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顕さんの退院
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月曜日。
今日は顕さんの退院だ。
午前中に出て行くので、俺は9時に顕さんの病室へ伺った。
「いよいよ退院ですね」
「ああ、石神くんには本当にお世話になった」
「ガンも再発はありませんし、もう大丈夫ですよ」
六花が響子を連れて来た。
寝間着ではなく、白いワンピースに明るいピンクのジャケットを羽織っていた。
「響子ちゃん、今日で退院だよ」
「はい、おめでとうございます」
「響子がダメだって言うなら、あと一か月くらい退院を伸ばすぞ?」
「おい、石神くん」
「だめよー!」
響子が反対したので、今日で退院だ。
「響子ちゃんに、プレゼントがあるんだ」
顕さんは、そう言うとPCの画面を開いた。
「なーに?」
「ほら」
顕さんはプログラムを起動した。
大きな邸宅のCGが出る。
「なにこれ!」
「響子ちゃんと石神くんの家だよ」
「えー! うそー!」
顕さんは立体映像の庭をクリックした。
画面が切り替わり、庭の映像が出てくる。
その庭には4頭の虎がいて、仲良く遊んでいる。
「すごいよ!」
空をクリックすると、天候が変わった。
晴れから曇り、雨、大雨に変わる。
雨が降ると、邸宅から庭に屋根が出てスライドしていく。
大雨になると、虎たちは専用の部屋へ入っていく。
大きなベッドがある部屋だ。
「これなら濡れないね!」
「そうだな」
幾つか部屋もクリックして見せてくれた。
広いリヴィングや俺と響子の寝室。
寝室には、六花用のベッドがある。
「私は別なベッドなのですか?」
六花が不満そうに言う。
「うーんとね、時々は一緒でもいいよ」
「そうですか!」
六花が嬉しそうに笑う。
屋上には、あのガラスの部屋があった。
また、セグウェイ用のコースもある。
俺と響子、六花のキャラクターも出せる。
それぞれを専用のコントローラーで動かせる。
セグウェイでの競争もできる。
顕さんに基本的な設計を担当してもらい、ゲームメーカーにCGキャラクターのデザインや動きを頼んだ。
まだ見せてはいないが、幾つかのミニゲームもできる。
響子は夢中でコントローラーを使った。
邸宅や庭を自由に移動できる。
画面の中の響子は、歩くことも、走ることもできるのだ。
「どうだ、響子?」
「顕さん、ありがとう!」
響子が顕さんに抱き着いて、頬にキスをした。
顕さんは満面の笑みで響子を抱き締めた。
「ごめんね、響子ちゃん。俺は今日で退院なんだ」
「うん」
「時々は来れるけど、来年は海外へ行ってしまうんだよ」
「うん」
「ごめんね。でも、響子ちゃんのことは、どこに行ったって大好きだよ」
「私もだよー!」
ついに響子が泣き出した。
顕さんがベッドに抱え上げて座らせる。
横に座って響子の頭を撫でてやる。
「顕さん、元気でね」
「うん。響子ちゃんもね」
響子はもう一度顕さんに抱き着き、頬にキスをした。
「このパソコンごと、響子ちゃんにあげる。ソフトとデータはハードディスクに入っているから、持ち出せるよ」
「はい」
「ああ、この家には実は僕もいるんだ。探してくれるかな?」
「ほんとう! 絶対に探す!」
「ありがとう」
ミニゲームの一つだ。
隠しキャラの顕さんがいる。
響子は六花に連れられて出て行った。
「もう荷物はまとめてあるようですね」
「ああ。いつでも退院できるよ」
「じゃあ、手続きが済んだら、俺が送りますから」
「悪いな。お言葉に甘えさせてもらうよ」
俺も一旦自分の部屋へ戻った。
一江の報告を聞き、一江に顕さんの部屋のPCを響子の部屋へ移動するように頼んだ。
退院手続きが終わり、俺に事務から連絡が来た。
俺は顕さんの荷物を持ち、ハマーへ積んだ。
出発する。
「響子ちゃんは大丈夫かな?」
「そりゃ、泣きまくりますよ」
「おい」
「しょうがないですよ。大好きな人間と別れるんですから。それは顕さんも俺もよく知っているでしょう」
「それはそうだが」
「響子が乗り越えるしかないんです」
「そうだな」
「俺だって寂しいですし、顕さんだって同じでしょう」
「そうだったな」
「でも、傍にいないっていうだけですよ。俺たちはちゃんと繋がっています」
「そうだな。うん、その通りだ」
1時間ほどで、顕さんの家に着いた。
顕さんが玄関を開け、俺が荷物を降ろした。
「おい、なんだこれは!」
家中が磨き上げられている。
「石神くん、何をしてくれたんだ!」
「かるーく、お掃除を。子どもたちがやってくれましたよ」
「これはやりすぎだよ」
顕さんの困った顔が面白かった。
「さあ、中へ入りましょう。この荷物結構重いですって」
「あ、ああ」
スリッパを履いて、居間に行く。
居間もピカピカだ。
「俺はすぐに海外へ行くから、軽くでいいって言ったよな?」
「はい。ですから「かるーく」で。そうじゃなかったら、建て替えてたかもですね」
「おい、本当に困るよ!」
俺たちは笑った。
カーテンなどもすべて洗っている。
新築とまではいかないが、結構綺麗になっているはずだ。
俺はキッチンでお茶を煎れた。
お茶も買い直している。
数か月も入院していたためだ。
「お茶がやけに美味いぞ?」
「そうですか」
いいお茶にしてある。
「余計なこととは思いましたが、冷蔵庫にもちょっと食材を入れました。足が早いものもあるので、後で見ておいてください」
顕さんは早速見に行った。
驚いている。
「石神くん、やり過ぎだよ」
「何しろ、石神家の監修ですからね。こんなもんですって」
顕さんが好きそうな魚や野菜、また日持ちのするものも多い。
俺たちはのんびりとお茶を飲んだ。
俺は預かっていたものを顕さんに渡す。
「これは?」
「うちのナースたちから預かりました。くだらないものですが」
大きな色紙に寄せ書きがある。
顕さんを担当していたナースたちだ。
今までで最も世話のかからなかった患者さん、いつも明るく話しかけて下さって元気づけられたこと、そういったナースたちの愛情のこもった寄せ書きだった。
「普通はこんなことしないんですけどね。まあ、顕さんは特別で、みんなから是非にって」
顕さんは寄せ書きを見て涙ぐんでいた。
「こんなことを言ってはあれだけど。俺は病気になって石神くんの病院へ入って、本当に良かったよ」
「こちらこそです」
顕さんはちょっと待っててと言って、二階に上がって行った。
「これを石神くんに持っていて欲しいんだ」
ダンボールを抱えてくる。
奈津江の日記だった。
「これはダメですよ! 顕さんが持っていないと!」
「俺はこれから海外へ行ってしまう。向こうでもしものことがあるといけないし、ここに置いていくのも不安だ。石神くんに持ってて欲しいんだよ」
「でも」
「もっと前に渡したかったんだ。でも君は絶対に受け取らないだろうと思った」
「そりゃそうですよ!」
「事情は今話した通りだ。君が持つべきだ」
「でも」
「頼む! 奈津江のためだ。俺は一度読んだよ。石神くんも是非読んでおくべきだと思う」
「そうですか」
「高校の時から書き始めたようだ。8冊ある。何かあった日に書いていたようだな」
「分かりました。顕さんがお帰りになるまで、大切にお預かりします」
顕さんが俺の肩を叩いた。
「宜しく頼む」
俺はキッチンを借り、顕さんのために食事を作った。
足の早そうな材料から使った。
刺身と煮魚にした。
顕さんは美味しいと言って、結構召し上がってくれた。
俺はまた来ますと言い、顕さんの家を出た。
信号待ちのたびに、助手席に置いたダンボールを見た。
「お前の裸を見なかった俺だ。この日記も読まないから安心しろ」
奈津江がそこにいる気がした。
今日は顕さんの退院だ。
午前中に出て行くので、俺は9時に顕さんの病室へ伺った。
「いよいよ退院ですね」
「ああ、石神くんには本当にお世話になった」
「ガンも再発はありませんし、もう大丈夫ですよ」
六花が響子を連れて来た。
寝間着ではなく、白いワンピースに明るいピンクのジャケットを羽織っていた。
「響子ちゃん、今日で退院だよ」
「はい、おめでとうございます」
「響子がダメだって言うなら、あと一か月くらい退院を伸ばすぞ?」
「おい、石神くん」
「だめよー!」
響子が反対したので、今日で退院だ。
「響子ちゃんに、プレゼントがあるんだ」
顕さんは、そう言うとPCの画面を開いた。
「なーに?」
「ほら」
顕さんはプログラムを起動した。
大きな邸宅のCGが出る。
「なにこれ!」
「響子ちゃんと石神くんの家だよ」
「えー! うそー!」
顕さんは立体映像の庭をクリックした。
画面が切り替わり、庭の映像が出てくる。
その庭には4頭の虎がいて、仲良く遊んでいる。
「すごいよ!」
空をクリックすると、天候が変わった。
晴れから曇り、雨、大雨に変わる。
雨が降ると、邸宅から庭に屋根が出てスライドしていく。
大雨になると、虎たちは専用の部屋へ入っていく。
大きなベッドがある部屋だ。
「これなら濡れないね!」
「そうだな」
幾つか部屋もクリックして見せてくれた。
広いリヴィングや俺と響子の寝室。
寝室には、六花用のベッドがある。
「私は別なベッドなのですか?」
六花が不満そうに言う。
「うーんとね、時々は一緒でもいいよ」
「そうですか!」
六花が嬉しそうに笑う。
屋上には、あのガラスの部屋があった。
また、セグウェイ用のコースもある。
俺と響子、六花のキャラクターも出せる。
それぞれを専用のコントローラーで動かせる。
セグウェイでの競争もできる。
顕さんに基本的な設計を担当してもらい、ゲームメーカーにCGキャラクターのデザインや動きを頼んだ。
まだ見せてはいないが、幾つかのミニゲームもできる。
響子は夢中でコントローラーを使った。
邸宅や庭を自由に移動できる。
画面の中の響子は、歩くことも、走ることもできるのだ。
「どうだ、響子?」
「顕さん、ありがとう!」
響子が顕さんに抱き着いて、頬にキスをした。
顕さんは満面の笑みで響子を抱き締めた。
「ごめんね、響子ちゃん。俺は今日で退院なんだ」
「うん」
「時々は来れるけど、来年は海外へ行ってしまうんだよ」
「うん」
「ごめんね。でも、響子ちゃんのことは、どこに行ったって大好きだよ」
「私もだよー!」
ついに響子が泣き出した。
顕さんがベッドに抱え上げて座らせる。
横に座って響子の頭を撫でてやる。
「顕さん、元気でね」
「うん。響子ちゃんもね」
響子はもう一度顕さんに抱き着き、頬にキスをした。
「このパソコンごと、響子ちゃんにあげる。ソフトとデータはハードディスクに入っているから、持ち出せるよ」
「はい」
「ああ、この家には実は僕もいるんだ。探してくれるかな?」
「ほんとう! 絶対に探す!」
「ありがとう」
ミニゲームの一つだ。
隠しキャラの顕さんがいる。
響子は六花に連れられて出て行った。
「もう荷物はまとめてあるようですね」
「ああ。いつでも退院できるよ」
「じゃあ、手続きが済んだら、俺が送りますから」
「悪いな。お言葉に甘えさせてもらうよ」
俺も一旦自分の部屋へ戻った。
一江の報告を聞き、一江に顕さんの部屋のPCを響子の部屋へ移動するように頼んだ。
退院手続きが終わり、俺に事務から連絡が来た。
俺は顕さんの荷物を持ち、ハマーへ積んだ。
出発する。
「響子ちゃんは大丈夫かな?」
「そりゃ、泣きまくりますよ」
「おい」
「しょうがないですよ。大好きな人間と別れるんですから。それは顕さんも俺もよく知っているでしょう」
「それはそうだが」
「響子が乗り越えるしかないんです」
「そうだな」
「俺だって寂しいですし、顕さんだって同じでしょう」
「そうだったな」
「でも、傍にいないっていうだけですよ。俺たちはちゃんと繋がっています」
「そうだな。うん、その通りだ」
1時間ほどで、顕さんの家に着いた。
顕さんが玄関を開け、俺が荷物を降ろした。
「おい、なんだこれは!」
家中が磨き上げられている。
「石神くん、何をしてくれたんだ!」
「かるーく、お掃除を。子どもたちがやってくれましたよ」
「これはやりすぎだよ」
顕さんの困った顔が面白かった。
「さあ、中へ入りましょう。この荷物結構重いですって」
「あ、ああ」
スリッパを履いて、居間に行く。
居間もピカピカだ。
「俺はすぐに海外へ行くから、軽くでいいって言ったよな?」
「はい。ですから「かるーく」で。そうじゃなかったら、建て替えてたかもですね」
「おい、本当に困るよ!」
俺たちは笑った。
カーテンなどもすべて洗っている。
新築とまではいかないが、結構綺麗になっているはずだ。
俺はキッチンでお茶を煎れた。
お茶も買い直している。
数か月も入院していたためだ。
「お茶がやけに美味いぞ?」
「そうですか」
いいお茶にしてある。
「余計なこととは思いましたが、冷蔵庫にもちょっと食材を入れました。足が早いものもあるので、後で見ておいてください」
顕さんは早速見に行った。
驚いている。
「石神くん、やり過ぎだよ」
「何しろ、石神家の監修ですからね。こんなもんですって」
顕さんが好きそうな魚や野菜、また日持ちのするものも多い。
俺たちはのんびりとお茶を飲んだ。
俺は預かっていたものを顕さんに渡す。
「これは?」
「うちのナースたちから預かりました。くだらないものですが」
大きな色紙に寄せ書きがある。
顕さんを担当していたナースたちだ。
今までで最も世話のかからなかった患者さん、いつも明るく話しかけて下さって元気づけられたこと、そういったナースたちの愛情のこもった寄せ書きだった。
「普通はこんなことしないんですけどね。まあ、顕さんは特別で、みんなから是非にって」
顕さんは寄せ書きを見て涙ぐんでいた。
「こんなことを言ってはあれだけど。俺は病気になって石神くんの病院へ入って、本当に良かったよ」
「こちらこそです」
顕さんはちょっと待っててと言って、二階に上がって行った。
「これを石神くんに持っていて欲しいんだ」
ダンボールを抱えてくる。
奈津江の日記だった。
「これはダメですよ! 顕さんが持っていないと!」
「俺はこれから海外へ行ってしまう。向こうでもしものことがあるといけないし、ここに置いていくのも不安だ。石神くんに持ってて欲しいんだよ」
「でも」
「もっと前に渡したかったんだ。でも君は絶対に受け取らないだろうと思った」
「そりゃそうですよ!」
「事情は今話した通りだ。君が持つべきだ」
「でも」
「頼む! 奈津江のためだ。俺は一度読んだよ。石神くんも是非読んでおくべきだと思う」
「そうですか」
「高校の時から書き始めたようだ。8冊ある。何かあった日に書いていたようだな」
「分かりました。顕さんがお帰りになるまで、大切にお預かりします」
顕さんが俺の肩を叩いた。
「宜しく頼む」
俺はキッチンを借り、顕さんのために食事を作った。
足の早そうな材料から使った。
刺身と煮魚にした。
顕さんは美味しいと言って、結構召し上がってくれた。
俺はまた来ますと言い、顕さんの家を出た。
信号待ちのたびに、助手席に置いたダンボールを見た。
「お前の裸を見なかった俺だ。この日記も読まないから安心しろ」
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