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ロボ Ⅱ

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 翌朝、アラームの5分前に起こされた。
 ロボが手で俺の頬を軽く叩いている。
 爪はもちろん出していない。
 俺が目を開けると、顔を舐め始めた。

 「おい、分かったよ。お前、随分と元気そうじゃないか」
 ロボの頭を抱き寄せて撫でた。
 俺は缶を一つ開け、皿に乗せた。
 美味そうにガツガツと食べる。
 驚いたのは、一晩ですっかり元気になったばかりか、非常に美しい姿になっていたことだ。
 弱っていた夕べはともかく、前に店で見た貫禄の巨漢とは別物だ。
 顔つきも随分と優しくなった気がする。

 「お前って、美人だったんだな」
 俺が言うと、食べながら嬉しそうに鳴いた。
 ドアを少し開けたまま、下に降りた。
 子どもたちはまだ今週いっぱいは夏休みだ。

 「ロボが元気になったぞ」
 子どもたちが驚き、喜んだ。

 「ここで飼うからな。少しずつ仲良くしてくれ」
 俺が話していると、ロボが降りてきた。
 みんな、その姿の違いに驚く。

 「おい、無理するな。病み上がりなんだからな」
 俺が言うと、また小さく鳴いた。

 「まあ、みんな挨拶だ。小さな声でよろしくと言ってくれ」
 「「「「ロボ、よろしく」」」」
 ロボが子どもたちに向かい鳴いた。

 「なに、言葉が分かるの!」
 ルーが言う。

 「大丈夫そうだな。まあ、しばらくは俺の部屋で寝かせるから。みんなはまだ近づかないでくれ」
 「「「「はい」」」」
 「ルーとハー。交代で昼と夕方にエサをやってくれ。1缶ずつでいい。俺の部屋にあるからな。エサをやる前に、毎回皿を洗ってくれ。水も取り換えてな。それとトイレを使ったら、砂を変えてくれ」
 「「はい!」」
 「頼むぞ」

 俺はロボを抱きかかえ、部屋に戻した。

 「わざわざ挨拶に来てくれたのか。ありがとうな。しばらくはゆっくり寝ててくれよ。俺は夜に戻るからな」
 ロボはまた小さく鳴いた。





 その日の夕方、子どもたちが病院へ来た。
 俺の部下などに挨拶し、俺の仕事が終わるまで響子と顕さんの部屋に顔を出す。
 みんなで銀座線で銀座まで行った。
 伊東屋の額縁コーナーへ行く。
 本店の向かいの建物だ。
 店員の出す額縁とマットの見本を双子と見て、候補を決めていった。

 「あのね、シンプルなのがいいんだって」
 「そうか。だったらこれにしよう」
 俺は豪奢な細かな透かし彫りのある、金の額縁を選んだ。

 「えー、これってゴージャスじゃない!」
 「だからいいんだよ。奈津江は膨れた面も可愛いんだ」
 「「えぇー!」」
 強硬に通した。
 双子の絵をゴージャスなもので飾りたかった。
 淡いベージュと薄い水色のマットに嵌め、急いでくれと頼んだ。
 学校の自由課題に間に合わせないとと言うと、店員が週末に仕上げると言ってくれた。

 「悪いな、みんなで美味いものをと思ってたんだけど、ロボが来たからな。早く帰ろう」
 「「「「はい!」」」」
 みんなで電車で帰った。

 ドアを開けると、ロボが駆け降りて来た。
 みんなが「ただいま」と言うと、一人一人の足に身を摺り寄せた。
 俺には半身を立てて挨拶してくる。
 「孤高のロボ」ではなくなっていた。

 夕飯を作り、ロボの皿もリヴィングに持って来て一緒に食べた。
 ロボは食べ終わると、部屋の中を散策しはじめる。
 自分の縄張りの確認だ。

 「よし、ロボ。簡単に家を案内してやろう」
 そう言って俺はロボを手招きした。
 ついてくる。
 一通り案内し、俺はゴールドが使っていた部屋をロボの部屋とした。

 「ここがお前の部屋だ。自由に使ってくれ」
 ロボのクッション、エサの皿、水、そしてトイレは二階のトイレ横の廊下に置いた。
 ロボはクッションに横たわった。
 毎日、少しずつ慣れていくだろう。
 リヴィングに戻り、子どもたちに、しばらくはロボが寄って来なければ触らないように言った。
 食べ物もむやみに与えないように伝える。
 ゴールドの件で分かっている。

 俺は風呂上がりにロボの部屋へ行き、缶エサとまた粉末を混ぜて与えた。
 ロボが美味そうに食べた。
 ドアが閉まらないように、上部にU字型のゴムの当て物を貼った。
 これもゴールドの時に使っていたものだ。



 眠ろうとすると、ドアが静かに開いた。
 誰かと思ったら、ロボだった。
 ドアノブを器用に開けたのだ。
 ハンドル型のものだった。
 俺のベッドに乗って来る。
 身のこなしが、昨日よりも軽やかだ。

 「なんだよ、寂しいってか?」
 俺の顔を舐めて来た。

 「普段はいいけどな。誰かが一緒の時には、外してくれな」
 ロボが鳴いた。

 「ちょっとお前がいると俺が恥ずかしいからな! アハハハ!」
 ロボが口を大きく開いた。
 俺はロボに食べさせた「α」のこと、そしてオロチのことを話した。

 「オロチは御堂の家を守ってくれてるようだ。お前にもこの家を守って欲しい。まあ、お前の安全の上でな。お前もこの家の家族になったんだ。一緒にやっていこうな」
 ロボが鳴いた。

 「しかしお前は綺麗だなぁ。俺がネコだったらベタ惚れだな!」
 ゴロゴロと喉を鳴らす。

 「おい、今度ドライブに行こう。アヴェンタドールというなぁ、カッチョイイ車があるんだ。ちょっとだけ見たか? いいだろう、あれは」


 俺はしばらくロボと話して眠った。
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