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鷹との別荘 Ⅲ

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 「あの日、阿久津先輩と一緒に見た炎は忘れないよ」
 「ちょっと悲しいけど、美しいお話ですね」
 「そうかな」
 「そうです」

 「俺はいつも何も出来ないんだ。自分が凄い人間だなんて思ったこともないけどな。でも、あまりに情けない」
 「そんなことありません」
 「そうかな」
 「そうです」

 「じゃー、そういうことにしよう! 鷹、俺ってすげぇのかな!」
 「アハハハ、本当にそうですよ」
 「でもな、真面目な話。大事な人間のために、なんとかしたいっては思ってる」
 「はい、そうですね」
 小雨が止んだ。
 雲の隙間から、美しい月が顔を出した。

 「山岸先生のことだって」
 「ああ、山岸なぁ」
 「あんなに一生懸命にやってらしたじゃないですか」
 「あんなの。上司として当然だ。むしろ今まで何もしてこなかったことが申し訳ないばなりだよ」
 「石神先生は頑固ですね」
 「お前も大概な」
 二人で笑った。
 俺たちは片付けて寝ることにした。

 「今日はちっちゃいお化けだっけか?」
 「いえ、ちょっとだけ大きくないお化けがいいです」
 「分かった」
 俺たちは愛し合った。
 鷹の美しい裸身が、月に照らされた。





 翌朝。
 目が覚めると、また鷹がいなかった。
 リヴィングへ行った。

 「おはよう」
 「おはようございます」
 鷹が微笑みながら挨拶してくれた。

 「すぐに用意ができますから」
 「ああ。食材は余ったかな?」
 「少し。持ち帰りましょう」
 「そうだな」
 俺も冷蔵庫を見た。
 大丈夫だ、積めるだろう。

 焼き鮭。
 里芋の煮物。
 納豆。
 目玉焼き。
 レタスのサラダ。
 味噌汁は豆腐とネギだった。
 鮭には程よく脂がのっている。
 俺が美味いと言うと、鷹がもう一切れ焼いてくれた。

 二人で、簡単に掃除をし、シーツなどを洗って干した。

 「じゃあ、帰るか」
 「はい。本当に楽しかったです」
 「俺もだ。また来ような」
 「はい、必ず」





 俺たちはアヴェンタドールに乗り込み、出発した。
 鍵は後で郵送するので、中山夫妻には会わない。
 帰りの車で、また楽しく話した。

 「そうだ。鷹はまだロボに会ってないよな?」
 「はい。ネコを飼い始めたのは知ってますが」
 「じゃあ、ちょっと俺の家に寄れよ。紹介しよう」
 「是非」

 家に着いたのは、丁度昼時だ。
 事前に連絡し、ウナギを取るように亜紀ちゃんに頼んだ。
 
 「一人一人前ですよね?」
 「良い子は二人前でもいいぞ」
 「分かりましたぁー!」
 アヴェンタドールをガレージに入れ、玄関を開けるとロボが飛び込んで来た。
 俺の車の音を覚えたらしい。
 鷹を見ている。
 リヴィングで、響子たちと同じ儀式をする。
 鷹をソファに座らせ、ロボに匂いを覚えさせる。

 「ロボ、俺の大事な恋人なんだ。仲良くしてくれな」
 ロボが鷹の肩に前足を乗せ、頬を舐めた。
 鷹が喜んでいる。

 亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。
 ロボの儀式が終わるまで待っていたのだ。

 「何も変わったことはないか?」
 「はい、大丈夫です。タカさんたちは?」
 「ああ、でっかいお化けが出たな」
 俺が鷹に向かって笑って言った。
 鷹がちょっと赤くなっている。

 「「エェッーーー!!」」
 双子が後ろで大声を出した。

 「タカさん、アレを見たの!」
 「平気だったの?」
 「なんだよ?」

 「だって、アレって相当でかいでしょ?」
 「うん。山よりも大きいじゃん!」
 「なんだよ、だから」

 「あ、でもタカさんのことは気に入ってるって言ってた」
 「そうだけど、アレはヤバイよ、やっぱ」
 
 「おい、お前ら。俺がでっかいお化けって言ったのは冗談だからな」

 「「エェッーーー!」」
  
 「一体何の話をしてるんだ?」
 「え、なんでもないよ」
 「だから冗談だって」
 双子は勉強を始めた。




 
 ロボが大きな口を開いてあくびをした。
 俺はロボの身体を撫でた。





 どうやらとんでもないものが、別荘の近くにはいるらしい。
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