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クロピョン

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 4時に目を覚ました。
 身体が熱いが、昼間ほどではない。
 手足は動く。

 亜紀ちゃんが俺に体温計を向けていた。

 「起きたんですか?」
 「ああ」
 「大丈夫ですか?」
 「なんとかな」
 一江と大森が来ているらしい。
 呼んでもらった。

 「部長!」
 二人が飛び込んでくる。

 「悪いな」
 「そんなことより! どうなんですか!」
 「大丈夫だ。熱があることで全身がだるいだけだ」
  亜紀ちゃんが41度に下がったと言った。

 「一応様子を見てますが。変化があったら運びますからね」
 「分かった。事情は聞いているか?」
 二人ともすべて聞いているらしい。

 「そういうことなので、今は様子見ですけど」
 喉が渇いたと言ったが、亜紀ちゃんは動かない。
 大森が取りに行った。



 「一体なんなんですか!」
 一江が言う。

 「悪かった。でも今は文句を言うな。元気になってからにしてくれ」
 「今じゃなきゃ言えないでしょう! 部長は滅多に弱らないんだから」
 俺は何とか笑顔を作った。
 大森が炭酸水を持って来た。
 吸収が水よりも速い。
 塩も一緒に持って来たが、俺はそのまま飲んだ。
 亜紀ちゃんは俺をずっと見ている。
 体温計を片時もそらさない。

 俺の足の間にロボがいた。
 じっと俺を見ている。
 俺が手招きすると寄って来た。
 俺の顔を舐める。

 「部長、寝て下さい」
 一江が言った。
 俺は頷いてまた眠った。




 目が覚めると、まだ亜紀ちゃんがいた。

 「何年寝てた?」
 「一万年」
 「そうか。じゃあ、そろそろアレに対抗できるな」
 「タカさん!」
 亜紀ちゃんが俺に抱き着いて来た。
 猛烈にキスをしてくる。

 「死んじゃうかと思ったよー!」
 大泣きだ。
 気分は大分ましだ。
 子どもたちが部屋に入って来る。
 亜紀ちゃんの大声を聞いたのだろう。

 「「タカさーん!」」

 双子がベッドに乗って来る。
 皇紀は足元で泣いていた。
 トイレに行こうとすると、みんな付いて来る。

 「おい」
 「手伝います!」
 亜紀ちゃんが言う。

 「勘弁しろ」
 俺は笑って断った。
 四人がドアの外で待っている。
 まいった。

 俺はジンジャーエールを頼んだ。
 すぐにハーが取ってくる。

 「大丈夫ですか?」
 亜紀ちゃんが心配そうに言った。
 熱は39度まで下がったそうだ。

 「大丈夫だ、と言いたいけどな。まだフラつく」
 「食事はどうですか?」
 「まだ喰えない。後でオークラのコンソメを温めてくれ。頂き物であっただろう」
 「分かりました」
 「カゼみたいなものだ、心配するな。昨日は大分冷えたからなぁ」
 俺は冗談を言ったが、誰も笑わない。

 「おい、笑え!」
 無言で俺を見ている。



 「一江と大森は?」
 「今朝方、タカさんの熱が少し下がったので帰られました。あとで連絡が来ます」
 今は8時半だった。
 俺が出勤できないのを見越して、手配もあるだろう。

 「お前らは学校へ行け」
 「「「「絶対イヤです!」」」」
 「じゃあ、飯を喰って来い。その後でみんなで寝よう」
 「「「「はい!」」」」
 どうやら、食事をしてなかったらしい。
 あの大食いのこいつらが。
 それに加え、亜紀ちゃんは徹夜だっただろう。

 「おい、お前も喰って来いよ」
 ロボが俺の顔を見てから出て行った。
 体中が痛い。
 顔を洗いに行くと、幽霊のような男がいた。

 「まあ、男前だけどな!」
 無理矢理笑って、髭を剃った。




 亜紀ちゃんがスープを持って来た。
 
 「あーん」
 「自分で喰える」
 「あーん」
 「やりたいのか?」
 亜紀ちゃんが頷く。
 俺は口を開け、スープを飲んだ。

 「アッチィー!」
 亜紀ちゃんが笑った。
 フーフーしているのを奪い取り、自分で飲んだ。

 「心配をかけたな」
 「ほんとに」
 「悪かった」
 「大丈夫ですか?」
 「ああ」
 亜紀ちゃんがまた泣きそうな顔をする。

 「俺は専門家だ。本当にもう大丈夫だよ」
 「もう、絶対に離れません」
 「バカを言うな」
 「トイレだって一緒ですからね」
 「ばかやろー」
 「あとで、オチンチンをどう持つのか教えて下さい」
 「やめろって」
 飲み終わったスープ皿を亜紀ちゃんが受け取る。

 「やられたな」
 「はい」
 「あれはヤバイわ」
 「そうですね」
 「クロピョン」
 「はい?」
 「あいつの名前だ」
 「それが分かったんですか!」

 「いや、今考えた」

 一瞬の間の後、亜紀ちゃんが大笑いした。

 「怒るかな?」
 「どうでしょうか」
 「悔しがるといいな」
 「タカさん!」
 俺は笑った。

 「まあ、クロピョンはヤバイ奴だけど、悪い奴ではないな。そう感じた」
 「タカさん」
 「笑ってたよ。まあ、はた迷惑な威力だけどなぁ。でも、呼んだら来てくれそうじゃないか」
 「それって」
 「対「業」の大きな力になるな」
 「タカさん、それを考えてたんですか!」

 「直観でな。双子が言ってたじゃないか。笑ってたって。俺に興味がありそうだって」
 「そんなこと!」
 「大妖怪だろうが地獄の鬼だろうが。俺はお前たちを守るためなら何でもするぞ」
 「タカさん……」
 「まあ、笑うだけで死に掛けたからなぁ。本当にいざって時だけだな」
 「そうして下さい」




 ロボが戻って来た。
 ベッドの下で毛づくろいをしている。
 オシャレな奴だ。
 子どもたちが入って来る。
 ロボは俺の枕の上に陣取った。
 亜紀ちゃんが俺の隣に来る。
 ハーが反対側に、ルーは足の間に入る。
 皇紀はハーの隣に潜り込んだ。

 「じゃー寝るぞー!」
 「「「「はい!」」」」
 一江の電話は、皇紀がハーに蹴とばされて受けた。
 
 「大丈夫です! これからみんなで寝ます!」
 皇紀が元気よく答えていた。






 俺たちは笑いながら一緒に寝た。
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