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鷹、泊まり込み。
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翌朝。
俺は亜紀ちゃんを起こし、学校へ行かせた。
嫌がったが、俺は皇紀を休ませて俺の世話をさせた。
「ダッシュで帰ってきますから!」
「分かったよ」
俺は皇紀にコーヒーを淹れさせ、ソファでロボと遊んだ。
片づけを終えた皇紀を呼んで、防衛システムの進捗を聞いた。
「莫大なお金があって良かったです。何でも買えますからね」
「ああ、双子もいろいろな企業を傘下に置いているしなぁ」
「半導体も、葵ちゃんのお父さんが紹介してくれた会社が」
「ああ、シリコンバレーの研究機関だったな」
「はい」
蓮花との連携も上手く行っているようだ。
「量子コンピューターは、幾つかブレイクスルーを抜けて順調です」
「いよいよか」
「はい」
「蓮花さんが生体チップの開発を進めているそうですが」
「ああ」
「本当に必要なんですか?」
皇紀が心配そうに俺を見た。
倫理的なもので引っかかっているのだろう。
「必要だ。「花岡」は既に人体の限界を超える可能性を見出した。ここから先は、人間を超える必要があるかもしれない」
「そうですか」
俺は皇紀の肩を抱いた。
「心配するな。これは俺たち大人の領域だ。綺麗事じゃない、泥まみれの分野だからな」
「僕は!」
「お前は明るい場所にいろ。俺に任せろ」
「はい」
皇紀に支えられ、俺は部屋に戻った。
横になった俺に皇紀が言った。
「タカさん、アレは」
「クロピョン!」
「はい、クロピョンは一体どういうものなんでしょうか?」
「俺にも分らんよ。お前はどう思う?」
「僕は、反エントロピー的なものなんじゃないかと」
「ほう」
「ある本で、宇宙が熱死に向かうスピードが計算に合わないって」
「インフレーション宇宙論か」
「あ、そうです。膨張宇宙に基づいた発想ですけど、僕はそうじゃない要素もあるんじゃないかと」
「お前は面白いな!」
「プリゴジンの「散逸構造論」は、ある系の存在を示唆しているんじゃないかと思います」
「そうだな。宇宙は崩壊と想像を同時にやっている。俺は地球に於いては、それを人類が担っていると考えているんだ」
「え! それじゃ」
「ああ。俺はクロピョンは人間じゃないかと思っているんだ。もちろん今の人間とは違う。先史人類と言うかな」
「それって、スゴイことですよね!」
「まあな。遠い昔の人類の生き残りなのか名残なのかは全然分からんけどな」
「どうしてタカさんはそう思うんですか!」
皇紀は興奮している。
「落ち着けよ。俺は双子が「会話らしきものをした」と聞いたからだよ。存在の次元は相当違うだろうが、意思疎通らしきものが出来るなら、俺はそれは人類の範疇だと思っただけだ」
「タカさん、スゴイですよ!」
「妖怪と言ってもいいんだけどな。元々妖怪っていうのは、多分に人間をなぞって辿ってるものだしなぁ」
俺は皇紀に寝ると言った。
皇紀は部屋でこもっているので、何かあったら呼んで欲しいと言った。
亜紀ちゃんの怒鳴り声で目が覚めた。
皇紀が怒られている。
「なんであんたはタカさんに何も食べさせてないの!」
「ごめんなさい」
「なんのために皇紀に任せたと思ってるのよ!」
「お姉ちゃん、ごめんなさい!」
やれやれ。
俺はまだ重い身体を引きずって下に降りた。
「亜紀ちゃん、俺が皇紀に頼んだんだ。しばらく寝るから起こさないでくれって」
「タカさん!」
「そんなに叱らないでくれ。昼飯をどうするって言ってなかった俺が悪いんだからな」
「もう! タカさんは皇紀に甘いです」
「まあ、悪いな」
皇紀は俺に頭を下げている。
「皇紀、蕎麦を作ってくれよ。蕎麦なら喰えそうだ」
「分かりました!」
「亜紀ちゃんにはステーキ入りな」
「はい!」
「もう!」
これで大丈夫だろう。
ロボがエサをねだりに行った。
亜紀ちゃんが肉を焼いてやる。
蕎麦にはナメコとしめじを入れてもらった。
皇紀と亜紀ちゃんはステーキだ。
蕎麦でなくてもいいのに、と思った。
蕎麦を喰い終えると、鷹から電話が来た。
鷹はタイミングがいい。
「夕方から今週いっぱいお休みをいただきました」
「お前」
「大丈夫です。ちゃんと担当は全部調整しました。院長先生と一江先生たちもご協力いただきましたから」
「本当に悪いな」
「とんでもない! すぐに行きますからね!」
「ああ、待ってる」
「鷹さん、来て下さるんですか!」
「ああ。無理させて申し訳ないんだが、夕方には来るってさ」
「良かったぁ!」
俺も良かった。
亜紀ちゃんたちに苦労させないで済む。
「これでボンクラもお役御免だぁ! 部屋でエロビデオでも見てろ!」
酷いことを言う。
「おねーちゃん」
「ウソウソ!」
亜紀ちゃんが皇紀の頭を撫でている。
上機嫌だ。
皇紀は泣きそうだが。
亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれる。
皇紀の分はねぇ。
まだ俺の昼食を抜いたことを根に持っているんだろう。
夕方に鷹が来た。
スーツケースを持って来ている。
着替えだろう。
買い物袋も持っている。
亜紀ちゃんに買って来たものをメモしろと言った。
俺は礼を言い、寝室へ戻った。
皇紀は鷹の荷物を抱え、鷹と一緒に上がって来る。
「皇紀、あんまり気にするなよな」
「はい、タカさんすみません」
「研究の方を頼むぞ」
「はい!」
着替えて鷹が入って来た。
「すいません、お休みになる時に」
「いや。本当にすまないな」
「それは私がやりたくて来たんですから。それよりもお加減はどうですか?」
「日に日にいいんだけどな。どうも熱が下がらん」
「そうですか。夕飯は何か召し上がりたいものはありますか?」
「三時ごろに蕎麦を食べたんだ。あまり腹は減ってないな」
「分かりました。茶碗蒸しとかどうです?」
「いいな!」
鷹が出て行った。
ロボが俺の顔を見て鳴いた。
「大丈夫だよ。お前は一杯食べてプクプクしててくれよな」
俺が横になると、また右腕に絡めて来た。
また栞を先延ばしにしてしまった。
大丈夫だろうか。
俺は亜紀ちゃんを起こし、学校へ行かせた。
嫌がったが、俺は皇紀を休ませて俺の世話をさせた。
「ダッシュで帰ってきますから!」
「分かったよ」
俺は皇紀にコーヒーを淹れさせ、ソファでロボと遊んだ。
片づけを終えた皇紀を呼んで、防衛システムの進捗を聞いた。
「莫大なお金があって良かったです。何でも買えますからね」
「ああ、双子もいろいろな企業を傘下に置いているしなぁ」
「半導体も、葵ちゃんのお父さんが紹介してくれた会社が」
「ああ、シリコンバレーの研究機関だったな」
「はい」
蓮花との連携も上手く行っているようだ。
「量子コンピューターは、幾つかブレイクスルーを抜けて順調です」
「いよいよか」
「はい」
「蓮花さんが生体チップの開発を進めているそうですが」
「ああ」
「本当に必要なんですか?」
皇紀が心配そうに俺を見た。
倫理的なもので引っかかっているのだろう。
「必要だ。「花岡」は既に人体の限界を超える可能性を見出した。ここから先は、人間を超える必要があるかもしれない」
「そうですか」
俺は皇紀の肩を抱いた。
「心配するな。これは俺たち大人の領域だ。綺麗事じゃない、泥まみれの分野だからな」
「僕は!」
「お前は明るい場所にいろ。俺に任せろ」
「はい」
皇紀に支えられ、俺は部屋に戻った。
横になった俺に皇紀が言った。
「タカさん、アレは」
「クロピョン!」
「はい、クロピョンは一体どういうものなんでしょうか?」
「俺にも分らんよ。お前はどう思う?」
「僕は、反エントロピー的なものなんじゃないかと」
「ほう」
「ある本で、宇宙が熱死に向かうスピードが計算に合わないって」
「インフレーション宇宙論か」
「あ、そうです。膨張宇宙に基づいた発想ですけど、僕はそうじゃない要素もあるんじゃないかと」
「お前は面白いな!」
「プリゴジンの「散逸構造論」は、ある系の存在を示唆しているんじゃないかと思います」
「そうだな。宇宙は崩壊と想像を同時にやっている。俺は地球に於いては、それを人類が担っていると考えているんだ」
「え! それじゃ」
「ああ。俺はクロピョンは人間じゃないかと思っているんだ。もちろん今の人間とは違う。先史人類と言うかな」
「それって、スゴイことですよね!」
「まあな。遠い昔の人類の生き残りなのか名残なのかは全然分からんけどな」
「どうしてタカさんはそう思うんですか!」
皇紀は興奮している。
「落ち着けよ。俺は双子が「会話らしきものをした」と聞いたからだよ。存在の次元は相当違うだろうが、意思疎通らしきものが出来るなら、俺はそれは人類の範疇だと思っただけだ」
「タカさん、スゴイですよ!」
「妖怪と言ってもいいんだけどな。元々妖怪っていうのは、多分に人間をなぞって辿ってるものだしなぁ」
俺は皇紀に寝ると言った。
皇紀は部屋でこもっているので、何かあったら呼んで欲しいと言った。
亜紀ちゃんの怒鳴り声で目が覚めた。
皇紀が怒られている。
「なんであんたはタカさんに何も食べさせてないの!」
「ごめんなさい」
「なんのために皇紀に任せたと思ってるのよ!」
「お姉ちゃん、ごめんなさい!」
やれやれ。
俺はまだ重い身体を引きずって下に降りた。
「亜紀ちゃん、俺が皇紀に頼んだんだ。しばらく寝るから起こさないでくれって」
「タカさん!」
「そんなに叱らないでくれ。昼飯をどうするって言ってなかった俺が悪いんだからな」
「もう! タカさんは皇紀に甘いです」
「まあ、悪いな」
皇紀は俺に頭を下げている。
「皇紀、蕎麦を作ってくれよ。蕎麦なら喰えそうだ」
「分かりました!」
「亜紀ちゃんにはステーキ入りな」
「はい!」
「もう!」
これで大丈夫だろう。
ロボがエサをねだりに行った。
亜紀ちゃんが肉を焼いてやる。
蕎麦にはナメコとしめじを入れてもらった。
皇紀と亜紀ちゃんはステーキだ。
蕎麦でなくてもいいのに、と思った。
蕎麦を喰い終えると、鷹から電話が来た。
鷹はタイミングがいい。
「夕方から今週いっぱいお休みをいただきました」
「お前」
「大丈夫です。ちゃんと担当は全部調整しました。院長先生と一江先生たちもご協力いただきましたから」
「本当に悪いな」
「とんでもない! すぐに行きますからね!」
「ああ、待ってる」
「鷹さん、来て下さるんですか!」
「ああ。無理させて申し訳ないんだが、夕方には来るってさ」
「良かったぁ!」
俺も良かった。
亜紀ちゃんたちに苦労させないで済む。
「これでボンクラもお役御免だぁ! 部屋でエロビデオでも見てろ!」
酷いことを言う。
「おねーちゃん」
「ウソウソ!」
亜紀ちゃんが皇紀の頭を撫でている。
上機嫌だ。
皇紀は泣きそうだが。
亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれる。
皇紀の分はねぇ。
まだ俺の昼食を抜いたことを根に持っているんだろう。
夕方に鷹が来た。
スーツケースを持って来ている。
着替えだろう。
買い物袋も持っている。
亜紀ちゃんに買って来たものをメモしろと言った。
俺は礼を言い、寝室へ戻った。
皇紀は鷹の荷物を抱え、鷹と一緒に上がって来る。
「皇紀、あんまり気にするなよな」
「はい、タカさんすみません」
「研究の方を頼むぞ」
「はい!」
着替えて鷹が入って来た。
「すいません、お休みになる時に」
「いや。本当にすまないな」
「それは私がやりたくて来たんですから。それよりもお加減はどうですか?」
「日に日にいいんだけどな。どうも熱が下がらん」
「そうですか。夕飯は何か召し上がりたいものはありますか?」
「三時ごろに蕎麦を食べたんだ。あまり腹は減ってないな」
「分かりました。茶碗蒸しとかどうです?」
「いいな!」
鷹が出て行った。
ロボが俺の顔を見て鳴いた。
「大丈夫だよ。お前は一杯食べてプクプクしててくれよな」
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大丈夫だろうか。
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