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四度目の別荘の日々

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 土曜日の7時。
 俺たちは朝食を簡単に摂った。
 昨日、皇紀がハマーを洗車している。
 綺麗になった車に、子どもたちが荷物を積んでいく。
 亜紀ちゃんは調味料や調理器具を入れた50キロのボックスを軽々と担ぎ、後部のスペースに置く。
 響子の電動移動車も積む。
 セグウェイのものではないが、別荘で使わせるために買った。
 これがあれば誰かが抱き上げなくても一緒に散歩が出来る。
 まあ、今回は誰でも抱きかかえることが出来るのだが。

 皇紀が座るスペースを残し、積み終えた。

 双子と皇紀はジーンズにTシャツ。
 海外のサイトで注文したものらしいが、三人のTシャツのプリントは、ウサギが人間を喰ったり血まみれの包丁を握っていたりする。
 亜紀ちゃんは白の綿のパンツに、ブラッドメッセージのTシャツを着ている。
 ブラッドメッセージは、俺が何枚か持っているものを真似したのだろう。
 黄色で、背中に派手な刺青を背負った半裸の女性の後ろ姿が描かれている。
 なんでこいつらは物騒なものを好むのか。




 9時に栞が来た。
 「みんなー! 今日はよろしくね!」
 「「「「よろしくお願いします!」」」」
 「石神くん! お誘いありがとう」
 栞は白い半袖のサマーセーターに鮮やかなグリーンのゆったりとした混麻のパンツを履いていた。
 シューズはナイキのエアマックスの白だ。
 清楚な服装にホッとする。

 「ああ、じゃあ出発しようか」
 栞は後部の空いたスペースに自分のトランクを乗せた。

 「栞さん、そこ僕の座るとこ」
 「えー! ごめんね」
 皇紀が泣きそうな顔になる。

 「皇紀は家にいろよ」
 「タカさーん!」
 俺は笑って頭を撫で、皇紀を抱き上げて座らせた。
 全員が乗り込む。
 栞は助手席だ。
 シートベルトをすると、どうしても栞の胸が目立つ。
 俺を栞が悪戯っぽく笑って見ていた。




 高速に入ると、恒例の演芸大会になる。
 双子が『人生劇場』を歌い、皇紀が『唐獅子牡丹』を歌った。
 こいつら、テイストを変えてきやがった。
 亜紀ちゃんは『赤いハンカチ』を歌った。

 「じゃあ、栞さんね!」
 ルーが後ろから栞の肩を叩いた。

 「えぇー! なんか今日はみんな歌が違うじゃない!」
 後ろで四人が笑った。
 栞は℃-uteの『悲しきヘブン』を歌った。
 この日のために用意してきたらしい。
 みんなで拍手する。

 「じゃあ、タカさん、お願いします!」
 亜紀ちゃんが俺に言う。
 俺は笑いながら、石原裕次郎の『ブランデーグラス』を歌った。
 大喝采が沸く。

 「なんで石神くんは、なんでも合わせられるの?」
 「だって、こいつらの歌って全部俺の好きな歌ですから」
 「なによー、それ」
 俺は渡哲也の『くちなしの花』、『ひとり』を歌った。

 盛り上がったところで、サービスエリアで昼食にする。
 亜紀ちゃんに注文を任せ、俺と栞はテーブルで待った。
 もう、好きなように喰わせることにした。
 俺がこいつらのためにできる、せめてものことだと思ったからだ。
 俺にカレー、栞に山菜そばを持って来る。

 「これでいーですか?」
 ハーが確認する。
 前に俺たちが食べていたものを持って来たのだろう。

 「ああ。お前たちはあっちのテーブルで好きに食べろ」
 「はーい!」
 関係ない人間の振りをしたかったが、時々双子がなんか持って来る。
 視線は俺と栞にも集まった。
 俺たちは苦笑した。

 俺は亜紀ちゃんにアイスクリームを頼み、皇紀がみんなの注文を聞いて買いに行った。
 他の三人は膨大な食器の返却とゴミの処理をする。
 亜紀ちゃんがサーティワンのアイスを持って、俺たちのテーブルに来た。

 「栞さんは別荘は初めてですよね?」
 「うん。別荘があることも、みんなが来てから知ったの」
 「じゃあ、きっと驚きますよ!」
 「なにを?」
 「お愉しみです!」

 俺は亜紀ちゃんに今日の買い出しの確認をし、またハマーに乗り込む。
 近くにいた人間が、異様な外観に驚いて見ていた。

 


 別荘では、やはり中山夫妻が待っていてくれた。
 挨拶し、中でお茶を飲んでいただく。

 「みなさんが帰られた後は、いつもピカピカになっていて。ありがとうございます」
 「いや、こいつらがやらせてもらってるだけで。こちらこそ、いつも管理していただいて」
 家屋は時々水道を流してやらないと、特に排水口が詰まったり、ウォータートラップが切れて悪臭が上がって来る。
 そういったものも含めて、中山夫妻が管理してくれている。
 時折、庭の雑草などもやってくれるので、本当にありがたい。

 「ああ、そういえば去年は花火のご寄付をありがとうございました。お陰で子どもたちの花火大会を開けました」
 「いやぁー!」
 俺は食材の礼を言い、お土産を渡しお帰りいただいた。

 「花火を寄付したの?」
 栞が聞いて来る。
 俺たちが買い占めたせいで、花火大会が中止になるところだったと話した。

 「えぇー! まったく何やってんの!」
 「アハハハハ」

 栞はリヴィングの300号の絵画に見とれている。
 一通り中を案内した。
 もちろん、屋上はまだだ。

 「いい別荘ね」
 栞が言った。
 標高が高いせいで、風が涼しい。
 栞は開け放たれた窓から、風を味わっていた。

 俺は栞と買い出しに出掛ける。
 子どもたちは勉強だ。
 今日はバーベキューのつもりなので、買い物は多い。
 事前に連絡し、いつも行くスーパーで肉を大量に仕入れてもらっている。
 米は、御堂が柳がお世話になるからと、結構な量を宅急便で送ってくれる。
 子どもたちが受け取るはずだ。
 また中山夫妻が野菜を中心に大量にくれた。
 だから今日の買い出しは肉の受け取りと、足りない野菜と酒以外の飲み物だ。

 スーパーの駐車場にハマーを入れると、早速店長さんがやって来た。

 「石神様、今回もありがとうございます」
 「またお世話になります」
 俺たちは肉売り場に行き、揃えてもらったものを確認した。
 その他に、カートで4台の魚介類や野菜を買った。

 「では、すぐにお届けします」
 店長がまた配達を申し出てくれる。
 ありがたくお願いし、俺は亜紀ちゃんに受け取りを頼んだ。

 「ちょっと休んでいきますか」
 俺は栞を誘ってフードコートに行った。
 栞はアイスコーヒーで、俺はクリームメロンソーダを飲む。

 「石神くんって、どこに行ってもファンがいるよね」
 「アハハハ」
 休んでいると、店長が来た。

 「ここは是非、うちでごちそうさせてください」
 俺は断り、こちらこそお世話になって、と言う。

 「ああ、そうだ。今年も花火を買いたいんですが、去年は花火大会のものまで買い占めてしまって」
 「申し訳ありません。うちの手違いもあって、石神様にはご迷惑をおかけしました。今年はちゃんと分けてありますので、お好きなだけまたご購入ください」
 ホッとした。
 店長は栞のことを綺麗だと褒め、俺は交際相手と説明した。
 またのご来店をと言って去った。

 栞の機嫌が良かった。

 帰りの車の中。

 「あのさ」
 「なーに?」
 「別荘はあんまり防音対策をしてないんだ」
 「そうなの」

 「だからさ」
 「うん」
 俺は去年に寄った、河原にハマーを停めた。

 「いいかな?」
 「なにを?」
 栞は微笑んで俺にキスをしてくれた。
 





 後部の荷台で毛布を敷いて愛し合った。
 途中で蝉が飛び込んできて、でかい声で鳴いた。

 「石神くん、なんか抗議されてるよ」
 「その綺麗なナオンと俺にもやらせろって言ってますね」
 俺たちは笑い合った。
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