富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
469 / 2,907

蓮花 Ⅲ

しおりを挟む
 俺たちは蓮花の家に向かった。
 栞の実家とは近いが、20キロほど離れている。
 まあ、「花岡」では、大した距離ではない。

 栞に案内されて着いた蓮花の家は、想像していたものとは違った。
 俺は勝手に日本家屋だと考えていた。

 「おい、これは」
 SRCの鉄筋の建物。
 しかも途轍もなく大きい。
 正面の巨大な建物の他に、幾つかの研究施設らしき建物。
 30000坪はあろうかという敷地に、それらは建っていた。

 「家じゃねぇじゃんか!」
 栞が笑っていた。

 広い門には、《花岡畜産研究所》と書かれていた。

 高さ10メートルの塀で囲まれ、監視カメラが点在している。
 敷地内も同様で、本館らしき建物の屋上には、レーダー探知機が
回っている。

 「驚いたでしょ?」
 「もちろんだぁー!」
 「ちょっと秘密にしてたの、石神くんを驚かせたくてね」
 「こんな資金が花岡家にあったのか」
 「うん、まあ結構な割合で使ったかな。土地は元からうちのだったけど、施設なんかでね」

 正門で蓮花が待っていた。
 彼岸花の着物だ。
 門は開いている。
 アヴェンタドールを中に入れると、駐車スペースを指さした。
 移動する後ろで、分厚い金属の門が閉じた。
 車から降りると、蓮花が挨拶する。

 「石神様、栞様、本日は遠いところを誠にありがとうございます」
 「一日世話になる。後で斬のところへも顔を出すけどな」
 「かしこまりました」
 「蓮花、元気そうね」
 「お陰様でございます。不自由なくやらせていただいております」
 蓮花が俺たちの荷物を持ち、案内した。

 「各施設は後程。まずはお食事を用意いたしました」
 「分かった」



 広い廊下を進み、エレベーターで最上階に移動した。
 ドアを開け、中へ案内されると、和室だった。
 窓はサッシの内側が障子になっている。
 今は開け放たれ、嵌め殺しの大きなガラスの向こうに景色が広がっている。

 「どうぞ」
 俺たちは適当に座った。
 蓮花が日本茶を煎れ、俺たちの前に置く。

 「荷物はお部屋へ運んでおきます。お食事をお持ちしますので、少々お待ちください」
 蓮花が出ていった。

 「まいったな」
 「ウフフ」
 「ここには何人くらいいるんだ?」
 「50人くらいかな。でも、誰にも会わないよ。石神くんは蓮花だけしか見ない」
 「なるほど」
 「一応、うちの人間たちだけどね。石神くんは根幹だから、なるべく秘密にしたいの」
 俺は茶を飲んだ。
 美味い。
 日本茶は好きではないが、これほどのものであればしょっちゅう飲みたい。

 「「花岡」は石神くんのものだよ。当主はおじいちゃんだけど、全面的に石神くんの下についたから」
 「分かった」
 蓮花が食事を持って来た。
 ワゴンで運んでくる。
 膳が俺と栞の前に置かれ、蓮花が飯と味噌汁をよそう。

 ワカサギの焼き物。
 茄子とジャガイモの炊き出し。
 茶碗蒸し。
 オクラの煮びたし。
 それに俺の膳にはステーキがあった。
 栞にはない。
 味噌汁は何種類かのキノコだった。

 「田舎料理で、石神様には申し訳ありません」
 「いや、美味そうだ。いただきます」

 実際、本当に美味かった。
 食事が終わる頃、蓮花がコーヒーを持って来る。
 俺の好みを知っているらしい。

 「蓮花、美味しかった。ありがとう」
 蓮花は頭を下げ、膳を片付けた。
 蓮花が戻り、この施設の概要を話す。

 「もうご想像なさっているとは思いますが、この施設は姉が中心に使っていました」
 そうだろうとは思っていた。
 短期間に建てられた施設ではない。

 「主に医学的、生化学的な実験が行なえるようになっていますが、今は私がそれを引き継いでおります」
 「分かった」

 俺たちは案内された。
 化学研究設備。
 生化学研究設備。
 医学研究設備。
 地下には細菌の研究設備まである。
 MRIやCTスキャンまであった。
 大型のオートクレーブや遠心分離機。
 スペクトル解析や様々な計測器。

 「一応、BSL-4まで扱えます。もちろん、正規の規格とは違うかもしれませんが」
 どうやって手に入れたのか、やばいものまであった。
 要は、有効な治療法が確立されていないばかりか、致死率や感染力が強烈なものだ。
 使い方によっては、バイオテロが起こせる。
 地下の危険な施設は実際には入らずに、蓮花が持っているタブレットの映像で見せられた。
 移動型の監視ロボットがあるらしい。
 希望すれば入れるが、面倒な手続きが必要だ。
 完全消毒に特殊な装備を身につけなければならない。

 外の研究棟に案内される。
 そこは爆発物の研究や倉庫的な建物、焼却施設などだった。
 膨大な武器弾薬の倉庫もあった。

 「こちらは、御目汚しになりますが」
 蓮花が断って案内したのは、蓮華の研究遺産だった。
 人体や他の動物の標本。
 そして脳をいじくられた元人間たち。
 栞が目をそむけた。
 
 「以上でございます。何かお気になるものがございましたら、後程詳細にご案内いたしますので、御命じください」
 「分かった。ご苦労」

 


 俺たちは、アヴェンタドールに乗り、斬の家に向かった。
 蓮花からキーを預かり、自由にこの施設に出入りできるようになった。

 「蓮華から、この施設のすべての情報が業に渡っているな」
 「そうね、そう考えるべきね」
 「俺たちは、それを超えなければならない」
 「うん」


 

 俺たちは、斬の家に着いた。 
しおりを挟む
script?guid=on
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...