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皇紀とミユキ Ⅴ

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 帰り道で、蓮花さんがまた僕をからかった。

 「ミユキのことばかり御褒めでございましたが、わたくしは魅力はありませんのね」
 「そんなことないですよ!」
 「折角皇紀様のために、普段着慣れないオシャレをして参りましたのに」
 「蓮花さんはものすごくお綺麗です!」
 「そんな取って付けたようなことを仰られても」
 「本当ですって! もう勘弁して下さい」
 二人が声を出して笑った。

 ピクニックから戻り、僕は蓮花さんに休んで下さいと言われた。
 眠くはなかったので、施設をゆっくり見回った。
 「IVA」の建設現場を見て、荷電粒子砲やレールガンの施設を見た。

 外を歩きながら考えていた。

 ミユキさんが記憶を取り戻したのは、蓮花さんの力だけではない。
 最も大きい要素は、もちろん「クロピョン」だ。
 でも、アレは本来は人間に制御できるものではない。
 タカさんだから従えることが出来たが、本当はあれくらいの力が僕たちには必要なのだ。
 僕は、そのことを考えた。

 超自然と言うのは容易い。
 しかしそれは思考放棄だ。
 実際にタカさんは「クロピョン」を従えているのだ。
 タカさんには及ばないのは分かっているが、僕はあれだけの力を体現したい。
 「花岡」も制御できた。
 諦めることは捨てることだ。
 帰ったら、ルーとハーにも相談してみよう。




 無意識に、あの人間ではなくされてしまった方たちの建物に来ていた。
 気は進まなかったが、僕は見たくないものを見なければならない。
 そう思った。

 僕はカードで入り口を開いた。

 何枚ものゲートを潜って、地下深くに降りた。
 周囲の壁をクッションで囲まれた部屋。
 厚い強化ガラスから中が見える。
 みんな、清潔な白い服を着ている。
 僕が見えるはずだが、何の反応も無い。
 魂が離れている。
 
 「きっとあなたがたを人間に戻します。もう少し待っていて下さい」



 
 「お前も面白いな」
 突然声がしたので、驚いて振り向いた。
 足元に細い何かがいた。
 イタチに似ているが、やけに細長い。
 顔に一つ目。
 厳重なこの施設に生き物が紛れ込むことはあり得ない。




 「クロピョン」と同じものだ。



 「お前は!」
 怖かった。
 だが、タカさんから不思議な相手には絶対にビビるなと言われている。

 「お前、力が欲しいのか」
 「い、いらない!」
 「俺がやるよ」
 「だから、いらない!」
 「こいつらを何とかしたいんだろう?」
 「お前の手は借りない!」

 「ふん、俺たちとの関り方を知っているようだな。やっぱり面白い」
 「出て行け!」
 「待てよ。試練は終わった。お前が俺を欲しがったら終わりだったけどな」
 そいつは甲高い声で笑った。

 「ああ、合格だ。俺はお前に従う」
 「やめろ、お前はいらない!」
 「怖がることはない。俺を必要な時に呼べ。それと、お前の面白い機械な、手伝ってやる」
 「……」

 「今はまだ早い。その時までお前は俺のことを忘れる」
 「なんだって?」
 「クロピョンが道を作ったお陰でお前に会えた。嬉しいぞ」
 「待て、お前は!」

 「クロピョンは久しぶりに楽しそうだ。人間に仕えるっていうのにな。俺には理解できなかったが、お前を見て分かった。確かに面白そうだ」
 「なんなんだ、お前は?」

 「しばし忘れろ。その時が来れば分かる」

 それは消えた。







 何が消えた?

 僕はブランの施設を出た。

 そろそろ夕食だろう。
 手伝いに行かなきゃ。





 僕が行くと、もう蓮花さんが全部やっていた。

 「今度はわたくしの勝ちでございます」
 蓮花さんが笑ってそう言い、僕も笑って運ぶのを手伝った。

 「ゆっくりできましたでしょうか?」
 「はい。蓮花さんの言う通り、ゆっくりすることも大切ですね」
 「皇紀様の最大の美点はその素直さです」
 「アハハハ」
 僕たちは楽しく話しながら夕食を食べた。

 「明日はお帰りですね」
 「はい。本当にお世話になりました」
 「いいえ、こちらこそでございます。皇紀様のお陰で研究が進みましたこと以上に、ミユキが楽しそうなことが何よりも」
 「そんな」
 「今日はわたくしも本当に楽しゅうございました」
 「僕も蓮花さんとこんなに仲良くなれて嬉しいです」
 「ありがとうございます」

 蓮花さんが明るく楽しい方だと知れた。
 何よりも嬉しかった。

 その夜は、蓮花さんに風呂で背中を流してもらった。
 やはり恥ずかしかった。
 蓮花さんの裸は見られなかった。
 僕が恥ずかしがっている様子を、蓮花さんがからかった。

 「石神様に怒られてしまうので、このことはどうか内密に」
 「そんなこと!」
 湯船の中で、蓮花さんに抱き締められた。

 「愛しい方の大切なお方。あなたを必ずお守りいたします」
 「僕も蓮花さんたちを必ず守ります。どんなことをしてでも」
 「やはり石神様のお子様。決意も同じでございますね」
 「はい!」

 風呂を上がり、またワイルドターキーを頂いた。
 楽しく話し、またぐっすりと眠った。



 翌朝、ミユキさんとまた組み手をした。
 二人とも楽しくて笑いが込み上げた。
 ミユキさんとも一緒にシャワーを浴びた。
 僕の身体を洗ってくれ、思わず反応したのを笑ってくれた。
 真っ赤になった。



 タクシーを呼んでもらい、僕は帰った。
 帰り際に、蓮花さんとミユキさんが僕の頬にキスをしてくれた。






 門で二人がいつまでも見送ってくれた。
 僕は誓いを新たにした。
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