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襲撃者の夜 Ⅲ

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 「二人とも、ごめんね。私が強くないから」
 「ううん、タカさんが守れって言ったら、私たちは守るからね」
 「そうそう。鷹さんはタカさんの大事な人だもん!」
 「ありがとう」
 タクシーの中で、鷹は両脇の双子を撫でた。
 双子も嬉しそうに鷹を見上げる。
 赤坂の鷹のマンションには、すぐに着いた。

 鷹は双子のために、夕飯を作り出した。
 よく食べる二人のために、米は最大の8合を炊く。
 冷蔵庫の食材をすべて出し、出来得る限りのものを作ろうと考えていた。
 ルーが電話で話している。
 相手が石神らしいことは分かった。

 二人はベランダに出て、黙って外を見ている。
 突然、空気が変わった気がした。
 双子の様子がおかしい。

 「どうしたの?」
 小声で鷹が聞いた。
 ルーが手で制して中にいるように示した。

 「ハー、分かる?」
 「うん、左側がおかしい」
 「ハー、どっちにする?」
 「私が「轟雷」にしようかな」
 「じゃあ、私が「虚震花」ね」

 「鷹さんはここね」
 「1分で戻るね」

 「はい?」

 次の瞬間、双子が搔き消えた。
 ベランダから飛び降りたようだ。

 「ここは8階!」

 そして少し後に、左前方の道路で巨大な閃光。
 小さく伝わる振動。
 その後、玄関から双子が戻って来た。
 裸足だった。

 「なにアレ! ゾンビじゃん!」
 「タカさんが人間じゃないって言ってたけど、ほんとじゃん!」
 二人で言い合っている。

 「どうしたの? 何があったの?」
 「黒い車にね、3人乗ってたの」
 「なんか髪がなくてね、ゾンビみたいだったよ」

 「あ、一人残しとくんだった!」
 「えー、やだよ。あんなの触りたくないもん」
 「うーん、ま、亜紀ちゃんがちゃんとやるかな!」
 「そうそう!」

 「もう大丈夫?」
 「ちょっと待ってね」
 今双子がやってきたことはあまり理解できなかったが、大変なことがあったのは分かった。
 双子がまたベランダから周囲を見ている。

 「もうヘンな波動はないね」
 「そうだね!」
 「鷹さん、もう大丈夫っぽい!」
 鷹は笑った。
 小さいが、信頼でき頼りになる二人だった。

 「じゃあ、何か美味しいものを作ろうか!」
 「「わーい!」」

 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 亜紀が石神の部屋に入ると、聖は武器を床に拡げていた。
 丹沢の訓練地で、石神が使っているのを見たことがある。
 聖は石神のコンバットスーツを着ていた。
 亜紀と同じように、ブーツも履いている。

 「あの、聖さん。お風呂を用意しましたが」
 「ああ、それは後になるな。ええと、ナニちゃんだっけ?」
 「亜紀です」
 「そう、あんた戦えるんだよな? トラがそう言ってた」
 「はい!」
 亜紀ちゃんの顔が変わる。

 「嫌な雰囲気だ。裏から来るぞ。8人だ」
 「分かるんですか?」
 「俺たちは、そういうように出来てる」
 亜紀が笑った。

 「タカさんの友達ですもんね!」
 「あんた、いい女だな」
 聖も笑った。

 「俺は外に出る。あんたはどうする?」
 「私も出ます。それと私は亜紀です」
 「あ? ああ、なかなか人の名前って覚えられなくてよ」
 「られな過ぎですよ!」
 「もう来た。堀を乗り越えて来るぞ」

 二人はバルコニーに続くドアを開け、地面に飛び降りた。
 亜紀の着地を見て、聖は笑顔になる。
 聖が方向を指さす。
 そして指で「六」と示した。
 亜紀が頷く。

 聖は、ステアーAUGとM629を身に着けていた。
 腰のベルトにはそれぞれの弾倉と大きなナイフがある。
 亜紀の手には武器はない。
 聖は近接戦闘タイプだと理解した。
 手で「行け」と合図する。
 女の子を戦わせることに迷いが無い。
 聖は亜紀の戦闘力を信頼できるものと判断していた。

 「トラが「戦える」って言ったもんな」
 疾走する少女の背中に呟いた。



 亜紀が走る。
 音は無い。
 聖も走った。
 同じく無音だった。

 3秒後に、亜紀が接敵した。
 6人は、聖と同様の装備だった。
 亜紀にライフルを向け、躊躇せずに撃つ。
 乾いた銃声がした。
 しかし、亜紀が手を振っただけで何事も無かった。

 いや、撃った相手が消えた。

 「?」

 聖が戸惑ったのは一瞬で、聖は亜紀から最も離れた一人を撃つ。
 頭が吹き飛んだ。
 ハローポイントの弾頭であることは、事前に確認していた。
 一人が聖に向かって手を向ける。
 恐ろしく「嫌な感じ」を受け、聖は迷わず横に跳んだ。
 一瞬前までいた場所が抉れていた。

 再びステアーを構えた時には残りの4人は地に伏せていた。
 聖は小さく口笛を吹いた。

 「やるじゃねぇか、あの娘」

 亜紀が軽々と塀を乗り越える。
 止まっていた黒いライトバンに向かって手を向けた。
 聖が塀に飛びついて昇った時、ライトバンは既に無かった。
 亜紀が声を出さずに笑っていた。
 美しく、そして恐ろしい顔だった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 俺はルーから連絡を受けた。

 「鷹さんのマンションの前で、黒い車がいました」
 「そうか、やっつけたか?」
 「はい! でも気持ち悪かったー」
 「大丈夫か?」

 「うん。なんかゾンビみたいな奴らだった。ハーが「轟雷」を使ってから、わたしが「虚震花」で消しましたー」
 「そうか、よくやった。みんな無事だな?」
 「はい!」
 電話を切ろうとすると、ルーが聞いてきた。

 「タカさん、鷹さんがご馳走作ってくれてるの。食べてもいい?」
 「どうせもう喰ってるんだろう」
 「うん!」
 俺は笑って、喰いすぎるなと言った。




 電話を切って間もなく、亜紀ちゃんから電話が来た。

 「そっちも来たか」
 「はい。8人でした」
 「無事か」
 「はい。庭が少しだけ抉れましたが、それだけです」

 「聖はどうしてる?」
 「今、お風呂に入ってます。あの人スゴイですね!」
 俺は笑った。
 ちゃんと役に立ったらしい。

 「最初に聖さんが気付いてくれたんです。見てもないのに人数まで分かってて」
 「番犬に飼うか?」
 亜紀ちゃんが笑った。

 「でも、犬の方が頭よさそうですよ? カワイイし」
 冗談が言える。
 安心した。
 俺は詳しい状況を聞いた。
 
 外の車は跡形もないらしい。
 庭の「モノ」は聖と二人で物置に入れてある。
 頭髪が無く、額に大きな傷跡があるらしい。

 「目が完全に死んでました。無表情で、何も考えてなさそうで」
 「人間の思考を壊されているらしい。命じられたことをやるだけの人形だな」
 「酷いことしますね」
 「死なせてやるのが供養だな」
 「はい」
 亜紀ちゃんの精神に動揺はない。
 安心した。

 「後で聖に電話させてくれ」
 「分かりました」


 


 今晩はもう他の襲撃はないだろう。
 念のために御堂に電話した。

 「そっちに変わりはないか?」
 『うん、石神に言われた通り、全員にネックレスを渡しているけど、何もないよ』
 「そうか。一応しばらく気を付けてくれ。何かあれば「飛んで」行くからな」
 『ありがとう。ああ、そういえば、少し前に一瞬庭が光った気がした。見たけど何もないよ』

 「ん? そうか。遅い時間に悪かった」
 『とんでもない。わざわざありがとう』

 気にはなったが、襲撃者が来たら何もしていないわけがない。
 「α」を身に着けていれば、御堂のスマホも「轟雷」などの影響は受けない。
 いつでも俺に連絡が出来る。

 聖から電話が来た。
 俺は場所を告げ、タクシーで来いと言った。

 「お前、日本語で話せよ!」
 「俺のことをバカだと思ってるだろう!」
 「そうだ!」
 「ぶちのめすぞ、てめぇ!」
 「やってみろ!」
 俺は電話を切り、振り向いた。

 「六花、出るぞ」
 「はい」

 六花は毛布にくるんだ「響子」を抱いて、俺に付いて来る。


 


 ハマーに乗り、新宿中央公園へ向かった。
 そこで本隊を迎え撃つ。
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