強くなる」
「さようで」
「あいつは俺に似ている。戦いになれば、どこまでも手を拡げてくる」
「はい。カルマ様がいずれロシアを掌握するように」
「そうだ。あいつは既にアメリカの一部を手に入れようとしている」
「しかしアメリカには」
「ああ。アレがあるからな」
「楽しそうでございますね」
「アレと石神が潰し合ってくれれば面白いな」
「そうでございますね」
椅子の男が声を上げて笑った。
その背後に、黒い霧が立ち込めた。
白衣の男は一礼し、口を押えながら急いで退出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
月曜日の夜。
俺はジェイと会っていた。
麻布にあるCIAのセイフハウスだ。
「また、とんでもないものが出て来たな」
「ああ。俺の子どもたちでも危うかった」
俺たちは四つ切に引き伸ばした幾つもの写真を大きなテーブルに拡げていた。
「これも「カルマ」の仕業か?」
「間違いない。俺たちのことをよく知っている」
「これまでの戦闘データか」
「そうだ」
敢えて一頭を犠牲にしてまで、最強戦力の亜紀ちゃんを本隊と引き離す戦略。
双子を分断する攻撃法。
確実に双子を殺すための作戦だった。
それが構築できるほど、「業」は俺たちの戦力を知っている。
俺たちは改めて「巨獣」の写真を見た。
百メートルを超える身体。
全身が装甲板のような硬質の皮膚で重なり合って覆われている。
「こいつらは「花岡」を使う。だから通常兵器が無効化されてしまう」
「厄介だな」
「現時点では対処できないだろう」
「核兵器は?」
「有効だろうが、弾着まで大人しく待ってない。あのスピードで逃げるだろうな」
「戦闘機からのミサイル攻撃は?」
「亜紀ちゃんが乗ったF15の電子機器が途中でダウンしたそうだ。恐らく「轟雷」に似た電磁波攻撃ができる」
「戦艦の大型砲は?」
「有効かもしれんが、もうお前たちも持ってないだろう?」
俺たちは笑った。
第二次世界大戦以降、海戦は航空戦力に主力が移り、さらにミサイル攻撃が主流になった。
それを防ぐ戦力の登場に、世界の軍事関係者は頭を悩ますだろう。
「タイガーのレールガンか」
「そうだな。お前たちもレールガンの開発はしているだろうけど、実用は遠いだろう。むしろ「CMS(Conventional Strike Missile)」が現在実現性が高いかな?」
「よく勉強している」
ジェイが唸った。
「タイガーのレールガンはレール長がそれほど無いと聞いた」
「そうか」
「教えてはくれないんだな?」
「お前らが米軍のうちはな」
「そうだな」
ジェイは考え込んだ。
「話を変える。タイガーはあの生物はどのように開発されたと思う?」
「遺伝子操作だろうな。それ以外は考えられん」
「まさか、遺伝子を自在に組み替えてあんなものを生み出す技術が!」
ジェイが驚愕した。
「そうだとしか言いようがないな。もちろん、まだまだ自由自在とは行かないだろう。今回もあの15頭が全てだ」
「しかしあのサイズは」
「俺は恐竜の遺伝子も発見されたんだと思うぞ?」
「!」
「この外観から見るに、俺は装甲恐竜がベースになっているんじゃないかと思う」
「なんだと?」
「ジェイ、今更常識は捨てろ。現に存在するんだ。だったらあらゆる可能性で考えろよ」
「わ、分かった」
ジェイが額の汗を拭いた。
「ただでかいだけの生物なら、いくらでも対応できる。問題は」
「「ハナオカ」だな!」
「その通りだ。奴らの最大の強さはそれだ。人間以外にも、「花岡」を操れるようにしてやがる」
「そんなことができるのは何故だ?」
「そりゃ、「人間」を使っているんだろうよ」
「!」
「ガラはともかくな。脳は人間だと俺は考えている」
「タイガー!」
「それ以外には考えつかない。まったく悍ましいことをやる奴だな」
「……」
ジェイはしばし押し黙った。
「話はここまでかな。何にせよ、あの時レイと一緒にレールガンを用意してくれたマリーンに感謝する。双子はまだまだ子どもだ。諦めない戦いを示してくれた。ありがとう」
「いや、俺たちこそ、本当に助けられた。礼を言う」
「じゃあ、バーガーでも喰いに行くか!」
「待ってくれ。一つだけ。今の話はターナー少将に報告してもいいか?」
「なんだ、黙っててくれるつもりもあったのか」
「もちろんだ! 俺は米軍に忠誠を誓っているが、俺自身はタイガーの友だと思っている」
俺はジェイの肩を叩いた。
「ありがとう、親友!」
「い、いや」
「ターナー少将なら問題はない。全部話してくれ」
「ありがとう」
「ジェイ、麻布に美味いバーガーを出す店があるんだ。お前に「六根清浄」の限定バーガーを喰わせてやろう」
「ロッコン?」
俺は笑ってジェイを連れ出した。
「ああ、でもお前のおごりだからな!」
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