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取扱説明書
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身体はまだ動かないが、熱は38度まで退いた。
亜紀ちゃんが俺に温度計を向けながら、また泣いた。
裸だった俺は、パジャマを着せられている。
さっきまで、ブラブラさせながら偉そうなことを言っていたと気付いてちょっと赤くなった。
院長が出て行くように言った。
院長は俺の状態を見て、驚いている。
何か、訳の分らん見方をしているのだろう。
「さっきまで、本当に1時間もしないうちに死んでたはずだったぞ」
「宣告と余命通告は万全の……」
俺が昔院長に教わった言葉を言おうとすると、軽く額を叩かれた。
「石神、お前は」
「ありがとうございました。院長の御言葉で、俺も決断できました」
院長が俺の顔を見ている。
「お前が何をやったのかは聞かない。その方がいいんだろ?」
「すみません」
話せと言われれば、話さなければならない。
それだけ、今回は院長に助けられた。
院長は月曜日に、俺はもうまともな生活はできないだろうと言っていた。
俺が死ぬとはっきりと言っていた。
俺は冗談だろうと思っていたが、あれは本当のことだったのだ。
恐らく、そのうちに気付くと思って、院長はそれ以上何も言わなかった。
そういう優しい人間だ。
「ゆっくり休め」
院長は立ち上がって去ろうとした。
「院長! ありがとうございました。院長が言って下さったことは、俺は絶対に忘れません!」
院長は小さく手を振って部屋を出て行った。
俺は動けない身体で、心の中で土下座した。
外で待っていた子どもたちと鷹が入って来る。
「鷹、悪かったな。あんなに美味しい茶碗蒸しを」
「何言ってるんですかぁー!」
鷹が俺に抱き着いて泣いた。
子どもたちも泣いている。
ベッドに覆いかぶさって来る。
抱きしめてやりたいが、身体が動かない。
相当マズイ所まで行っていたのだろう。
「おい、鷹」
「はい!」
「オチンチンが痒い」
鷹が微笑んだ。
子どもたちも顔を上げて、少しだけ笑った。
良かった。
俺は重いからどいてくれと言った。
みんながベッドから離れたので、ロボが飛び乗って来た。
物凄い甘え方で、俺の顔に自分の頭を摺りつけてくる。
自分の匂いをつけているのだ。
もう、自分のものだと言いたいのか。
亜紀ちゃんがみんなを出て行かせた。
双子に、院長のタクシーを呼ぶように指示していた。
今晩は自分が見ていると言った。
鷹と皇紀が何か言おうとしていたが、何も言わずに出て行った。
亜紀ちゃんがまた、椅子に座って俺に温度計を向け始めた。
一晩中そうしているつもりなのだろう。
「おい、いっしょに寝てくれ」
「ダメです」
「こっちに来い。話がある」
亜紀ちゃんが渋々と温度計を椅子に置き、俺の隣にそっと寝転んだ。
「双子や他の人間には話すな」
「はい」
「「Ω」の粉末と、オロチの皮を食べた」
「!」
「出し入れは俺と皇紀しか出来ない。だから皇紀に頼んだ。でも、俺が今後どうなるのか分らん」
「はい」
「マズイことになったら、亜紀ちゃん、お前が止めてくれ」
「なんで!」
「亜紀ちゃんにしか頼めない。判断は任せる」
「そんな!」
「俺はもしかしたら、バケモノになるかもしれん。そうなったら頼むぞ」
亜紀ちゃんがまた涙を流す。
「死んでもしょうがないんだけどな。でも、お前たちのことを考えると、まだできれば死ねない」
「タカさん」
「院長が、お前たちのことは任せろと言ってくれた。だから最後の勝負に出られた」
「タカさーん!」
「どうやら勝てたようだぞ」
亜紀ちゃんが俺を抱き締めてキスをしてきた。
「院長は?」
「先ほどタクシーで帰られたと思います」
「そうか」
「おい」
「はい?」
「ロボに舐めるのをやめさせてくれ。さっきから同じところを舐められてヒリヒリする」
亜紀ちゃんは笑って、ロボにやめるように言った。
ロボは大人しく従い、自分の毛づくろいを始めた。
「ちょっと赤くなってますよ?」
「キスマークかよ」
二人で笑った。
亜紀ちゃんがそこへキスをする。
「これで私のマークです」
「ばかやろう」
「それとな」
「はい」
「その温度計な。アラーム機能があるんだよ」
「へ?」
「設定温度を超えると、アラームが鳴るのな」
「そうだったんですか!」
「セットして、亜紀ちゃんも寝ろよ」
「教えて下さいよー!」
「死に掛けてただろう!」
「だってぇ!」
「自分が使う機械は取扱説明書をちゃんと読め!」
「タカさんのバカ!」
亜紀ちゃんは俺にセットの仕方を聞いて、温度計を俺の枕元に置いた。
亜紀ちゃんに布団に入れと言った。
「亜紀ちゃん」
「はい」
「オチンチンが痒い」
亜紀ちゃんに額を軽くはたかれる。
「あと何日だっけか?」
「何がですか?」
「ほら、オチンチン禁止期間」
亜紀ちゃんに額を軽くはたかれる。
「折角鷹が来てくれたのにー」
「え、延長ですぅ!」
亜紀ちゃんが宣言した。
「まったく、ちょっと元気になったら、もう元気になっちゃうんですか!」
「おいおい」
「あの、我慢できないなら、私が」
「やまなかぁー!」
二人で笑った。
俺は眠くなったといい、目を閉じた。
亜紀ちゃんがそっとベッドを抜けたのを感じる。
薄目を開けると、亜紀ちゃんはUSMを開けて、「テンガ」の取扱説明書を熱心に読んでいた。
亜紀ちゃんが俺に温度計を向けながら、また泣いた。
裸だった俺は、パジャマを着せられている。
さっきまで、ブラブラさせながら偉そうなことを言っていたと気付いてちょっと赤くなった。
院長が出て行くように言った。
院長は俺の状態を見て、驚いている。
何か、訳の分らん見方をしているのだろう。
「さっきまで、本当に1時間もしないうちに死んでたはずだったぞ」
「宣告と余命通告は万全の……」
俺が昔院長に教わった言葉を言おうとすると、軽く額を叩かれた。
「石神、お前は」
「ありがとうございました。院長の御言葉で、俺も決断できました」
院長が俺の顔を見ている。
「お前が何をやったのかは聞かない。その方がいいんだろ?」
「すみません」
話せと言われれば、話さなければならない。
それだけ、今回は院長に助けられた。
院長は月曜日に、俺はもうまともな生活はできないだろうと言っていた。
俺が死ぬとはっきりと言っていた。
俺は冗談だろうと思っていたが、あれは本当のことだったのだ。
恐らく、そのうちに気付くと思って、院長はそれ以上何も言わなかった。
そういう優しい人間だ。
「ゆっくり休め」
院長は立ち上がって去ろうとした。
「院長! ありがとうございました。院長が言って下さったことは、俺は絶対に忘れません!」
院長は小さく手を振って部屋を出て行った。
俺は動けない身体で、心の中で土下座した。
外で待っていた子どもたちと鷹が入って来る。
「鷹、悪かったな。あんなに美味しい茶碗蒸しを」
「何言ってるんですかぁー!」
鷹が俺に抱き着いて泣いた。
子どもたちも泣いている。
ベッドに覆いかぶさって来る。
抱きしめてやりたいが、身体が動かない。
相当マズイ所まで行っていたのだろう。
「おい、鷹」
「はい!」
「オチンチンが痒い」
鷹が微笑んだ。
子どもたちも顔を上げて、少しだけ笑った。
良かった。
俺は重いからどいてくれと言った。
みんながベッドから離れたので、ロボが飛び乗って来た。
物凄い甘え方で、俺の顔に自分の頭を摺りつけてくる。
自分の匂いをつけているのだ。
もう、自分のものだと言いたいのか。
亜紀ちゃんがみんなを出て行かせた。
双子に、院長のタクシーを呼ぶように指示していた。
今晩は自分が見ていると言った。
鷹と皇紀が何か言おうとしていたが、何も言わずに出て行った。
亜紀ちゃんがまた、椅子に座って俺に温度計を向け始めた。
一晩中そうしているつもりなのだろう。
「おい、いっしょに寝てくれ」
「ダメです」
「こっちに来い。話がある」
亜紀ちゃんが渋々と温度計を椅子に置き、俺の隣にそっと寝転んだ。
「双子や他の人間には話すな」
「はい」
「「Ω」の粉末と、オロチの皮を食べた」
「!」
「出し入れは俺と皇紀しか出来ない。だから皇紀に頼んだ。でも、俺が今後どうなるのか分らん」
「はい」
「マズイことになったら、亜紀ちゃん、お前が止めてくれ」
「なんで!」
「亜紀ちゃんにしか頼めない。判断は任せる」
「そんな!」
「俺はもしかしたら、バケモノになるかもしれん。そうなったら頼むぞ」
亜紀ちゃんがまた涙を流す。
「死んでもしょうがないんだけどな。でも、お前たちのことを考えると、まだできれば死ねない」
「タカさん」
「院長が、お前たちのことは任せろと言ってくれた。だから最後の勝負に出られた」
「タカさーん!」
「どうやら勝てたようだぞ」
亜紀ちゃんが俺を抱き締めてキスをしてきた。
「院長は?」
「先ほどタクシーで帰られたと思います」
「そうか」
「おい」
「はい?」
「ロボに舐めるのをやめさせてくれ。さっきから同じところを舐められてヒリヒリする」
亜紀ちゃんは笑って、ロボにやめるように言った。
ロボは大人しく従い、自分の毛づくろいを始めた。
「ちょっと赤くなってますよ?」
「キスマークかよ」
二人で笑った。
亜紀ちゃんがそこへキスをする。
「これで私のマークです」
「ばかやろう」
「それとな」
「はい」
「その温度計な。アラーム機能があるんだよ」
「へ?」
「設定温度を超えると、アラームが鳴るのな」
「そうだったんですか!」
「セットして、亜紀ちゃんも寝ろよ」
「教えて下さいよー!」
「死に掛けてただろう!」
「だってぇ!」
「自分が使う機械は取扱説明書をちゃんと読め!」
「タカさんのバカ!」
亜紀ちゃんは俺にセットの仕方を聞いて、温度計を俺の枕元に置いた。
亜紀ちゃんに布団に入れと言った。
「亜紀ちゃん」
「はい」
「オチンチンが痒い」
亜紀ちゃんに額を軽くはたかれる。
「あと何日だっけか?」
「何がですか?」
「ほら、オチンチン禁止期間」
亜紀ちゃんに額を軽くはたかれる。
「折角鷹が来てくれたのにー」
「え、延長ですぅ!」
亜紀ちゃんが宣言した。
「まったく、ちょっと元気になったら、もう元気になっちゃうんですか!」
「おいおい」
「あの、我慢できないなら、私が」
「やまなかぁー!」
二人で笑った。
俺は眠くなったといい、目を閉じた。
亜紀ちゃんがそっとベッドを抜けたのを感じる。
薄目を開けると、亜紀ちゃんはUSMを開けて、「テンガ」の取扱説明書を熱心に読んでいた。
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