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アレ。

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 六花と風花が帰った。
 帰った。
 もう、姿も見えない。

 「おい」
 俺はルーとハーを呼ぶ。

 「「なーに?」」
 可愛らしく微笑む。

 「一緒に映画を観よう!」
 「「いやー!」」
 流石に勘がいい。
 逃げようとする首を両手で掴んだ。
 超人的なこいつらも、俺にかかればまだ子どもだ。

 「皇紀、いつもの手錠とワイヤーを持ってこい!」
 「は、はい!」
 「α」の粉末を混ぜた特製だ。
 世界的危機を救うかもしれない、魔法の粉。
 それを子どもの教育用で使っている。
 俺にとっては世界よりもこいつらだ。
 皇紀が持って来たそれで、双子を拘束し、縛る。
 俺は両脇に双子を抱え、地下室へ行った。
 亜紀ちゃんだけついてくる。




 「さて、洗いざらい話せ。まずはどうやって俺を尾行した?」
 二人は黙っている。

 「映画の前に、今日は俺が朗読してやろう」
 「「?」」
 新しいパターンに、二人が怪訝な顔をする。

 「平山夢明の最恐実話心霊談その1『ロクちゃん』」
 亜紀ちゃんはヘッドフォンをし、レッドツェッペリンの『聖なる館』を大音量で聞き始める。

 俺は静かに朗読した。

 話が進むと、双子が大量の脂汗を流す。
 ガタガタと震え出す。

 「ロクちゃーん」

 失神した。
 頬を叩いて目を覚まさせる。

 「話せ」

 俺のアヴェンタドールにGPSが取り付けられていること。
 便利屋に車と家を買い与え、いつでも呼び出せるようにしていること。
 ズタ袋の人形のロクちゃんが怖いことを話した。

 「次はアレのことだ」
 「アレだけはダメだよ!」
 「いくらタカさんだって無事に済まないって!」
 「ロクちゃん」の恐怖を乗り越えて、二人が必死に俺を説得する。
 「うるせぇ! 俺が大金を出して買った別荘をウロウロしやがって! 来年から気持ちよく遊べねぇじゃねぇか!」
 「「ダメ!」」

 「お前らの小学校に、ズタ袋の人形を送ろう。使い方は〇〇先生に教える」
 双子の担任の名を告げた。
 「半年後にうちに引き取るからな!」
 「「ギャッーーーーー!!!!!」」
 双子がまた失神しそうになったので、額にパンチを入れて逃がさない。

 「亜紀ちゃん、ズタ袋を買って来い」
 「はい!」

 双子は、少しずつ話し始めた。
 
 「アレを最初に観たのは、タカさんと六花ちゃんがあの林に入ってった時なの」
 「おい、待て!」
 俺は何で知ってるのか聞いた。

 「別荘の近辺に、セミ型の監視カメラをバラまいてるの」
 「リモートで動くの」
 「……」
 全部見られてるらしい。
 問い質すと、ベンツにもハマーにもドゥカティにもGPSが付いてるらしい。
 見たことは誰にも話すなと言った。

 「話を戻す。それで見たものは話さずに、アレのことだけ話せ」
 ちょっと恥ずかしくて赤くなる。

 「最初はね、画面が黒くなったの」
 「でもそれは、私たちの「目」のせいだったのね」
 「どういうことだ?」
 「録画を見直したら、もう見えなかったから」
 「ちょっと待て!」
 話が進まねぇ。
 録画は俺に寄越せと言った。
   
 「なんかね、タカさんと六花ちゃんに興味を持ったみたい」
 「なに面白いことやってんのーって感じ?」
 確かに楽しかったが。

 「次はね、別荘に来たよ!」
 「バーベキューをした日の夜」
 「あの屋上から降りたら、外にいた」
 「タカさんの部屋を覗いてたみたい」
 「でも、その時はずっと小さかったのね」
 「だから二人で外に出てみたの」
 「細い紐みたいのが伸びてて」
 「追ってみたら」
 「「でかかった!」」


 山よりも大きな、黒い何からしい。


 「どういう方ですかって聞いたら」
 「タカさんが面白いって」
 それ以上は説明できないらしかった。

 「会話みたいのができるとは思ってなかった」
 「なんか、存在の次元が違うって感じ?」
 「神様みたいなものか?」
 「うーん、そうとも言えるけど、ちょっと違うかな」
 「地球の始めからいるみたいな」
 「100年も生きないような生命だと、無理、みたいな」
 
 「山ってさ、そこに「在る」じゃん」
 「でも、どうしてそこに「在る」のか説明できないじゃん」
 「造山運動だろう」
 「そういうことじゃなくて!」
 「そこに「在る」理由!」
 実存主義かよ。
 俺がそう考えた瞬間。
 双子が脅えた。

 「「来た!」」

 俺は咄嗟に動いた。

 「お前らはここにいろ!」

 何の理由もなく、俺は自分の部屋に向かった。
 大声で皇紀を呼び、地下に行くように命じた。
 「虎王」を手に取った。
 庭に出る。







 何かがいた。
 分からない。

 




 双子の花壇に気配を感じた。
 戦場の勘だ。
 圧力を感じないので、敵意ではない。
 しかし、何かが「在る」。
 俺は「虎王」を抜いた。

 強烈な「笑い声」を感じた。
 耳ではない。
 全身に、暴風のような圧力と振動を感じる。
 俺は「虎王」に「螺旋花」を入れた。
 「虎王」が一瞬輝いた。
 次の瞬間、更なる爆発するような圧力と振動を感じ、それは唐突に消えた。

 双子が駆け寄り、亜紀ちゃんと皇紀も後から出てくる。

 「大丈夫だったの!」
 「タカさん、なんでもない?」

 双子が慌てている。
 俺は大丈夫だと言ったが、すぐに膝が折れる。
 双子に抱えられ、亜紀ちゃんがすぐに俺を抱き上げて家の中へ入った。

 意識はしっかりしているが、身体が思うように動かない。

 「タカさん! 身体が熱湯みたいに熱いですよ!」
 亜紀ちゃんが半狂乱になって言った。
 俺はなんとか、風呂場に運ぶように言った。
 口も上手く回らなかった。
 服を脱がせようとする亜紀ちゃんに、そのまま冷水をかけるように言う。
 湯気が立った。
 しばらく浴びると、少し口が利けるようになった。
 亜紀ちゃんに浴槽に水を貯めるように指示し、皇紀にありったけの氷を持って来いと言う。
 
 「ルーとハーに氷を大量に買って来させてくれ」
 二人はダッシュで出て行った。

 湯船に入ると、気持ち良かった。
 皇紀が次々に氷を入れ、徐々に落ち着いて来た。
 双子が200キロも氷を買ってきて、浴槽にぶちまけた。
 それがどんどん溶けていく。

 「もう大丈夫だ」
 「「「「タカさん!」」」」
 「大丈夫だって」
 俺は無理して笑った。
 まだ手足は動かない。

 「便利屋さんに言ったら、すぐに氷屋を連れてくるって!」
 ハーが言った。
 それが必要だろう。
 ルーとハーはまた氷を買いに行った。
 一時間後、大きな氷を乗せた軽トラが来た。
 亜紀ちゃんが原氷135キロの塊を次々に運び入れる。
 氷屋が驚いていた。

 1トンもの氷が運ばれた。
 それが半分溶ける頃、俺の手足が動くようになった。
 亜紀ちゃんが、非接触型の温度計で俺の体温を測る。
 接触型では氷の温度を拾ってしまうためだ。

 「45度」

 氷から離れて測定しても、その温度だった。
 氷が冷たく、それ以上浴槽にはいられなくなった。
 俺は寝室に運んでもらい、ベッドに横になる。
 亜紀ちゃんはずっと温度計を向けていた。

 眠った。





 ロボが鳴いている。
 大丈夫だと声をかけてやりたかった。
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