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顕さんの退院祝い
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土曜日。
顕さんの退院祝いの準備をしていた。
俺は迎えに行くと言ったのだが、もう病人ではないと断られた。
顕さんは和食が好きだ。
だから鷹を呼んでいた。
「頼む、大事な方なんだ」
「お任せ下さい」
鷹は喜んで引き受けてくれた。
まったく、最高の女だ。
響子と六花、そして栞も呼んでいる。
俺と子どもたちは鷹を手伝って、一緒に作った。
鯛の焼き物、黄身がけ。
マグロの赤身とスズキ、ヒラメの御造り。
各種テンプラ。
里芋とレンコンの煮物他、各種器。
海藻サラダ。
椀はエビ真丈だ。
ロボはうちが来客が多いのに慣れ、かえって大勢集まるとごちそうが出ることを覚えた。
はしゃいでいる。
三時ごろに顕さんが来て、全員で出迎えた。
ロボが真っ先に玄関へ来る。
「あれ、ネコがいる」
顕さんがそう言うと、ロボが足に絡まって大歓迎した。
自分を害する者がいないことを学んでいる。
「今日はお世話になります」
「「「「「いらっしゃいませー」」」」」」
「にゃ」
間もなく、響子と六花がタクシーで来た。
リヴィングで響子が顕さんに抱き着く。
「響子ちゃん、会いたかったよ」
「アキラさーん!」
リヴィングはまだ準備で忙しない。
俺は地下に案内した。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
「今日はわざわざありがとう」
「この日をみんなで待ってたんですから」
「そうか」
響子は顕さんにベッタリだ。
「顕さん、まだ顕さんを見つけられないの」
顕さんが渡したCGのことだ。
「そうか。まあゆっくり探してよ」
「ええ、顕さんに会いたいよー」
「ダメだよ。パズルと同じで自分の力でやってごらん」
「うーん」
しばらく話した後、俺は六花に響子を少し寝かせるように言った。
「顕さん、今日は楽しんで下さいね」
「もちろん。もう楽しくて仕方がないよ」
「ああ、そうだ。また別荘へ行きましょうよ」
「ああ」
「二泊くらいしか出来ませんが」
「いや、それは俺が帰ってからまた頼むよ」
「遠慮しないでください」
「そうじゃないんだ。俺はあっちでそれを楽しみに仕事を頑張れると思うから」
顕さんはそう言った。
「そうですか。でもいつでも言って下さいね」
「石神くんは優しいなぁ」
しばらく話し込んでいると、亜紀ちゃんが呼びに来た。
俺たちは上に上がった。
顕さんは鷹の料理を絶賛した。
「仕事でいろんな料亭にも行ったけど、これは最高だな」
「鷹は有名な料亭の娘なんですよ」
「どうりで!」
鷹も嬉しそうに笑っていた。
「今日は顕さんに最高の和食を食べて欲しくて、頼んで来てもらいました」
「わざわざすまないね」
「いいえ、石神先生の頼み事なら、いつでも」
「君もか!」
みんなが笑った。
「でも、栗ご飯で良かったんですか? 白いご飯も炊いてありますが」
「ああ、これが是非食べたかった」
ご飯は栗ご飯にした。
俺が好きなこともあるが、食べたいものはあるかと俺が聞いたら、栗ご飯がいいとおっしゃった。
「俺も大好きなんですけど」
「ああ、だからか。実はね、石神くんが倒れた時に、奈津江にせがまれたんだ」
「え?」
「栗ご飯の作り方を教えてくれって。奈津江は料理は全然だったのにな。突然言われて困った」
「そうだったんですか」
「タカさん、大丈夫ですか?」
亜紀ちゃんが心配そうに言った。
「ああ。俺と顕さんは同じ悲しみを乗り越えて来たんだ。顕さんの前で取り乱したりはしないよ」
「石神くん……」
「きっと、俺のために作ってくれようとしたんですね」
「そうだったんだろうな。でもな、俺も作り方を知らなくてな。大体季節が夏だったし、材料も無かった」
「そうですね」
「石神くんに何が食べたいかと聞かれた時に、ふと思い出した。奈津江の導きかな」
「そうでしょう、きっと」
みんな遠慮して白いご飯ばかり食べた。
俺と顕さんが栗ご飯を味わった。
響子にお前も食べろと言うと、嬉しそうに食べた。
食事が終わり、お茶を飲みながらゆったりとした。
俺は双子に合図した。
二人が自分の部屋から大きな額を抱えてくる。
顕さんが何かと見ている。
俺は額をお見せした。
奈津江が、顕さんの家の玄関で立って笑っている絵だった。
「おい、これは……」
次の瞬間、顕さんが泣き崩れた。
「双子に描いてもらったんです。俺もやられましたって話しましたよね」
「あ、ああ」
「俺たちの最大の弱点ですね」
「うん」
俺は顕さんを風呂に連れて行った。
一緒に入る。
背中を流していると、顕さんは落ち着いて来られた。
「まいったな。こんなに泣くものなんだな」
「そうですよねぇ。俺なんか亜紀ちゃんに抱えられて風呂に入れられましたよ」
「アハハハ」
二人で湯船に浸かる。
「本当はね、いけないらしいんです」
「え?」
「この世のものではない者とは、あんまり関わってはいけないと。そう双子は言ってました」
「そういうものなのか」
「でもまあ、いいじゃないですか。これで地獄に行くことになっても、俺は満足ですよ」
「俺もそうだな。奈津江があんなに笑っているなんて」
「そうですよね」
「石神くんは奈津江の日記を読んだかい?」
「いいえ。どうにも勇気が出なくて」
「そうか。今日の栗ご飯のことも書いてあったよ」
「そうなんですか」
「作れなくて悔しいって書いてあった」
「そうですか」
「君は本当に奈津江に愛されていたなぁ」
「そりゃそうですよ!」
「アハハハ」
「後で俺の部屋の奈津江の絵を見て下さい」
「ああ、頼む」
「俺の方が断然笑ってますから!」
「なんだとぉー!」
俺たちは笑った。
奈津江が笑ってくれていた。
俺たちはそれだけで、もういい。
顕さんの退院祝いの準備をしていた。
俺は迎えに行くと言ったのだが、もう病人ではないと断られた。
顕さんは和食が好きだ。
だから鷹を呼んでいた。
「頼む、大事な方なんだ」
「お任せ下さい」
鷹は喜んで引き受けてくれた。
まったく、最高の女だ。
響子と六花、そして栞も呼んでいる。
俺と子どもたちは鷹を手伝って、一緒に作った。
鯛の焼き物、黄身がけ。
マグロの赤身とスズキ、ヒラメの御造り。
各種テンプラ。
里芋とレンコンの煮物他、各種器。
海藻サラダ。
椀はエビ真丈だ。
ロボはうちが来客が多いのに慣れ、かえって大勢集まるとごちそうが出ることを覚えた。
はしゃいでいる。
三時ごろに顕さんが来て、全員で出迎えた。
ロボが真っ先に玄関へ来る。
「あれ、ネコがいる」
顕さんがそう言うと、ロボが足に絡まって大歓迎した。
自分を害する者がいないことを学んでいる。
「今日はお世話になります」
「「「「「いらっしゃいませー」」」」」」
「にゃ」
間もなく、響子と六花がタクシーで来た。
リヴィングで響子が顕さんに抱き着く。
「響子ちゃん、会いたかったよ」
「アキラさーん!」
リヴィングはまだ準備で忙しない。
俺は地下に案内した。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
「今日はわざわざありがとう」
「この日をみんなで待ってたんですから」
「そうか」
響子は顕さんにベッタリだ。
「顕さん、まだ顕さんを見つけられないの」
顕さんが渡したCGのことだ。
「そうか。まあゆっくり探してよ」
「ええ、顕さんに会いたいよー」
「ダメだよ。パズルと同じで自分の力でやってごらん」
「うーん」
しばらく話した後、俺は六花に響子を少し寝かせるように言った。
「顕さん、今日は楽しんで下さいね」
「もちろん。もう楽しくて仕方がないよ」
「ああ、そうだ。また別荘へ行きましょうよ」
「ああ」
「二泊くらいしか出来ませんが」
「いや、それは俺が帰ってからまた頼むよ」
「遠慮しないでください」
「そうじゃないんだ。俺はあっちでそれを楽しみに仕事を頑張れると思うから」
顕さんはそう言った。
「そうですか。でもいつでも言って下さいね」
「石神くんは優しいなぁ」
しばらく話し込んでいると、亜紀ちゃんが呼びに来た。
俺たちは上に上がった。
顕さんは鷹の料理を絶賛した。
「仕事でいろんな料亭にも行ったけど、これは最高だな」
「鷹は有名な料亭の娘なんですよ」
「どうりで!」
鷹も嬉しそうに笑っていた。
「今日は顕さんに最高の和食を食べて欲しくて、頼んで来てもらいました」
「わざわざすまないね」
「いいえ、石神先生の頼み事なら、いつでも」
「君もか!」
みんなが笑った。
「でも、栗ご飯で良かったんですか? 白いご飯も炊いてありますが」
「ああ、これが是非食べたかった」
ご飯は栗ご飯にした。
俺が好きなこともあるが、食べたいものはあるかと俺が聞いたら、栗ご飯がいいとおっしゃった。
「俺も大好きなんですけど」
「ああ、だからか。実はね、石神くんが倒れた時に、奈津江にせがまれたんだ」
「え?」
「栗ご飯の作り方を教えてくれって。奈津江は料理は全然だったのにな。突然言われて困った」
「そうだったんですか」
「タカさん、大丈夫ですか?」
亜紀ちゃんが心配そうに言った。
「ああ。俺と顕さんは同じ悲しみを乗り越えて来たんだ。顕さんの前で取り乱したりはしないよ」
「石神くん……」
「きっと、俺のために作ってくれようとしたんですね」
「そうだったんだろうな。でもな、俺も作り方を知らなくてな。大体季節が夏だったし、材料も無かった」
「そうですね」
「石神くんに何が食べたいかと聞かれた時に、ふと思い出した。奈津江の導きかな」
「そうでしょう、きっと」
みんな遠慮して白いご飯ばかり食べた。
俺と顕さんが栗ご飯を味わった。
響子にお前も食べろと言うと、嬉しそうに食べた。
食事が終わり、お茶を飲みながらゆったりとした。
俺は双子に合図した。
二人が自分の部屋から大きな額を抱えてくる。
顕さんが何かと見ている。
俺は額をお見せした。
奈津江が、顕さんの家の玄関で立って笑っている絵だった。
「おい、これは……」
次の瞬間、顕さんが泣き崩れた。
「双子に描いてもらったんです。俺もやられましたって話しましたよね」
「あ、ああ」
「俺たちの最大の弱点ですね」
「うん」
俺は顕さんを風呂に連れて行った。
一緒に入る。
背中を流していると、顕さんは落ち着いて来られた。
「まいったな。こんなに泣くものなんだな」
「そうですよねぇ。俺なんか亜紀ちゃんに抱えられて風呂に入れられましたよ」
「アハハハ」
二人で湯船に浸かる。
「本当はね、いけないらしいんです」
「え?」
「この世のものではない者とは、あんまり関わってはいけないと。そう双子は言ってました」
「そういうものなのか」
「でもまあ、いいじゃないですか。これで地獄に行くことになっても、俺は満足ですよ」
「俺もそうだな。奈津江があんなに笑っているなんて」
「そうですよね」
「石神くんは奈津江の日記を読んだかい?」
「いいえ。どうにも勇気が出なくて」
「そうか。今日の栗ご飯のことも書いてあったよ」
「そうなんですか」
「作れなくて悔しいって書いてあった」
「そうですか」
「君は本当に奈津江に愛されていたなぁ」
「そりゃそうですよ!」
「アハハハ」
「後で俺の部屋の奈津江の絵を見て下さい」
「ああ、頼む」
「俺の方が断然笑ってますから!」
「なんだとぉー!」
俺たちは笑った。
奈津江が笑ってくれていた。
俺たちはそれだけで、もういい。
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