上 下
435 / 2,806

四度目の別荘 Ⅸ

しおりを挟む
 みんな、泣いていた。

 「あれは、俺が銀座のエルメスに連れてった時かな。院長がカバンを買って、それが気に入ってくれたようでな。「ざくろ」でご馳走になったんだ」

 「好きなだけ喰えってなぁ。珍しいことで、俺も遠慮なく飲み食いした」

 「「石神、お前は酒が飲めて羨ましいよ」って院長が言ったんだ」
 「院長先生はお酒を召し上がらないですもんね」
 亜紀ちゃんが言った。

 「そうだな。だから俺が「全然飲めないんですか」って聞いたら、この話をしてくれた」
 「……」
 「じゃあ、あんまし食べれなかったね」
 ルーが言った。

 「いや、全然喰ったよ。バクバクな!」
 「タカさん、ウソですね」
 亜紀ちゃんが言った。

 「ばかやろう! 俺は血も涙もねぇ男だぁ! お前ら、俺に何百回殴られたか忘れたかぁ?」
 みんなが小さく笑った。

 「まあ、デザートは喰ったかな」
 もう、誰も笑わなかった。

 「亜紀ちゃん、みんな傷だらけなんだよ」
 「そうですね」
 「院長みたいに真面目な人は、特にな。それは悲しいことだよな」
 「はい」
 響子が隣で俺の腕を掴んで見ていた。
 六花は、その響子の膝に顔を埋めて泣いていた。

 「ルー、ハー。院長は好きか?」
 「「うん!」」
 「そうだよな。俺も大好きだよ。お前らも仲良くしてやってくれな」
 「「はい!」」

 


 響子を連れて部屋に入ると、当然のように六花がついてきた。

 「お前は自分の部屋で寝ろよ」
 六花が涙目で俺を見ていた。

 「分かったよ。だからそんな顔をするな」
 響子を挟んで横になった。
 ベッドで響子が俺に言った。

 「タカトラ、明日もプリンを作って」
 「ああ、いいよ」
 「聡くんの分も作って」
 「分かった」

 「石神先生」
 「なんだ」
 「私にプリンの作り方を教えて下さい」
 六花が言った。

 「お前、何度も見てるだろう」
 「いえ、石神先生ばかり見てましたので」
 「ばかやろう」
 響子が少し笑った。

 「響子がプリンが好きだからって、何度も俺に作り方を教わったんだよ」
 「そーなの?」
 「でも、一度も作ってくれてないだろ?」
 「そーね」
 「六花はオチンチン当番ばっかり考えてるからなぁ」
 響子が笑った。

 「六花は一生懸命ね」
 「はい、明日もまたオチンチン当番です」
 俺は六花の頭を小突いた。



 

 翌朝、朝食の後で、みんなにプリンの作り方を教えた。
 実際の作業を六花にやらせた。

 「「プリン」というのは、日本だけの呼び方なんだ。響子、英語ではなんて言う?」
 「a Pudding」
 「海外ではいろんなバリエーションがある。覚えると面白いぞ」
 「「「「「はい!」」」」」

 「でも、やっぱり普通のプリンがいいな」
 ルーが言った。

 「なんでだよ」
 「だって、聡くんはこういうのを食べてたんでしょ?」
 「ああ、そうだな」

 六花は、8個のプリンを冷蔵庫に仕舞った。



 俺は双子を誘って散歩に出た。
 響子はまだ眠いようで、六花が付き添って寝た。
 俺たちは手を繋いで歩いた。

 「院長はな、毎年聡くんの命日にプリンを食べるんだ」
 「「へぇー」」
 「しかも、コンビニで買って来たものをな」
 「じゃあ、聡くんもきっと一緒に食べてるね」
 ハーが言った。

 「そうか。お前らが言うと、そんな気もするぞ」
 「「エヘヘヘ」」
 俺は同時に双子を宙に放り投げた。
 二人は手を握り合い、伸身で回転しながら着地した。

 「お前ら、すごいな!」
 「「うん!」」
 歩きながら二人を放り投げ、また難易度の採点を俺がした。

 倒木の広場で、三人で座った。
 水筒から、双子の希望で入れて来たメロンソーダを注ぐ。
 人工的な緑色に、不思議な感じがした。
 双子に舌を出させると、鮮やかな緑色になっていた。
 俺も舌を出すと、二人が笑った。

 「今日の夕飯はなんだっけ」
 「ハンバーグと唐揚げ大会だよ!」
 「なんで大会になってんだよ」
 三人で笑った。

 「もしもお前らが死んじゃったら、俺は命日にたらふく肉を喰わなきゃならねぇなぁ」
 「「アハハハハ!」」
 「タカさんの命日は何を食べればいいの?」
 ルーが言った。

 「メザシだな」
 「えー! 全然食べてないじゃん」
 「ばかやろう! 石神高虎は質素な食事で偉大なことをやったって広めろ!」
 「「アハハハハハ!」」
 俺は有名な事業家の話をしてやった。

 「じゃあ、ワイルドターキーにしてくれ。俺の好きな酒だからな。お前らが大人になってからだな」
 「「うん」」
 「つまみは、そうだなぁ。ハモンセラーのがいいな」
 「「はい」」
 「ああ、それと身欠きにしんもな! 大好きなんだ」
 「「はい」」
 「それからなぁ。チョリソーと、ああカプレーゼもな。ちょっとさっぱりしたもんも欲しいからな」
 「「はい」」

 「あとはなぁ」
 「「タカさん! 多いよ!」」
 俺たちは笑った。



 双子が抱き着いてきた。

 「タカさん、死なないでね」
 「ばか、冗談だろう」
 「私たちが絶対に守るからね!」
 「絶対だよ!」
 「分かったよ」
 俺は苦笑した。



 帰り道、ヘビが空から降って来た。
 その瞬間、カラスが一羽飛んできて、そのヘビを咥えて飛び去った。

 「おい、ハー! どこ行くんだぁー!」
  俺が叫ぶと二人が笑った。

 「ハーの命日はヘビかぁ。ちょっと辛いな」
 ハーが俺の尻を蹴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

処理中です...