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再び、御堂家 XII

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 俺たちが遊んでいる間に、御堂たちも起きて来た。

 「石神、迷惑をかけた」
 「何言ってんだ。身体はどうだ?」
 「ああ、大分良くなった。石神のお陰でゆっくり休めたからな」
 「澪さん、大丈夫ですか?」
 「はい、もうすっかり。本当にありがとうございました」
 まあ、まだ良くはないのだろうが、取り敢えずは大丈夫だろう。
 また今晩良く寝れば、明日はちゃんとしている。

 「じゃあ、そろそろ帰るか。ああ、今日はうちの子どもたちでカレーを作らせてくれ。お前らはどうせ何を出されても喰えないだろう?」
 「いや、今日は親父がまたバーベキューをやりたいって言ってたから」
 「そんなの無理だよ! みんな死んじゃうぞ」
 俺は笑って言った。

 「俺から正巳さんに話すよ」
 「助かる」
 俺は子どもたちを集め、御堂の家に帰った。

 正巳さんも相当辛そうだった。
 俺に片づけと粥の礼を言う。
 俺は夕べ子どもたちがカレーを楽しみにしていたのだと話し、今日は自分たちの好みのカレーを作らせて欲しいと頼んだ。
 正巳さんは了承してくれた。

 折角だから、何種類か用意した。
 とにかく牛肉はたくさんあるので、それを使う。
 また夕べ出されなかった魚介類も相当あるので、シーフードを。
 俺は牛肉でキーマカレーを作った。
 カレーのコツは、タマネギを黄金色まで炒めることと、セロリのような苦みのある野菜を摺り下ろすことだ。
 市販のルーでも、そうすれば美味くなる。

 流石に御堂家にはミンチマシンまでは無い。
 俺はひたすら包丁で刻んでいく。
 澪さんが辛い身体で厨房に来たが、座って見ててもらった。

 コンロが空いたタイミングで、正巳さんと菊子さんの料理を作ってもらう。
 正巳さんたちお二人には、食べなれた味がいいだろう。
 湯豆腐を提案した。
 それに粥も作ってもらった。
 ハマグリも大量にあったので、それで吸い物を。
 あとは野菜を適当に切って、シーザーサラダを。
 まあ、カレーがメインだからこれでいいだろう。
 まだ肉が大量にあったので、外で元気な猛獣はバーベキューとした。

 その仕込みは亜紀ちゃんが中心にやる。
 柳と正利も手伝ってくれた。




 準備が整ったので、澪さんに呼んできてもらった。
 夜になって、みんなある程度は体調を戻したようだ。
 澪さんも元気になった。
 俺が子どもたちのお代わりを担当していたが、途中で替わった。
 旧家の嫁は、いつまでものんびりとは出来ない。
 正巳さんたちの食事を別途作ってもらったのには、そういう理由もあった。
 カレーが無くなり、俺は外のバーベキューの準備をする。
 みんなが出てきたが、流石にうちの子らしかもう食べない。
 正利が、ちょっと付き合っている。

 俺も子どもたちに全部任せ、大人たちでテーブルを囲み、ゆったりとしていた。
 誰も飲んでいないので気が引けたが、澪さんがワイルドターキーを用意してくれた。
 ロックでいただく。
 昨日の礼をまた言われ、今日の片付けや食事の支度などでも礼を言われた。
 今日で最後の夜だと、御堂家のみなさんが惜しんで下さった。

 俺が恐縮していると、不意に誰かが俺の首に手を回した。
 誰かと思って振り返ろうとすると、俺の前にオロチの顔が来た。

 「ギャァーーー!」

 柳が叫び、他のみんなは硬直している。
 俺もどうしていいのか分からない。
 オロチが俺の頬を舐めた。

 「おい、なんだ。出てきてくれたのか?」
 俺が話しかけると、俺の口元に頭を寄せてくる。

 「お前、もしかして寂しがりかぁ!」
 俺が笑って言うと、心なし締め付けてくる。

 「澪さん、卵を」
 「は、はい!」
 澪さんが中に駆けて行く。

 「石神、どうすれば」
 あの御堂が動揺している。

 「いいじゃないか。飽きたら戻るだろうよ」
 「でも」
 「柳、もう騒ぐな」
 「はい」

 澪さんが卵をボウルに入れて持って来た。
 俺は空いた器に卵を割って入れ、オロチの口に持っていく。
 オロチが啜っている。

 「お前もこれが好きかぁ」
 夕べ、卵の他に新鮮な鯛や伊勢海老なども軒下に置いていた。
 しかし、卵しか食べられていなかった。
 オロチは三個ほども食べると満足したようだ。

 「おい、御堂の家を守ってくれな」

 オロチが口を開いた。
 俺の顔ほどもあった。
 そのまま俺の身体から離れ、軒下に帰って行った。
 8メートルほどかと、俺は目測で捉えた。

 正巳さんが、俺のグラスを取り、飲み干した。
 震えている。

 「うーん、ちょっと生ぐせぇな!」
 誰も笑ってくれなかった。
 子どもたちが寄って来る。
 「タカさん、大丈夫ですか?」
 亜紀ちゃんが言う。

 「ああ。いや、待て、なんか身体が……ぐあぁーーー!」
 俺は椅子から立ち上がり、蹲る。

 「石神ぃ!」
 御堂が叫ぶ。
 「イヤァーーー!」
 柳も叫んだ。





 「なんちゃって」

 子どもたちが笑った。
 御堂と柳は憤然としていた。

 「おい、柳! 笑えよ!」
 「笑えませんよ!」
 涙目になっている。

 「石神、僕と柳をいじめないでくれ」
 御堂が呆れた顔で言う。
 その後で笑った。

 「なんだよ、柳。折角オロチが挨拶に出て来たのに」
 「だって、突然すぎますよ!」
 「ヘビがチャイム押すわけねぇだろう」
 「そんなの!」

 「俺たちが帰ったら、柳の部屋で寝るように言っとくな」
 「やめてください!」
 「お前、ヘビは苦手か?」
 「爬虫類が好きな女の子はいませんよ」

 「俺のヘビはあんなもんじゃねぇぞ?」
 「もうちゃんと見て知ってます」
 御堂が大笑いした。
 正巳さんも笑っている。

 「じゃあ、今晩はこの辺でお開きにしよう」
 御堂が言った。
 俺は子どもたちに片づけをさせようとしたが、御堂が厨房の人たちを呼んでやらせた。
 俺たちに、風呂に入るように言ってくれる。
 俺は御堂家の方々に先に入ってもらった。
 今日は早く寝た方がいい。
 俺は座敷で御堂と飲んでいたが、風呂から上がった正巳さんが来た。

 「石神さん、どうかまた来てくださいね」
 「もちろんです。ここに来ると本当に楽しいですしね」
 「今回のことはどうやって報いればいいのか。本当にありがとう」
 「もう本当にやめてください。来にくくなっちゃうじゃないですか」
 正巳さんが笑った。

 「でも本当にオロチが石神さんに懐いていて、いなくなったらと不安で」
 「そんなもの。ああ、毎日卵でも置いておけばいいんじゃないですか? なんだか好物のようですし」
 「なるほど!」
 「まあ、だから菊子さんのお陰ですよ」
 正巳さんは頭を下げて部屋へ戻った。



 「御堂、話がある」
 「うん」
 俺たちは顔を突き合わせ、小声で話す。

 「今日、思いついて「α」の粉末を卵に混ぜて喰わせた」
 「!」
 「お前に残りを預ける。一応「でかくはなるな」と言っておいたが、まあ分からん。ヘビだからな。でも、悪くはない何かが起こるんじゃないかと思うぞ」
 「そうなのか?」
 「今日、オロチが来ただろう。あの粉末が原因じゃないかと思った。御堂の家を守るために必要なんだろう」
 「お前を信じる」

 「気づいたことがあったら、何でも教えてくれ。必要ならば追加で送る」
 「分かった」

 柳と亜紀ちゃんが来た。

 「石神さん、お風呂が空きましたよ」
 「そうかよ」
 「さー、早く入りましょう!」
 御堂が笑っている。

 「じゃあ、御堂、行くか!」
 「僕は後で入るよ」
 「お、お前ぇ!」
 御堂が大笑いした。
 柳と亜紀ちゃんも笑って俺の手を引っ張る。

 「タカさんのヘビを、今日はよーく観察しますね!」
 「勘弁しろぉー!」



 

 後ろで御堂の笑い声が、いつまでも聞こえた。 
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