477 / 3,215
井上さん Ⅲ
しおりを挟む
井上さんは飲み過ぎたと言い、部屋へ行かれた。
俺が部屋まで送っていく。
今日は楽しかった、と言って下さった。
リヴィングに戻ると、亜紀ちゃんがロックで飲んでいた。
「こら! 水割りにしろと言っただろう!」
「エヘヘヘ」
「笑って誤魔化すな」
「今日は飲みたい気分です」
俺は苦笑しながら、その一杯で終わりだと言った。
亜紀ちゃんは、自分で焼いたハムを頬張る。
俺はグラスに水を汲み、チェイサーを飲みながらにしろ言った。
「ねえ、タカさん」
「あんだよ」
「なんで「レイ」の話をしてくれなかったんですか?」
「あ? ああ」
「だって、いいお話じゃないですか。まあ今まで伺ったお話もみんなそうですけど。でも今まで聞いた中でも、確実にトップスリーですよ!」」
俺は笑って、自分のグラスにワイルドターキーを注いだ。
丸い氷の表面を酒が伝い、下の液体と混ざって美しい滲みの拡がりを見せる。
「井上さんの言葉を聞いて気付かなかったか?」
「へ?」
「井上さんは、あんなに俺に謝ってたじゃないか」
「ええ、確かに」
「カッコ良過ぎるんだよ。出来過ぎだ。命をかけて仲間を守るなんてな。レイとの友情だって、偶然だ。あんなの、ドラマでも作れば、見ている方が恥ずかしいよ」
「なるほど」
俺はグラスを傾け、じっくりとワイルドターキーを味わう。
舌の上で芳醇な香りが立つ。
「お前たちに、どういう場合に「花岡」を使っていいと言っている?」
「それは、命の危険がある場合と、大事な人間を守る場合です!」
「そうだよな。言い換えれば、俺はお前たちに死ぬんじゃないと言っているんだ」
「あ!」
「俺は死んでもいいと思った。大事な仲間を逃がすためにな。だって俺は特攻隊長だ。だから最初に突っ込んで暴れて、その間に仲間を安全な場所へ逃がすのが役目だよ。それを思っただけよな」
「はい」
「危ない時はやりません、じゃ俺は特攻隊長じゃない。あの井上さんが先輩方を差し置いて、俺を任命してくれたんだ。その期待に応えるのが俺だよ」
「はい」
「レイがいい奴だったのは、偶然だ。もしかしたら俺は殺されてたかもしれない」
「そうですよね」
「死ぬかもしれなかった俺を生かしてくれたのは、今度は「レイ」だよ。だから感謝し、友情を感じただけだ」
「はい」
亜紀ちゃんが、グラスを煽る。
俺が頭を叩いてチェイサーを飲ませた。
「でも、タカさんはレイに話しかけたんですよね」
「ああ」
「それは生きたいからだったんですか?」
「いや、まあ。あいつが可哀そうに思えたんだよ」
「どういうことです?」
「あんな狭い檻に入れられて。人間に訳も分からず鞭で叩かれて。そりゃ、怒って当たり前よな」
「……」
「それを、胸を裂かれて気付いた。レイの怒りは正当だ。だから誰かが受け止めなきゃって思っただけだよ」
亜紀ちゃんが、突然泣き出した。
「おい! どうして泣くんだ」
「だって……タカさんは傷だらけ過ぎですよー!」
「バカ!」
「こないだだって、奈津江さんの絵を見た途端に、あんなにワンワン泣いちゃって」
「やめろって!」
「なんであんなに泣くんですか! 私、ほんとにあれで傷が全部開いて血が噴き出すんじゃないかって心配でしょうがなかったんです! あんなに泣いて、普段の強いタカさんじゃなくなっちゃったぁー!」
俺は亜紀ちゃんを抱き締めた。
亜紀ちゃんは、確かにそんなことを言っていた。
「悪かったな。自分でも驚いてるんだ。俺はまだまだよな」
「そんなこと!」
しばらく抱いていると、徐々に落ち着いてきた。
「本当はさ、お前たちにいつでも死ねと言うのが正しいとは思うんだ」
「はい」
「でもさ、亜紀ちゃんがいつも言うじゃないか」
「なにを?」
「「私がタカさんを守りますね」ってさ。皇紀も双子も言う。俺はそれを聞くたびに、こんなにいい奴らを死なせるものかって思うんだよ」
「タカさーん!」
また亜紀ちゃんが泣き出す。
ロボが出てきた。
井上さんがいる間は、部屋にこもっていた。
普段は絶対に乗らないテーブルに飛び乗り、亜紀ちゃんの顔を舐めた。
「ロボ~!」
「亜紀ちゃん、やり過ぎるなよな」
「……」
「俺は勝手にやったことで、井上さんをあんなに苦しめてしまった。今の、お前たちと一緒になって楽しい暮らしを見ていただいて良かったよ。少しは心が軽くなってもらいたいもんな」
「だから家に呼んだんですね?」
「ああ。自慢するためじゃないよ。ちゃんとやってますからってな」
「わざわざ車を見せたのも」
「まあな」
「タカさーん!」
「うるせぇな」
「優しすぎですぅー!」
「ぶん殴るぞ」
「いーですよ!」
俺はヘッドロックをかけた。
「イタイイタイイタイ!」
亜紀ちゃんがようやく笑った。
「さあ、寝るぞ」
「一緒に寝てください」
「ダメだ。ロボと寝る」
「いいじゃないですか!」
「こないださ」
「はい」
「ロボに言ったんだ」
「何をです?」
「俺が女と寝る時は、外してくれって。恥ずかしいからってな」
「イヤラシー大王ですね!」
二人で笑った。
「ロボに誤解されるじゃないか。「あの子はそういう女なんだな」って」
「アハハハハ!」
「「もう覚えましたよ」って目で見られたくねぇだろう」
「え、別にいいですけど」
亜紀ちゃんの頭をはたいた。
俺はちゃんとロボと寝て、亜紀ちゃんは自分の部屋で寝た。
「おい、あの子は「娘」だからな。誤解すんなよな」
ロボが口を大きく開いた。
「でも、ちょっとやばかったけどな」
ロボが足で俺の腹を蹴った。
俺は笑って頭を撫でてやった。
俺が部屋まで送っていく。
今日は楽しかった、と言って下さった。
リヴィングに戻ると、亜紀ちゃんがロックで飲んでいた。
「こら! 水割りにしろと言っただろう!」
「エヘヘヘ」
「笑って誤魔化すな」
「今日は飲みたい気分です」
俺は苦笑しながら、その一杯で終わりだと言った。
亜紀ちゃんは、自分で焼いたハムを頬張る。
俺はグラスに水を汲み、チェイサーを飲みながらにしろ言った。
「ねえ、タカさん」
「あんだよ」
「なんで「レイ」の話をしてくれなかったんですか?」
「あ? ああ」
「だって、いいお話じゃないですか。まあ今まで伺ったお話もみんなそうですけど。でも今まで聞いた中でも、確実にトップスリーですよ!」」
俺は笑って、自分のグラスにワイルドターキーを注いだ。
丸い氷の表面を酒が伝い、下の液体と混ざって美しい滲みの拡がりを見せる。
「井上さんの言葉を聞いて気付かなかったか?」
「へ?」
「井上さんは、あんなに俺に謝ってたじゃないか」
「ええ、確かに」
「カッコ良過ぎるんだよ。出来過ぎだ。命をかけて仲間を守るなんてな。レイとの友情だって、偶然だ。あんなの、ドラマでも作れば、見ている方が恥ずかしいよ」
「なるほど」
俺はグラスを傾け、じっくりとワイルドターキーを味わう。
舌の上で芳醇な香りが立つ。
「お前たちに、どういう場合に「花岡」を使っていいと言っている?」
「それは、命の危険がある場合と、大事な人間を守る場合です!」
「そうだよな。言い換えれば、俺はお前たちに死ぬんじゃないと言っているんだ」
「あ!」
「俺は死んでもいいと思った。大事な仲間を逃がすためにな。だって俺は特攻隊長だ。だから最初に突っ込んで暴れて、その間に仲間を安全な場所へ逃がすのが役目だよ。それを思っただけよな」
「はい」
「危ない時はやりません、じゃ俺は特攻隊長じゃない。あの井上さんが先輩方を差し置いて、俺を任命してくれたんだ。その期待に応えるのが俺だよ」
「はい」
「レイがいい奴だったのは、偶然だ。もしかしたら俺は殺されてたかもしれない」
「そうですよね」
「死ぬかもしれなかった俺を生かしてくれたのは、今度は「レイ」だよ。だから感謝し、友情を感じただけだ」
「はい」
亜紀ちゃんが、グラスを煽る。
俺が頭を叩いてチェイサーを飲ませた。
「でも、タカさんはレイに話しかけたんですよね」
「ああ」
「それは生きたいからだったんですか?」
「いや、まあ。あいつが可哀そうに思えたんだよ」
「どういうことです?」
「あんな狭い檻に入れられて。人間に訳も分からず鞭で叩かれて。そりゃ、怒って当たり前よな」
「……」
「それを、胸を裂かれて気付いた。レイの怒りは正当だ。だから誰かが受け止めなきゃって思っただけだよ」
亜紀ちゃんが、突然泣き出した。
「おい! どうして泣くんだ」
「だって……タカさんは傷だらけ過ぎですよー!」
「バカ!」
「こないだだって、奈津江さんの絵を見た途端に、あんなにワンワン泣いちゃって」
「やめろって!」
「なんであんなに泣くんですか! 私、ほんとにあれで傷が全部開いて血が噴き出すんじゃないかって心配でしょうがなかったんです! あんなに泣いて、普段の強いタカさんじゃなくなっちゃったぁー!」
俺は亜紀ちゃんを抱き締めた。
亜紀ちゃんは、確かにそんなことを言っていた。
「悪かったな。自分でも驚いてるんだ。俺はまだまだよな」
「そんなこと!」
しばらく抱いていると、徐々に落ち着いてきた。
「本当はさ、お前たちにいつでも死ねと言うのが正しいとは思うんだ」
「はい」
「でもさ、亜紀ちゃんがいつも言うじゃないか」
「なにを?」
「「私がタカさんを守りますね」ってさ。皇紀も双子も言う。俺はそれを聞くたびに、こんなにいい奴らを死なせるものかって思うんだよ」
「タカさーん!」
また亜紀ちゃんが泣き出す。
ロボが出てきた。
井上さんがいる間は、部屋にこもっていた。
普段は絶対に乗らないテーブルに飛び乗り、亜紀ちゃんの顔を舐めた。
「ロボ~!」
「亜紀ちゃん、やり過ぎるなよな」
「……」
「俺は勝手にやったことで、井上さんをあんなに苦しめてしまった。今の、お前たちと一緒になって楽しい暮らしを見ていただいて良かったよ。少しは心が軽くなってもらいたいもんな」
「だから家に呼んだんですね?」
「ああ。自慢するためじゃないよ。ちゃんとやってますからってな」
「わざわざ車を見せたのも」
「まあな」
「タカさーん!」
「うるせぇな」
「優しすぎですぅー!」
「ぶん殴るぞ」
「いーですよ!」
俺はヘッドロックをかけた。
「イタイイタイイタイ!」
亜紀ちゃんがようやく笑った。
「さあ、寝るぞ」
「一緒に寝てください」
「ダメだ。ロボと寝る」
「いいじゃないですか!」
「こないださ」
「はい」
「ロボに言ったんだ」
「何をです?」
「俺が女と寝る時は、外してくれって。恥ずかしいからってな」
「イヤラシー大王ですね!」
二人で笑った。
「ロボに誤解されるじゃないか。「あの子はそういう女なんだな」って」
「アハハハハ!」
「「もう覚えましたよ」って目で見られたくねぇだろう」
「え、別にいいですけど」
亜紀ちゃんの頭をはたいた。
俺はちゃんとロボと寝て、亜紀ちゃんは自分の部屋で寝た。
「おい、あの子は「娘」だからな。誤解すんなよな」
ロボが口を大きく開いた。
「でも、ちょっとやばかったけどな」
ロボが足で俺の腹を蹴った。
俺は笑って頭を撫でてやった。
0
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
付喪神狩
やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。
容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。
自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる