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ミユキ Ⅱ
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風呂から上がり、ミユキは再び自分の部屋へ戻された。
俺と蓮花は元の大きなテーブルの部屋へ戻る。
蓮花が一度出て行き、スープ皿に入れたとろろ汁を持って来る。
だし汁を溶いた自然薯をベースに、別な薬草が入っているようだ。
俺はゆっくりと口にした。
身体が火照って来る。
「ミユキのセッティングは完全です」
「そうか」
「後程、MRIで確認いたします」
「頼む」
「石神様」
「なんだ?」
「お辛いでしょうか」
「そんなことはない。俺が決めたことだ。お前も俺に従っているだけだ」
「お辛いのですね」
蓮花は椅子に座った俺の背を抱いた。
「すべてはわたくしが為すことです。石神様はお気になさりませんように」
「お前は優しい女だな、蓮花」
「石神様のためのことしか考えておりません」
蓮花が離れ、今度はコーヒーを淹れてくる。
「石神様は、なぜわたくしまでお抱きになったのでしょうか」
「言ったはずだ。愛するお前を抱きたいと」
「ミユキの前では、いささか不都合があったのでは?」
「俺の本当の愛をあいつに見せたかった」
「愛?」
「愛する者を抱く俺が、ミユキを愛して抱いた。その本心を見せたかった」
「ミユキを愛すると?」
「そうだ。あんなに一心に俺を愛して戦おうとしている女を、どうして愛せずに済むか。俺はミユキを愛している」
「ああ、どうかそのお心がミユキの本当の心に渡りますように」
「今は俺の洗脳のうちだがな。俺はいずれミユキの心が甦ると考えている」
「それは」
「奇跡はある。俺が何度も経験しているからな」
「石神様は本当にお優しい」
蓮花が微笑んだ。
冷徹な表情の蓮花が、慈母のような顔になった。
一休みし、俺は蓮花に様々な検査をされた。
採血され、生検も受けた。
様々な検査機器を使われ、目隠しをされた老人の触診も受けた。
その老人が言った。
「神か!」
「そうではない」
「オォーゥ!」
蓮花に導かれて部屋を出て行った。
「検査の結果は後程。時間の必要なものも幾つかございますが」
「分かった」
「しばらくお休み下さい」
「少し六花の様子が見たい」
「いいえ、しばしなりともお休みを」
「大丈夫だ」
「かしこまりました」
一服し、俺は六花の実験場へ案内された。
「どーよ! ラビ?」
「タイヘンスバラシイ! リッカさまノオカゲでイクツモのカイリョウガススミマス」
「ヘッヘー!」
六花はノリノリだった。
今は「闇月花」の装置の突破を試みている。
厚さ50センチの鋼鉄の壁が、所々へこみ、曲がっている。
「花岡」の技を無効化する「闇月花」をほどこしてさえ、こうなのだ。
近接戦でならば、「花岡」の遣い手も六花には敵わない。
新宿中央公園での戦闘よりも、格段に六花は強くなっている。
「リッカさま、ツギハ100%デす」
「オッケー! じゃあ、私も全力だぁ!」
「六花、ぶち抜け!」
俺に気付き、六花が振り返って満面の笑みを浮かべた。
「石神せんせー!」
六花は壁の中央に全力の拳を放った。
そこを中心に、直径5メートルに渡って湾曲し、中央に1メートルの穴が空いた。
「ラビー! やったぜー!」
「オミゴトデスゥー」
衝撃波でラビは転んでいた。
左右の目が点滅している。
どういう感情だ?
六花が俺に駆け寄る。
俺は両手を拡げて迎えた。
しゃがみこんで、六花が俺を抱き締めた。
「凄かったなぁ、六花」
「石神先生がぶち抜けって言いましたから!」
「そうか」
俺は六花の顔を抱いてキスをした。
顔を離すと、ニコニコと笑った。
「六花様、お見事です」
「すいません、壊しちゃって良かったですか?」
「もちろんです。これで貴重なデータが取れました」
蓮花も嬉しそうに言った。
「リッカさま、ツギへマイリマショウ」
蓮花に起こされたラビが六花を誘う。
「えー、ちょっと石神先生と一緒にいたいなー」
「六花、行ってってやれ。検査が一通り終わって見に来ただけだ」
「大丈夫なんですか!」
「今のところはな。これから少し休む」
「一杯休んでください!」
俺は笑って頑張れと言った。
六花はファイティングポーズで応えた。
「明るい方ですね」
車いすを押しながら、蓮花が言った。
「ああ、最高の笑顔をする女だ」
「はい」
「美味しいものを食べると、もっといい笑顔になるぞ。今晩はまた頼む」
「かしこまりました」
俺は自分の部屋へ行き、ベッドに横になった。
「しばらく、お休みください」
「ミユキを呼んでくれないか?」
「ミユキを?」
「一緒にいたいんだ」
「それは」
「俺がここにいられる時間は少ない」
「しかし」
「あいつのために、少しでも何かしたいんだ」
蓮花は少し考えている。
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
浴衣を着たミユキが入って来た。
蓮花はいない。
「石神様、参りました」
「ああ、一緒に横になってくれるか。お前を近くで感じたい」
「はい、喜んで」
ミユキが俺の布団に入って来た。
「温かいな、お前は」
「はい」
「それに美しい」
「そうでしょうか」
「俺は一つの願いがあるんだ」
「何でも私に命じて下さい。必ず叶えてみせます」
ミユキが俺の腕を掴んだ。
「俺の願いは、お前が本当の心を取り戻すことだ」
「私の心?」
ミユキが不思議そうに俺の顔を見詰めている。
「ああ。俺はお前がお前の意志で何かをする姿を見てみたい」
「私は石神様の敵と戦うために」
「そうか。ならば存分にやってくれ」
「はい、必ず」
俺は歌った。
トマス・ルイス・デ・ヴィクトリア『聖母のミサ』だ。
《 Quam pulchra es, et quam decora, carissima!(あなたは何とお美しいことか、 何と麗しく、愛らしいことか。)》
ミユキは黙って俺を見詰めて聴いていた。
「お前は本当に美しい。「白き者(Blanc)」の最初の人間がお前で良かった。土くれからお前は生まれた。魂がお前に残っていた。俺にはそれが見えるぞ」
「はい」
「一緒に眠ろう。俺がお前に夢を見せてやる」
「はい」
俺たちは眠った。
目を覚ますと、ミユキの姿は無かった。
俺の額の髪が、撫で上げられていた。
俺と蓮花は元の大きなテーブルの部屋へ戻る。
蓮花が一度出て行き、スープ皿に入れたとろろ汁を持って来る。
だし汁を溶いた自然薯をベースに、別な薬草が入っているようだ。
俺はゆっくりと口にした。
身体が火照って来る。
「ミユキのセッティングは完全です」
「そうか」
「後程、MRIで確認いたします」
「頼む」
「石神様」
「なんだ?」
「お辛いでしょうか」
「そんなことはない。俺が決めたことだ。お前も俺に従っているだけだ」
「お辛いのですね」
蓮花は椅子に座った俺の背を抱いた。
「すべてはわたくしが為すことです。石神様はお気になさりませんように」
「お前は優しい女だな、蓮花」
「石神様のためのことしか考えておりません」
蓮花が離れ、今度はコーヒーを淹れてくる。
「石神様は、なぜわたくしまでお抱きになったのでしょうか」
「言ったはずだ。愛するお前を抱きたいと」
「ミユキの前では、いささか不都合があったのでは?」
「俺の本当の愛をあいつに見せたかった」
「愛?」
「愛する者を抱く俺が、ミユキを愛して抱いた。その本心を見せたかった」
「ミユキを愛すると?」
「そうだ。あんなに一心に俺を愛して戦おうとしている女を、どうして愛せずに済むか。俺はミユキを愛している」
「ああ、どうかそのお心がミユキの本当の心に渡りますように」
「今は俺の洗脳のうちだがな。俺はいずれミユキの心が甦ると考えている」
「それは」
「奇跡はある。俺が何度も経験しているからな」
「石神様は本当にお優しい」
蓮花が微笑んだ。
冷徹な表情の蓮花が、慈母のような顔になった。
一休みし、俺は蓮花に様々な検査をされた。
採血され、生検も受けた。
様々な検査機器を使われ、目隠しをされた老人の触診も受けた。
その老人が言った。
「神か!」
「そうではない」
「オォーゥ!」
蓮花に導かれて部屋を出て行った。
「検査の結果は後程。時間の必要なものも幾つかございますが」
「分かった」
「しばらくお休み下さい」
「少し六花の様子が見たい」
「いいえ、しばしなりともお休みを」
「大丈夫だ」
「かしこまりました」
一服し、俺は六花の実験場へ案内された。
「どーよ! ラビ?」
「タイヘンスバラシイ! リッカさまノオカゲでイクツモのカイリョウガススミマス」
「ヘッヘー!」
六花はノリノリだった。
今は「闇月花」の装置の突破を試みている。
厚さ50センチの鋼鉄の壁が、所々へこみ、曲がっている。
「花岡」の技を無効化する「闇月花」をほどこしてさえ、こうなのだ。
近接戦でならば、「花岡」の遣い手も六花には敵わない。
新宿中央公園での戦闘よりも、格段に六花は強くなっている。
「リッカさま、ツギハ100%デす」
「オッケー! じゃあ、私も全力だぁ!」
「六花、ぶち抜け!」
俺に気付き、六花が振り返って満面の笑みを浮かべた。
「石神せんせー!」
六花は壁の中央に全力の拳を放った。
そこを中心に、直径5メートルに渡って湾曲し、中央に1メートルの穴が空いた。
「ラビー! やったぜー!」
「オミゴトデスゥー」
衝撃波でラビは転んでいた。
左右の目が点滅している。
どういう感情だ?
六花が俺に駆け寄る。
俺は両手を拡げて迎えた。
しゃがみこんで、六花が俺を抱き締めた。
「凄かったなぁ、六花」
「石神先生がぶち抜けって言いましたから!」
「そうか」
俺は六花の顔を抱いてキスをした。
顔を離すと、ニコニコと笑った。
「六花様、お見事です」
「すいません、壊しちゃって良かったですか?」
「もちろんです。これで貴重なデータが取れました」
蓮花も嬉しそうに言った。
「リッカさま、ツギへマイリマショウ」
蓮花に起こされたラビが六花を誘う。
「えー、ちょっと石神先生と一緒にいたいなー」
「六花、行ってってやれ。検査が一通り終わって見に来ただけだ」
「大丈夫なんですか!」
「今のところはな。これから少し休む」
「一杯休んでください!」
俺は笑って頑張れと言った。
六花はファイティングポーズで応えた。
「明るい方ですね」
車いすを押しながら、蓮花が言った。
「ああ、最高の笑顔をする女だ」
「はい」
「美味しいものを食べると、もっといい笑顔になるぞ。今晩はまた頼む」
「かしこまりました」
俺は自分の部屋へ行き、ベッドに横になった。
「しばらく、お休みください」
「ミユキを呼んでくれないか?」
「ミユキを?」
「一緒にいたいんだ」
「それは」
「俺がここにいられる時間は少ない」
「しかし」
「あいつのために、少しでも何かしたいんだ」
蓮花は少し考えている。
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
浴衣を着たミユキが入って来た。
蓮花はいない。
「石神様、参りました」
「ああ、一緒に横になってくれるか。お前を近くで感じたい」
「はい、喜んで」
ミユキが俺の布団に入って来た。
「温かいな、お前は」
「はい」
「それに美しい」
「そうでしょうか」
「俺は一つの願いがあるんだ」
「何でも私に命じて下さい。必ず叶えてみせます」
ミユキが俺の腕を掴んだ。
「俺の願いは、お前が本当の心を取り戻すことだ」
「私の心?」
ミユキが不思議そうに俺の顔を見詰めている。
「ああ。俺はお前がお前の意志で何かをする姿を見てみたい」
「私は石神様の敵と戦うために」
「そうか。ならば存分にやってくれ」
「はい、必ず」
俺は歌った。
トマス・ルイス・デ・ヴィクトリア『聖母のミサ』だ。
《 Quam pulchra es, et quam decora, carissima!(あなたは何とお美しいことか、 何と麗しく、愛らしいことか。)》
ミユキは黙って俺を見詰めて聴いていた。
「お前は本当に美しい。「白き者(Blanc)」の最初の人間がお前で良かった。土くれからお前は生まれた。魂がお前に残っていた。俺にはそれが見えるぞ」
「はい」
「一緒に眠ろう。俺がお前に夢を見せてやる」
「はい」
俺たちは眠った。
目を覚ますと、ミユキの姿は無かった。
俺の額の髪が、撫で上げられていた。
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