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オロチ、その見送り。

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 子どもたちが夕飯の準備を手伝う。
 俺たちが家に帰るため、早目の夕飯にしてくれるつもりだ。

 俺は御堂と柳の三人で座敷で話した。
 響子は御堂に部屋を借りて、少し寝かせる。
 六花が付き添う。

 「石神さん! オロチは石神さんの言ってること分かってましたよね!」
 「知らねぇよ。オロチに聞けよ」
 「ヒィッ!」
 「石神、お前とんでもないぞ」
 御堂が言う。

 「どうしてお前が呼びかけると出てくるんだよ」
 「お前も呼べばいいじゃないか」
 「無理だよ。何度も卵を置くときに話しかけてるって。でも一度も出てきたことはないぞ?」
 「ああ、神は威厳が大事だからだろう?」
 「お前なぁ」
 また御堂が呆れて俺を見る。
 俺たちはレジャーシートを敷いた上に重ねられているオロチの抜け殻を見た。

 「これどうする?」
 「どうするって石神、お前がもらったんだろう」
 「そうは言ってもなぁ。お前の家で預かってもらうって言っちゃったし」
 「そんなこと」

 「柳、部屋に置いてくれよ」
 「いやですよ!」

 「困ったなぁ。ああ、ちょっともらうよ。調べてみたいしな」
 「じゃあ、うちで大事に保管するよ。蔵でもいいだろ?」
 「ああ、頼むわ」
 
 「あのネズミとかって」
 柳が言った。

 「ああ、びっくりしたな。ああやって食べてたんだな」
 「どうりで誰も見ないはずだ。軒下にいるだけでいいんだからな」
 「でも、もっと大きくなったらあそこにいられないだろう?」
 「そうだなぁ」
 「一応、あんまりでかくはなるなと最初に頼んだけどな。何しろ相手はヘビだ。ニュアンスが伝わったかどうか」
 「石神、コワイこと言うなよ」

 「柳、お前の部屋で」
 「だから嫌ですってぇ!」




 俺は御堂を散歩に誘った。
 しばらく歩き、誰もついて来ないことを確認した。
 庭の隅にある東屋に座る。
 結構暑かったが、東屋の日陰は結構涼しい。

 「石神、オロチはお前の言うことが分かるんだな?」
 「そのようだな」
 「お前は最初から分かると思ってたんじゃないのか?」
 「いや、俺は誰にでも話しかける人間だからなぁ」
 「相手が人間じゃなくてもか」
 「そうだ。だって、相手の心は見えないからな」
 「お前らしいよ」
 御堂は少し笑った。

 「あの脱皮した抜け殻は、どうしてくれたんだと思う?」
 「俺たちに必要だとオロチが思ったんだろう」
 「どういうことだ?」
 「今は確信ではないけど、恐らく「α」に準じた、もしかしたらそれ以上の何かがあるんじゃないかと考えている」
 「それは、あの「花岡」を防ぐ以上ということか?」
 「分からない。それは俺の方で実験してみるよ」

 少し風が吹いた。
 それだけで涼しさを感じる。

 「石神、お前には感謝しかない」
 「よせよ。それにオロチはお前の家の守り神だ。あいつが大きくなったのは、それが必要だと判断したんだろうよ」
 超常的な力のきっかけは、俺が「α」の粉末を与えたせいかもしれない。
 しかし、元々何かの力があってこそ、「御堂家の守り神」となったのだと思う。
 俺はそういうことを御堂に話した。

 「なるほど」
 「それにな。そもそも俺が「α」の粉末をやったこと自体、オロチの導きじゃないかとも考えている」
 「石神を操ったということか!」
 御堂が驚いている。
 俺を心配してくれてのことだ。

 「いや、そうとばかりも言えん。単に「ちょっといいもん持ってんな。俺に分けてくれよ」って感じで顔を出したのかもな」
 「お前、それって」
 御堂が笑った。

 「分からんけど、多分そんなことじゃないか? 俺に顔を出せば、俺がどう動くのか分かっていたんじゃないかと思うぞ」
 「そうか。僕ももう少しオロチのことを調べてみるよ」
 「ああ、お前の家なら記録もあるかもな」
 
 陽が西へ傾いていた。
 東屋に陽光が入りかけている。

 「柳にも話した。この家を守るために少し騒々しくさせてもらうぞ」
 「分かってる。親父にも少し話した」
 「この後、俺からも話そう」
 「そうしてくれると助かる。石神の言葉なら、親父も納得してくれるだろう」
 西日が差し込んできた。

 「その後で僕の部屋へ来てくれ。オロチのやったものの写真を撮ってある」
 「分かった。見せてもらおう」



 俺たちは母屋に戻り、俺は正巳さんの部屋へ伺った。
 菊子さんに外してもらい、俺は正巳さんと二人で話した。
 業のこと、蓮華のこと、「花岡」のこと、そしてそれらのことが俺に起因する詫びを。
 正巳さんは黙って聴いてくれ、俺にすべて任せると言ってくれた。

 「石神さんは息子の親友だ。だからうちへかかる火の粉は息子のせいだ」
 「正巳さん」
 「遠慮はいらない。あなたは我々を守ろうとしてくれているんだろ?」
 「その通りです!」
 「ならば、私の方からお願いする。どうかよろしく頼む」
 俺は畳に額をつけて「必ず」と言った。

 御堂の部屋へ行き、写真を見せてもらった。
 溶けて半壊した軽トラの何枚かの写真。
 熱線が通った痕の焼け焦げた灌木などの写真。
 その射線を示した地図。
 俺も、皇紀が考案した防衛システムの図面を見せた。
 御堂が驚いた。

 「石神、これは本当に実現するのか?」
 多くが現実には実現していない技術だった。
 レールガン、荷電粒子砲、レーザー、それに未知の兵器と防衛装置。

 「ああ。基礎実験はもう終わっている。すべて有効なものだ」
 逆に、既存の防衛兵器ではまずい。
 普通の人間には分からないものでなければならない。
 銃砲は使えないのだ。

 「うちには皇紀の他に、悪魔みたいな天才が二人もいるからなぁ! アハハハ!」
 御堂は笑わなかった。

 「しかし、これらのものはどれも大電力を必要とするだろう?」
 「ああ、だから基礎実験は、と言ったんだ。それらの問題も解決している。テスラコイルとヴァン・デ・グラフ装置で膨大なエネルギーを取得できる」
 「なんだ、その機械は?」
 俺は御堂に説明した。

 「信じられない。お前は物凄いことをやってるんだな」
 「別に、必要なだけだ。俺はやるべきことはすべてやる人間だからなぁ」
 「お前は、そういう奴だったな」
 御堂がそう言った。

 陽の明るいうちに、夕飯をごちそうになった。
 俺たちのために、またほうとう鍋を作ってくれた。
 子どもたちもちゃんと、御堂家のみなさんを笑わせる大食いを見せた。



 

 御堂家のみなさんがまた見送りに出てくれる。

 「御馳走になってしまった。片付けもしないで申し訳ない」
 「僕たちこそ、遅くまで引き留めてしまった。気を付けて帰ってくれ」
 「石神さん、また伺いますから」
 柳が俺に言った。

 「ああ、じゃあ合格したらな」
 「だからその前に行くって言ってるんです!」
 俺は笑って柳を抱き寄せてやった。
 柳が抵抗せずに俺に抱かれる。
 顔を赤くしていた。
 御堂と澪さんが笑っている。

 俺は柳を離し、正巳さんに挨拶した。

 「いろいろとご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
 「分かってる。こちらこそ、どうかよろしく」
 途中で六花と交代するつもりで、俺はハマーに乗った。
 響子や子どもたちもそれぞれの車に乗り込み、俺たちは出発した。


 「ダァァァァーーーーー!」


 柳のでかい叫び声が聞こえた。
 車を停めて振り返ると、オロチが全身を現わして出てきていた。
 六花も前で車を停めた。

 オロチが空に向かって何かを吐いた。
 赤い火柱が迸っていた。
 御堂家の全員が地面にへたり込む。

 俺は大笑いした。

 「オロチー! しっかり頼むぞぉー!」

 叫んで手を振り、車を発進させた。
 助手席で亜紀ちゃんがニコニコして、後ろを見ている。

 「オロチ、うちにも遊びに来ませんかね」
 「やめろ!」
 「いい喰いライバルになりそうです」
 「だからやめろって」
 「それに、オロチが来たら、うちの食糧事情は改善しますよ?」
 「ネズミを喰えってか?」




 全員で大笑いした。
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