上 下
506 / 2,808

再び、六花と風花 Ⅴ

しおりを挟む
 子どもたちも勉強を終え、食事の準備に加わる。
 六花は、ロボと遊んでいる。
 ロボは六花が相当気に入ったようだ。

 「よいですか、ロボ。私は石神先生の二号です。お前よりも偉いのです」
 なんか言い聞かせている。
 ロボが六花の鼻にパンチを入れた。

 「イタイです、ロボ」
 六花はロボを転がし、腹の匂いを嗅ごうとした。
 ソファに寝転んだロボが、六花の頭にネコキックをかましている。

 「イタイイタイ」

 「お前ぇ! 黙ってりゃ調子に乗りやがってぇ!」
 ロボは六花の前で尻を振って逃げる。
 逃げるロボを六花が追いかける。

 「タカさん、あれ何やってんの?」
 ハーが聞いて来た。

 「ドーブツのやることは分からん」
 「なんか楽しそうだよね」
 ロボは巧みに逃げている。
 小回りがきく分、六花に捕まらない。
 しかしやがて、六花の本気の体術でついにロボが捕まった。

 「ハッハッハァー! 所詮お前はネコ! 私はタイガー・レディだぁ!」

 「大人げないね」
 「ああいう大人にはなるなよな」
 「うん」
 六花は前足の下を持って、暴れるロボの腹に顔を埋めた。
 
 「あー、石神先生の匂いがするぅー」
 「「……」」
 「おい! ホコリがたつから大人しくしてろ!」
 「ロボ、怒られました。一緒にテレビを見ましょう」
 六花とロボは一緒にソファでテレビを観た。
 時々六花がロボの匂いを嗅ぎ、ロボに殴られていた。



 風花も見ている。

 「なんか、昔からの友達みたいですね」
 「羨ましくはねぇけどな」
 「あ、また怒られましたよ」
 「謝ってるなぁ」
 「肩に手を置かれました」
 「慰められてやがる」
 「肩組んでます」
 「あれでいいんだろう」
 「はぁ」

 「さあ、料理を続けるぞ」
 「はい!」

 俺たちは、人間の文化に戻った。


 



 
 「風花、もっと煮立ったところをすくえ」
 「はい!」
 大分コツを飲み込んだようだ。
 アロゼを理解した。

 「野菜は肉よりも火が通りやすいからな。火加減に注意しろ」
 「はい!」
 「素材の味とソースを付けた時とを分けるんだ。だからソースは上にかけずに、脇にする」
 「きれいです!」
 風花は、俺が皿に描く模様を見て喜んだ。

 「これを練習すれば、好きな男もイチコロだぞ!」
 「アハハハ」
 俺はまた、魚介類の種類によっての火加減のコツを教えていく。
 魚の骨の抜き方も教えた。

 「なんでパイに包むのかと言えば、蒸した魚は実が崩れやすいからだ。それにパイに包むことによって、香りを閉じ込める。だから反対に魚臭くならないように……」
 亜紀ちゃんはひたすら肉を焼き、皇紀と双子はスープを作って行く。
 終盤に向かって、双子は洗い物に専念していく。




 食事の準備が出来た。
 俺は最後に、風花のためにシャトーブリアンのいい肉を焼く。
 一度全体を軽く炒めた塊を、オーブンに入れてある。
 比較的低温で焼いていた。
 そうすることで、肉の旨味を逃がさない。
 そしてオーブンで焼いた肉を、大胆に切り落とす。
 中心のルビー色の部分を皿に盛り、周囲にソースで模様を描く。
 俺と六花の分も盛った。

 食事を始め、子どもたちはステーキの大会だ。
 相変わらず忙しない。
 次々に喰い終わった皿を俺に見せ、次の肉を乗せて席に戻る。
 六花はシャトーブリアンに感動している。
 風花もだ。

 「ごんばぼびびいぼにぐ」
 「こんなの初めてです!」
 ロボも味付けしていないシャトーブリアンを食べている。
 ウーゴーという唸り声が聞こえる。
 美味いらしい。
 子どもたちが肉を争っている間に、俺は風花に魚介類のフレンチを勧めた。
 ハマグリのバターソースに、刻んだ浅葱と極細の千切りの紫キャベツと鷹の爪。
 スズキのパイ包、香草入り。
 スモークサーモンのキャビア乗せ。
 伊勢海老のテルミドール。
 その他サラダなど。

 一度には覚えられないだろうが、とにかく一緒に作った。
 風花は楽しそうだった。
 また、自分が加わったものを食べる喜びも味わった。

 「こんなに作って、ああ、大丈夫ですよね」
 俺は親指を立てた。
 子どもたちには、フレンチは人数分あるから、まずはステーキを片付けろと言ってある。
 六花も、ステーキを食べながら、フレンチを一緒に食べる。
 ロボ用の肉もたくさん焼いた。
 空いたロボの皿に、俺が時々肉を入れてやる。
 ロボはそのたびに俺を見て短く鳴いた。
 礼を言っているのだろう。
 俺にも、それくらいは分かる。





 俺と風花は逸早く食事を終え、ドライブに誘った。

 「ちょっとまたドライブに行くからな」
 「「「「はい!」」」」
 六花もステーキを齧りながら立ち上がったが、俺は食ってろと言った。
 ロボに足を叩かれた。

 「またフェラーリですか?」
 「おい、その名前は俺の前で言うな。今はランボルギーニのアヴェンタドールだ」
 「そうなんですか」
 風花は車のことは詳しくない。
 しかし、ガレージを開けるとアヴェンタドールの威容に驚く。

 「これに乗るんですか!」
 「そうだよーん」
 俺は笑ってエンジンをかけ、風花のためにシザードアを開けてやる。
 風花は目を丸くして硬直した。

 「早く座れ。ああ、儀式があるんだけど、省略する」
 「はい?」


 


 俺たちは出発した。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...