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再び、御堂家 XI

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 昼前に、正巳さんたちも起きて来た。
 俺は柳に澪さんを起こしに行かせ、あとは御堂に任せた。
 昼食は子どもたちに作らせた。
 温かいソバだ。
 暑い季節だが、涼しい家で食べれば問題ない。
 正巳さんは召し上がらなかったが、他の人間は食べてくれた。

 午後は御堂と澪さんを誘い、河原に行った。
 ハマーだ。
 俺たちは外に出て、二人は車の中で寝かせる。
 家にいると、澪さんが休めない。
 釣竿を借りて来たので、皇紀と双子に釣りをさせた。
 俺は厨房から少しいただいてきた食材で、適当にホイル焼きを準備する。
 亜紀ちゃんと柳には薪を拾わせた。
 ルーが足を滑らせて川に落ちた。

 「石神さん!」
 柳が大声で叫んだ。

 「あ?」
 「アレ! ルーちゃんが大変ですよ!」
 「ああ」

 急流に流されている。
 のんびりと眺めた。
 次の瞬間、大きな水しぶきと共に、ルーが10メートルも飛び上がり、河原に立った。

 「!」
 「な?」
 「エェッー!」
 
 「ルー! 浮いている魚を全部拾え!」
 「はーい!」
 10匹ほど持って来た。

 「釣りの情緒がねぇなぁ」
 柳はいろいろ言いたいようだったが、結局黙った。
 亜紀ちゃんがルーの服を脱がせ、大きな岩に拡げて乾かした。
 暑いのですぐに乾くだろう。
 俺は柳に魚を裁かせる。
 亜紀ちゃんが教える。
 焼いたものを食べながら、俺たちは他愛のない話をした。

 「ああ、柳、お前別荘に行くことを御堂に話したか?」
 「はい! 許可はちゃんと得てますよ」
 「本当はお前じゃなく御堂に来て欲しいところだけどなぁ」
 「いいじゃないですかぁー!」
 俺は笑って悪かったと言う。

 「お前はすぐに自分自分って言うよなぁ」
 「そうですかぁ?」
 「だから俺にからわかれるんだぞ」
 「そうなんですか」
 「柳が小学5年生の頃か。俺が正利ばっかり可愛がったら焼きもちやきやがってなぁ」
 「やめてくださーい!」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「正利はカワイイなぁ」

 俺に懐いてくれて、食事の時も俺の膝に乗って食べたがる。
 目線が大人と同じになるのが楽しかったのだろう。

 「ねえ、石神さん!」
 「あんだよ」
 「散歩に行きません?」
 「やだよ、暑いじゃんか」
 「いいじゃないですか」
 「正利、行くか?」
 「やだー」

 「な?」
 「もーう!」
 澪さんが笑って見ている。

 夜は正利と一緒に寝ていると、柳が潜り込んでくる。
 一応は女の子だから、と澪さんに言われても、こっそりと来る。
 暑くてたまらん。
 スイカを食べていると、俺がかじった部分を柳が喰いついて奪っていく。
 ニコニコして食べている。
 俺がスイカの種を柳の顔に吹き飛ばしたら目に入った。
 柳が泣いた。
 それでもいつも俺がいる間は俺から離れない。

 御堂が「柳は本当に石神のことが大好きなんだね」と言う。
 そりゃ分かってはいるが。
 ある朝、俺が正利と遊んでいると、柳がキレた。

 「あんたなんか生まれて来なきゃ良かったのに!」
 俺は御堂と澪さんの前で柳の頬を引っぱたいた。
 柳は吹っ飛んで畳に突っ伏した。

 「正利に謝れ!」
 柳は泣いて謝った。
 正利もびっくりして泣いた。



 その夜、柳を連れて散歩に出た。

 「私なんかと散歩は行かないんじゃなかったんですか」
 「バカ! 俺は暑いから嫌だと言っただろう」
 柳が俺を見た。

 「お前なぁ、いろいろ考えろ。相手の話をよく聞いて、相手の心を考える人間になれ」
 「私のことは嫌いですか?」
 「そんなわけあるか。どうでもいい人間なら殴ったりはしねぇ」
 「でも石神さんは暴走族のときに」
 「ああー」
 殴りまくっていた。
 
 「いまのナシな」
 「なにそれー!」

 俺は柳を肩に乗せた。

 「どうだ、目線が変わると世界も変わるだろう?」
 「うん。遠くまで見えるね」
 「俺も柳のお尻がこんなに臭いとは知らなかったぞ」
 柳が俺の頭を叩いた。
 夜の道は街灯も少なく、暗い。
 でも、満月が道を照らしてくれていた。

 「柳」
 「なに?」
 「人に好かれる人間って、どういう人だと思う?」
 「うーん、優しい人?」

 「そうだな。その「優しい」っていうのはどういうことだよ」
 「うーん、その人のためにいろいろする人」
 「その通りだ。だから自分が自分がって言ってる奴は嫌われるってことだな」
 「……」
 「柳はいいとこのお嬢さんだし美人だしな。嫌われるのはもったいないと思うぞ?」
 「うん」
 俺は柳のために、なるべくゆっくりと歩いた。

 「ねえ、石神さん」
 「なんだよ」
 「私は私に優しい石神さんが好き」
 「そうか」
 「私も優しくなるね」
 「そうだな」
 
 「ねえ、石神さん」
 「あんだよ」

 「石神さんって、いつもいい匂いよね」
 「柳のお尻と違って、いてぇ!」
 柳が俺の頭を叩いた。

 「ペンハリガンのクァーカス」
 「よく知ってるな」
 「お父さんが教えてくれた」
 「そうか」
 「じゃあ、今晩お前のお尻にかけてやろう」
 「もーう!」
 俺が全力疾走すると、柳が喜んだ。

 「大好きな柳のためなら、俺はどこまでも走るぞー!」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 「石神さん」
 「あんだよ」
 「私って、全然成長してないですね」
 「ちょっとはオッパイが、いてぇ!」
 柳が俺の頭をはたいた。

 「こないだ、病院の石神さんの部屋で休ませてもらったじゃないですか」
 「ああ、そうだったな」
 「ペンハリガンの匂いがしました」
 「そうかよ。自分でつけてると全然分からないんだよな」

 「いい匂いです」
 「ありがとうございます!」
 「私のお尻って臭いませんよね?」
 「ちょっと嗅がせろ」

 「いやぁー!」

 子どもたちが笑った。 
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