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井上さん Ⅴ

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 俺は家に帰り、着替えるのももどかしかった。
 迎えに出たロボにはニコニコとし、そのまま部屋にいるように言い聞かせた。
 大人しく従う。

 「皇紀!」
 「はい!」
 皇紀をリヴィングに呼んだ。

 「ああ、ルーとハーも呼べ! 急げ!」
 「はい!」
 三人が来る。
 俺の剣幕に、何事かと不安がっている。

 「急いで、御堂家の防衛施設の基礎工事の図面を作れ。大まかでいい。あとは専門家にやらせるからな」
 「基礎工事というと」
 「皇紀! ヘラヘラしてんじゃねぇ!」
 「してませんよ!」

 「堀や建造物が幾つか決まってるだろう」
 「ああ、はい」
 「それだ! 井上さんの会社で受けてくれることになった。お前! ちょっとは嬉しそうな顔をしろ!」
 「どっちなんですかぁ!」

 「急いでくれ、頼む! 井上さんの会社が大変らしいんだ。家を手放さなきゃならないんだよ。恐らく借金もあるだろう」
 「「「え!」」」

 「ルー、ハー、だから分かったな!」
 「「分かんないよ!!」」

 「あ、ああ。落ち着けよ!」

 「「「タカさんですよー!」」」






 亜紀ちゃんがコーヒーを持って来た。
 俺は冷静になって、子どもたちに事の次第を話す。

 「そんなことになってたんですか!」
 亜紀ちゃんが驚く。

 「ああ、だからすぐに3億ほど振り込む用意をしてくれ。月曜日にな」
 「「分かりました!」」
 双子が返事した。

 「T建設に頼むことになっていたが、それは俺から話す。当座は下請けの形にはなるが、井上さんの会社は俺たちと直の指示になると思う。設計の方がどうかだけどな。井上さんのところでそこから受けられるなら、本当に直だ」
 「「「「はい!」」」」
 「皇紀はすぐに図面を作ってくれ。後から変更があって構わないから、現段階でのものでいい。変更があれば、また井上さんに金を渡せるからな」
 「はい!」
 「月曜日までにできるか?」
 「大丈夫です。もう大体は出来てますから」
 「ルー、ハー。イーヴァ・システムはどうだ?」
 「まだだけど、実験段階まではもうすぐです。あれはスゴイよー!」
 俺は笑った。

 「そうか。頼むぞ!」
 「「はい!」」
  俺は皇紀と図面を検討し、仕上げていく。
 これであれば、井上さんに頼める仕事がすぐにできると確信した。
 ルーとハーとも詳細に進捗を聞き、打ち合わせた。

 「「花岡」の動きを機械的に辿るのは、大体できてるよ」
 「他のレールガンとかも、実用段階かな」
 「「ヴォイド機関」も大丈夫。エネルギーはこれで心配ないね」
 二人の天才が保証してくれる。
 双子のシステムの導入は、井上さんの工事の後だ。
 井上さんにはどこまで話すかは決めていないが、安全な場所にいてもらいたい。




 夕飯は寿司をとった。
 好きなものを好きなだけ注文させる。
 ロボのためには、刺身を頼んだ。
 待っている間に、ルーとハーに図面をPDFにさせ、俺がT建設の営業にメールで送った。
 追加は明日、また皇紀が仕上げる。

 一応はT建設が受注し、井上さんの会社を使う形になる。
 おいおい、俺たちと直の遣り取りにできればと思う。

 また俺は不動産屋の高木に連絡し、至急山梨で広い一軒家と、その近くのアパートを探すように言った。
 十世帯が暮らせるアパートだ。

 「突然ですね。分かりました! 石神先生のためなら、何でもしますから!」
 「悪いな。本当に急ぎで頼む。アパートの規模は、また連絡する。俺の世話になった方と、その従業員のものなんだ」
 「はい、お任せ下さい!」
 井上さんに電話し、従業員の家族構成などを聞く。

 「従業員の方々は、一緒に引っ越しでいいでしょうか?」
 「大体は大丈夫だ。家族持ちは単身赴任になるかもしれないが」
 「分かりました。確認をお願いします」
 「ああ。石神、本当に世話になる」
 「こちらこそです!」

 子どもたちは、大満足で寿司を平らげた。
 ロボも、俺が小さく切った刺身を喜んで平らげた。
 60万円ほどになった。
 



 亜紀ちゃんがニコニコしてやってきた。

 「じゃあ、お風呂タイムですね!」
 「いや、一人で入れよ」
 「タカさんには癒しが必要です」
 「亜紀ちゃんの裸を見ても癒されんぞ?」
 「アハハハ! また面白いことをおっしゃる!」
 俺は苦笑して一緒に風呂場に行った。
 皇紀と双子は、まだ真剣に打ち合わせをしていた。

 「今日は前は自分で洗って下さいね!」
 「あ、当たり前だぁ!」
 いつものように、お互いの背中と髪を洗う。
 
 「タカさん、お疲れ様でした」
 「何も疲れてねぇよ」
 「井上さん、驚きました」
 「俺にだけは知られたくなかったんだろうな」
 「え、どうしてですか?」

 「話してたじゃないか。俺に謝りたかったんだって」
 「ああ」
 「これからどん底に落ちようって時に、それだけが心残りだったんだろうよ」
 「そうなんですね」
 「まだ自分が、俺と笑って会えるうちにな。俺が何も気にしないで会えるうちに、と思ったんだろう」
 「優しい方ですね」
 「そうなんだよ!」
 俺がイイこと言ったご褒美にプルプルしてやると、亜紀ちゃんが喜んだ。

 「あの人はなぁ、昔から俺なんかに優しくしてくれるんだ」
 「タカさんだからでしょう」
 「そんなことはねぇ。カタナ壊しちゃったしな」
 「アハハハ!」

 「ほんとに優しい人なんだよ」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 
 翌月、高木真の熱心な仕事のお陰で、御堂の家の近くに300坪の土地を持つ7LDKの家屋に、井上家の家族が引っ越した。
 その庭の車庫の一つに、スズキGSX1000「カタナ」SUが置いてあった。
 豪華な家財も揃っており、家族全員が驚き、感動した。
 車庫を見て、井上は号泣した。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 石神と相模原から帰った六花は、着替えてから病院の響子へ会いに行った。
 一人で夕食を食べていた響子は、六花の顔を見て喜んだ。
 食べ終わった食器を六花が片付け、響子のベッドに座った。
 響子を抱き寄せる。

 「響子、今日はステキなことがありました」
 「タカトラと一緒に走ったんでしょ?」

 「そのことではありません。今日はまた石神先生の素敵なお姿を見たのです」
 「なになに、教えて!」

 「それはですね。二人で石神先生の後輩の方のお店に行ったのです。そうしたらね……」





 六花は響子に嬉しそうに話した。
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