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ディアブロ:初出

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 一つ、仕事が残っていた。
 俺は物置の「モノ」をハマーに積んだ。
 それぞれがブルーシートでくるまれている。
 亜紀ちゃんが手伝うと言ったが、断った。

 斬の家に向かう。





 電話をしておいたので、裏手の車用の門で斬が待っていた。
 無言で門を開き、入るように手を振る。
 庭の隅で「モノ」を降ろした。
 五つだ。

 「ここでいいか?」
 「ああ」
 「じゃあな」
 俺は最後に包みを渡し、帰ろうとした。
 斬は包みを開き、すぐに閉じた。

 「茶でも飲んでいけ」
 そう言った。

 俺は斬について屋敷に上がった。
 座敷に案内される。
 また知らない女が茶を持って来た。
 今度はまっとうな人間のようだ。

 俺の前に茶が置かれる。
 俺は車から持って来た水筒のコーヒーを飲んだ。

 「おい」
 「お前の家のものが喰えるか!」
 斬が俺の茶を奪い、一口飲んだ。

 「これでいいだろう」
 「お前が口付けていいわけあるか!」
 斬が俺を睨む。



 「最期を聞かせろ」

 俺は中央公園で全てを撃破した後で、蓮華が自爆したことを話した。
 そこに誰がいたなどは当然話さない。

 「あの庭に転がしたのは、俺の家を襲った連中だ。派手なことはできないから、「アレ」が残った」
 「そうか」
 「その包を拾ったのは偶然だ。帰る途中で落ちてた」
 蓮華の着物の切れ端だった。

 「そうか」
 斬の表情に変化はない。
 しかし、包を掴んだ手はそのままだった。

 「そういえばお前、数日中だって言ってたよな。人数も倍いたじゃねぇか!」
 「油断してやられれば、お前が甘かったということだな」
 その通りだ。
 俺がのんびりと時間をかけて斬の言葉を鵜呑みに準備していれば、誰かがやられていたかもしれない。

 「業はどうしている?」
 教えるわけはないと思いながら、俺は聞いてみた。

 「あいつは花岡の枠を飛び出した。お前は信じないかもしれんが、花岡は国に尽くすために存在してきた」
 「……」
 俺は茶を啜り、席を立った。

 「待て、お前今回の「ケジメ」はどうするんだ?」
 「そうだなぁ。斬、「花岡」は俺の下につけ」
 「分かった」

 驚いた。
 斬は畳に額をつけている。
 俺はそのまま帰った。





 俺が家に着いたのは、もう夕方だった。
 一江に電話する。

 「長く休んで悪かったな」
 『いーですよー。こちらは大丈夫ですから』
 「変わったことはないか?」
 『ありません。来週はどうですか?』
 「月曜日からは普通に行く。迷惑をかけたな」
 『いーえー。ではまた月曜日に』
 「おう!」


 亜紀ちゃんが呼びに来た。

 「今日もステーキですけど、いいですか?」
 「亜紀ちゃんが食べたいな」
 「もーう!」
 笑いながら、早くいらして下さいと言って降りて行った。

 御堂家に行く前の肉が大量に残っている。
 「大会」でもやらない限り、数日はステーキだ。
 次の休みには、寿司でも喰わせるか。

 風呂をあがると、亜紀ちゃんに呼ばれた。

 「ちょっとだけ」
 亜紀ちゃんが梅酒の用意をする。
 チーズと双子のたこ焼きも亜紀ちゃんが用意した。

 「今回も大変でしたね」
 「ああ、246事件以上だったな」
 「あの蓮華って人、ちょっと可愛そうでしたね」
 「そうかもな」
 梅酒を口に入れると、もっと強い酒が飲みたくなった。
 ワイルドターキーを出す。
 亜紀ちゃんも飲みたがるので、グラスの梅酒を空けさせて少し注いだ。

 「喉が灼けますね」
 俺は微笑んで、舐めるように飲めと言った。

 「蓮華も愛によって動いたんだな」
 「はい」
 「あいつは、業以外に接する人間はいなかった」
 「……」

 「特殊な才能を見込まれて斬に連れて来られ。業にその技を教えながら生きていた」
 「はい」
 恐らくは業の愛人であっただろうことは、亜紀ちゃんには話さない。

 「斬は蓮華を通して業の動向をある程度は把握していた。しかし蓮華は業の命令により、破滅した」
 「はい」
 「それ以外の道は無いとはいえ、それに殉じたんだ。敵とはいえ、悲しんでやるくらいはいいだろう」

 「タカさん、必死に探してましたもんね」
 「ああ、全員がナノテルミットの爆薬を身に着けていたんだろう。蓮華はその他にRDXあたりで全部吹き飛ばしたんだと思う。本来何も残らないんだろうが、なんとか切れ端が残っていた」

 「斬さんは何か言ってましたか」
 「あいつが他人に感傷的になるわけもないな。ただ、包を最後まで離さなかったよ」
 「そうですか」

 「亜紀ちゃんも大活躍だったな! よく皇紀や俺の家を守ってくれた」
 「いいえー!」
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑う。

 「中央公園でもカッコ良かったよなぁ。電光が俺の脇を抜けた時なんて、しびれたぜ!」
 「じゃあ、「雷鳴のアキ」で!」

 「そう言えば聖が言ってたな、亜紀ちゃんがおっかない顔してたってなぁ」
 「えー! そんなことないですよー!」
 「ディアブロかよって」
 「何ですか、ディアブロって?」
 「ああ、悪魔のことだな。スペイン語でな」

 「えー、やだー!」
 俺は笑った。

 

 その後、聖の話題で盛り上がった。
 あいつは本物のバカで、どこまでもいい奴ということで一致した。
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