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双子の絵
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翌朝、双子に起こされた。
もう、「花岡流」のひどい起こし方はない。
特に休みの日は俺のベッドに入って来て甘えながら起こしてくれる。
「おう、今日もパンツを脱がされに来たかぁ!」
「「アハハハ!」」
身体を触りながら遊んだ。
「そういえば、夏休みの自由課題は絵を描いたんだって?」
「えー、どうして知ってるの!」
ルーが言った。
「いいじゃないか。俺にも見せろよ」
「「いやー」」
「なんでだよ。額装もしなきゃだろ?」
「あ、そうか」
「な、見せてくれよ」
「「うーん」」
「頼むよ」
「ま、いっか!」
ルーが承諾してくれた。
夕飯の後でということになった。
どうしてそうも引き伸ばすのか。
朝食を食べ、コーヒーを飲んでから栞の家に行った。
「いらっしゃい。別荘はどうだった?」
「ああ、楽しかったよ」
俺は中へ入り、リヴィングに案内された。
栞が紅茶を淹れてくれる。
「蓮花は元気だったか?」
「うん。元気だけどちょっと痩せたかな。私の前では着物なんで分かりにくいけど、顔が細くなってた」
「そうか」
「石神くんが謝ってたと伝えたら、驚いてたわ。それに会いたいんだって伝えたら、本当に嬉しそうに喜んでた」
「じゃあ、近いうちに行こう」
「そうしてあげて」
俺は栞から蓮花の研究を聞いた。
「花岡の人参をベースに、何かを作ろうとしてるみたい。他にもいろいろ話してくれるんだけど、ちょっと曖昧な分部があって」
「曖昧?」
「うん。石神くんを守るためのものらしいんだけど、どうにも突飛なのよね」
栞の話では、死んだ人間を生き返らせるとか、「花岡」の技で大陸を吹っ飛ばすというようなものらしい。
「それはいくらなんでもなぁ」
「そうでしょう? でも蓮花は本気みたいなの」
「それが必要になるってことか?」
「うん。あ、蓮花からこれは必ず伝えて欲しいって」
「なんだ?」
「石神くんが手に入れたものを分けて欲しいって。必ず伝えてくださいって頼まれた」
「俺が手に入れたもの?」
恐らくは「α」や「γ」「Ω」、それにオロチの抜け殻か。
「β」はもしかしたら使っているのかもしれない。
「分かった。今度聞いてみよう」
「そうして」
俺たちは道場で組み手をした。
栞は鍛錬を怠らず、上達していた。
30分ほどもやり合った。
「はぁー! もう石神くんには全然敵わないね」
栞は肩で息をしながら言った。
「栞だって強くなってるじゃないか」
「だって! 私は毎日鍛錬しているのに。石神くんは何もやってないでしょ?」
「まあな。少しはうちのジム・スペースでやってるけど」
「ずるいなー」
俺は笑って一緒に道場を出た。
二人でシャワーを浴びた。
「昼食は何を作ろうか?」
「簡単なものでいいだろう。別荘じゃ肉ばかりだったしな」
「じゃあ和食にする?」
「それがいいな」
キンメダイがあるということだったので、俺が煮付けを作った。
「じゃあ私はサラダと他のものを作るね」
栞は湯豆腐とトマトサラダを作った。
ドレッシングも手作りだ。
「石神くんって、料理も上手いよねぇ」
「練習したからな。美味いものが喰いたいからな」
「おじいちゃんがね」
「おい、食事中にウンコの話はやめろよ」
「ひどいよー!」
「斬がなんだって?」
「あれでも私のおじいちゃんだからね。あのね、石神くんに会いたいって」
「葬儀には顔を出すと伝えてくれ」
「もうー!」
斬は、「花岡」の技を一通り俺に見せたいらしい。
そのうちに行くと俺は言った。
「おじいちゃんね。なんか棘が取れたような雰囲気だった」
「なんだそりゃ?」
「何か肩の荷を降ろしたみたいな」
「そうか」
俺は聞きたくないことを栞に聞いた。
「何度か家に行ったけど、雅さんたちはいつもいなかったな」
「うん」
栞の顔が暗くなる。
やはりそうなのか。
「「業」がらみか?」
「うん。責任を取るために、「業」を探してる」
「そうか」
その「責任」とは、「業」の始末だろう。
「今はどこへ?」
「分からない。連絡を取らないことになってるから」
「悪かったな、辛いことを聞いて」
「ううん。石神くんには話さなきゃって思ってた」
俺は栞を抱いた。
栞は何度も気をやり、意識を喪った。
シャワーを借り、俺は栞を寝かせたまま家を出た。
家に戻り、ライダースーツに着替えて六花を誘った。
マンションの前で待ち合わせる。
出掛ける前に、響子の部屋へ寄った。
「タカトラー!」
響子が嬉しそうに抱き着いて来る。
「ちょっと寄っただけなんだ。身体は大丈夫か?」
「うん!」
俺はしゃがんで響子のお腹に耳をあてる。
「よし! 赤ちゃんは順調にそだってるな!」
「えー、いないよ」
「だって何晩も一緒に寝たじゃないか」
「アハハハハ!」
「大事にしろよ!」
「分かった!」
俺たちは手を振って別れた。
マシンに火を入れる。
むき出しのでかいエンジンが唸る。
「いつものように首都高を流してから、ハンバーガーを食べよう」
「分かりました」
美しい獣がニンジャに跨る。
俺のドゥカティ・スーパーレッジェーラの後をついてくる。
首都高で、次々と車を追い抜いて行った。
六花もちゃんとついてくる。
「今日は飛ばしますね!」
インカムで六花が言った。
「なんとなくな!」
前方でトレーラーが蛇行運転する。
俺たちを阻んでいるのだ。
俺は加速して「花岡」で飛び越えた。
六花も同様に越えてくる。
「「アハハハハ!」」
二人で笑った。
俺たちは腕を振り回し、更に加速した。
麻布の店でいつものハンバーガーを注文する。
店長が来た。
「お久しぶりです。もう見限られてしまったのかと」
そういえば久しぶりだ。
一か月も来なかったか。
「サービスが悪いからなぁ」
俺が言うと、店長が青ざめた。
「そんなことは! 今日はお代はいただきません!」
「冗談だよ! 俺たちは金はあるんだ」
「はい! それはもう!」
しどろもどろに戻って行く。
「六根清浄」の焼き印が押されたサルサバーガーが届き、注文していないポテトが乗せられていた。
Sサイズだ。
「ショボイですね」
「そうだな」
二人で笑った。
家に戻り、夕食はハンバーグだった。
俺は苦笑し、いつものようにソースで皿に模様を描いてやる。
夕飯後に双子が俺に絵を見せると言った。
リヴィングに集まってみんなで見せてもらう。
驚いた。
瞬間に涙が出た。
「おい、これは……」
「だから見せるの待ってたのにー」
「絶対タカさん、泣いちゃうから」
奈津江の絵だった。
ハーの一枚は俺の寝室で佇む奈津江。
ルーのもう一枚は、羽田空港で俺の隣に座っている奈津江。
「お前ら、これは」
「うん、奈津江さんに断って描いたの。本当はいけないんだって」
「それは!」
「ダメ! 口にしちゃダメだよ! それと、しょっちゅう空港に会いに行ってもダメだって」
ルーが言った。
どちらも、俺の知っている美しく可愛らしい奈津江だった。
水彩で描かれた二枚は、奈津江の明るさと優しさが滲み出ている。
俺は声を出して泣いた。
子どもたちの前でも抑えきれなかった。
ルーとハーが膝を折って絵を抱き締める俺に、そっと近づいてきた。
両側から俺を抱いてくれた。
どちらの奈津江も、優しく微笑んで俺を見てくれていた。
微笑んでいた。
もう、「花岡流」のひどい起こし方はない。
特に休みの日は俺のベッドに入って来て甘えながら起こしてくれる。
「おう、今日もパンツを脱がされに来たかぁ!」
「「アハハハ!」」
身体を触りながら遊んだ。
「そういえば、夏休みの自由課題は絵を描いたんだって?」
「えー、どうして知ってるの!」
ルーが言った。
「いいじゃないか。俺にも見せろよ」
「「いやー」」
「なんでだよ。額装もしなきゃだろ?」
「あ、そうか」
「な、見せてくれよ」
「「うーん」」
「頼むよ」
「ま、いっか!」
ルーが承諾してくれた。
夕飯の後でということになった。
どうしてそうも引き伸ばすのか。
朝食を食べ、コーヒーを飲んでから栞の家に行った。
「いらっしゃい。別荘はどうだった?」
「ああ、楽しかったよ」
俺は中へ入り、リヴィングに案内された。
栞が紅茶を淹れてくれる。
「蓮花は元気だったか?」
「うん。元気だけどちょっと痩せたかな。私の前では着物なんで分かりにくいけど、顔が細くなってた」
「そうか」
「石神くんが謝ってたと伝えたら、驚いてたわ。それに会いたいんだって伝えたら、本当に嬉しそうに喜んでた」
「じゃあ、近いうちに行こう」
「そうしてあげて」
俺は栞から蓮花の研究を聞いた。
「花岡の人参をベースに、何かを作ろうとしてるみたい。他にもいろいろ話してくれるんだけど、ちょっと曖昧な分部があって」
「曖昧?」
「うん。石神くんを守るためのものらしいんだけど、どうにも突飛なのよね」
栞の話では、死んだ人間を生き返らせるとか、「花岡」の技で大陸を吹っ飛ばすというようなものらしい。
「それはいくらなんでもなぁ」
「そうでしょう? でも蓮花は本気みたいなの」
「それが必要になるってことか?」
「うん。あ、蓮花からこれは必ず伝えて欲しいって」
「なんだ?」
「石神くんが手に入れたものを分けて欲しいって。必ず伝えてくださいって頼まれた」
「俺が手に入れたもの?」
恐らくは「α」や「γ」「Ω」、それにオロチの抜け殻か。
「β」はもしかしたら使っているのかもしれない。
「分かった。今度聞いてみよう」
「そうして」
俺たちは道場で組み手をした。
栞は鍛錬を怠らず、上達していた。
30分ほどもやり合った。
「はぁー! もう石神くんには全然敵わないね」
栞は肩で息をしながら言った。
「栞だって強くなってるじゃないか」
「だって! 私は毎日鍛錬しているのに。石神くんは何もやってないでしょ?」
「まあな。少しはうちのジム・スペースでやってるけど」
「ずるいなー」
俺は笑って一緒に道場を出た。
二人でシャワーを浴びた。
「昼食は何を作ろうか?」
「簡単なものでいいだろう。別荘じゃ肉ばかりだったしな」
「じゃあ和食にする?」
「それがいいな」
キンメダイがあるということだったので、俺が煮付けを作った。
「じゃあ私はサラダと他のものを作るね」
栞は湯豆腐とトマトサラダを作った。
ドレッシングも手作りだ。
「石神くんって、料理も上手いよねぇ」
「練習したからな。美味いものが喰いたいからな」
「おじいちゃんがね」
「おい、食事中にウンコの話はやめろよ」
「ひどいよー!」
「斬がなんだって?」
「あれでも私のおじいちゃんだからね。あのね、石神くんに会いたいって」
「葬儀には顔を出すと伝えてくれ」
「もうー!」
斬は、「花岡」の技を一通り俺に見せたいらしい。
そのうちに行くと俺は言った。
「おじいちゃんね。なんか棘が取れたような雰囲気だった」
「なんだそりゃ?」
「何か肩の荷を降ろしたみたいな」
「そうか」
俺は聞きたくないことを栞に聞いた。
「何度か家に行ったけど、雅さんたちはいつもいなかったな」
「うん」
栞の顔が暗くなる。
やはりそうなのか。
「「業」がらみか?」
「うん。責任を取るために、「業」を探してる」
「そうか」
その「責任」とは、「業」の始末だろう。
「今はどこへ?」
「分からない。連絡を取らないことになってるから」
「悪かったな、辛いことを聞いて」
「ううん。石神くんには話さなきゃって思ってた」
俺は栞を抱いた。
栞は何度も気をやり、意識を喪った。
シャワーを借り、俺は栞を寝かせたまま家を出た。
家に戻り、ライダースーツに着替えて六花を誘った。
マンションの前で待ち合わせる。
出掛ける前に、響子の部屋へ寄った。
「タカトラー!」
響子が嬉しそうに抱き着いて来る。
「ちょっと寄っただけなんだ。身体は大丈夫か?」
「うん!」
俺はしゃがんで響子のお腹に耳をあてる。
「よし! 赤ちゃんは順調にそだってるな!」
「えー、いないよ」
「だって何晩も一緒に寝たじゃないか」
「アハハハハ!」
「大事にしろよ!」
「分かった!」
俺たちは手を振って別れた。
マシンに火を入れる。
むき出しのでかいエンジンが唸る。
「いつものように首都高を流してから、ハンバーガーを食べよう」
「分かりました」
美しい獣がニンジャに跨る。
俺のドゥカティ・スーパーレッジェーラの後をついてくる。
首都高で、次々と車を追い抜いて行った。
六花もちゃんとついてくる。
「今日は飛ばしますね!」
インカムで六花が言った。
「なんとなくな!」
前方でトレーラーが蛇行運転する。
俺たちを阻んでいるのだ。
俺は加速して「花岡」で飛び越えた。
六花も同様に越えてくる。
「「アハハハハ!」」
二人で笑った。
俺たちは腕を振り回し、更に加速した。
麻布の店でいつものハンバーガーを注文する。
店長が来た。
「お久しぶりです。もう見限られてしまったのかと」
そういえば久しぶりだ。
一か月も来なかったか。
「サービスが悪いからなぁ」
俺が言うと、店長が青ざめた。
「そんなことは! 今日はお代はいただきません!」
「冗談だよ! 俺たちは金はあるんだ」
「はい! それはもう!」
しどろもどろに戻って行く。
「六根清浄」の焼き印が押されたサルサバーガーが届き、注文していないポテトが乗せられていた。
Sサイズだ。
「ショボイですね」
「そうだな」
二人で笑った。
家に戻り、夕食はハンバーグだった。
俺は苦笑し、いつものようにソースで皿に模様を描いてやる。
夕飯後に双子が俺に絵を見せると言った。
リヴィングに集まってみんなで見せてもらう。
驚いた。
瞬間に涙が出た。
「おい、これは……」
「だから見せるの待ってたのにー」
「絶対タカさん、泣いちゃうから」
奈津江の絵だった。
ハーの一枚は俺の寝室で佇む奈津江。
ルーのもう一枚は、羽田空港で俺の隣に座っている奈津江。
「お前ら、これは」
「うん、奈津江さんに断って描いたの。本当はいけないんだって」
「それは!」
「ダメ! 口にしちゃダメだよ! それと、しょっちゅう空港に会いに行ってもダメだって」
ルーが言った。
どちらも、俺の知っている美しく可愛らしい奈津江だった。
水彩で描かれた二枚は、奈津江の明るさと優しさが滲み出ている。
俺は声を出して泣いた。
子どもたちの前でも抑えきれなかった。
ルーとハーが膝を折って絵を抱き締める俺に、そっと近づいてきた。
両側から俺を抱いてくれた。
どちらの奈津江も、優しく微笑んで俺を見てくれていた。
微笑んでいた。
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