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勝利者の朝

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 風呂から上がり、俺たちは亜紀ちゃんが焼いてくれたステーキを食べた。
 双子はそのまま今日は鷹のマンションにいさせる。
 響子はアメリカ大使館にいた。
 極秘で移送したのだ。
 大使館にはジェイを中心にマリーンたちが護衛についた。

 そちらには襲撃はなかった。
 流石に蓮華も、正面からアメリカと揉める気は無かったのだろう。
 まあ、俺が合流すれば分からなかったが。
 聖も食事に誘ったが、「作業」が忙しそうだったのでやめた。
 あとは勝手に寝るだろう。
 俺は栞と六花を連れて寝室へ行った。

 「私も一緒に寝ていいですか?」
 亜紀ちゃんが言った。
 
 「うぉぉぉぉーーー! 70歳のオカァサーン!」
 聖の声が聞こえた。

 「やっぱりいいです」
 亜紀ちゃんは赤くなって自分の部屋へ入った。
 俺たちは部屋に入った。
 六花が買って来たものがベッドに拡がっている。
 俺は後ろから栞に羽交い絞めにされ、六花にテンガを使われた。

 「70歳のぉ!」
 俺が叫ぶと二人が笑った。

 テンガはなかなか良かった。






 翌朝、最新のニュースを見て、皇紀が録画していた夕べの報道を幾つか観た。
 蓮華は警察を集中させるために、歌舞伎町で別動隊によるテロ騒ぎを起こした。
 3人の蓮華の配下がアサルトライフルを乱射し、一般人80名が死んだらしい。
 ゴールデン街で通行人や建物の中の人間を手当たり次第に殺した。
 集まった警察官と撃ち合いになったが、武器が違う。
 グレネードも使われ、警官隊にも20名の死者が出た。

 俺の家、鷹のマンションでのことは何も出ていない。
 俺の家では銃声も何発かあったが、子どもが爆竹でも鳴らしたくらいに思われたのだろう。
 日本人が銃声を知っているわけがない。
 中央公園での爆発も、歌舞伎町のテロリストと結びつけられていたが、交番の死者が分かっているだけで、歌舞伎町の方が話題になっていた。

 覆面をした歌舞伎町の3人は、爆弾で自決した。

 中央公園での決着の直後、歌舞伎町の連中も自決した。
 これは、何らかの通信手段があったことを示している。
 周辺の電子機器は使えなかったはずだが、蓮華は方法を持っていた。


 更に驚くべきことがあった。


 御堂から電話が来た。

 「石神、うちの敷地の中で軽トラックが壊されていた」
 「みんなは無事か!」
 「ああ、いや。うちのものじゃないんだ。知らない誰かが侵入して、そこで壊されたらしい」
 「詳しく話してくれ」
 御堂の話によると、農作業に出てきた御堂家の雇っている農家の人が見つけたらしい。
 車体は正面が高熱で溶け、炎上した跡があった。
 車には一人の人間が座っていたが、焼け焦げて炭化しており、性別すら分からない。
 ウインドウも解け崩れ、シャーシもほとんどが高熱でボロボロになっている。
 今警察が現場にいるらしい。
 御堂も事情聴取で先ほどまで呼ばれていた。
 軽トラックの助手席から、ライフルなどの銃器が見つかっている。

 間違いなく、蓮華の配下だろう。
 しかし、一体誰が迎撃したのか。
 しかも、尋常の方法ではない。

 俺は御堂との夕べの会話を思い出した。
 
 「御堂、夕べ庭が光ったと言っていたな」
 「石神も、それが関連していると思うか?」
 柳が庭の灌木が焦げているのを見つけたらしい。
 軽トラの現場と線で結んで伸ばすと、あの「軒下」になる。

 「オロチがやったんだろうか」
 「俺に聞くなよ」
 「オロチは石神の管轄じゃないか」
 「お前! まあ、卵を倍置いてやればいいんじゃないか?」

 「10個置いた」
 「……」


 
 双子が帰って来た。
 鷹を病院まで送って来たらしい。
 俺は両手で抱き上げて褒めてやった。

 「怖かったか?」
 「全然!」
 「また来るかな!」
 俺は笑ってもう来ないと言うと、ちょっと残念がった。

 聖が起きて来た。
 勝手にシャワーを使ったらしい。
 俺がステーキを焼いて出してやる。
 ガツガツと三枚食べた。

 食後のコーヒーを出してやる。
 子どもたちに、聖は気にせずに勉強するように言った。

 「トラ、一応片付いたってことでいいのかな?」
 「ああ、助かった。礼を言うぞ」
 「へ? 大したこともしてねぇだろう」
 俺は笑った。
 バカな奴だ。

 「ところでよ。あのカラテマンたちはヘンなことしてたよなぁ」
 「ああ」
 「お前たちもな」
 「そうだな」

 「なんだよ、最近はガンを使わなくなったのか?」
 「お前はちゃんと斃してたじゃねぇか」
 「まあ、俺は天才だからな」
 「そうだな」

 「またお前が泣いて頼むんなら、いつでも来てやんよ」
 「あんだと?」
 「お前って昔から弱かったじゃん。俺がいなきゃなぁ」
 「このハゲぇ!」

 「「表に出ろぉ!」」

 俺たちは庭で激しくやり合った。
 子どもたちが楽しそうに見ている。

 「ねえ、亜紀ちゃん」
 「なーに?」
 ルーが亜紀ちゃんに聞いた。

 「タカさんは簡単に聖さんを倒せるよねぇ」
 「どうかなー。昨日聖さんと一緒に戦ったけど、スゴイ人だったよ?」
 「でもタカさんだったら」
 亜紀ちゃんは笑っていた。
 双子が出てきた。

 「タカさーん! 私たちもまぜてー」
 「やめとけ。バカがうつるぞ?」
 「あ? 三人がかりか。トラは弱いからなぁ」
 まあ、双子にはいい経験か。
 聖も相手してくれるようだ。

 「よし、二人でやってみろ」
 俺は二人に「花岡」を止めなかった。

 双子は左右から聖を襲う。
 ルーが上段回し蹴りで頭部を。
 ハーは金的に姿勢を低くしながら拳を放つ。
 双子の悪魔の必殺コンビネーションだ。
 聖は笑いながらルーの足を左手で跳ね上げて、尻に右手のブローを。
 同時にハーには、左足で顔面に蹴りを入れる。
 二人とも吹っ飛んで地面を転がった。

 双子が目線を合わせた。
 離れた位置から、ルーが「虚震花」を放つ。
 栞が驚いた。

 「ウォ!」
 聖がとっさに横に転がった。
 俺は「闇月」で波動を霧散させ、庭を守る。
 聖はルーに迫りながら、右のハーに右手を振った。
 
 「足かぁ!」
 「螺旋花」を使おうとしたルーに、スライディングしながら脛を蹴り、転倒させた上で流れるような動きで馬乗りになり、上からパンチを浴びせ続ける。
 ハーは額に石が当たり、昏倒していた。
 
 小学四年生の女子をボコボコにし、聖は高笑いした。

 「ダァーッハッハッハァー!」
 みんなが聖の強さとバカっぷりを確認した。





 ハマーで成田まで聖を送った。
 一日くらいゆっくりしていけと言ったのだが

 「今日の夜はゴンズの店の女を全部買ってるんだ」
 と言った。
 一番若いので60歳らしい。

 出発ロビーまで送ろうとしたが断られた。

 「ここでいいよ。トラ、面白かったな!」
 「本当に助かった。また泣いて頼んだら来てくれ」
 「もちろんだぁ!」
 聖は笑って去って行った。






 俺が深々と礼をし、聖の背中を見送っていると、数十メートル先で聖が振り返って叫んだ。

 「そうだぁ! テンガとエロDVDをありがとー、とらぁー!」
 手を振っている。
 俺はゲートに寄りかかり、時計を見て知らない人間の振りをした。
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