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レイ Ⅳ

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 アヴェンタドールでドライブに行ってから、レイが少し変わった。
 時には深夜まで皇紀たちと話していたが、「今日はここまでにしましょう」と切り上げるようになった。
 よく寝るようになった。
 毎晩、俺と酒を飲んで話したがるようになった。
 俺と亜紀ちゃんが一緒に風呂に入るのを見ているようになった。

 「レイさんも一緒にどうですか?」
 「い、いいえ私は」

 「石神さん」
 「あんだよ」
 「よく寝るようにしたら、効率が良くなってきました」
 「そうかよ」
 単純な女だ。
 素直で優しい女だ。
 一生懸命で愛らしい女だ。




 土曜日。
 俺はレイを誘って丹沢の訓練に子どもたちと出掛けた。
 次々と繰り出す子どもたちの「花岡」の技に、レイは驚いていた。
 俺が指導する武器の練度に、圧倒されていた。
 ハーが獲って来たイノシシにびっくりしていた。
 ハーが裸になっているのに、「なぜ」と不審な目を向けていた。

 昼食に、みんなでおにぎりと猪肉を食べた。

 「石神さん!」
 「あんだよ」
 「凄すぎです!」
 「そうかよ」
 子どもたちが笑った。

 「まあ、イノシシを獲ったのは黙っててくれな。一応襲われて已む無く、だからな!」
 「そこですか!」
 子どもたちはめいめいに肉を切り取って自分で焚火で焼いている。

 「双子が生き延びたって、分かるだろ?」
 「はい」
 「南極に置き去りも大丈夫だって言ったよな」
 「はい、私が送り届けた時に」
 「軍隊が来ても大丈夫だって」
 「今日、確信しました」

 「実際になぁ。あいつらメキシコの麻薬カルテルをぶっ潰したようだぞ」
 「え!」
 「なんだ、「資料」になかったのか?」
 「はい!」
 「じゃあ付け加えてくれ。そこから金品を強奪して国境を越えたんだ」
 「じゃあ、私が頂いたルースは!」
 「当然、悪党共から奪ったもんだよな。でかい金庫を切り裂いて持って来たらしい」
 「!」

 「重火器を持った連中をほとんど瞬殺よな。屋敷の中の女子どもは襲わなかったようだけど。外に出してケシ畑と屋敷は消滅。まあ、なんともなぁ」
 「石神さん……」

 「あと、メキシコ軍が謎の怪物と交戦って。あれもこいつらな」
 「!」
 「最初無人島に辿り着いて、そこでサメとか獲って服を作ったのな。サメの顔とか肩に縫い込んでさ。それで謎の怪物よ!」
 「アハハハハ!」
 ついにレイが大笑いした。

 「私、てっきり最初からメキシコに流れ着いて歩いて国境を越えたんだと」
 「資料作った奴に、しっかりやれと言っといてくれ」
 「分かりました!」

 双子がニコニコしてレイを見ていた。
 レイに猪肉を渡す。
 レイが受け取って食べた。
 俺が、子どもたちがここでやった野生児キャンプの話をしてやると、レイはまた大笑いした。

 「迎えに来たら、みんなでケダモノの毛皮来てるじゃん。またイノシシだのシカだのって頭を付けてさ。亜紀ちゃんと見なかった振りして通り過ぎたもんな。なあ、亜紀ちゃん!」
 「はい。怖かったです」
 「アハハハハ!」
 「レイもやろ?」
 ルーが誘った。

 「絶対イヤ!」





 家に帰って、軽くシャワーを浴びてから夕食のトンカツを作った。
 レイも一緒に作る。

 ロース、ヒレ、ミルフィーユ。
 俺はレイが幾つも楽しめるように、いつもより小さなサイズで作らせた。
 ソースも中濃にウスターの他、デミグラス、味噌ダレ、梅しそを作る。

 亜紀ちゃんは懸命にラードの精製とポテトサラダ。
 皇紀が出来たラードで次々に揚げる。
 双子がソース担当と、ひたすらキャベツの千切り。。
 俺とレイで肉をカットした。

 「みんなで作ると楽しいですね!」
 「ロックハートの家では料理人か?」
 「はい」
 「まあ、忙しい方々だし、格式も重要だからな。でも料理は自分で作るのが一番いいんだよ」
 「そうですね!」
 「楽しいし、何より自分に本当に合ったものが作れる。塩加減一つでも、その日の体調で違うんだからな」
 「なるほど!」

 出来上がった料理をみんなで食べる。
 争って肉を食べるが、俺が二枚ずつ取れと言っているので、それほどの混乱はない。
 
 「美味しいです!」
 レイが嬉しそうに言う。
 一通り食べてみて、ミルフィーユが気に入ったようだ。
 ソースは中濃と味噌ダレ。
 ポテトサラダも美味しいと言ってたくさん食べた。
 今日はキュウリではなくピクルスを使っている。
 膨大な食材がすべて消えた。

 コーヒーを飲んで風呂に入ろうとすると、亜紀ちゃんが飛んで来た。

 「なに、サラっと独りで入ろうとしてるんですか!」
 「怒られるようなことなのか!」
 レイが笑って見ている。

 「今日は私もご一緒していいですか?」
 「もちろんですよ!」
 「亜紀ちゃん!」
 「いいじゃないですかぁ!」
 まあ、俺と亜紀ちゃんの関係を誤解されても困る。
 一緒に入った。




 レイは裸になることを躊躇しなかった。
 俺は日本の作法だと、俺はレイの背中と髪を洗ってやる。
 亜紀ちゃんが、早くこっちもと俺を誘う。
 笑って洗ってやる。
 亜紀ちゃんとレイが、俺の背中と髪を洗ってくれる。

 「がんばれー」
 「?」
 「タカさんはハゲになるのを怖がってるんです」
 「なるほど」
 レイも一緒に応援してくれた。

 三人で湯船に浸かる。
 誰も隠してない。
 レイのオッパイはやはり大きかった。
 栞と六花の間くらいか。

 「石神さんの身体は凄いですね」
 「そうか」
 「あ、今日は「気持ち悪くてゴメン」って言わないんですね」
 「そんな奴はこの家にいねぇ」
 亜紀ちゃんとレイはクスクスと笑った。

 「なんかよ、いつの間にか亜紀ちゃんと一緒に入るようになっちまってな」
 「そうですね!」
 「まだオチンチンの洗い方は知らないけどな!」
 「洗えますよ! タカさんが死に掛けた時にはちゃんと洗ってたじゃないですか!」
 「覚えてねぇ」
 「あぁー!」
 レイが笑う。

 「あ! タカさん、あれやって下さいよ!」
 「ああ、あれか!」
 俺は洗い場に行った。

 「虚チン花!」
 湯船がポチョンと跳ねた。

 「ギャハハハハ!」
 「アハハハハ!」

 「レイさん、ちょっとピリってしたでしょ?」
 「したした!」
 
 俺は湯船に戻った。



 「お風呂っていいものですね」
 「そうだろ? 静江さんが来た時にアルにも勧めたんだ」
 「そうだったんですか」
 俺たちは笑って風呂を上がった。
 亜紀ちゃんとレイの髪を乾かしてやる。
 レイの金髪は細く綺麗だった。

 「ここに来て、髪が変わりました」
 「結構いいシャンプーを使ってるからな」
 「やっぱりそうですか!」
 「良かったら持って帰れよ、一杯あるから」
 「ありがとうございます!」




 三人で酒を飲む。

 「レイさん、タカさんタブーって分かってます?」
 「え、タブー?」
 「はい。一つは親友の御堂さんのこと。御堂さんのことをちょっとでも悪く言ったらぶん殴られます。私でもちょっと気絶します」
 「え!」
 「もう一つは、こっちはマジで。奈津江さんのこと。奈津江さんの話をするだけで、タカさん泣いちゃうし壊れちゃうことも」
 「私、さっきしちゃった!」
 「えぇ!」

 「大丈夫だよ。俺が話したんだ」
 「タカさん!」
 「大丈夫だって」
 亜紀ちゃんの慌てぶりに、レイが驚いていた。

 「石神さん、すみませんでした」
 「だから大丈夫だって」
 亜紀ちゃんが、双子が描いた絵の話をした。
 俺が大泣きして壊れたと言った。

 「もうやめろよ」
 「あ、もうやめます!」
 「もう、奈津江は俺の弱点ではない。俺は奈津江を喪ってはいないんだからな」
 「そーでちゅよねー、よちよち」
 亜紀ちゃんが俺の頭を撫でる。

 「このやろう」
 レイが笑った。 

 「レイのご両親は?」
 「はい、ハイスクールの時に飛行機事故で」
 「そうだったか」
 「でも、遺産もありましたし。それほどの苦労は無かったんですよ。その時に私をロックハート家のシズエさんが引き取ってくれましたし」
 「そうか」
 亜紀ちゃんがレイを見ていた。

 「こいつらの両親もな」
 「はい、知っています。親友だった石神さんが引き取ったことも」
 「俺がこんなだからな。ちょっと変わった子たちになったけどな」
 「はい!」
 亜紀ちゃんが大きな声で言った。






 「こいつらは俺の宝なんだ。レイ、よろしく頼むな」
 「はい! お任せ下さい」
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