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スポンティニアス・コンバッション

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 翌朝。
 俺は8時に起きた。
 まだ身体は重く痛む。
 亜紀ちゃんはまだ寝ている。
 ロボは暑かったのか、反対側に移動していた。
 亜紀ちゃんを起こした。
 
 「おい、起きて学校へ行け」
 「うーん、ダメ」
 「ダメじゃねぇ、俺はもう大丈夫だ」
 亜紀ちゃんが俺を見ている。
 枕元の体温計を持っている。
 いつの間に。

 「はい、39度のまま。ダメですね」
 「あのなぁ」
 亜紀ちゃんが俺の口にキスをした。
 黙らせたってかぁ?

 「朝食は食べられそうですか?」
 「ステーキを焼け」
 亜紀ちゃんが俺の額を指で小突く。

 「タカさんのご飯を残してなかったら鬼殺しだぁー!」
 亜紀ちゃんがでかい声を出して階段を駆け下りて行った。




 俺がロボと少し遊んでゆっくりと下に降りると、子どもたちは学校へ行くところだった。

 「「「おはようございます!」」」
 「ああ、おはよう。いろいろ悪かったな」
 「タカさんだいじょーぶ?」
 ハーが駆け寄って来た。

 「もうちょっと休むけどな。大丈夫だよ」
 ハーがニコニコ笑った。

 「ルーも皇紀も心配するな。全然良くなってるからな」
 「「はい!」」
 亜紀ちゃんが朝食を持って来た。
 小さな茶碗に控えめなご飯。
 ふりかけ。
 1センチ角の牛肉(ステーキだ)。
 梅干し。
 御堂家卵。
 豆腐とワカメの味噌汁。

 俺は笑った。
 そういえば、うちでは誰も病気にならないので、病人食をまったく教えていないことに気付いた。
 なんと幸せだったことか。
 全部食べた。
 亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれる。

 「亜紀ちゃんも食べろよ」
 「はい」
 ステーキを焼いていた。
 また俺は笑った。

 「すみません、お腹が空いていて」
 「全然構わないよ、もっとステーキを喰えよ」
 「エヘヘヘ」
 もう一枚焼いた。
 俺はリンゴの摺り下ろしの寒天ゼリーを作ってくれと頼んだ。
 それと桃のコンポートだ。

 「どうせならみんなにも喰わせてやろう。一杯作ってくれ」
 「はい!」
 亜紀ちゃんが笑顔で俺の言うレシピをメモする。

 悪いが、ソファでのんびりさせてもらう。
 ロボがご飯を食べて、俺の隣で毛づくろいをした。
 今度ブラシを買ってこよう。

 10時を過ぎ、俺は一江に電話した。
 特に問題は無いようだ。
 斎藤と山岸が燃えていると言っていた。
 笑って、二人に期待していると伝えてもらうよう頼んだ。

 「あいつら、調子に乗りますよ?」
 「いいんだよ。俺のいない間に頑張ろうなんて本当に頼もしいじゃないか」
 「わかりましたー」
 「六花はどうだ?」
 「昨日夕方に来て、詳しい話を聞かせて欲しいと言われました」
 「そうか」
 「御友人のことなので、話せないと言いましたけど」
 「それでいい。お前も頼もしいな」
 「はぁ」
 あまり六花にウソはつきたくない。
 元気になったらちゃんと話すが、あいつはまた泣くだろう。
 それが今から辛い。



 「響子は?」
 「あんまり元気ないですかね。でも六花がいますから大丈夫ですよ」
 「そうか」
 「電話でもなさったら?」
 「そうだなぁ。でもあいつも鋭いからな」
 「そうですねぇ」
 「部長」
 「あんだよ」
 「一人、忘れてないですよねぇ?」
 「ああ」

 栞だ。
 亜紀ちゃんも栞の性格は分かってきている。
 大騒ぎになる。
 だから俺が倒れた時にも、栞大好きっ子の亜紀ちゃんも一江たちに連絡し、栞には黙っていた。

 「栞には俺から連絡するよ」
 「はい、そーして下さい。私たちが黙ってたことはちゃんと上手く言ってくださいね!」
 「ああ、分かってる」



 俺は鷹に連絡した。
 タイミングよく、鷹は手が空いていた。

 「石神先生! 急にいらっしゃらなくて心配しました」
 「ああ、悪いな。おい、ここだけの話にしてくれ。誰にも言うな」
 「はい?」
 「ちょっと体調を崩してな。念のために養生しているんだ」
 「なんですって!」

 「おいおい慌てるな。大丈夫だよ。だからな、鷹が大丈夫な時に、うちに来てもらいたいんだ」
 「すぐに伺います!」
 「だから、そんな大したものじゃないんだって。お前の顔を見て元気になりたいだけだからな。夜でも早く上がれることがあったら頼むよ」
 「はい! 今晩伺いますから!」
 「仕事優先だぞ。くれぐれもな」
 「はい、大丈夫です」



 さて、栞だ。

 明日にしよう。
 今日、鷹と鉢合わせるとまた面倒だ。
 メールを送った。
 急な出張で栞の顔が見られなくて寂しい。
 週末にでも来て欲しい。
 そんな内容だ。
 普段の日は基本的に来ない。
 大丈夫だろう。

 「亜紀ちゃん」
 「はーい!」
 リンゴを摺り下ろしている亜紀ちゃんに言った。

 「栞には出張中ってしておいてくれな」
 「はーい! 分かりました」
 「来ることはないだろうが、来ても部屋に通すな」
 「はい!」




 
 俺は部屋へ戻ってロボと寝た。
 こんなに寝れるのは、相当体力を喪った証拠だ。
 まあ、そんなものではなかったのだが。

 俺はトビー・フーパーの映画を思い出した。
 『スポンティニアス・コンバッション(Spontaneous Combustion)』だ。
 時折世界中で見られる、人体自然発火現象を扱った作品だった。
 人体自然発火現象は、現代でも謎だ。
 幾つもの説があるが、その一つにプラズマを原因とする説がある。
 「花岡」の技も、プラズマがつきまとうものが多い。

 「プラズマかぁ」

 ロボがまた俺の右手に絡みつく。
 こいつは俺の利き腕が分かっている。
 頭の良い奴だ。
 俺が左手で撫でようとすると「ニャー」と鳴いて牙を見せた。
 邪魔はさせないということらしい。

 「こぇー。お前、クロピョンよりこぇーよ」
 俺が言うと、ロボは尻尾をビタンとベッドに叩きつけた。







 俺はまた寝た。
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