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奈津江 Ⅹ

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 俺は奈津江を連れて、木々が切れて開けている場所へ行った。

 「ほら」
 指さした方向に、東京の灯が見える。

 「わぁー!」
 奈津江が喜んだ。
 遠く揺らめく灯が綺麗だった。
 しばらく二人で眺めた。
 奈津江が寄って来て腕を絡めてくる。

 「おー、今日のオッパイは大きいな!」
 奈津江に足を蹴られた。

 「士郎くんのお姉さんともやったんでしょ!」
 「え、やってないよ」
 やった。

 俺たちは焚火に戻った。
 奈津江が菓子を出した。
 二人で食べる。
 俺はカップを洗ってきて、紅茶のティーバッグを入れた。
 奈津江は砂糖を二杯。
 俺も一杯入れた。
 ヤカンに水を足しに行く。

 「私ね」
 「うん」
 「栞を絶対に高虎に会わせたくなかったの」
 「なんでよ?」

 「だって、栞は美人だし胸も大きいでしょ?」
 「ああー」
 「絶対に私じゃなくて栞を選ぶって」
 「そんなことなかっただろう」
 「ウソ!」
 「アハハハハ」

 冷えて来た。
 俺はリュックから厚手の毛布を出して、奈津江にかけてやった。
 奈津江がありがとう、と言った。

 「俺はもうお前だけだよ」
 「うん」
 小さな声で頷いた。
 俺たちはいろいろな話をした。
 山の闇の中で、焚火を見ながら普段はしないような話もした。

 俺が怖い話をした。

 山小屋で一晩を過ごす三人の男たち。
 夜中にドアが叩かれ、出ると誰もいない。
 外に出ると、小屋まで来た足跡がある。
 しかし、そこから他へ行った足跡はない。

 「何よそれー!」
 「山には不思議なことがあるんだよ」
 「やめてよー!」
 奈津江が怖がった。
 俺に隣に来いと言う。
 俺は笑って椅子を持って奈津江の隣に座った。
 奈津江は俺に毛布を分けてくれる。

 「高虎も寒いでしょ!」
 俺は笑って礼を言った。
 
 「そういえばさ。前にお兄ちゃんが話してくれた」
 「なんだよ?」
 「お兄ちゃんの友達がバイクが好きでね」
 「うん」
 「長野に行ったらしいんだけど、そこでおっきい一つ目の人を見たんだって」
 「へぇー」
 「山の陰から出て来てね、驚いているその人に言ったの」
 「なんて?」

 「もっとおっきいのもいるぞー」
 「きゃー」
 二人で笑った。




 奈津江がモゾモゾしている。

 「おい、行けよ」
 「えー!」
 結構水分を摂ったんだからしょうがない。

 「高虎が怖い話をするんだもん」
 「いい大人がなんだよ」
 「ついてきて」
 「ええ?」
 「道の所で待ってて」
 「しょうがねぇなぁ」
 奈津江が林の中へ入っていく。
 俺もついでに左へ入った。
 歌を歌う。

 「あ、おっきいのが来たぞー」
 「やめてよー!」
 俺たちは湧き水まで行き、手を洗った。
 普段ならしないのだが。
 二人で飲んだカップも洗う。
 帰りにまた街の灯を見て、焚火に戻った。

 俺はコーヒーを淹れた。
 奈津江に聞いて、トウモロコシを焼く。
 醤油を塗ったトウモロコシを、奈津江は美味しそうに食べた。

 俺たちは、以前に顕さんと話した将来の家のことを話した。
 二人で、ある日の土曜日のシュミレーションをした。
 楽しかったので、各曜日でやった。
 夜が明けるまで楽しく話した。
 毛布にくるまって話した。

 「月曜日の高虎はね、風邪をひいちゃったの」
 「ごほんごほん」
 「熱が高いわ。今日は病院を休んで」
 「そうはいかないよ」
 「ダメ! 私の大事な人なんだから!」
 「はい」
 奈津江に言われて、速攻で納得する。

 「私はリンゴを摺り下ろしてあげるの」
 「あ、あれあんまり好きじゃないんだ」
 「私が好きなの!」
 「そうなの?」

 「そうだ、プリンがあったな」
 「え、それは高虎の分じゃん」
 「俺のものはお前のもの」
 「私のものは私のもの」
 二人で笑った。
 奈津江はプリンを一口俺にくれた。
 そのスプーンをしばらく見つめて、嬉しそうに食べた。




 本当に楽しい夜だった。









 泣きたいくらいに懐かしい。
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