上 下
485 / 2,806

しおりを挟む
 双子がロボと遊んでいる。
 かくれんぼを始めた。
 驚いた。
 
 「タカさん、かくれんぼをしてますよ」
 「ああ、やってるな」
 亜紀ちゃんも驚いている。

 ルーが数を数え始めると、ハーとロボが隠れに行く。
 ロボがカーテンの裏に隠れた。
 足が見えている。
 カワイイ。
 俺は、双子用の踏み台で隠してやった。
 ロボの鬼になった。

 「よし、俺が数えてやろう」
 俺が数を数え、ロボが探しに行く。
 ちゃんとやってる。

 「どうやって教えたんですかね?」
 「きもちいー光線とかじゃねぇか?」
 「なんですかそれ」
 三時になり、お茶にする。
 俺がソファに行くと、ロボが隣に来て、上半身を俺の腿に乗せる。

 「あー、やっぱりタカさんがいいんだ」
 ハーが言った。

 子どもたちが勉強を始めた。
 俺は自分の部屋へ行く。
 ロボも付いて来る。
 俺がデスクで論文を読み始めると、ロボは俺のベッドで寝た。
 分かってやっているのか、ロボは俺の仕事の邪魔をしない。
 不思議なネコだ。
 悪戯は一切しない。
 しかし、遊びは楽しんでやる。
 俺はロボの隣に横になった。
 ロボが薄く目を開けて俺を見る。
 撫でてやると、目を閉じた。

 「お前、幸せか?」
 尻尾を小さく振った。
 幸せらしい。
 いつの間にか寝た。



 「タカさん、夕飯ができました」
 亜紀ちゃんが起こしに来た。

 「お疲れですか?」
 「いや、うとうとしてただけだ」
 「夕べは大分騒ぎましたから」
 「ああ、そうだったな」
 亜紀ちゃんが心配そうに俺を見ている。

 「大丈夫だよ」
 俺は笑って答えた。

 夕飯は中華だった。
 チャーハンに春巻きとシウマイ。
 それにチンジャオロースや回鍋肉だ。
 俺はチャーハンと回鍋肉だけを少し食べた。

 「タカさん! やっぱり調子悪いんですね!」
 亜紀ちゃんが立ち上がって叫んだ。

 「「「え!」」」
 子どもたちが驚く。

 「そんなことないよ。夕べ飲み過ぎたから、ちょっと食欲がないだけだ」
 亜紀ちゃんが泣きそうな顔をしている。
 三人も心配そうな顔だ。

 「タカさん、早めに休んだ方が」
 皇紀が言った。

 「別に病気じゃねぇ。でもまあ、ちょっと早く寝るか」
 亜紀ちゃんに引っ張られて、風呂に入れられた。
 一緒だ。

 「今日はまた前も洗ってあげますね」
 「やめろ!」
 「大丈夫です。天井のシミを数えてる間に」
 「どこでそんなセリフを覚えた?」
 亜紀ちゃんが笑って、俺を洗った。

 「昨日、振り回し過ぎたんじゃないですか?」
 「ばかやろう」
 一緒に湯船に入った。



 「千両さんのことですか」
 亜紀ちゃんが言う。
 やはり分かっていたか。

 「ついにヤクザが出入りする家になっちまったなぁ」
 「いい方たちだったじゃないですか」
 「そうはいかん。お前たちはまっとうな人間だ。ヤクザなんかに関わらせるのはなぁ」
 「今更ですよ。暴力人間の親を持ったら、もうどうだって同じです」
 少し笑った。
 
 「若い頃、新宿でヤクザと親しくなったんだ」
 「そうなんですか」
 「ちょっとは驚けよ」
 「いや、他にもいろいろありまして」
 俺は笑った。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 緑子と親しくなっての頃だった。

 俺は緑子と待ち合わせをして、歌舞伎町の店で待っていた。
 カウンターでビールを頼んだ。
 緑子が遅れて来て、立ち上がった俺の肘が隣の男のビールを倒した。
 すぐに謝ったが、男はその瓶で俺の額を殴った。
 ヤクザだと分かった。
 堅気はそんなことはしない。
 俺は男を掴んで表に放り出した。
 男は向かってきたが、俺が鎖骨を折り、右腕をへし折ると大人しくなった。
 数秒だ。

 声を掛けられた。

 「にいさん、強いね」
 俺よりやや背が低いが、大柄な男だった。

 俺が店に戻ると、男も一緒についてくる。
 俺は顔を見られた緑子を早めに帰した。
 男が俺と一緒にカウンターに座り、酒を注文した。
 ヘネシーをボトルで頼む。

 「俺の奢りだ。飲めよ」
 俵と名乗った男は、歌舞伎町界隈に事務所を置くヤクザだった。
 歌舞伎町は、ヤクザの事務所が林立している。
 大小さまざまな組が店ごとにつき、揉め事もしょっちゅうある。
 ヤクザのカオスだ。
 親しげに話しかける男と気が合い、それから一緒に飲むようになった。

 ある時、歌舞伎町の有名な喫茶店に入る。
 そこはヤクザの出入りが多く、店内での揉め事は厳禁になっている。
 暗黙の了解だった。
 俺はそこで何人ものヤクザに紹介された。
 男の組とは別な連中だったが、親しくしているそうだ。
 俵は、ヤクザの世界を俺に色々教えてくれた。
 酷い話が多かったが、楽しいことや美しい話も少しはあった。
 ケツ持ちをしているキャバレーにも連れて行ってくれた。
 一緒に8人の女と寝た。
 俺の馬力に、俵は舌を巻いた。

 いつも、金は俵が払ってくれた。


 

 「ちょっと一緒に来てくれ」
 ある時俵が俺に言った。
 硬い表情だった。
 俺は俵の組の連中と、マンションの一室に向かう。
 上着や腰の膨らみで、何人かがガンを持っていることに気付いていた。
 何をしに来たのかが分かっていた。

 ドアをノックする。
 細く開いたドアを、組員が開こうとした。
 開かない。
 チェーンが嵌っていた。
 俺は強引にドアを両手で引く。
 チェーンが千切れた。
 一斉に俺たちは飛び込んだ。
 作戦も何もない。
 怒号が飛び交い、銃弾が撃ち込まれる。
 俺は震えている一人の組員から銃を奪い、部屋に飛び込んだ。
 銃を持っている連中の全員の腹に撃ち込む。
 五人いた。
 リボルバーの残弾をすべて使った。

 即死者はいない。

 俵の組員が全員を運び、外で待っていたワゴンに放り込む。

 「お前、やっぱスゲェな!」
 俵が俺の肩を叩いた。



 数日後、俵に呼ばれ、歌舞伎町の俵の店に行った。
 誰もいなかった。

 カウンターで、頭を撃ち抜かれた俵がうつ伏せていた。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「ヤクザなんて、所詮はそんなもんだよ。最期に惨めに死んでいくというな」
 「タカさんは、その後どうしたんですか?」
 「何も。つまらねぇシマの取り合いでヤクザが死んだだけだ」

 「俵は田舎でお袋さんがいるんだって言ってた」
 「そうなんですか」
 「毎月結構な金を送ってたそうだ。その金で立派な家を建てたんだって自慢してたな」
 「はい」
 

 「俺はお袋が死んだ時に安心したんだ」
 「え!」
 「これでやっと俺も死ぬことが出来るってな」
 「!」
 「親よりも先に死ぬのは最大の親不孝だ」
 「はい」
 「俺はお袋に散々迷惑をかけ、泣かせた親不孝の塊だった」
 「そんな」
 「でも俺は最大の悲しみをお袋に与えることは、なんとか避けられた」
 「……」

 「俵はバカヤロウだ。金なんてなぁ」

 亜紀ちゃんが俺を前から抱き締めた。

 「だから俺はヤクザなんて大嫌いなんだ」
 「だから、千両さんたちに「花岡」を教えるんですね」






 「また傷だらけですね、タカさんは」
 亜紀ちゃんが小さく呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...