上 下
526 / 2,808

アストラル界と栗ご飯

しおりを挟む
 栞がタクシーに乗り込むまで、子どもたちは待っていた。
 見えなくなるまで手を振る。


 
 帰った。



 亜紀ちゃんが鷹を呼びに行き、みんなでリヴィングに集まった。
 みんなでホットミルクを飲む。
 栞には悪いが、みんな満面の笑みだ。

 「やばかったな」
 「「「はい!」」」
 「「うん!」」

 「栞が異常に素直な性格で助かったよ」
 「あれはチョロイって言うんじゃ」
 皇紀が言う。

 「俺の恋人を悪く言うな! それにな、栞の感情的になる性格も、すぐに機嫌を直してくれるのも、あれは「母性愛」なんだよ」
 「そうなんですか?」
 「ああ、自分の大事な存在を徹底的に守ろうとする、な」
 「タカさんが子どもってことですか?」
 「もちろんそうじゃない。でもな、「母性愛」というのは、別に子どもに限らないんだよ。自分の大事な存在すべてに強烈に向く。特に、相手が弱ったりしていたらさらに余計に働く。母親が代表格だってことで「母性」ってなってるんだよ」

 「じゃあ、今回のタカさんが弱っちゃったことは」
 亜紀ちゃんが言った。

 「その通りだ。栞の特大の母性愛が爆発したんだよな」
 俺はダメ男を好きになってしまう女性の例を話してやった。

 ホットミルクを一口飲む。
 何かを食べたり飲んだりするたびに、俺の身体が戻っていくのを感じる。
 やはり、コーヒーではないものをしばらく飲もうと思った。

 「でもな、鷹だって亜紀ちゃんだって、大泣きしてくれたじゃないか。それは「母性愛」だよ、ああ、ルーとハーもな。ありがとうな」
 「皇紀だって母性愛って言うとちょっと気持ち悪いけどな。でも誰かを大事に思う心は男女もねぇ。栞は逆に特大過ぎるってだけでな」
 「タカさんは、栞さんにはいつ話そうと思ってたんですか?」
 皇紀が尋ねる。

 「ああ。ベストは鷹が帰って、俺が今よりも元気になってからだよな。できるだけ心配させたくなかったからな。だから土日かと思っていたけど、考えていた以上に悪かったからなぁ」
 「あぁ」
 「まあ、爆発させないのがベストだったけど、何とか収まって、これで良かったんじゃねぇか?」
 「そうですねぇ」

 「あ! 栞が言ってたことは、絶対に口に出すなよな!」
 「「「「はい!」」」」」
 双子が握っていた秘密をみんなが知ってしまった。
 俺は驚いたが、別にどうということもない。

 「それと亜紀ちゃん」
 「はい!」
 「悪いけど明日も学校は休んでくれるか?」
 「はい、そのつもりでしたし」
 「ないだろうけど、万一栞が来たら、鷹を連れて逃げてくれ」
 「わかりましたー」
 亜紀ちゃんは笑って言ってくれた。




 俺は、夕飯まで少し寝ることにした。
 亜紀ちゃんに、夕飯が出来たら起こしてくれと言った。
 もう、あまり寝ると夜に眠れなくなりそうだ。
 ロボが隣に来る。

 「栞は怖かったなー」
 俺が頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。

 「お前、飛びかかろうとしてたけど、やめろよな。あいつは恐ろしい力があるんだから」

 「それにな。栞は優しい女なんだ。俺なんかのために、あんなに怒ってくれるのも、優しいからなんだぞ?」

 「まあ、ほんのちょっとだけめんどくせぇけどな!」

 「でも、愛した女のことだ。面倒なんてなんでもねぇよ」

 ロボは俺の顔を舐めた。

 「分かってくれるかー。じゃあ、ちょっと寝よう」





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 「相変わらず、私の「彼」は無茶苦茶ね、レイ?」
 美少女は笑いながら、隣の巨大な虎の頭を撫でた。

 「でも今回も助かってよかったー。「大黒丸」に頼みごとをするなんて、本当に無茶するんだから」
 虎は美少女に頭を摺り寄せた。

 「あんなことすれば、代価で食べられるか、「試練」を与えられて当たり前なのにね。最初から代価を言ってたから「試練」になって良かったけどね。でも本当にバカなんだから」

 「え? だから素敵なんだって? そりゃそうなんだけどね。エヘヘ」

 「でもさ、「大黒丸」をまさか従えちゃうなんてね! あれは笑ったわ。あの人、昔から悪知恵がすごいのよ!」
 虎も大きく咆哮する。

 「だよね。流石よねぇ。レイも初めて出会った時は、全然弱いのに向かって来たんでしょ?」

 「そうそう。あいつはそういう人間だから。大事だって思ったら自分なんかないのよね。バカなんだから」
 虎が小さく鳴く。

 「まだまだあの人にはいろいろあるけど、なんとかしちゃうよ、きっと!」
 虎がまた咆哮する。

 「うん。あんまり手出しは出来ないけどね。でも、やれることはやろう」
 美少女は虎を連れて歩き出した。

 「山中さんたちはまだここに来れないから、後で下に行って話してあげましょう。また喜んでくれるわ」

 美しい青い光に満たされた地を、美少女と虎は歩いて行った。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 鷹が起こしに来てくれた。
 優しくキスをする。

 「召し上がれますか?」
 「もちろんだ」
 「肩に捕まって下さい」
 「大丈夫だ。本当にどんどん戻っているよ」
 「いえ、私が触れて欲しいんです」
 「そうか!」
 俺は鷹の肩に腕を回した。

 「あー、早くオチンチン解禁日にならねぇかなぁ!」
 「ウフフフ」





 鷹の栗ご飯は最高に上手かった。
 俺は5杯もお替りして、みんなを喜ばせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...